大人のための絵本
さあ、もう一度。大人になったあなただから感じることができる絵本からのメッセージをどうぞ受け取ってください。
ずっと大切にしたい美しい物語
ぼくの鳥あげる
【100万回生きたねこ】の佐野洋子が届ける、奇跡のラブストーリー。1984年が初版のこの作品は、2019年に装いを新たに大人向けの本として復刊しました。時代が代わっても色褪せない文章と、ハッとする美しいイラストで装いを新たに。物語に出てくる切手のような、引き寄せられる魅力のある一冊です。
わすれられないおくりもの
賢くて、頼りになるアナグマがひとり、長いトンネルの向こうに旅立ちました。悲しみにくれる森の動物たちは、それを紛らわすよう、冬の間、アナグマとの思い出をそれぞれ語り合います。
やがて森の動物たちは、アナグマが自分たちにとって宝物になるような知恵や工夫を残してくれたことに気が付きます。彼がくれた宝物は皆の心をあたため、そして、春が来るころには……
もうずっと会えていなくても、共に過ごしているような、そばにいてくれているような気持ちになる人はいますか?その人はあなたにどんな“おくりもの”をくれましたか?それはあなたが困ることがないようにいつも支え、助けてくれる宝物になっているでしょう。心を灯す大切なあの人を思い出させてくれる、あたたかい物語です。
はるとあき
「はる」は起きると「ふゆ」と代わり、やがて「なつ」を起こしにいきます。ある年の交代のとき、「なつ」がこう言いました。『ようし あきが くるまで がんばるぞ』……「あき」?そういえば、「はる」は「あき」に会ったことがありません。
「あき」ってどんな子?「ふゆ」に聞けばあったかいと言い、「なつ」に聞けば冷たいと言う。全然違うじゃない!気になった「はる」はきれいな桜の花びらを添えて、「あき」に手紙を書きました。
好きなものが一緒だったり、考えていることが似ていたり、生まれも育ちも違うのに、なんだか似ている私たち。素敵なものを見つけたときに『あの子が好きそうだな』と思い出せる友人がいるのって、なんと幸せなことでしょう。毎日べったりしていなくても、自分を肯定してくれるその人をより大切にしたくなる物語です。
自分を見つめるきっかけになる絵本
もしものせかい
確かにそこにあったはずの大切な何かは、突然「もしもの世界」に行くことになりました。もう戻ってはこないのです。え?「もしもの世界」って、何なの?
いつも暮らしている「いつもの世界」とは違って「もしもの世界」は心の中にあるのです。もしも、こうしていれば。もしも、あのとき……「もしもの世界」がどんどん大きくなってしまったら、いったいどうすればよいのでしょうか?
いつも動じないあの人は、感情がないのではなく「もしもの世界」との付き合い方がうまいのかもしれません。イレギュラーな何かを受け入れることは、はじめはちょっと怖いですが、「もしもの世界」があるとするならば、確かにすとんと飲み込めます。諦めるのではなく、“受け入れる”考え方が身に付く絵本です。
ぼくを探しに
『ぼくはかけらを探してる 足りないかけらを探してる ラッタッタ さあ行くぞ』完全なマルでない「ぼく」は、自分にぴったりの「かけら」を探して転がり続けます。歌いながら、ときには雨に打たれながら。
小さかったり、鋭かったり、もろすぎて壊れたり……出会う「かけら」を試しては転がりまた試し。なかなかぴったりの「かけら」は見つかりません。紆余曲折しながら、「ぼく」は完璧な姿を探し求めます。
今、自分が置かれている状況に満足している大人はそうそういません。それはきっと自分は「何かが足りない」と思っているから、「持っていない」と思っているからでしょう。完璧は美しいですが、そうじゃない美しさに気付く旅。凝り固まった心をほぐす、自分探しの物語です。
まばたき
一瞬の「まばたき」。ちょうちょが飛ぶとき、鳩時計が12時を告げるとき、猫が動き出すとき、角砂糖が紅茶に溶けるとき、みつあみの少女に呼びかけるとき。まばたきのシャッターがおりるたび、美しい瞬間は1枚1枚切り取られ、重なっていきます。
文字はほぼない、無言で進んでいく絵本です。ページも多くありません。一瞬をコマ送りにして1ページ1ページめくっていきます。息遣いを感じるような美しい絵に見惚れて最後のページをめくると……?きっと時の尊さを感じるでしょう。
心を刺激するアートな絵本
ラブレター
『ラブレターを かいてみようと おもいます。どんな おもいを とどけましょうか』ぽつりぽつりと呟くような、可愛い物語が8つ届きました。少女、猫、たまご、うさぎ、夢……ちょっとシュールで、どこか寂しい世界。寂しいけれど、愛おしい世界。
I LOVE YOUの言葉がなくても、確かにこれはラブレター。手のひらサイズが受け止めるのにちょうどいい、心のこもった愛なのです。
真っ赤なスリーブケースに入った手のひらサイズの絵本は、トクトクと脈打つ小さな命のようです。そっと開くと、細部まで感情豊かに描かれた絵に心を奪われるでしょう。なんだか読んでていいのかな、とドキドキします。読んだ人だけが共有できる、秘密のラブレターです。
の
「の」の持つ不思議な力をご存知ですか?いつもは言葉と言葉の隙間にこっそりいる「の」ですが、不思議な力が働いたとき、思いがけない出会いを果たし、そこには見たこともない景色があらわれ、聞いたこともない物語がはじまるのです。
「の」で繋がった1ページごとに移り変わる世界。そのたび違う世界の住人に出会えます。あり得ないのにどこかリアルで『ここにはこんな物語があるのかな』と、想像しながらずっと眺めていられます。鮮やかな色彩で表現された、大人が夢中になるアートな絵本です。
キツネと星
大きな森の奥深く、ひとりで暮らすキツネにとって、夜空に輝くたったひとつの星だけが大切な友だちでした。ところがある日、星は姿を消してしまいます。寂しくてたまらないキツネは、勇気を出して星を探しに行くことにしました。
キツネは虫を食べ、うさぎに問い、葉っぱたちに話しかけます。先を進めば進むほど心細さが膨らんで、とうとう森の外れで寝てしまいました。そんなキツネを優しく起こすように、どこからか声が聞こえてくるのでした。
手にした瞬間、まず装丁の美しさに感動するでしょう。深いブルーの布貼りに白の箔押し。切り絵のようなあたたかいイラストはすべてフルカラーで印刷されていて、文章のレイアウトも含めアートになっています。いつまでも大切にしたい、宝物になる一冊です。
大人が楽しむダークファンタジーの世界
うろんな客
風の強い冬の晩、訳もなくやって来た「うろんな客」が帰らない。それどころか奇妙な行動ばかりを繰り返す。壁に向かって鼻を押しあてる、食事をすれば皿まで食べる、眠りながら夜中に徘徊。やっと帰ったかと思えば、やっぱり“いる”。
この客、一体何者なのか、やりたい放題で館に居座っている。一家は追い出すこともなくされるがまま、そして……
絵本という体裁でありながら、冷酷で不条理に満ちた世界観から大人のための絵本作家として多くの支持を得るエドワード・ゴーリー。この作品も“何か”を比喩して作られた物語です。意味がわかるとこの『うろんな客』を見る目が変わります。また、ゴーリーが紡ぐ独特な韻を575で表現した見事な訳にも注目していただきたいです。
セミ
オフィスで働く「セミ」は17年間欠勤なし。ミスもなし。誰からも認められず、好かれず、立派な家もなく、ただただデータを入力する毎日です。同僚たちは見下して、叩いて蹴って馬鹿にする。上司はこき使いっぱなし。
そんなセミが退職することになっても、誰も、何も言いません。最後の仕事を丁寧に終えたセミは、その足でビルの屋上に向かいました。
あなたが住んでいるその世界は、胸をはって正常だと言えますか?歪んだ部分を見ないふりして、なんてことない顔で過ごしている人間の姿は、ときどき理解しがたいものがあります。だからと言って、セミにはなりたくないでしょう。でも、作品を読んだら、なりたくなるかもしれませんね。
悪い本
この世のどこかに存在している「悪い本」は、この世で一番悪いことをあなたに教えてくれます。そんな本、いらないでしょう?だけど、あなたは欲しくなるんです。そうきっと、欲しくなります。
あなたの知らないところで、無意識の“悪意”がすでに芽生えはじめているのだとしたら……?
使ってはいなくても、持ってはいる“悪意”。使わないのは、使ってはいけないと思っているから。自分の中の“悪意”に気が付いたとき、あなたならどう行動しますか?小説家・宮部みゆきが綴る言葉たちが、じわじわと心を追いかけてきます。人間の真髄に触れる、大人でも怖い究極の教育本です。
ある男の子が産まれたとき、ひたいに見たこともない鳥が描かれた切手が貼り付いていました。あまりにおかしな現象を信じることができないお医者さんは、その切手を男の子のひたいから剥がしてしまいました。コソコソした様子に浮気を疑ったお医者さんの奥さんは切手を取り上げ、街へと出て行きました。
人から人へ、何かに導かれるように、もともとその予定であったかのように、縁を繋げていく美しい鳥の絵の切手。捨てられることなく、破られることなく、手にした人は皆その不思議な切手に魅了されていくのでした。