インタビュー
vol.13 橋村大作さん 野美知さん -それぞれの世界と二人の世界でものづくりのカバー画像

vol.13 橋村大作さん 野美知さん -それぞれの世界と二人の世界でものづくりを

写真:中野扇

鎌倉に拠点を置きガラス作品を作り続けている橋村大作さんと奥様の橋村野美知さん。「glass studio 206番地」という屋号を持ちながら、それぞれ作家として活動しています。 実は今まで二人展を開催することは少なかったという展示会場に足を運び、大作さん、野美知さんの作品づくりへの思いとふたりが思い描く未来についてお伺いしました。

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2015年07月09日作成

色の使い方もわからないまま、色を重ねてみたのが始まり

野美知さんは、色ガラスから生まれる色の重なりを生かした作品を多く手がけています。それは色だけで表現したものだったり、絵を施したものだったり。どちらも温かみを感じる作品です。
今回のギャラリーでは展示されなかった絵のある作品。特別にご自宅から持ってきていただきました

今回のギャラリーでは展示されなかった絵のある作品。特別にご自宅から持ってきていただきました

こちらは絵のない色だけの作品。野美知さんの作品は手に持った感触と色の重なりを味わいたい

こちらは絵のない色だけの作品。野美知さんの作品は手に持った感触と色の重なりを味わいたい

その魅力はなんと言っても独特な色使い。ですが、色を使うことになったのは意外にも偶然のきっかけからだったそう。

野:「その当時、お手伝いに行っていた工房が閉まることになって、そこの方が使いきれない程の色ガラスの粉をたくさんくれたんです。色の使い方も何もわからないまま、試しに作品に色を重ねてみたのが始まり。そこで『はっ』て、色のおもしろさに気がついたんです」

その出来事がなければ、野美知さんのこれまでの作品の数々は生まれなかったのです。
「北欧っぽい」と言われることも多いという野美知さんの絵のある作品。「結婚してすぐに、主人について行ったスウェーデンで見た景色が強く残っているのかもしれません」と野美知さん。月の部分がお気に入り

「北欧っぽい」と言われることも多いという野美知さんの絵のある作品。「結婚してすぐに、主人について行ったスウェーデンで見た景色が強く残っているのかもしれません」と野美知さん。月の部分がお気に入り

橋村野美知さん

橋村野美知さん

野美知さんが手がける作品は、絵や色付けの部分を野美知さん、形を大作さんというように分業して作られています。

例えば、代表作の絵のある作品は、まず野美知さんが竿の先にガラスを巻いて、小さく吹きます。その上にもう一度、透明なガラスを巻き、この巻き取ったばかりのやわらかい表面に色ガラスのパウダーを付けていきます。一色ずつ、色を付けたら、温めて粒を溶かし、次の色を付けては温めて溶かすという作業を5回程繰り返します。「水彩の絵の具を、のせていくように色を重ねていく感覚」だという野美知さん。そして、それを大作さんが吹いて形にしていきます。その後、除冷炉に入れて一晩冷まし、サンドブラストという技法で、表面を少しずつ削っていくと下に隠れた色が見えてくる。その色をうまく活かして絵柄を作っているのです。

野:「同じ色を使って重ねても、その順番や、濃さ、どれくらい溶かしていくかで、違ってきます。絵が描かれている作品は、とても手間と時間がかかっている作品なんです」

絵のデザインは、窯に入れたものが出てくるまで考えないのだと言います。なぜなら、毎回どんな色になるのかわからないから。野美知さんが色から沸きあがるインスピレーションをいかに大事にしているのかがわかります。
最近は絵のない作品ももっと作っていきたいと思っているそう

最近は絵のない作品ももっと作っていきたいと思っているそう

形については、「主人にお任せしている」という野美知さんですが、大作さんの方では試行錯誤の連続だったそうです。

大:「最初は野美知が書いたラフデッサンに忠実にしたほうがいいと思ってもいたのですが、自分の感覚も入れてもっといいものができたほうがいいという考え方にしていったんです。そうしたら色と形がはまったものが作れるようになってきたんですよね」

野:「最近は私がほしい形を越えたものを考えて作ってくれています」

それはきっとふたりだからできること。

ちょっとさみしい感じ。ひとりだけの静かな世界

野美知さんの作品の魅力はなんといってもこの深みのある色使い

野美知さんの作品の魅力はなんといってもこの深みのある色使い

芯のある強さと少女のような印象を同時に感じさせる野美知さんは、自分の心の中にある「静かな世界」を意識しながら制作をしているのだそう。

野:「もともとひとりの時間が好きなのですが、いつも『静かな気持ちになりたいな』と思いながら作品に向かっています。それは、ちょっとさみしい感じ。ひとりだけの静かな世界なんです」

野美知さんのふんわりとした優しい作品を見ると、それは少し意外な答えに聞こえるかもしれません。けれど、その“ひとりだけの静かな世界”は野美知さんにとって、妻でも母でもない、ありのままの野美知さんでいれる場所。そう考えると、出来上がった作品には、野美知さん自身があらわれてくるように思います。作品から感じる温かみは野美知さん本人からにじみ出ているものなのでしょう。

日本人の奥ゆかしさに憧れるし、惹かれるんです

一方の大作さんが作品の中で表現するのは、日本人の感性の先にある「和のガラス」です。そのテーマは「あこがれている日本」。両親の仕事の関係でメキシコ、ペルー、スペイン、イギリスの各国で育ち、海外と日本の違いを肌で感じてきた大作さんだからこそのテーマと言えます。

大:「海外では、“いいもの”をどーんと見せる。『どうだ、すごいだろ』っていう文化なんです。それがもう染み付いていて、かっこいいと思えない。例えば、ベルサイユ宮殿の庭と日本庭園を見に行くのとでは何を見るかが変わってきます。美しいバラを見るのか、ただそこにある一つの石を見て楽しむのか、という風に。日本人の奥ゆかしさというか、裏側を愛でる情緒的な部分に憧れるし、惹かれるんです」
美しい陰も楽しみたい大作さんの作品

美しい陰も楽しみたい大作さんの作品

日本人が当たり前と思っている感覚も一歩外の世界に出てしまえば全く異なってくる。そのことをずっと感じて生きてきた大作さんは、普段の生活の中にも「あこがれている日本」を感じることがよくあるのだそう。

大:「日本人ということを常に意識しているんでしょうね。他の日本人たちは当たり前のように自然にやっていることがすごく素晴らしいことだったりする。その文化ってすごいと思います。これからもその部分を掘り下げていくんでしょうね」

最終的には全くの透明になっていくのかなって

箔シリーズ。鮮やかなブルーと銀箔が洗練された印象を与えます

箔シリーズ。鮮やかなブルーと銀箔が洗練された印象を与えます

大作さんの初期の代表作といえるのが「箔シリーズ」。深みのある色と銀箔を掛け合わせた作品です。「これはわかりやすい和のガラス」と言う通り、日本の和の魅力がストレートに伝わってきます。そして近年の代表作がクラックシリーズ。琉球ガラスの底の部分などに使われることが多いという、昔からある技術を応用して作っているのだそう。名前の通り、全体にクラック(ひび)が入っていることと、手びねりで作られたかのようなゆらぎのあるふちの表情が特徴です。光が当たるとクラック部分が陰となり美しい模様を描きます。一見しただけではわからないその「美」の表現からは、たしかに日本古来の奥ゆかしさが伝わってきます。
このひびは作ったガラスを熱いうちに水にいれることでできるもの。そのまま冷めると割れてしまうため、再度炉に入れて温め直し表面を溶かして割れないようにします。そうすると模様だけ残るのだそう。「全体に模様が入っているものは珍しいと思います」と大作さん

このひびは作ったガラスを熱いうちに水にいれることでできるもの。そのまま冷めると割れてしまうため、再度炉に入れて温め直し表面を溶かして割れないようにします。そうすると模様だけ残るのだそう。「全体に模様が入っているものは珍しいと思います」と大作さん

ふちの部分には、かすかに色が添えられています

ふちの部分には、かすかに色が添えられています

橋村大作さん

橋村大作さん

大:「僕はクラックシリーズにも和のテイストを入れているつもりですが、一般的には箔シリーズの方がわかりやすいかもしれません。“和のグラス”というものを自分なりに探っていって、クラックシリーズなどの透明なガラスに今流れてきている。そうすると最終的には全くの透明になっていくのかなって思っています」

野美知さんは大作さんの作品をこう表します。

野:「完璧に工芸でもアートでもない。その中間と言うのでしょうか。難しい場所にいるなっていう話はしているんです」

「難しい場所」というのは、別の言い方をすればその作品が持つ「個性」ということ。その個性から次はどんな作品が生まれるのか楽しみです。
こんぺいとう入れ。瓶の中に物をいれるとそれが小さく見えるというガラスならではの技術を使った作品。見た目も美しい

こんぺいとう入れ。瓶の中に物をいれるとそれが小さく見えるというガラスならではの技術を使った作品。見た目も美しい

ふたりだったら全く別なものができるかもしれない

ふたりの関係を全て物語っているような笑顔

ふたりの関係を全て物語っているような笑顔

今回、お話を伺った場所は二人展が開かれたギャラリー。ですが、こうしてふたりだけの展示会を開催するようになったのは、実はここ最近のことなのだそう。

大:「昔は周りからも『夫婦なのに作風が違う』ってよく言われていたんです。でも最近の作品は同じ空間に置いてもどちらの作品かわからなくなってきていて。だからこうして一緒に展示もできるようになったんですよね」

野:「絵のある作品は私が関わる部分が多いけれど、特に色だけの作品は合作なんだなぁって感じています」

そう嬉しそうに話す野美知さんとそれを見て優しく微笑む大作さん。そんなふたりの間に流れる空気は温かくて、とても心地よいものでした。
今回は北鎌倉駅からほど近い東慶寺ギャラリーで行われた二人展にてお話を伺いました

今回は北鎌倉駅からほど近い東慶寺ギャラリーで行われた二人展にてお話を伺いました

右二つが大作さん、左が野美知さんの作品。一瞬では見分けがつきません

右二つが大作さん、左が野美知さんの作品。一瞬では見分けがつきません

これからは、ふたりで新しいものを生み出すことにもチャレンジしていきたいと話す野美知さん。

野:「橋村大作、橋村野美知としての作品はありつつ、そこに新しくふたりだけの作品が生まれるのが一番いいかなって思っています。そういうのもおもしろいなって。今までは絶対にお互いに妥協できない部分があって。でも、それを受け入れ、尊重できるようになってきたんだと思います」

ひとりではできないものが、ふたりならできるかもしれない。そんな新しいものづくりに対する期待が伝わってきます。個人が追い求める作品とふたりで思い描く作品と。ガラスという素材と真摯に向き合う日々はこれからも変わることなく続いていきます。
橋村大作さん 橋村野美知さん橋村大作さん 橋村野美知さん

橋村大作さん 橋村野美知さん

ガラス作家。鎌倉に拠点を置きながら、glass studio 206番地という屋号を持ち、それぞれの名前で活動している。大作さんは「あこがれている世界」を野美知さんは「静かな世界」をテーマに全国のギャラリー、百貨店、クラフト展にて作品を発表している。

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