ありのままではなく、心の中の風景を描く
「人から人に渡っていくところが素敵な雑貨だと思って作り始めた」というポストカードの数々
夏に向けてのイラストを描いている真っ最中。こちらは波模様をイメージしているのだとか。よくよく見ると色鉛筆と絵の具を組み合わせて描かれています
迷うことなく筆が進んでいきます
「計画的に構成などを考えてから絵を描こうと思っていた時期もあったのですが、いつも途中から好きにやりたくなってしまって (笑)。決めているのは色のイメージくらい。まずは形を描いてみて、それがいいなと思ったら、次をまた描いてみるという感じです」
色鉛筆は水溶性のものを使用。鉛筆削りは使いません
キッチンの片隅にさりげなく置かれた絵筆とパレット。絵を描くことが暮らしの中に溶け込んでいるのがわかります
ちょっと良い日の日記みたいな絵
「絵を描くのはもともと好きだったのですが、それを職業にできるということを知らなかったんです。今のようなイラストレーターの仕事というよりは、もっと漠然とただただ絵を描く人になりたいという風に思っていました」
この絵本「おやゆびひめ」(非売品)のイラストは大森さんにとって思い出深い仕事のひとつ。打ち合わせやラフを描くところから合わせて半年以上の時間をかけて集中して描いたそう
7月まで開催している シニフィアン・シニフィエでの展示用に作られた作品。SARAXJIJIとの仕事から生まれたドローイングを羊皮紙のような風合いのファブリックキャンバスに
「その日記には、もともとは私が撮った写真に一言を添えたものを貼っていたのですが、ある日から写真ではなく絵を描くことにしたんです。犬や近所の公園、屋上の植物といった身近なものを描いていくうちに、ほっとした、感動した、切なく感じた…そんな瞬間や日常の中にあるささやかな喜びと発見を描きたいと思うようになりました。今描く絵はちょっと良い日の日記みたいなものかもしれません」
自分が描きたいものが見つかった大森さんはその後、引越しや結婚といった転機を迎えながらイラストレーターとしての仕事を少しずつ増やしていきました。現在は、手紙社をはじめとするお店にオリジナル商品を卸したり、包装紙のイラストを手がけるなど活動は多岐に渡っています。
終始、現場を和ませてくれた大森さんの愛犬ポン太郎くん。「“ポン太郎”っぽい顔でしょ」と大森さん
もちろん、ポン太郎くんのイラストが描かれたポストカードもあります。ちょっとした遊び心があるのも大森さんのイラストの特徴
自分の手でできる範囲で、できるだけ丁寧なものを作りたい
どこを切り取っても絵になる空間
「お米にもこだわっていて、地元である愛知県の農家さんのお米を買って精米して食べています」
キッチンを見るとコンロの上で羽釜が貫禄たっぷりに鎮座しています。さぞかし食へのこだわりが強いのだろうなと思っていると「お米以外は普通なんですよ」とあくまで控えめ。そんな部分も大森さんらしく感じます。
コーヒーはサイフォンで淹れる。奥にあるコンロの上には羽釜が
「ちょっとでも器が欠けたとあれば、すぐに金継ぎをします。きれいに割れすぎちゃうと、金継ぎのしがいがあまりないんですよね」
と残念そうな大森さん。他にも、時間を見つけては食卓兼作業台でもある木製のテーブルにオイルを塗ったり、靴を磨いたり。そんな日常のひと時を大事にしているそうです。
大森さんによる金継ぎ作品の一部
そう言って穏やかに笑う大森さんと一緒にいると、こちらの心までもほどけていくようです。
旅をしてそこから新しいものを作っていきたい
旅からまたどんな作品が生まれるのか楽しみです
身近なものから遠くのものへ。新しい心の引き出しを手に入れた大森さんがどんな作品を見せてくれるのかとても楽しみです。さらに今年の秋を目標に新しいオリジナル商品作りも進行中とのこと。
「ずっとやりたいと思っていたことなんです。今はアイディアを温めているところ。すごく楽しみでわくわくしています」
イラストも暮らしも自分らしく感じるままに。それが大森さんを取り巻く全ての心地よさの秘密。風通しがいいのはこの場所の話だけではなく、大森さんの心の中についても言えることのようです。
お気に入りのアンティーク店で購入したテープルの上が大森さんの作業スペース