本との出合い
装丁とは
装丁の役割としては、本を探している人に「気になる」と思ってもらうことです。本は内容が1番重要!と思うかもしれませんが、最初から「この本が読みたい」という気持ちを持っていない時、本を選ぶ手助けをしてくれるのが装丁の大きな役割といえます。美しい装丁は人の目に入りやすく、読書欲を誘うものです。
魅力的な装丁が施された本
大久保明子さん
知的生き方教室/中原昌也/文藝春秋
カルチャーセンター講師の小説家・馬爪太郎を主人公とし、小説を書くことに対してや出版社の現状などを深く、皮肉も織り交ぜて描かれています。
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爽やかな水色とシンプルなデザインが、タイトルと相まって「どんな話なのだろう?」と興味惹かれます。装画は湯沢薫さんです。
平成くん、さようなら/古市憲寿/文芸春秋
平成の時代、安楽死が合法化された社会で「平成くん」は恋人の愛に平成の終わりに安楽死したいと伝えるも、今の時代を生きることや死ぬ意味を2人で改めて見つめ直していきます。
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物語のように、生きるについて漠然とした不安や「今」を生きる疑問がまるで花火のような表紙から感じられます。写真は榎本麻美さんが撮影しています。
あなたならどうする/井上荒野/文藝春秋
昭和歌謡を題材にした短編集です。読んでいると、曲を聴きたくなるような鮮やかな物語が多く、懐かしさと切ななさを感じられます。
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装画は岸あずみさんが担当しており、いろんな服装や年代の人が円を描いていて、まるでその真ん中に立って「あなたならどうする」と聞かれているような気分にさせます。
鈴木久美さん
リバース/湊かなえ/講談社
平凡なサラリーマン・深瀬は、恋人・美穂子のおかげで人生に鮮やかさを見出した矢先、謎の告発文を受け取ります。それは「人殺し」という内容で、美穂子からも問い詰められた深瀬は、心にしまっていた「あのこと」を話す時がきたと苦悩します。
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物語のキーともなくコーヒー豆が全面に描かれていて、モノトーンながらも「なんだか不安」になる気持ちが装丁から感じ取れますね。
コゴロシムラ/木原音瀬/講談社
カメラマン・仁科は取材のために山深い神社を訪れたが、山道で迷ってしまいます。迷い込んだ村は、「コゴロシムラ」と呼ばれ、このまま出られないのではないか?という恐怖に陥ります。
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物語と同様に不穏な空気を感じさせるイラストは、漫画家の中村明日美子さんが描いています。ミステリアスで思わず読みたくなる装丁です。
世界が赫に染まる日に/樹木理宇/光文社
従兄妹のために復讐を誓った中学3年性の緒方と15歳の誕生日にとある計画を立てている高橋は、夜の公園で出会います。お互いの環境に共鳴し合い、協力契約を結ぶことから物語は進んでいきます。
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印象的に使われた、目元と唇の赤と物語でもポイントになる左目を日常の光景にしているため、非常に目を引きます。イラストを書いたのは悲さんです。
田中久子さん
愛なき世界/三浦しをん/中央公論新社
洋食屋の見習い・藤丸は、出前をした大学の植物研究者である本村に一目惚れします。藤丸は本村に告白をしますが、本村は異性よりも植物に愛情を注ぐちょっと変わった人でした。
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目の覚めるような青と緑が使用されていて、物語で随所出てくる植物と海のように深い藤丸の愛情をイメージさせます。装画は漫画家の青井秋さんが担当しています。
むらさきのスカートの女/今村夏子/朝日新聞出版
わたしは近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方がありません。どうにか友達になりたいと決意し、むらさきのスカートの女がわたしと同じ職場で働くように誘導し、彼女を観察し始めます。
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大きなスカートの中にいる、2人の女性の足が思わず目に止まるようなインパクトを与えています。装画は現代アート作家の榎本マリコさんが描いています。
たおやかに輪を描いて/窪美澄/中央公論新社
風俗に通っていた夫、不実を隠している父、危ない恋愛に走っている娘…平凡で穏やかな人生だったはずの主婦・絵里子は、家族の真実を知り「自分の生き方」を考えるようになります。
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シンプルですが、横文字で書かれたタイトル、書体からも「たおやか」さをイメージでき、物語の爽やかさを感じられる装丁です。装画はイラストレーターのagoeraさんが描いています。
名久井直子さん
あこがれ/川上未映子/新潮社
自宅で占い業をしている母親と寝たきりの祖母と3人暮らしの麦彦、映画評論家の父親と2人暮らしのヘガティーは小学校の同級生。夏のある日、スーパーのサンドイッチに売り場でミス・アイスサンドイッチを見かけた麦彦は胸の苦しさに襲われ、自分に見知らぬ家族がいることを知ったヘガティーは心に家族へのあこがれ心を抱きます。
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物語のキーとなるモノが描かれていて、ピンクの背景が幼さもイメージさせます。装画はイラストレーターの羽鳥好美さんが書いています。
なかなか暮れない夏の夕暮れ/江國香織/角川春樹事務所
主人公・稔は50歳だが本ばかり読み、行動範囲は狭いのに何故か女性との接点が絶えない稔の日常と本を重点的に描きながらも、官能的な物語でもあります。
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主人公が50歳なので、大人の雰囲気のある装丁が印象的です。装画はイラストレーターの原裕菜さんが描いています。
約束された移動/小川洋子/河出書房新社
6つの短編で構成されている物語は、人生がテーマになっています。それぞれの主人公なりに「約束された移動」である人生を生きることで、読み手も自分の生き方について考えさせられます。
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物語から出ている非日常の雰囲気が装丁から感じられますね。まるでアートのような装画は、イラストレーターでありデザイナーでもある三宅瑠人さんが担当しています。
表紙や見返し、扉や帯デザインなど、本の表側を作る工程を指しています。いわゆる「本の顔」であり、担当するのは装丁家と呼ばれる方が専門的に行っています。