佐藤さんが暮らすのは、一階をアトリエ、二階を住居にしたご自宅です。古い木造住宅をリフォームした一軒家が建つのは、下町の風情が残る東京・荒川。のどかな空気が漂う住宅街で、今日もこだわりのハンドメイドが生み出されています。
玄関のドアを開けると、「Attic ProductS」のアイテムがずらりとお出迎え
もともとは、趣味でレザークラフトの教室に通っていたんです。作ったものを友だちにあげていたら、そこそこ評判がよくて。それで、23歳くらいのときだったかな?仕事としてやってみたいなと思うようになって、「30歳くらいまで自由にやってみて、形にならなかったら諦めよう」と思っていたんですけど。なんとか食べていけるくらいまでになったので、今に至るという感じです。
――職人になる前は、何をされていたんですか?
インテリアが好きだったので、雑貨屋さんで働いたり、あとは家具メーカーで働かせてもらったりしながら、レザーは趣味として作っていました。
――もともとレザーはお好きでしたか?
そうですね、結構好きで革小物を買ってましたね。使っていると「より大事なもの」になってくるところが好きなんです。
佐藤義之さん。朗らかなお人柄ながら、作業中は一瞬で職人の顔つきに
玄関から見た一階のアトリエ。奥は小上がりの作業スペース
働いていた雑貨屋で革小物を扱っていて、そういうのを見ていて「自分でできないかな?」って。浅草橋に革屋さんとか、そういうお店がいっぱいあるのを知っていたので、足を運んで色々聞いてまわりました。作ってみたら、その当時の自分にしてはまあまあ出来がよかったので、作るのが好きになって教室に通った感じですね。
――教室にはどれくらい通っていましたか?
大体3~4年だったと思います。
――思ったよりも長いと感じたのですが、短い方なのでしょうか?
あ、もう全然短い……というか、普通はほかの職人さんって、革屋さんで働いて独立される場合が多いんですけど、僕はそういう道は通らなかったので。
アイテムの製作はすべて手作業。名入れもおこなっています
カラフルな麻糸が製品のアクセントに
一番初めは、デザインフェスタとか赤レンガ倉庫のクラフトフェアとか、手作りイベントに頻繁に出展していました。そこで百貨店と作家を結ぶ業者さんや東急ハンズのバイヤーさんとかが見てくれて、催事に誘ってくれて。それから徐々にそういった百貨店に出展するようになっていった感じですね。初めの2~3年は、昼は制作をして、夜はバーでバイトしながら、その稼いだお金で革を買って……っていう、なんだかよくわからない生活をしていましたね(笑)。
――革も結構お金がかかりますよね……。
そうですね、僕が使用している栃木レザーは割と高い方ではあります。
――栃木レザーを使用している理由は?
革自体がすごく自分の好みだったし、経年変化の質感も良いというところですね。あとは、始めた当時に行ったお店が栃木レザーを扱っていたのですが、そのお店の方が温かい対応をしてくださって。個人の作家って革屋さんに行っても相手にされないというか、門前払いのようなところが多かったんですけど、そこの社長さんはすごくフランクに通してくれて。買うのは一枚だけなのに、時間を掛けて選ぶのに付き合ってくれたり、端材なんかもくれたりして、少しずつ親交を深めていきました。今もそこ以外では一切革を買っていないですね。
レザーの色見本。なめし方によって表情に違いが出ます。最近は企業のノベルティを制作することも増え、この見本を見ながらお客さんとイメージを固めていくのだとか
アンティークの型押し機。名入れやロゴの刻印に使用されています
一昨年くらいだったかな、と。
――割と最近なんですね!出展を決めた理由は?
知人のフォトグラファーに頼んで、製品の写真を撮影してもらって、結構しっかりしたヴィジュアルができたので。あとは、作家同士の話でそういうサイトが話題に出ていたので、「じゃあちょっとやってみよう」という感じで始めました。
端材で作った可愛らしいフラワーベーススタンド
はい、minneさんだけですね。それ以外は催事などでの販売になります。あとは事前に連絡していただいて、時間が合えばアトリエに来てもらってもいいですし。
――「minne」に出展してから変化はありましたか?
催事で購入するか悩んで帰られたお客さまが、後日minneを通して買ってくれたりとか。逆に、minneに載せている出展情報を見てわざわざ来てくれたりするお客さまもいて。そういう方がすごく増えましたね。
数でいうとネームタグですね。
――いろいろな使い方ができそうですね。
そうですね、鍵につける人もいるし、バッグとかにつけてもいいし……。考え方によって色々と使えるものなので。あとタブレットケースも人気がありますが、割と満遍なく出ている感じです。
――もうすぐ母の日なので、ギフトにおすすめしたいアイテムがあれば教えてください。
お花とかに添えるようなちょっとした贈り物だったら、「オリジナルネームタグ」ですかね。名前が入っていると気持ちがこもっている感じがするので。あと、これから旅行シーズンだと思うので、サブのお財布として「コロコロウォレット」。使い勝手もよくて見た目も可愛いので、女性にもおすすめです。
――たしかに旅行中、ちょっとしたときに役立ちそうです!
温泉入るときとか、お財布持ち歩くの嫌ですもんね。
人気のネームタグに「キナリノ」の文字を入れていただきました!アイテムに特別感が出るので、ギフトにもぴったりです
ちょっと珍しい「500円玉が入るキーホルダー」。開くとポケットが2つありそれぞれに一枚ずつ収納できます
佐藤さんおすすめの「コロコロウォレット」(写真左)。くしゅっとした形が可愛らしい!カラーオーダーにも対応していて、外ぶた・中ぶた・ボディの色を選んで好みの組み合わせで作ることができます
デザインは極力シンプルに。うちの製品は革の切り出しから目打ち、裏打ち、縫製などすべて手作業なんです。でも、「手作り」といっても縫い目がずれていたり「それが味」みたいな言い方はあまり好きではないので、手作りと量産品の中間くらいのアイテムを目指しています。
――たしかに縫い目がすっごくきれいです。
手縫いってわからないくらいにきれいに仕上げたいですね。わかる人が見ればちょっと分かってくれるかなってくらい。
「スクエア コインケース」。ふたが受け皿になっているため、取り出しやすく細かい小銭も見やすいつくりに
手縫いとは思えない精密な縫い目。佐藤さんの魂が特に込められる作業です
革のバッグとか、「手縫いだからこそできる」形のアイテムを作ってみたいですね。
――作業工程で一番楽しい瞬間はどんなときですか?
作りたいって思ったものを形にして、それを眺めながらお酒を飲んでいるとき(笑)。作った後、「これでどうかなー?」って感じでお酒飲んで、次の日に型をちゃんと起こして、作っていけるようにしていくときは爽快感がありますね。
――上手にできた作品を眺めながら……お酒が進みそうですね。そういえば、こちらにカウンターが(笑)。
そうですね、僕はお酒、結構好きです(笑)。そこに椅子を置いて一人で飲むのも好きですし、料理とか釣りも好きなので、自分で釣ってきた魚を燻製にしたり、それを肴にみんなで家で飲むのも好きですね。
左は、相方の一星さん。三年前からブランドのスタッフとして佐藤さんをサポートしています。大好きなお酒を飲んでいるときは、思わず顔がほころびます
もともと祖父が住んでいた家だったんです。亡くなって結構経つんですけど、ずっと空き家になっていたので、ちょっと使わせてもらえないかっていうことで。
――以前は、結構古い家だったんですか?
そうですね、もう築60年くらい。以前は家とアトリエが別々で、アトリエの内装は結構DIYを頑張っていたんですけど。住居と一緒にしようと思ったので、今回は業者さんにお願いしました(笑)。
二階の寝室。インテリアはシンプルなものが好きで、家具はほぼ「無印良品」で購入したもの
昔の、祖父がいたときの面影を少し残したかったので、天井は作らず屋根の梁を活かしました。前のままなんですね、ここは。それ以外は、耐震の問題とかもあってレイアウトは結構変わっちゃいましたね。入り口とかも昔の引き戸だったんですよ。
お祖父様が住んでいたころの梁をそのまま活かした天井。棚には趣味の釣り道具が
昔のアトリエに置いていたストーブ。古民家だったためすき間風が強かったのだそう
さっきのカウンターと、このベッド横のスペースですね。「yogibo」ってブランドのソファで、大体ここにいつも寄りかかって。冬はこたつを出しているので、これでもう完全にダメ人間になります(笑)。
――たしかにダメになりそう(笑)。でも、同じ建物内とはいえ、仕事場と寝室でオンオフがくっきり分けられるのはいいですね。
そうですね。作業中は粉がつくので、あまり二階に上がりたくないっていうのもあって。
身体にフィットするソファにこたつ。一度ここに座ったら、起きあがれる気がしません……
流木で作られた椅子は、知人から譲り受けたもの。お店のインテリアとして使われていたものなのだそう
本棚にはレザークラフト関連の本がびっしり
そうですね、コスト的な面もあるので「できる範囲で」というところではあるんですけど。選択肢が絞られる中では、理想の形にはできたかなと。できればもっと広いほうがいいとか、そういうのはあるんですけど(笑)。作業しやすい環境にはできたと思います。
かさばりがちな道具は、有孔ボードに引っ掛けて使いやすく
時間がゆっくり流れているところ……ですかね。
――窓からの眺めものどかですね。
いいですよね、なんか。静かだし。小さいころから知ってるおじさんとか、祖父の知り合いも多くて、近所の人と挨拶ができるのがいいなあって。
はい。そういえば、うちで作っているバッグ、帆布のボディは近所のお店に作ってもらっているんです。中学校のバッグを作るような昔からあるお店なんですけど。バッグを作るときも、小ロットだったので、初めは断られたんです。でも、地元だったので「あれ、君、佐藤さんの孫?」みたいになって(笑)。祖父に顔が似ていたのかわからないですけど、「あっ、じゃあいいよ。入って入って」って感じでトントン拍子に進んで……。祖父の知り合いだったっていうのは全然知らなかったんですけど、そういうのが面白かったりするので、地元で活動するっていうのは良いですね。厳しいときもありましたけど優しい人だったので、人との繋がりがたくさんあったんじゃないかなって。祖父に感謝です。
地元・荒川のお店で作った看板