PASS THE BATON(パスザバトン)が行っているのは、そんな、古いモノに“持ち主のストーリー”や“新しい視点”を添えることで新たな価値を生み出す、『NEW RECYCLE=新しいリサイクル』という活動。この『NEW RECYCLE』は、かつては”ただの古いモノ”としてきちんと価値が認知されていなかったようなアイテムを、センスとアイディアの力で“魅力的なモノ”へと生まれ変わらせる取り組みなんです。
使われずに眠っていたモノたちが、新たな魅力を持った素敵なモノとして蘇るなんて、なんだかちょっとした魔法みたいですよね。
古いモノや使われていないモノに光りを当て、もう一度トキメキを与えてくれる。そんな魔法のような『NEW RECYCLE』について、PASS THE BATONを運営する「スマイルズ」代表の遠山正道さんにお話しを伺ってきました。
作りたかったのは、皆の想像を超える”全く新しいリサイクルショップ”
取材に伺った「表参道店」のほか、1号店である「丸の内店」、そして新店舗の「京都祇園店」があります
「リーマンショックの影響もあり、“新しいものをどんどん作って無駄に余らせてしまう”というような事ではもったいないという気持ちがあって…。もっと、既にあるモノで何かできないかなと考えたんですね。とはいっても物々交換じゃお金にならないし、質屋もちょっと違う。そう模索していた時に“リサイクルショップ”って面白いんじゃないかって思いついたんです。世の中のリサイクルショップやフリマでは「こんなモノ誰が使うねん!」って商品が売られている一方で、高額オークションではマチスの絵が30億で取り引きされていたりもする。どっちも“誰かが手放して誰かが買う”って仕組みは同じなんだけど、ゴミ寸前のモノから30億まですごく幅が広くて、でもその中に、自分たちが欲しいと思える“丁度いいもの”がないなって感じたんですよね」
お話しを伺った遠山正道さん。ご本人も古いモノがお好きだそうで、この日着ていらっしゃった素敵なシャツも、50年程前の古着だと仰っていました
「普通の洋服屋さんでは、シーズン毎にファッションデザイナーのセンスで洋服が作られたり、バイヤーさんのセンスによって商品が集められたりしますよね。でも、リサイクルで一人ひとり違う沢山の個性が集まれば、もっとユニークな世界観ができあがるんじゃないかなって。だからといって、ただ個性を集めればなんでも良い訳でもなくて、そこに”PASS THE BATONらしさ”という視点を入れて様々な文化を融合させることで、ある種の「違和感」のようなものが生まれたら面白いなって考えたんです。もともとが、丸の内という一等地でリサイクルショップをやること自体が凄い違和感じゃないですか(笑)。でも、“しょうもないリサイクルショップ”じゃやっぱりしょうがなくて、「ただのリサイクルショップかと思って来てみたら、こんな予想外のお店だった!」っていう、来てくださった方の期待を超えるような、そんなお店を作りたいと思ったんです」
全店舗の内装を手がけているのは、インテリアデザイナー片山正通さん(Wonderwall)。高い天井いっぱいにモノと色が溢れた表参道店は、まるで宝箱の中に入り込んでしまったような不思議な気分を味わえます
商品に出品者の顔写真とプロフィール、モノにまつわるストーリーを添えて販売することで、誰かにとって要らなくなったモノが、だた古いだけの不用品ではなく”たった一つの特別な存在”として新たな価値を持つのです。
古いモノにストーリーを添えることで新たな価値を創り出す
リサイクル品に添えられたタグには、出品者のプロフィールとそのアイテムにまつわるエピソードが記載されています
共感する方同士がモノをバトンしていくことで、ほかのショップではありえないような新しいコミュニケーションが楽しめるのだそう。また、PASS THE BATONでは出品者にシニア世代の方が多いのも特徴の一つ。通常であれば、ファッションの流行にシニアは介在しにくいもの。でも、ここではむしろ何十年も前のオシャレが“かえって新しい”と若い方たちに喜ばれるなんてことも。
こうした世代間のクロスオーバーを楽しめるのも、PASS THE BATONならではの醍醐味なんですね。
しかし、例え素敵なストーリーがあるアイテムだったとしても、それを活かせるだけのステージが整っていなければ、本来の価値というのは伝わり辛いもの。PASS THE BATONにあるアイテムが魅力的に感じられるのは、やはりモノを輝かせるためのPASS THE BATONらしい感性や見立ての力があってこそではないでしょうか。
「違和感」を楽しむことからオリジナリティーが生まれる
各店舗で「見立てるための背景」として空間をしっかりと作りあげていることで、そこに集まるモノたちも、もともとの価値を超えて更に素敵に輝いて見えるのだそう。
ショップ側が提案する見立てだけではなく、そのユニークな世界観からインスパイアされて、“お客さん自身が見立てを楽しめる”ところにもPASS THE BATONの面白さがあります。普通なら「違和感」として排除されてしまうような感覚も、雑多な価値観が混在し、且つ見事に調和するPASS THE BATONの空間の中では、その「違和感」こそが新しい発見、新しい視点として興味深く感じられるのだから不思議です。
「どこにでもあるようなモノってやっぱりちょっとつまんないというか、どこの地方の駅に行っても駅前の風景がおんなじで、雑誌を見ても大抵“なんとか風”ってなっちゃう中で、「違和感」というのはとても大事だと思うんです。「違和感」って、つまりはある種の”意思表示”だと思うんですよね。ウチのようなショップやブランドが“意思”として打ち出す「違和感」が一人ひとり個人の方の「違和感」と結びつくことで無限に広がっていくし、またそこから独自のものが新しく生まれたりもしますよね。“誰にでも分かりやすくて、どこにでもあるもの”より、“少し難解なくらいのもの”の方が面白いと感じてもらえる方に、あえての「違和感」を楽しんでもらえたら嬉しいです」
多種多様な文化を融合させて、期待を超えるユニークネスを
アートディレクター「キギ (植原亮輔さん・渡邉良重さん)」によるオリジナルイラストとパッケージで甦らせた、デッドストックのネックレスたち
B品として眠っていた「リチャード ジノリ」の食器をキャンバスに、「ミナ ペルホネン」が新たなモチーフを描き足した人気のリメイクシリーズ
こちらはデッドストックのカップとラスクのセット。実は“ミニ絵本”も付いていて、「お茶をしながら絵本を楽しんでもらう」というコンセプトで作られているそう
そう楽しげに語る遠山さん。「次はこう来たか!って驚いてもらえる、相手の予想を超えるようなユニークさを大切にしていきたい」という気持ちから、単に商品を販売するにとどまらず、ショップ内に併設されたギャラリーでの展示やイベントなども積極的に行っています。
「異文化間の交流というか、枠組みにとらわれず、異質なものをあえて放り込むことの面白さってあると思うんです。ウチは入れ物になる”PASS THE BATONらしさ”という箱がまずあって、そこに、モノだったりイベントだったり、いろんな方向から面白いと思うものをなんでも持ってきて、PASS THE BATONっていう「おせち」を作っているような感じ。でも、多様な要素が集まっていながらも”PASS THE BATONらしさ”を保てているのは、やはりウチならではの目利き力、見立て力があってこそですね」
表参道店の中に併設されたギャラリースペース。「NEW RECYCLE」をコンセプトに、様々なアーティストやクリエイターによるエキシビジョン、スペシャルイベントなどが定期的に開催されています
取材時は「toy music & box art exhibition」と題した、トイミュージック専門レーベルによる幻想的なエキシビジョンが行われていました(※現在は既に終了)
しかし、古いモノに新たな価値を見出し、それを第三者にも伝わるようなカタチにまで昇華させるという行為は、感性だけではなく多くの時間と労力を要するもの。スタートから6年を経た今でこそ、コストと手間の調整を重ねて理想的なビジネスモデルに近づいてきたそうですが、プロジェクト始動当初からの数年は、なかなか軌道に乗らず悩んだこともあったのだとか。
PASS THE BATONをやり続けることの意義と原動力
個人の方からリサイクル品をお預かりするパスカウンター
とても手間がかかる上にビジネスとしては大きな利益が出るわけでもない、それでもこのプロジェクトを続けていくこと自体が意義のあることなんだと、遠山さんは続けます。
「リサイクルショップってもちろん世界中にあるんですが、ウチのように古いモノを大切にした上で更に新たな価値を付加している創造的なお店って、やっぱりどこにもないらしくて。海外の方が「アンティークショップともセレクトショップとも違う。ニューヨークにもパリにもこんなユニークなお店はないよ」って、私たちのオリジナルな活動をとてもリスペクトして下さるんです。嬉しいことに、海外のファッションブランドの方が日本へ視察に来る時の“チェックするお店リスト”に入っていたりするんですよ。欧米のスタイルをそのまま焼き写したものでもなく、かといって日本らしい“いかにも和”な感じでもない、我々のシステム自体がとても新しいって評価していただけるので、凄く励みになります。だから、大変だけどやりがいは凄く感じていますね」
「もともとは”もったいない”という気持ちからスタートしたプロジェクトですし、リサイクルの精神が世の中に広まるって、とても良いことですよね。今までにない新しい価値観を持ったリサイクルショップとして、もっとこの活動を広げていけたら嬉しいです」
京都の伝統工芸とのコラボレーション
2015年の8月にオープンした「京都祇園店」。歴史と伝統ある祇園の街に「リサイクルショップ」をオープンさせるという発想自体がとても斬新ですよね
築120年以上の伝統的建造物の良いところは大切に生かし、そこから“新しい価値”を創造し提案する、PASS THE BATONのコンセプトを建物ごと体現したお店になっているそうです。
「築120年にもなる日本家屋を改装したお店なので、耐震補強が大変で。それを受け入れた上で試行錯誤しながら、京都らしい日本的な美とPASS THE BATONらしさがうまく調和したお店を作りあげました。表は古い町屋そのものだけど、中は伝統建築を残しつつモダンなものを融合させていて。坪数は小さいんですが、そのギュッと凝縮された中に古いモノと新しいモノがひしめき合う、とっても刺激的な空間になっていますよ」
京都祇園店には喫茶・Bar「お茶と酒 たすき」も併設。お茶や甘味に加え、お茶をベースにしたオリジナルカクテルなども楽しめます
「着物の帯を使ったクラッチバッグや京都の伝統工芸作家さんとのコラボアイテムなど、京都祇園店ならではのモノも多く扱っています。東京のPASS THE BATONによく行くという方でも、京都祇園店では新しい発見や楽しみに出会えると思います。今までのPASS THE BATONとはまた一味違う、全く新しいワクワクを感じてもらえるはずです」
京金網の「金網つじ」とコラボレーションしたジュエリー。繊細で美しい京金網とアンティークな缶バッジの組み合わせが美しくもユニークです
「もったいない」という日本人らしい“心”を伝えていくために
「京都ならではの文化を最大限に活かして、世界に発信できるPASS THE BATONらしいモノ作りをしていきたい」と語る遠山さんのその視線は、日本を飛び越え、すでに海外へも向いているようです。
「もともとね、いろんな文化が入り混じることがやりたかったので、いつかは海外でも展開できたらいいなと思っています。丸の内も表参道も京都も、それぞれにそのお店の特色としての“らしさ”と“PASS THE BATONらしさ”を両方併せ持っていて、そういう“らしさ”のちゃんとあるお店をヨーロッパなんかでも実現できたらいいなって。PASS THE BATONの出発点はそもそも「もったいない」というところだし、そういった日本人が元々持っている”丁寧さやモノを大事にする姿勢”を、ウチのお店を通して世界中に伝えていけたらいいですよね。外国の方はきっと「古いモノなのに、こんなに丁寧に扱うんだ!」って凄く驚いてくれるんじゃないかな。現実的にはなかなか難しいけど、いつか実現したいですね」
そう屈託のない笑顔で話す遠山さん。その表情からも、遠山さんご自身がこの取り組みに誰よりも魅力を感じていらっしゃることが伝わってきました。
他に類を見ない卓抜したセンスと斬新なアイディア、そして何よりも純粋に”モノを大切にしたい”という想いを胸に、世界一ワクワクできるリサイクルショップPASS THE BATONの活動は、これからも更に広がり続けていくことでしょう。
表参道ヒルズにある「PASS THE BATON OMOTESANDO 」の入り口。ここから地下への階段を下りていくと、予想もしないようなゆったりとした空間が広がっています