家具や空間づくりを大切にするデンマーク人
デンマーク人は一般的な家庭であっても、部屋に置く家具にとても強いこだわりがあると言われます。毎日をより心地よく暮らすため、本当に気に入ったインテリアで空間を整えることに独自の哲学を持っているのです。そんなデンマーク人の考え方がどんな風土から生まれて来たのか、まずはその文化や国民性を見ていきましょう。
デンマークってどんな国?
中世の歴史文化が薫る『おとぎの国』
北欧諸国の中で最も南に位置するデンマーク王国は、ユトランド半島と大小400以上の島々から成り、面積は約4.3万平方キロメートルで九州とほぼ同じくらい、人口は570万人ほどの小さな国です。首都はコペンハーゲン。国土は豊かな自然に恵まれ酪農国として発展しましたが、1960年代からは近代工業へ、21世紀に入ってからはサービス業へと産業の中心がシフトしました。16~17世紀の面影を残すお城や港町、カラフルな建築物が今も多く保存され、その美しく可愛らしい雰囲気は「おとぎの国」と呼ばれるゆえんともなっています。
また、デンマークと言えば「赤い靴」「親指姫」「人魚姫」など誰もが知っている童話で有名なアンデルセンや、世界中にファンを持つ玩具「レゴブロック」の生まれ故郷。ほかにも建築、哲学、音楽、美術分野等で世界的に有名な人物を多く輩出しており、芸術面でも優れた感性を育んでいる国です。
自転車が大好き
デンマークは日常の交通手段として自転車が大いに利用されている自転車大国です。特に、車より自転車優先の道路整備が徹底されているコペンハーゲンでは、自転車を通勤・通学に使う人は五割以上にのぼるのだとか。渋滞知らずな上にエコな自転車ですいすいと街を行くデンマーク人のスタイルは、自転車都市のロールモデルとして世界各国からも注目されています。
『Hygge(ヒュッゲ)』という考え方
近年日本でも耳にするようになった言葉、ヒュッゲ。直訳するのはなかなか難しいのですが、「親しい人々との触れ合いから生まれる、居心地の良い時間や空間」といった意味合いなのだそう。友人との楽しいおしゃべりや、暖炉の前で味わう一杯のコーヒーなど、毎日のなにげない暮らしの中にも小さな幸福を見つけるデンマーク流の考え方です。
自分の生活や家族との時間をとても大切にするデンマーク人は、幸福と富とは別物だと考える人が多いと言われています。身の回りをただ飾り立てるのではなく、自分が心地いいと感じる品だけを揃え、親しい人とくつろぐひとときの方により高い価値を見出だしているデンマーク。本当の幸福とは何なのか、そのライフスタイルが私たちにもひとつのヒントを教えてくれているのかもしれません。
おもてなしにふさわしい空間づくりが得意
シャイな人が多いと言われるデンマーク人ですが、出会いの縁を大切にすることでも知られています。初対面の人であっても、話が盛り上がって仲良くなればまずは我が家に招くのだそう。手作りの食事やお茶の支度であたたかくもてなしてくれます。ホームパーティでも、食事は普段使いの器で大皿料理を取り分けながらカジュアルに。気心の知れた友人でも初めて訪れたゲストでも、その時間をみんなで楽しむための雰囲気作りが上手なんですね。
北欧インテリアを牽引してきた家具へのこだわり
クラフトマンシップが息づくものづくり
デンマークの著名な家具ブランドでは、使用する素材や製造過程の管理を徹底し、伝統的な家具職人の技巧を継承したものづくりを大切にしています。しかしその一方では、最新の製造技術や時代に合わせたユーザーの需要も上手く吸い上げ、現代の人々の暮らしにふさわしいデザインを提案し続けてもいるのです。「シンプルで飽きの来ない、長く使い続けられる上質な家具」を目指して北欧の家具作りを牽引してきたデンマークのクラフトマンシップは、モダンで美しいデザインセンスとともに、現代の職人にも変わらず受け継がれています。
初任給で椅子を買う?
「デンマーク人は初任給で椅子を買う」とよく言われます。
それは、良い家具が人生の財産だという考え方が若い世代にも浸透しており、上質な家具を持つことの価値をわかっているからこそ。特に椅子やソファは毎日必ず使うものであり、自分のセンスを表現しやすい家具です。きっとデンマーク人にとって、家具の付き合い方を示す象徴的なアイテムのひとつなのでしょう。
家具選びはパートナー選びと同じ
デンマークの家庭には家族それぞれに決まった椅子があり、家の中での居場所そのものになっていることも多いそう。デンマーク人が無類の椅子好きだと言われるのも納得です。そのため、新しく椅子を買う時にも相当慎重で、何度も何度も店に足を運んで気になる商品を実際に確かめ、本当に自分の部屋にふさわしいと納得できるまでかなりの時間をかけるといいます。この先長く共に過ごすパートナーだと思うからこその、徹底的なこだわりですね。
家具は引き継ぐものとして考える
デンマーク人は家具をとても丁寧に扱います。それは彼らが、家具を自分の所有物ではなく、やがて若い世代や次に使う誰かに引き継ぐものだと考えているためです。たとえ高価な家具でも、良いものは皆でシェアして楽しめるし、長い目で見ればコストも安く済む。合理的とも言える考え方ですが、そうして大切に使い込まれた家具には、やはり人々の手を渡ってきたからこその味わいが加わっていくのではないでしょうか。
当たり前のように上質な家具と触れ合える環境
家具を引き継いで使うことが当たり前のデンマークでは、名作と呼ばれるようなアンティークの家具もごく身近にあり、「気付けば共に育って来た」という環境もよく見受けられます。また、街の公共施設に何げなく置かれている椅子や照明器具が実は有名デザイナーの作品であることも珍しくありません。そんな日常を過ごしている人々には、知らず知らずのうちに審美眼が育つのも当然のこと。将来自分の目で良い家具を選ぶための素地は、子どものころからしっかり用意されているんですね。
デンマークインテリアの特徴
「北欧スタイル」とは、正確にいうとスカンジナビア半島周辺のフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークという4国が中心となって生まれたインテリアスタイルのことです。いずれも自然環境が厳しい国々で、色彩の乏しい冬が長い分、家の中を明るいカラーの壁やインテリアでまとめる傾向にあります。
とはいえ、やはりそれぞれの国ごとに特徴が見られ、デンマークインテリアは北欧の中でも特にシンプル。あまり物を置かず全体的にすっきりしていますが、アクセントになるようなモダンな家具でコーディネートすることが多いようです。
デンマークの名デザイナーが手がけた家具たち
ARNE JACOBSEN(アルネ・ヤコブセン)
Hans. J. Wegner(ハンス・ヨルゲンセン・ウェグナー)
フィン・ユール(Finn Juhl)
【 Chieftain Chair(チーフテンチェア) 】1949年
『酋長の椅子』という意味を持つこちらは、フィン・ユール自身がくつろぐためにデザインしたというこだわりのチェア。
発表当時はこの斬新なフォルムが賛否両論を巻き起こしたそうですが、今では現代家具の本には必ずといっていいほど登場し、世界各国に愛好家も多いフィン・ユールの代表作として知られています。
Poul Henningsen(ポール・ヘニングセン)
【 PH 5 】1958年
北欧デザインを代表する照明器具のひとつ「PH 5」は、大きなシェードと電球全体を隠すフォルムで、不快な眩しさを生じさせないグレアフリーな設計。光と影とを巧みに取り入れた佇まいには独特のあたたかみがあり、ダイニングテーブルを囲む家族の団らんによく似合います。発売後60年以上が経った今もなお、さまざまなバリエーションが追加されている色褪せない人気のシリーズです。
自分の財産になるような家具選びのヒント
受け継ぐ人が使ってくれるかどうかを考える
時代を経てもなお価値のある家具には、共通の特徴があります。誰にでも使いやすいこと、飽きのこないデザインであること、そして美しいことです。「おばあちゃんが昔くつろいでいた椅子を、今度はお孫さんがパソコン作業のワークチェアに」なんて使い方ができたら素敵ですよね。
常に情報収集を心掛ける
家具好きなデンマークの人々は、インテリアショップによく通います。気になる商品の価格変動や新作のリリースは日常的にチェック。素材や使い心地で疑問に思うことがあれば、店員さんに積極的に尋ねるのも良いでしょう。本当に欲しいと思える家具を上手に買うには、やはり情報収集は欠かせません。
日本でも今や揺るぎない人気を得た、北欧スタイルのインテリア。身近な例としては、スウェーデンのIKEAのやフィンランドのマリメッコなどを連想する方も多いかもしれません。でも北欧インテリアが特にお好きな方なら、歴史に名を残す名作家具の多くがデンマーク人デザイナーの手によるものであることをご存知なのではないでしょうか。