送りたい相手が心に浮かぶ読書
- 寒さに負けない体を目指す!ゆらぎがちな冬のご自愛ケアキナリノ編集部
1.手紙の奥深さに触れる読み物
達人たちが明かす魅力とコツ
文豪渾身の名文集
■『愛の手紙の決めゼリフ 文豪はこうして心をつかんだ』中川越 著(海竜社)
「今度も逢えてうれしかった。別にかくこともないが、何となくハガキがかきたくなった。」ーこれは武者小路実篤の手紙の一節です。別れたそばからもう会いたい、そんな恋文かと思いきや、送った相手は友人・志賀直哉。この本では文豪が手紙に綴った名フレーズを紹介し、二人の関係性や背景を丁寧に解説します。芥川龍之介に太宰治、ベートーヴェンにダーウィンまで!40余りの名文句を贅沢に紐解きます。
飛鳥から令和まで、年賀状総集編
■『年賀状のおはなし』日本郵便株式会社 監修(ゴマブックス株式会社)
年賀状の歴史を古くは飛鳥時代まで遡り、数々の図版で紹介しながらその文化を解説する本書。目次に並ぶ「年賀状のはじまり」、「年賀状ブーム到来」の見出しに心躍ります。漫画や横書き、エンボス加工など、流行を反映した美麗な葉書は眺めるだけで楽しく、祝賀ムードに頬が緩みます。中には竹久夢二の年賀状も!
2.言葉のプロの往復書簡
女二人、人生を語る往復書簡
■『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』佐藤愛子 著、小島慶子 著(小学館)
『九〇歳。何がめでたい』のベストセラーで知られる佐藤愛子さんと、アナウンサーでおなじみの小島慶子さん。対談での出会いを機に、歳の差50歳の文通が始まりました。元々はただ個人的に送り合っていた手紙を、縁あって1冊にまとめたのが本書です。小島さんの悩みに優しく厳しく答える佐藤さん、いつしか人生談義になっていく往復書簡……。手紙だからこそできる率直な表現や深い言葉に、自分にも文を交わす先輩がいればと羨ましくなりました。
言葉に魅せられた作家の公開書簡
■『往復書簡 無目的な思索の応答』又吉直樹 著、武田砂鉄 著(朝日出版社)
芥川賞受賞作家である芸人・又吉直樹と、元出版社勤務のライター・武田砂鉄。言葉の魅力に取り憑かれ、他の職業に就きながらも書かずにはいられなかった同世代作家二人の往復書簡です。ヒリヒリするほど若くはない、程よく脂の乗った余裕が心地よく、手紙をやりとりするという距離感と絶妙にマッチしています。“無目的に”と様々な話題に飛びながらも、いつも興味の中心は“言葉”にある、「知」の手触りを感じさせてくれる1冊です。
詩人と医師が向き合う「命の終わり」
■『詩と死をむすぶもの 詩人と医師の往復書簡』谷川俊太郎 著、徳永進 著(朝日新聞出版)
終末医療を専門とする医師が、老齢の詩人に手紙を送ります。死を目前にした人々のエピソード、医師としての想い、悩み。詩人は詩と散文で応えます。常に死が身近なホスピス医と、死を意識する年齢の詩人が語る人生の終わり。それは静かで厳かで、とても自然なことのように感じられます。谷川さんは本の中で次のように言いました。「詩や死がない生活というのは『しがない』生活だ」と。
3.手紙が鍵を握る物語
アッと驚く仕掛けが満載!
■『十二人の手紙』井上ひさし 著(中央公論新社)
名人井上ひさしによる、手紙や公文書のみで構成される短編集です。形式美と侮るなかれ、12篇どれひとつとして同じ趣向のものはありません。中には公文書を並べただけの1話も!一切の説明を加えず書類のみで余白を想像させる手腕の、なんと鮮やかなことでしょう。エピローグではこれまでの手紙を思い起こさせひとつの物語にまとめる、見事な構成になっています。
あなたの手紙、代筆します
■『代筆屋』辻仁成 著(幻冬舎)
売れない作家が副業で始めた手紙の代筆業。依頼を通して10人それぞれのドラマが浮かび上がります。したためられた10通の手紙はどれも驚くほど違っていて、とても同じ人が書いたとは思えないほど。それでいて書き手の体温が感じられる所は、辻仁成の真骨頂と言えるでしょう。手紙を書くという行為のひたむきさ、暖かさを思い出させてくれる作品です。
あの世の父に書く手紙
■『ポプラの秋』湯本香樹実 著(新潮社)
父を亡くし、母と二人ポプラ荘に越してきた少女・千秋。心のバランスを失い不安定な千秋に、大家のおばあさんはある秘密を打ち明けます。「あの世に手紙を届けられる」と。お父さんに手紙を書くことで少しずつ落ち着きを取り戻す千秋を、ポプラ荘の住人達が優しく見守ります。書くことで自分に向き合う千秋の健気な姿に、まるで隣人のような気持ちで応援せずにはいられません。
4.書簡形式で書かれた小説
三島史上最高にポップ!
■『レター教室』三島由紀夫 著(筑摩書房)
筆まめな男女5人がひたすらやりとりする手紙だけで成り立った物語。往復書簡形式の小説は多いけれど、この5人というのがなんとも面白いのです。手紙で交わされる噂話、喧嘩、愛の囁き……。一堂に会さないからこそ、一方的であるからこそ成り立つ可笑しみといったら!時にはタイムラグで行き違うハプニングも手紙ならでは。各々の文面から立ち上がってくる個性が際立ち、本当の私信を覗き見るような不思議な読書体験が味わえます。最も読みやすい三島由紀夫作品として、最初の1冊にもおすすめです。
抜けてる大学生の手紙修行
■『恋文の技術』森見登美彦 著(ポプラ社)
京都の大学院から人里離れた研究所に異動になった修士学生・守田一郎が、恋しい京の人たちに日々手紙を綴ります。友人、先生、後輩へと筆まめな守田君ですが、実は恋文の技術を身につけたいという隠れた目標があったのです。想いを寄せる女性に宛てた手紙だけは失敗の連続で、なかなか出すこともかないません(失敗ラブレターを集めた「失敗書簡集」の章は傑作!)。この本の面白いところは、文通形式ではなく、守田君発の手紙のみが次々と並ぶところです。片道分の内容ばかりなのに、読むうちに情景が浮かび、相手の返信も読んだような不思議な感覚に。さて、守田君は手紙の技術を磨き無事恋文を届けることができるのでしょうか?
愛し合う二人はなぜ離れたのか
■『あとは切手を、一枚貼るだけ』小川洋子 著、堀江敏幸 著(中央公論新社)
かつて共に暮らし、今は離れて生きる「私」と「ぼく」の14通の往復書簡。静かな言葉のやりとりを重ねることで、過去と秘密が少しずつ炙り出されていきます。二人には、別々に生きるしかない理由があったのです。「私」の手紙を小川洋子が、「ぼく」の手紙を堀江敏幸が執筆する形式で進む本作。二人の作家が共に影響を受けながら書き継いでいく気配が、まるで本当の文通のような緊張感を生んでいます。
5.手紙の魅力が溢れる漫画
お母さんに手紙を書きたくなる
■『手紙』谷川史子(集英社)
一人暮らしを始めた素子が受け取った手紙は、以前の住人に宛て送られたものでした。酔った勢いでなりすました返事を出してしまった素子でしたが、やがてその文通がかけがえのないものに変わっていきます。ニセ息子と故郷のお母さんの奇妙な交流に、頬が緩んだり涙が出たり。読み終えて優しい気持ちになれる作品です。
無人島に持っていきたい短編集
■『手紙物語』鳥野 しの 著(祥伝社)
手紙がテーマの漫画が5篇収められています。鳥野しのさんの暖かく丁寧な絵柄が題材によくマッチして、ノスタルジックな気持ちに。帯の「無人島に持っていきたい短編集」のコピーに納得です。手紙を共通項としながらも、5話それぞれ趣向が違いバラエティに富んだ内容が楽しめます。読み終えたら、早速手紙が書きたくなりますよ!
携帯電話もない時代、二人は。
■『追伸 二人の手紙物語』森雅之 著(バジリコ)
携帯電話もメールも身近に無い時代、遠距離恋愛の二人を繋ぐものは手紙でした。何気ない日常を言葉にする難しさ、投函すれば手元を離れる心許なさ。返事を待つ、もどかしくも楽しい時間。その時代を知る人には懐かしく、知らない世代には新鮮に映ることでしょう。シンプルな絵柄ながら情景描写が秀逸で、映画を見るように引き込まれる作品です。
6.手紙が書きたくなる実用書
お菓子の袋でも送れちゃう!
■『おたより手帖-封筒のいろいろな楽しみ方』Killigraph 著(東京地図出版)
えっ、こんなものまで切手を貼って送れるの?!そんな驚きのアイデアから洗練されたお洒落な封筒まで、バラエティ豊かな封筒を次から次へと紹介してくれます。どの封筒も、作り方から送り方までしっかりフォローされている実用性もポイント!相手の驚く顔を想像しながら作る封筒は、手紙の新しい楽しみを広げてくれそうです。
手紙好きにおすすめの実例集
■『手紙のある暮らし-手書きだからこそ伝わる大切なこと-』一田憲子 著(マイナビ)
手紙好きな方におすすめの1冊です。日常的に手紙を書く15人の実例を様々な角度から紹介している本書。封筒や便箋の選び方、愛用の筆記具、切手の貼り方の工夫など、参考にしたい内容が盛り沢山です。掲載された実際の“大切な手紙”には、当事者でなくても胸がきゅっとしてしまうものも。読み終わったその手で文箱を用意したくなりました。
遠藤周作が教える手紙術
■『十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。』遠藤周作 著(新潮社)
好きな人に想いを打ち明けたい、病気の見舞いを届けたい、お悔やみを伝えたい。そんな気持ちを表すにはどう書けばいいのか。本書は文章のプロ・遠藤周作が指南する手紙の書き方の本です。終始“読み手の身になって”考える姿勢が見事で、今の時代にも古びない手紙の本質を教えてくれます。「良い手紙・悪い手紙」の具体例はとても参考になり、かつ読み物としてもとっても面白い!遠藤周作はこの本を肺結核の病床で執筆したとか。病床での人恋しさが、題材を手紙に求めたのかもしれませんね。
■『「手紙力!」が身につく本』 編集会議 編集(中経出版)
心のこもった手紙や何度でも読み返したい手紙など、永六輔・俵万智・阿川佐和子など著名人15名が熱い想いを綴ります。郵便好きが高じて今も郵便配達人に憧れているという横尾忠則のエピソードにはほっこり。読んでいて手紙が書きたいな、と思った人のために、後半に文例集も収録されていますよ!お礼、お詫び、お祝いとさまざまな文例集は眺めるだけでも楽しく、手紙の魅力を再発見できることでしょう。