PART1: 芸術家の世界の切りとり方に触れる
周囲の景観と一体化した彫刻作品
写真なのに時間を感じさせる!
■『杉本博司 瑠璃の浄土』 京都市京セラ美術館 編(平凡社)
杉本博司は、日本に生まれ、現在ニューヨークを拠点に活動している芸術家。写真をはじめ、建築や舞台など幅広い分野で作品を生み出してきました。代表作は、本書にも掲載されている「海景」シリーズ。世界各地の海へおもむき、その水平線だけを写した白黒の写真作品です。何気なく見ていると意識することはありませんが、写真を通して切り取られた水平線は、人類にとって古代から現代にいたるまで普遍的に必要な水と空気そのもの。その景色を眺めていると、昔の人も同じものを見ていたのかと、悠久の時を感じさせられます。
日常にひそむ一瞬の美しい景色を切り取る
■『ソール・ライターのすべて』ソール・ライター(青幻舎)
アメリカの写真家ソール・ライターは、23歳の時、画家を志して芸術の中心地であったニューヨークへ移住しました。絵だけでは食べていけなかったため写真を撮るようになり、これが有名ファッション誌の表紙を次々と飾ることに。しかし「雨粒に包まれた窓の方が、私にとっては有名人の写真より面白い」と語っていたように、ライターは次第に街中のふとした日常を切り取った、自分の作品作りに没頭していきます。本書は、そんなライターの作品を約230点集めた一冊。何気ない光景のはずなのに、どこか絵画を思わせる印象深いものばかりです。
PART2:心の中にある、形のないものの表現に触れる
「生きること」や「存在」を問うインスタレーション
■『塩田千春展:魂がふるえる』塩田千春(美術出版社)
「生きること」や「存在」とは何かを追求しながら、場所やものに存在する記憶といった形のないものを、糸をつむぐことで表現するインスタレーション作品で知られる、塩田千春。ベルリンを拠点としながら、世界各地の国際芸術祭に参加するほか、個展も開かれている現代芸術家です。本書は、日本・東京で行われた個展のカタログ。色鮮やかな赤い糸で展示空間全体が覆われる「不確かな旅」をはじめ、自分自身の存在を揺さぶられるような作品が満載です。
映像作品を詩的にとらえ直す
■『フィオナ・タン まなざしの詩学』松井みどり、林洋子ほか 著、東京都写真美術館 編(美術出版社)
中国系インドネシア人の父と、オーストラリア人の母から生まれた、映像作家フィオナ・タン。インドネシアからオーストラリアを経て、現在はアムステルダムに在住しています。複雑な背景を持つ彼女の作品は、自分自身の出自に迫る「興味深い時代を生きますように」をはじめ、事実を彼女ならではのまなざしで再構成していることが特徴。本書は、そんな彼女の作品を多数収録し、映像を見られない代わりに80のキーワードを通して詩的に”鑑賞”しようというものです。
バンクシー作品とコンセプトを改めて理解したい方に
■『バンクシー ビジュアルアーカイブ』ザビエル・タピエス 著、和田侑子 訳(グラフィック社)
ニュースなどでもたびたびその名前が登場するバンクシーは、イギリスを中心に活躍する匿名の芸術家。世界中の街中にメッセージや主張を込めたグラフィティを残すことで知られ、オークションでは非常に高値で取引されていますが、いまだ正体は明らかにされていません。本書は、そんな謎に包まれたバンクシーの作品と、それぞれに込められたコンセプトを解説する1冊。読めば読むほど、グラフィティにこんな意味が込められていたのか!と驚き、納得すること間違いなしです。
PART3:新しい見方を取り入れて、昔のアートを振り返り
葛飾北斎を肉筆画で味わう!
■『北斎の肉筆 HOKUSAI's Brush -スミソニアン協会フリーア美術館コレクション』フリーア美術館 著(青幻舎)
葛飾北斎は、言わずと知れた浮世絵師。江戸時代後期に活躍し、「冨嶽三十六景」や「北斎漫画」といった代表的な作品を遺しました。その影響は海を越えて外国にも伝わったとされています。本書は、そんな北斎の作品のうち「肉筆」と「素描」の約100点を収録。筆致が細部にわたって手に取るように分かり、その迫力やすばらしさがページを通して伝わってくるよう。浮世絵以外の観点から北斎に迫る1冊です。
九谷焼と現代の発想の組み合わせ
■『牟田陽日作品集 美の器』牟田陽日(芸術新聞社)
石川県南部で作られる九谷焼は、様々な色を使った鮮やかな上絵付けを特長としています。牟田陽日は、そんな九谷焼をベースに、動植物や架空の生き物、縁起が良いとされる物事などを現代的な観点から描く色絵磁器作家。本書は、その細やかな色合いや細部に描かれたものまで分かるオールカラーの1冊。作者による解説もあり、作品一つひとつをじっくり楽しむことができます。
目の見えない人と作品を見に行くノンフィクション
■『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒 著(集英社インターナショナル)
著者は、とあるきっかけから美術館を訪れ、全盲の白鳥建二さんと一緒にアートを巡ることになります。パブロ・ピカソ、クリスチャン・ボルタンスキー、興福寺の仏像といった有名な作品ばかりが登場しますが、彼と会話をしながら鑑賞すると、自分一人では絶対に見えなかったものが見えてきて…。目の見えない白鳥さんがアート巡りをする理由なども交えて、あたたかいドラマが繰り広げられます。
PART4:新しいジャンルや技術との融合!最新鋭のアート
見ているだけでも楽しい!数学×アート
■『MATH ART マス・アート~真理,美,そして方程式』スティーヴン・オーンズ 著、巴山竜来 監(ニュートンプレス)
マス・アートとは、数学の概念や方程式などを用いて作られた芸術のこと。本書ではその作品を80以上紹介し、背景から元になった方程式まで、サイエンスライターによる解説が書かれています。一つの作品として形になったマス・アートは、とても数字がひそんでいるとは思えない美しさ。ただ紙や黒板の上で見るだけでない、数学によって表れる神秘性に触れてみたいという方にもおすすめです。
AIを用いても芸術はつくれる!?
■『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語』徳井直生(ビー・エヌ・エヌ)
人工知能(AI)が「人間を超える」や「仕事を奪う」と言われ、人間が優れているのはアートや音楽などを生み出す力にある、などと語られるようになった現在。本書では、「AIは創造性を持たない」という考え方から疑問を呈し、「AIならではの創造性」があるのかという議論を繰り広げています。先入観が打ち壊され、新しい視点を手に入れることができる1冊です。
領域横断的にアートを作り続ける芸術家集団
■『ライゾマティクス_マルティプレックス』東京都現代美術館 監(フィルムアート社)
ライゾマティクスは、人とテクノロジーの関係を追求し、様々な領域で作品を生み出してきた集団。プログラマーや研究者がメンバーとなっており、いわゆるメディアアートや建築、デザイン、広告、エンターテイメントなどの分野で活動してきました。本書は、そんな彼らが初めて行う大規模個展のカタログ。100作品以上を収録しており、従来の「アート」からは想像できない芸術の数々を見ることができますよ。
PART5:「芸術」の概念を考える
「美」そのものを哲学的に研究
■『美学をめぐる思考のレッスン』小林留美(京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局)
アートを眺めていて、この作品の何がいいんだろう?何が美しいんだろう?と考えたことはありませんか。美学は、そんな疑問を哲学的に解き明かしてくれるもの。芸術や自然における美の本質・原理を追求する学問です。本書では、美学を身近な例(「せんとくん」や「美容整形」、「インスタグラム」など)を通して紹介・考察。入門者にもぴったりな1冊です。
「アート」への先入観や固定観念が吹き飛ぶ!
■『反アート入門』椹木野衣(幻冬舎)
何をどうすれば名乗れるのか分からないほど、世の中には「アート」という言葉があふれています。本書では、そもそも芸術とは何かというところから、現在「アート」と呼ばれる作品が生まれるまでの歴史などを解説。詳しい方もそうでない方も、「そんな風に捉えることができるんだ!」という驚きがあり、芸術をいろいろな観点から楽しむことができます。
アートを教養や投資として見ると…?
■『教養としてのアート 投資としてのアート』徳光健治(クロスメディア・パブリッシング)
アートは、マーケットの中で非常に高値で取引され、ビジネスの分野では投資先としても注目を集めています。本書では、現代アートの歴史をたどりつつ、マーケットの現状や投資の実態などを解説。作品を購入したいと考えている方にとっては役立ってくれるはずですし、そうでない方にも芸術に関する新しい視点を与えてくれますよ。
■『大地との共鳴・環境との対話』ダニ・カラヴァン(朝日新聞社)
ダニ・カラヴァンは、周りの自然や街並みを取り入れ、一つの屋外彫刻として仕上げる作風で知られるイスラエル人芸術家。世界各地に作品があり、日本でもいくつか見ることができます。本書は、そんなカラヴァンの代表作「ネゲヴ記念碑」をはじめ、日本の作品も多数収録した一冊。彼の彫刻を通して周辺の景観を眺めると、その壮大さや質感がより肌で感じられるようで、その場所でなければ味わえない感覚に陥ります。気になったものがあれば、ぜひ実際に訪れてみてくださいね。