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出典: そもそも「工藝」とは、日常的に私たちが使っている道具や生活雑貨のうち、芸術的な美しさを感じるものや、それを作る技術のことです。職人が技術の粋を集めて装飾をほどこす芸術的な高級品から、実用性に即した身近な人々が作る日用品まで、機能性と芸術性を兼ね備えたものなら幅広く工藝と呼ぶことができます。今回は、歴史やその種類といった観点から、工藝の魅力についてご紹介。工藝を日常に取り入れたいと考えている方や、工藝についてもっと知りたい方は、ぜひ一緒にひも解いていきましょう。
「工藝」には、「民藝」「伝統的工芸品」など関係する言葉がたくさんあり、どれが何を意味しているのか、そもそも工藝とは何かが分かりにくいですよね。ここでは、普段耳にすることのある言葉とともに、工藝の歴史を深掘りしていきます。
「工」はもともと、のみなどの工具を表す象形文字。そこから作ること、作った人も示すようになりました。一方「藝」は人が草木を植える姿を表す漢字で、上手に育てることを意味しましたが、転じて優れた技術や技能という意味に。その2つを組み合わせて、素晴らしい技術で作ること、作ったもの自体のことを言うようになりました。普段使う「工芸」と漢字が異なるのは、戦後より書きやすい「芸」(本来は全く関係のない、「草を刈る」という意味の漢字)を当てたことから。そういうわけで、今回の記事では本来の漢字が入った「工藝」を使っています。
工藝そのものの起源は、石器時代や縄文時代にまでさかのぼることができます。もちろんその頃工藝という言葉はありませんでしたが、生活のために石器を作り、土器を作っていたのは、当時生きていた人々の「手」でした。漢字に表れているように、工藝は今も昔も人の手で作られる、ひとつとして同じものがない「ハンドメイド」の生活雑貨です。
古墳~奈良時代には、お寺や仏像を作り、自分たちの生活雑貨を確保するために、朝廷や貴族が技術者を集めて工藝を作らせるようになりました。作ることに専念できたおかげで、さまざまな技術が発展。この頃から近代に至るまでの工藝の中には、「美術工芸品」に登録されているものもあります。一般的には伝統的な工藝や骨とう品、美術品などを示す言葉としても使われる「美術工芸品」ですが、法律上は建物を除く学術的価値の高い文化財全般のこと。日本の歴史を作り、日本美術の発展に貢献した工藝も、その中に含まれています。
出典: 一般の人々が工藝を租税として求められたことで、日本各地でも工藝づくりの体制が整えられていきました。特に地方の工藝が発展したのは、各藩が手工業を保護しようと動き出し、地域性を確立させた江戸時代。そうした技術を現在まで引き継いでいるものの中には、「伝統的工芸品」に指定されているものもあります。各地の伝統的な技法で作られていること、伝統的な素材が使われていること、などの条件を満たす必要があり、「伝統的工芸品」は歴史や品質の確かな工藝を探すひとつの目印です。
出典: 明治時代になると、「民衆的工芸品」略して「民藝」という言葉が唱え始められます。芸術性が高く鑑賞が主な目的となってしまっている工藝に対して、民藝は一般の人々が生活のために作るものであり、銘や技術にまどわされることなく用途に沿った品そのものを楽しむ「美」がある、と説くものです。この民藝運動により、実際の暮らしに根差した本物の生活雑貨にも焦点があてられるようになりました。このような歴史を経て、現在では伝統的・芸術的なものも、機能に重点を置いたものも、「工藝」として大切にされるようになっています。
一口に工藝と言っても、陶磁器や漆器、染織物、木工、石工、金工、人形、和紙など、素材や作り方によってその種類はさまざま。ここでは私たちの生活に身近な工藝にしぼって、その歴史や魅力を紹介していきます。
出典: 陶芸とは、土や石の粉に水を加え、形成して焼き上げること。日本では1万年以上も前に作られたと思われる土器が発見されており、陶芸に関しては世界的にも長い歴史があると考えられています。古墳時代~平安時代には朝鮮半島から伝わった、より硬い土器である須恵器が作られ、その須恵器の技術をもとに陶器や磁器を発展させていきました。鎌倉時代には日本六古窯(備前・丹波・越前・信楽・常滑・瀬戸)をはじめ日本各地に窯ができ、特色ある技法も誕生。現在でも当時の技術を引き継いだ陶器や磁器が作られており、ひとつひとつ異なるフォルムや色合いで、食卓を彩ってくれます。
出典: 「漆芸」は、漆の木の幹の表面を削り、採取した樹液を塗り重ねる工藝のこと。日本では9000年前のものとされる、漆を塗った装飾品が出土しており、一説には日本が漆芸発祥の地ではないかとも言われています。古くは仏具に使われ、その中で「蒔絵」「螺鈿」などの技法も誕生してきましたが、江戸時代に一般の人々にも普及。さまざまな生活雑貨に漆芸が広がりました。漆芸によって作られたものは、蒔絵や螺鈿など幅広い表現が楽しめるだけでなく、漆を塗ることで抗菌・殺菌効果や耐久性が高まるのも魅力。時間が経つほどに変化するので「育てる器」とも呼ばれます。
出典: 「染物」「織物」「刺繍」「編物」といった布に関わる工藝も、日本人の生活に密接にかかわってきました。例えば染物は、縄文時代には始まっていたのではないかとされています。本格的に染物が行われるようになるのは、大陸から技術が伝わってきた奈良時代。その後は独自の技法を生み出していき、江戸時代には日本各地で地域性のある染物が作られるようになりました。その歴史を引き継ぎ、現在でも一部の染物にはその土地の植物や土が使われており、1枚1枚異なる繊細な色合いを楽しむことができます。
出典: 「木竹工」は、「木工」と「竹工」のこと。日本にはさまざまな種類の木々や竹が自生し、それを利用した工藝も古くから作られてきました。木や竹の硬さ、弾力性に合わせて、彫刻をほどこしたり、薄く切って曲げたりと、さまざまな加工ができるのが特徴。素材の質感をそのまま感じられるものが多く、お部屋に置くだけで木や竹の温かみのある、ナチュラルな雰囲気にすることができます。
出典: ガラス工芸の歴史は紀元前にまでさかのぼるとされますが、日本では17世紀ころに始まりました。キリスト教の伝来とともに長崎を中心にガラスの知識や技術がもたらされ、以降「江戸切子」「肥前びーどろ」「琉球ガラス」など全国各地で作られるようになります。技術的には、ガラスを加熱して吹きガラスを行ったり鋳造したりする「ホットワーク」と、完成しているガラスを削って模様を描いたり彫ったりする「コールドワーク」に分けられ、ガラスの厚み、色合い、浮き出る模様などの違いを楽しむことができます。
■『日本伝統工芸 鑑賞の手引』日本工芸会(芸艸堂)
より詳しく工藝について知りたいなら、本でじっくり学ぶのもおすすめです。本書では、工藝を陶芸・染織・漆芸・金工・木竹工・人形・その他の7ジャンルに分けて、どんな素材を使ってどのように作るのかを解説。技法や用語からカラー写真を使って説明しており、索引も付いているので、工藝初心者の方もゼロから学ぶことができます。
日本伝統工芸 鑑賞の手引
2,200円〜(税込)
※価格等が異なる場合がございます。最新の情報は各サイトをご参照ください。
生活雑貨を使う日々の中で、傷ついたり壊れたりしても、また次のものを買えばいいやと投げやりな気持ちになっていませんか?あらゆる物が大量生産され、安価になった今、普段使っているものが誰に、どのように作られているかを忘れてしまうことがあります。工藝を日常に取り入れる魅力のひとつは、そんな毎日を変え、ひとつのものを大切にしながら長く使う、丁寧な暮らしを思い出させてくれることです。
出典: 工藝は長い時間をかけて日本各地に広がり、受け継がれつつ独自の形に発展してきました。例えば陶磁器なら、岐阜県の美濃焼、佐賀県の伊万里焼や有田焼など。漆器であれば、青森県の津軽塗や石川県の輪島塗など。それぞれが特徴的な色合いやデザイン、模様を持っており、そこに秘められた歴史や作り手の想いが、地域性を生み出しています。ひとつ集めると、つい他の地域のものも集めて、見比べて楽しみたくなりますよ。
素材の質感を楽しむものもある一方で、工藝では「デザイン」が施されることも。日本で古くから使われてきたデザインは、菊や竜胆を描いて秋を表す「秋草文様」、子供の成長を願う「麻の葉柄」、吉祥の印のひとつ「松喰鶴文」など、ひとつひとつに意味があります。どんな意味を持つのかを知れば、工藝をながめるだけで季節や歴史を楽しむことができ、今過ごしているひと時も大切なものに感じられるはずです。
出典: 正しい方法でしっかりケアをすれば、工藝は10年、20年と使い続けることができる一生もの。丁寧に作られるからこそ、長持ちすることも魅力の一つです。さらに傷がついたり欠けてしまったりしても、ある程度は修理が可能。多少跡が残っても、後でそれを見たときに「あんなことがあったなあ」と思い出させてくれ、味わいを深めてくれます。
出典: 漆芸や、動物の皮をなめし、加工する皮革工芸で作られるものは、使い込めば使い込むほどに変わっていく質感も見どころの一つ。表面の色が変わってきたり、光沢が出てきたり。長持ちするものだからこそ、その変化を味わい、自分と一緒に年を重ねていってくれる喜びを感じることができます。
出典: 歴史や伝統を引き継ぐものではありますが、あくまで工藝は生活雑貨。昔からの技術を使いながらも、私たちの生活の変化にともなって、新しいものや新しいデザインが生まれます。こうした時代に合わせた変化も、長い歴史の先にある工藝だからこその楽しみです。
出典: 長持ちする工藝ですが、正しい扱い方をしなければ早く悪くなってしまうのは、他の生活雑貨と同じです。その上昔ながらの素材を使っているため、電子レンジ、食洗器、オーブンなど、急激な温度変化や強い刺激は少し苦手。ハンドメイドの工藝を使う私たちも、できるだけ丁寧に、自分の手でケアをしてあげることが大切です。例えば陶器を使う前には、水分や油分の染み込みを防ぐ「目止め」を。極度の乾燥や湿気に弱い漆器は、定期的に使用し、洗った後はしっかり水気をふき取って。シミができることもあるので、織物や染物、皮革工芸品はこまめに汚れやホコリを落としましょう。日常的にしっかりケアをすれば、愛情もわいてきますよ。
まずは日常の小さなところから「工藝」を取り入れてみよう
出典: 今回ご紹介した以外にも、金工、石工、人形、皮革、和紙など、生活に関わる道具や雑貨のぶんだけ工藝は存在しています。最初は小皿や箸、ふきんなど小さなところからでいいので、毎日を大切に、丁寧に過ごしたい方は、ぜひ工藝を取り入れることを検討してみてくださいね。
「工」はもともと、のみなどの工具を表す象形文字。そこから作ること、作った人も示すようになりました。一方「藝」は人が草木を植える姿を表す漢字で、上手に育てることを意味しましたが、転じて優れた技術や技能という意味に。その2つを組み合わせて、素晴らしい技術で作ること、作ったもの自体のことを言うようになりました。普段使う「工芸」と漢字が異なるのは、戦後より書きやすい「芸」(本来は全く関係のない、「草を刈る」という意味の漢字)を当てたことから。そういうわけで、今回の記事では本来の漢字が入った「工藝」を使っています。