インタビュー
vol.8 イラストレーター・大森木綿子さん –目に見えない部分を大切にして描きたのカバー画像

vol.8 イラストレーター・大森木綿子さん –目に見えない部分を大切にして描きたい

写真:神ノ川 智早

フリーのイラストレーターとして、パッケージやテキスタイル、本のイラストを手掛けている大森木綿子さん。彼女が描くイラストはどことなく懐かしく、見る人の心を優しく温めてくれます。その魅力の源泉が大森さんのお話や暮らし方から見えてきました。

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2015年05月26日作成

ありのままではなく、心の中の風景を描く

大きな窓から風がそよそよと流れ、柔らかな光が射し込んでいる。アンティークの家具やグリーンをはじめそこにあるもの全てが心地よく調和した空間。ここはイラストレーターの大森木綿子さんの自宅兼アトリエ。穏やかで優しいこの場所はまさに大森さん自身をあらわしているかのようです。それは、描くイラストも同じ。「身近なものや心に浮かんだこと」を題材として描かれる大森さんのイラストはどこか懐かしさと親しみを感じさせてくれます。
お気に入りのアンティーク店で購入したテープルの上が大森さんの作業スペース

お気に入りのアンティーク店で購入したテープルの上が大森さんの作業スペース

「人から人に渡っていくところが素敵な雑貨だと思って作り始めた」というポストカードの数々

「人から人に渡っていくところが素敵な雑貨だと思って作り始めた」というポストカードの数々

「ありのままの風景ではなく、心象風景を描いています。例えば、『風が気持ちいいな』という本来なら目に見えない五感で感じる部分を大切にしています。物語を作るような感覚に近いと思うのですが『森の中にこういう生き物がいるといいな』という風に心に浮かんだことを絵にすることもあります。見た人が感動するような絵というよりは、ほっこりするとか楽しい気持ちになる絵を描きたいと思っています」
夏に向けてのイラストを描いている真っ最中。こちらは波模様をイメージしているのだとか。よくよく見ると色鉛筆と絵の具を組み合わせて描かれています

夏に向けてのイラストを描いている真っ最中。こちらは波模様をイメージしているのだとか。よくよく見ると色鉛筆と絵の具を組み合わせて描かれています

迷うことなく筆が進んでいきます

迷うことなく筆が進んでいきます

大森さんのイラストは、柔らかな色使いも特徴のひとつ。使用する画材はクレヨン、色鉛筆、絵の具とさまざま。時にはそれぞれの画材を組み合わせて描くこともあります。下書きはせず、自分の感覚を頼りに描き進めるのが大森さんのスタイル。紙の上に線や点が増える度に心の中にある形が少しずつ浮かび上がってきます。

「計画的に構成などを考えてから絵を描こうと思っていた時期もあったのですが、いつも途中から好きにやりたくなってしまって (笑)。決めているのは色のイメージくらい。まずは形を描いてみて、それがいいなと思ったら、次をまた描いてみるという感じです」
色鉛筆は水溶性のものを使用。鉛筆削りは使いません

色鉛筆は水溶性のものを使用。鉛筆削りは使いません

キッチンの片隅にさりげなく置かれた絵筆とパレット。絵を描くことが暮らしの中に溶け込んでいるのがわかります

キッチンの片隅にさりげなく置かれた絵筆とパレット。絵を描くことが暮らしの中に溶け込んでいるのがわかります

ちょっと良い日の日記みたいな絵

大森さんが「絵を仕事にしたい」と思ったのは、高校生の時。

「絵を描くのはもともと好きだったのですが、それを職業にできるということを知らなかったんです。今のようなイラストレーターの仕事というよりは、もっと漠然とただただ絵を描く人になりたいという風に思っていました」
この絵本「おやゆびひめ」(非売品)のイラストは大森さんにとって思い出深い仕事のひとつ。打ち合わせやラフを描くところから合わせて半年以上の時間をかけて集中して描いたそう

この絵本「おやゆびひめ」(非売品)のイラストは大森さんにとって思い出深い仕事のひとつ。打ち合わせやラフを描くところから合わせて半年以上の時間をかけて集中して描いたそう

7月まで開催している シニフィアン・シニフィエでの展示用に作られた作品。SARAXJIJIとの仕事から生まれたドローイングを羊皮紙のような風合いのファブリックキャンバスに

7月まで開催している シニフィアン・シニフィエでの展示用に作られた作品。SARAXJIJIとの仕事から生まれたドローイングを羊皮紙のような風合いのファブリックキャンバスに

美術系の短大を卒業し、会社で働く合間に絵を描き展示会を開くという日々を過ごしていた大森さん。「身近なものや心に浮かんだこと」を題材とする現在の絵の礎となったのは、当時つけていた日記でした。

「その日記には、もともとは私が撮った写真に一言を添えたものを貼っていたのですが、ある日から写真ではなく絵を描くことにしたんです。犬や近所の公園、屋上の植物といった身近なものを描いていくうちに、ほっとした、感動した、切なく感じた…そんな瞬間や日常の中にあるささやかな喜びと発見を描きたいと思うようになりました。今描く絵はちょっと良い日の日記みたいなものかもしれません」

自分が描きたいものが見つかった大森さんはその後、引越しや結婚といった転機を迎えながらイラストレーターとしての仕事を少しずつ増やしていきました。現在は、手紙社をはじめとするお店にオリジナル商品を卸したり、包装紙のイラストを手がけるなど活動は多岐に渡っています。
終始、現場を和ませてくれた大森さんの愛犬ポン太郎くん。「“ポン太郎”っぽい顔でしょ」と大森さん

終始、現場を和ませてくれた大森さんの愛犬ポン太郎くん。「“ポン太郎”っぽい顔でしょ」と大森さん

もちろん、ポン太郎くんのイラストが描かれたポストカードもあります。ちょっとした遊び心があるのも大森さんのイラストの特徴

もちろん、ポン太郎くんのイラストが描かれたポストカードもあります。ちょっとした遊び心があるのも大森さんのイラストの特徴

自分の手でできる範囲で、できるだけ丁寧なものを作りたい

一日の大半を家で過ごすことが多い大森さん。午前中は家の仕事をして午後から仕事に取り掛かることが多いそうです。イラストを描くことだけではなく、オリジナル雑貨を作る工程で生まれる細かい作業も大森さんの仕事のひとつ。その中でも「人から人に渡っていくところが素敵な雑貨だと思って作り始めた」というポストカードへの思い入れは強く、カードの四隅を丸く切り取る作業も、袋に入れる作業も全て一人で行っています。「自分の手でできる範囲で、できるだけ丁寧なものを作りたい」という気持ちは、日々の暮らし方に対しても変わりありません。
どこを切り取っても絵になる空間

どこを切り取っても絵になる空間

「土日は絶対休む」というのが大森さんのルール。そんな休みの日には相棒の自転車に乗って、アンティーク店や花屋をのぞいたり、普段よりもいい食材を買ってきて料理をしているそう。得意料理は「お米を炊くこと」。

「お米にもこだわっていて、地元である愛知県の農家さんのお米を買って精米して食べています」

キッチンを見るとコンロの上で羽釜が貫禄たっぷりに鎮座しています。さぞかし食へのこだわりが強いのだろうなと思っていると「お米以外は普通なんですよ」とあくまで控えめ。そんな部分も大森さんらしく感じます。
コーヒーはサイフォンで淹れる。奥にあるコンロの上には羽釜が

コーヒーはサイフォンで淹れる。奥にあるコンロの上には羽釜が

好きなことは、暮らしにまつわる手入れをすること。その中でもお気に入りなのは、アンティーク店のスタッフの方に簡単なやり方を教えてもらったという「金継ぎ」。

「ちょっとでも器が欠けたとあれば、すぐに金継ぎをします。きれいに割れすぎちゃうと、金継ぎのしがいがあまりないんですよね」

と残念そうな大森さん。他にも、時間を見つけては食卓兼作業台でもある木製のテーブルにオイルを塗ったり、靴を磨いたり。そんな日常のひと時を大事にしているそうです。
大森さんによる金継ぎ作品の一部

大森さんによる金継ぎ作品の一部

「自分の性格はマイペース。なるべく平穏な心でいたいですね。とはいえ、実際は感情のアップダウンはありますよ、もちろん (苦笑)。でも常にそうでありたいと思っています」

そう言って穏やかに笑う大森さんと一緒にいると、こちらの心までもほどけていくようです。

旅をしてそこから新しいものを作っていきたい

イラストレーターとして仕事が増えていくにつれ、やりたいことも比例するように増えている大森さん。その一つが「旅」です。
旅からまたどんな作品が生まれるのか楽しみです

旅からまたどんな作品が生まれるのか楽しみです

「これからは、もっと遠くの場所や自分が行ったことがない場所に行って、そこで見た景色や感じたことを絵にしてみたいです。旅をしながら、そこからまた新しいものを作っていきたいと思っています」

身近なものから遠くのものへ。新しい心の引き出しを手に入れた大森さんがどんな作品を見せてくれるのかとても楽しみです。さらに今年の秋を目標に新しいオリジナル商品作りも進行中とのこと。

「ずっとやりたいと思っていたことなんです。今はアイディアを温めているところ。すごく楽しみでわくわくしています」

イラストも暮らしも自分らしく感じるままに。それが大森さんを取り巻く全ての心地よさの秘密。風通しがいいのはこの場所の話だけではなく、大森さんの心の中についても言えることのようです。
大森木綿子|おおもりゆうこ大森木綿子|おおもりゆうこ

大森木綿子|おおもりゆうこ

イラストレーター。水彩・色鉛筆・クレヨン等、様々な素材を用いて、心に浮かんだことや、身の回りのものを描いたポストカードの制作、書籍・パッケージの挿絵等を手掛けている。もみじ市をはじめとする各地の展示やイベントにも参加。7/31まで「初夏のおたより展」がシニフィアン・シニフィエ世田谷本店にて開催中。

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