インタビュー
Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風のカバー画像

Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景

写真:松木宏祐

北欧フィンランドの家具ブランド「Artek(アルテック)」。昨年創業80年を迎えたこの世界的なインテリアブランドが日本でスタートを切ったのは、2006年のことでした。アルテックが日本に上陸してから約10年経ち、現在、例えば同ブランドの「スツール60」は世界で一番の売り上げを誇るほど日本で愛されています。遠い土地であるフィンランドの椅子に、わたしたちはなぜ惹かれるのでしょうか。今回、その理由を探しに、アルテックのスタッフの方々にお話を伺ってきました。

141
2016年05月06日作成

シンプルさの中にみえる、自然のかたち

北欧フィンランドには多くの自然があります。春の地面には花が咲き、夏は白樺の木々から光がこぼれ、秋にはキノコやベリーが景色を彩り、そして長い冬の間は、一面の白い雪とモミの木の濃い緑が森をすっぽりと覆います。まるでムーミンの絵本の世界のようなその景色の中を、フィンランドの人々は日々の散歩や通学、通勤の途中に通るのだそうです。

北欧家具の世界的なブランドであるアルテックは、そんな国で約80年前にスタートしました。
アルテックの家具は、シンプルな一方、自然を感じさせる曲線やどこか柔らかさのある佇まいのものが多いのが特徴です

アルテックの家具は、シンプルな一方、自然を感じさせる曲線やどこか柔らかさのある佇まいのものが多いのが特徴です

「アルテック」とは、「アート」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語です。1935年、建築家であるアルヴァ・アアルトをはじめとする4人の若者により、「テクノロジーはアートに出会うことで洗練されたものになり、アートはテクノロジーの力によって機能的・実用的になる」ということ、そして、「家具を販売するだけではなく、展示会や啓蒙活動によってモダニズム*文化を促進すること」を目的にアルテックは設立されます。
家具だけでなく、トレーやランチョンマット、メモ帳などの、デザインモチーフを活かした小物も

家具だけでなく、トレーやランチョンマット、メモ帳などの、デザインモチーフを活かした小物も

※モダニズム-近代主義。それまでの伝統主義に対し、新しい道を模索した20世紀初頭の芸術運動全般。芸術をはじめとし、デザイン、工芸の分野においても、もっと良い様式はないかと模索するモダニズムが全盛であった時代、アルヴァ・アアルトたちもまた、それまで上流階級のためのものであった家具デザインに対し、「一般大衆にも良いものを」「実用的で美しいものを」という考え方で家具をデザインするアルテックを設立しました。
世界中のどの国よりも、日本はアルテックの「スツール60」が好き?
現在世界中で愛されるアルテックの家具ですが、実は、アルヴァ・アアルトがデザインをした「スツール60」は、現在日本が世界で売り上げナンバーワンなのだそうです。北欧フィンランドという遠い土地の椅子に、日本人はなぜ惹かれているのでしょうか。その理由を探しに、日本のアルテックのオフィスを訪ねました。
東京・原宿にあるアルテックの、オフィス兼ショールーム(画像提供:アルテック)

東京・原宿にあるアルテックの、オフィス兼ショールーム(画像提供:アルテック)

2014年に合併したスイスの家具メーカー「ヴィトラ」の製品とともにアルテックの製品が並びます

2014年に合併したスイスの家具メーカー「ヴィトラ」の製品とともにアルテックの製品が並びます

Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景
お話を伺ったのは、マーケティングやPR、セールスディレクターとして働いている3人のスタッフの方々です。アルテックジャパン立ち上げのため、2006年にフィンランドから来日されたアンニ・アイリンピエティさん。2014年に入社され、マーケティングとPRを手掛ける蘆原(あしはら)恵理さん。そして、同じくマーケティング&PR担当の金子尚子さんです。金子さんには今回、実際にアルテック製品を使用されているご自宅の撮影にもご協力いただきました。

「波や石、山や森の自然の中に、あんまり長方形や正方形というものはないでしょう。アルテックのプロダクトの多くは、自然な柔らかい形なんです」と話してくれたのはアンニさん。

約10年前、たったひとりでアルテックジャパンをスタートさせたアンニ・アイリンピエティさん。現在、アルテックとヴィトラの日本のセールスだけでなく、アジア、中東のホームマーケットの開拓を行っています

約10年前、たったひとりでアルテックジャパンをスタートさせたアンニ・アイリンピエティさん。現在、アルテックとヴィトラの日本のセールスだけでなく、アジア、中東のホームマーケットの開拓を行っています

蘆原(あしはら)恵理さんは、普段はSNSやイベント、PR活動などを通して使い手の方々とコミュニケーションをするなど、マーケティングとPRを担当されています。後ほど記事内でもご紹介する「ドムス チェア」への思い入れは人一倍でした

蘆原(あしはら)恵理さんは、普段はSNSやイベント、PR活動などを通して使い手の方々とコミュニケーションをするなど、マーケティングとPRを担当されています。後ほど記事内でもご紹介する「ドムス チェア」への思い入れは人一倍でした

同じくマーケティング&PRを担当をされている金子尚子さん。今回、インタビューに答えていただくだけでなく、ご自宅で実際にアルテック製品を使用されている様子を撮影させていただきました

同じくマーケティング&PRを担当をされている金子尚子さん。今回、インタビューに答えていただくだけでなく、ご自宅で実際にアルテック製品を使用されている様子を撮影させていただきました

シンプルかつ、どこか親しみを感じるアルテックの家具たちは、不思議と日本の住宅風景にもよく馴染みます。

金子さんのご自宅でも、スツールをテレビ台にしたり、キッチンでは炊飯器を置いたり、そのとき使っていないものはスタッキングしておいてあったりと、自由自在に使われていました。

「うちはこどもが二人いるんですけども、子どもたちも自分でスツールを移動させたりして、自由に使っています。軽いから本当に使い勝手が良いんです」と金子さん。
金子さんがご自宅で実際に使用されている、アルテックの「ドムス チェア」(左)と「E60 スツール」(右)。3本脚が「スツール60」で、4本脚が「E60 スツール」です。ご自宅には全部で5脚の「スツール60」と「E60 スツール」がありましたが、こちらの写真のスツールは、お子さんと一緒に座面や脚に自分たちで色を塗ったものなのだそう

金子さんがご自宅で実際に使用されている、アルテックの「ドムス チェア」(左)と「E60 スツール」(右)。3本脚が「スツール60」で、4本脚が「E60 スツール」です。ご自宅には全部で5脚の「スツール60」と「E60 スツール」がありましたが、こちらの写真のスツールは、お子さんと一緒に座面や脚に自分たちで色を塗ったものなのだそう

和室にも馴染むアルテックの椅子。こちらはフィンランドのデザイン界の巨匠、エーロ・アールニオがデザインした「ベビーロケットスツール」です

和室にも馴染むアルテックの椅子。こちらはフィンランドのデザイン界の巨匠、エーロ・アールニオがデザインした「ベビーロケットスツール」です

「L - レッグ*に代表されるように、アルテックのプロダクトは基本的に直線的ではないんです」とおっしゃるのは、蘆原さん。

自然界に存在する、流れるような形、なめらかで柔らかい形の要素を持つアルテックの製品のデザインは、和室にあっても違和感のない佇まいを可能にしています。
※L - レッグ―スツール60の他、多くのアルテックの製品に使われている「曲げ木の技法」と呼ばれる木材加工技術と、その技法で作られた部品としての脚のこと。1920年代の終わり頃、アルテック創設者のひとりであるアルヴァ・アアルトは、フィンランドの豊富な森に着目し、木を、鉄や鋼のように曲げることはできないかと考えました。そこで独自に開発した木材加工技術が「L - レッグ」だったのです。このL - レッグという部品をさまざまな家具に応用することによって、家具の大量生産が可能になりました。
L - レッグの制作過程がわかるパーツ。無垢の木にスリット(割れ目)をミリ単位で入れ、その間にベニヤ板を挟みます。プレス加工を施しながらL字型に曲げ、最後に人の手により隙間を木屑で埋め、磨きをかけて完成します

L - レッグの制作過程がわかるパーツ。無垢の木にスリット(割れ目)をミリ単位で入れ、その間にベニヤ板を挟みます。プレス加工を施しながらL字型に曲げ、最後に人の手により隙間を木屑で埋め、磨きをかけて完成します

フィンランドの工場で磨きの作業を待つL - レッグ。美しい曲線が並びます(画像提供:アルテック)

フィンランドの工場で磨きの作業を待つL - レッグ。美しい曲線が並びます(画像提供:アルテック)

スリット(割れ目)にベニヤ板が挟んであることが見てとれるL - レッグ

スリット(割れ目)にベニヤ板が挟んであることが見てとれるL - レッグ

日本の生活に馴染む椅子、ドムス チェア
Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景
アルテックの家具が日本の住宅によく馴染む理由は、その見た目のデザインだけではありません。「使い勝手の良さ」という機能性と、座る人の「心地良さ」を追求した構造もまた、暮らしに馴染む大きな理由です。

「ドムスチェアは、家族で誰が座るか取り合いになるほど人気です」と話してくれた金子さん。

座面が広く、ゆったりと座れるにも関わらず、スツール60のようにスタッキング可能なドムス チェア。肘掛が短いことによって狭い場所でも使いやすいこの椅子は、1946年に、イルマリ・タピオヴァーラ*というデザイナーによってデザインされました。
※イルマリ・タピオヴァーラ―フィンランドのミッドセンチュリーを代表するデザイナーで、インテリア専門の建築家。ドムス チェアやキキ シリーズなどをデザインしました。アルヴァ・アアルトの影響を大きく受けた人物でもあり、国連のプロジェクトに携わるなど、国際的に活躍しました。社交的で冗談も言い、スターのオーラを纏った方だったそう。アアルト同様、「一般大衆にも良いものを」というモダニズムの考え方を根底にもちながら、年齢を重ねてからは若手の育成にも力を入れました。
絶妙な形にデザインされたドムス チェアもまた、フィンランドの工場の職人によって形作られています(画像提供:アルテック)

絶妙な形にデザインされたドムス チェアもまた、フィンランドの工場の職人によって形作られています(画像提供:アルテック)

ドムス チェアに話が及ぶと、蘆原さんがずいっと身を乗り出します。
「ここは私が!私に説明させてください(笑)。最近実はフィンランドに行ってまいりまして*、ドムスチェアの虜になって帰ってきたばかりなんです」

そう言って、ドムス チェアとそのデザイナーについて話を続けてくれます。
※最近実はフィンランドに行ってまいりまして―アルテックでは2016年の秋頃、ドムス チェアの展覧会を予定しているそうです。その展覧会の資料のためにフィンランドでドムスに関わりを持つさまざまな人たちにインタビューをしてきたそう。楽しみですね。
「ちょっと立って説明していいですか(笑)」と言ってドムス チェアの説明をしてくれる蘆原さん。「座面が3Dになっているので、おしりが包まれるようなすわり心地の良さなんです」

「ちょっと立って説明していいですか(笑)」と言ってドムス チェアの説明をしてくれる蘆原さん。「座面が3Dになっているので、おしりが包まれるようなすわり心地の良さなんです」

「この椅子は1946年に、イルマリ・タピオヴァーラによってデザインされたものなんですけれども、タピオヴァーラもまた、『一般大衆に向けて良いものを』という考え方でものづくりをおこなった人なんですね。彼は、ドムス・アカデミカという学生寮のためにこれをデザインしたんです」

学生寮の内装と共に家具のデザインを任されたタピオヴァーラは、「長時間座っていても快適な、勉強をするための椅子」、「場所を選ばず、食堂などでもマルチに使える椅子」、「ちょっと友達とおしゃべりするときもリラックスして座れるような椅子」の全てを兼ね備えたドムス チェアをデザインします。
学生たちの快適な暮らしのためにデザインされたこの椅子は、その使い勝手の良さ、座り心地の良さから、1950年代、アメリカやイギリスでも大ヒット。時代を超えた使い心地の良さで現在もファンが多く、日本の狭い住宅事情や暮らし方にもフィットするとして、日本でも最近注目されています。
この日のインタビューの際も、蘆原さんと金子さんが座っていたのはドムス チェア(手前は革張り)でした。肘掛の短さによってテーブルにぶつかりにくく、せまい場所でも快適に使用できることが伺えます

この日のインタビューの際も、蘆原さんと金子さんが座っていたのはドムス チェア(手前は革張り)でした。肘掛の短さによってテーブルにぶつかりにくく、せまい場所でも快適に使用できることが伺えます

ドムス チェアに代表されるタピオヴァーラのデザインの特徴を、アン二さんがわかりやすく説明してくれます。

「タピオヴァーラは、製品ひとつひとつの機能や座り心地を磨いたデザイナーでした。そうして出来上がったものは、結果として本当に座り心地が優れたものです。そして綺麗。とても繊細なデザインですね。L - レッグをデザインしたアアルトが、木の加工技術というシステマティックな部分やシンプルな基礎の部分を追求するデザイナーだったのであれば、タピオヴァーラは、それぞれの製品のデザインを洗練させ、次のステップまで磨いていく、というタイプのデザイナーだったと思います」
短い肘掛が見た目にもかわいらしい、金子さんご自宅のドムス チェア

短い肘掛が見た目にもかわいらしい、金子さんご自宅のドムス チェア

アルヴァ・アアルトもイルマリ・タピオヴァーラも、フィンランドの、そして世界の一般の人々の暮らしをより良いものに、という精神でものづくりに携わり続けたデザイナーです。アアルトによるスツールの誕生から約80年、タピオヴァーラのドムス チェアが生まれてからは70年。時代を超えて愛される椅子たちは、彼らデザイナー、そして職人たちのものづくりへの姿勢を物語っています。

日本の、ものに対する価値観が“戻った”

「アルテックの製品は美しいだけじゃないんです。重要な点として、長持ちするんです。例えばL - レッグの強度は、今のところ80年は持ちます。この80年というのはつまり、アルテックの創業当時に作られたスツールが80年経った今も丈夫に使えている、という意味なんですけれども。つまり、丈夫で“長く使い続けることが出来るもの”なんです」と、蘆原さん。
(画像提供:アルテック)

(画像提供:アルテック)

L - レッグでできた家具が“長く使い続けることが出来る”という言葉に、アンニさんが反応します。

「10年前、この仕事をはじめたときに『日本では引越しのときにはそれまで使っていた家具のほとんどを入れ替えて、新しいものを揃える人が多い』と教えてくれた人がいたんですね。10年前の日本には、そういう使い捨て文化があったと思います。フィンランド人としては『それは本当ですか?』という、ちょっと信じられない思いがありました。でも今、日本のそういう価値観も変わってきた。……というよりも、もしかしたら“戻ってきた”と言った方が良いかもしれません」

「日本語には昔から『もったいない』という言葉がある、とよく言いますよね。実はこの言葉、フィンランドにもあるんです」とアン二さんは続けます。

「フィンランドにも日本にも、ものを大事に長く使う、という考え方がもともとあるはずです。でも、少なくとも10年前の日本では、『もったいない』という文化はあまり感じることができなかった。だから今は、日本の価値観が変わったのではなく、“戻ってきた”んだと思うんです」
Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景
日本のものに対する価値観が戻ってきた、とおっしゃるアン二さんに、蘆原さんも頷きます。

「私もそれは感じています。状況が変わってきたと感じたのは震災後です。2011年以降、ものに対する価値観が変わったと感じています。例えば雑誌を見ても、家具だけではなくて、お洋服や暮らしまわりのものも“良いものを”という特集が増えていますよね。そして、その“良いもの”の基準は値段ではなくて、素材だったりとか、着ていて心地良いものだったりとか、作りが良いもの、そして好きなもの。そういうものを長く使いましょう、という流れになってきていますよね」

長い目でものを見るということ

アルテック創業当初の工場の写真。現在は機械を導入しつつも、多くの工程で今も変わらず、職人の手によって自然の木材を活かしたものづくりがなされています(画像提供:アルテック)

アルテック創業当初の工場の写真。現在は機械を導入しつつも、多くの工程で今も変わらず、職人の手によって自然の木材を活かしたものづくりがなされています(画像提供:アルテック)

アルテックの製品の特徴のひとつには「自然素材を使用している」ということもあげられます。有機的であるのは見た目のデザインだけでなく、素材もまさに有機的。例えばスツール60に使われている木材は、フィンランド国内の白樺バーチ材です。木材の乾燥・カットから製品に仕上げるまで、すべての過程をフィンランドの工場で管理し、高い品質を保っています。
80年生きた白樺のバーチ材を乾かしている様子。バーチは、混合林の中で時間をかけて木の中身を充実させ、太く大きくなる広葉樹です(画像提供:アルテック)

80年生きた白樺のバーチ材を乾かしている様子。バーチは、混合林の中で時間をかけて木の中身を充実させ、太く大きくなる広葉樹です(画像提供:アルテック)

「フィンランドには沢山の森があります。もう100年以上森を守り、コントロールする仕組みが、国のプログラムとしてあるんです。100年前に比べると産業も増えているし、使っている木材の量も増えてきたはずなんですが、それでも同時に森林の規模もきちんと増えているんです」とアン二さん。
Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景
約100年前、つまり第二次世界大戦以前から、フィンランドには森の規模をコントロールするプログラムがあり、伐採する数や方法にルールがあります。このプログラムにはもちろん民間企業も参加しており、アルテック製品に使われるフィンランドの木材もまた、プログラムにのっとって伐採された木材です。

「伐採したあとは、また木を植えないといけないということになりますけど、森は自然に、森自身の力でも植樹をおこなっています。人間が森を作る必要はなくて、自然というのは……」

そういって少し言葉に詰まるアン二さん。言葉を選び、続けてくれました。

「言葉が足りないですが……。つまり、木が自然に生まれる環境があれば、森は自然に大きくなるんです。長いスパンで見ているんですね。そして、人間がそれを壊さない中で伐採をすれば良い。そういうことだと思います」
Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景
少し考えて、蘆原さんが続けてくれます。
「先日フィンランドに行ってきて感じたことがあるんですけども、フィンランド人の自然との向き合い方というか、その、まず『向き合う』という言葉が合っているかもわからないんですけど……。とにかくそれが、とてもナチュラルだと感じます。フィンランドで最も大きな都市であるヘルシンキでさえ、駅から2km行かずとも森や湖がある中で人々が暮らしている。木の伐採の仕方もそうですが、フィンランド人はそういうことを、おそらく昔からずっと、日々の暮らしのレベルでやっていますよね」

ゆっくりと、時間をちゃんとかけて、長いスパンでものを見る。一本の木も、木材として使えるものに育つまでには時間がかかります。フィンランドではおそらく、「自然と向き合う」という言葉にさえ違和感があるほど、「自然と共に、自然の一部として暮らす」という文化が根付いているのではないでしょうか。

「そういう、フィンランドと森との関係の話を知らないとしても、日本人はアルテックの製品にどこかそういうことを感じてくれて、心地よさを感じてくれているのかもしれませんね」
素材の面でも、デザインの面でも「長い目」で見てものづくりをおこなうアルテック。こちらは2015年に発表された「カアリ シリーズ」の棚。木材とスチールによって構成されています。アルヴァ・アアルトの「L – レッグ」という部品を応用する考え方からインスピレーションを受け、「カアリ」というスチールの部品を棚やデスク、テーブルに応用しているシリーズです

素材の面でも、デザインの面でも「長い目」で見てものづくりをおこなうアルテック。こちらは2015年に発表された「カアリ シリーズ」の棚。木材とスチールによって構成されています。アルヴァ・アアルトの「L – レッグ」という部品を応用する考え方からインスピレーションを受け、「カアリ」というスチールの部品を棚やデスク、テーブルに応用しているシリーズです

そんなアン二さんの言葉に、金子さんが続けます。
「見た目のシンプルなデザインはもちろん魅力ですが、フィンランドの森との関わり方や、デザイナーたちの哲学や技術などの背景やストーリーを聞くことで、より一層好きになってくれる方も多いと思います。そういう、ものとしての存在だけでなく、ストーリーがきちんとあるということを知ることでより愛着がわくし、私自身、そこにキュンとしてしまいます(笑)」
Vol.37 Artek(アルテック)-長く大切に使いたい家具。デザインの向こうに見える北欧の風景
アルテックのさまざまなストーリーを知ってか知らずか、北欧家具ブランド・アルテックの家具に心地良さを感じているわたしたちがいます。たった一脚の椅子の向こうには、ものごとを長い目でみた自然との共存があり、わたしたちの暮らしがより良いものになるようにと考えた、優れたデザイナーたちがいました。そしてもちろん現在も、アルテックは新しいデザイナーたちとともに、一層暮らしに寄り添う家具を作り続けています。

アン二さん、蘆原さん、そして金子さんは、最後にこう話してくれました。
「日本とフィンランドには、無意識のうちに共感し合っている部分がまだまだ沢山あると思うんです。長く使ってもらえる、愛される家具を、長い目で見た生産体系の中で作り続ける。そうやって、国と国との地理的な距離を越えて、心地良いと思えるものづくりを続けていきたいですね」

理由を言葉にはできなくとも、知らず知らずのうちに惹かれてしまい、長く大切に使いたいと思う―。そんな家具を、アルテックはこれから何十年先、何百年先も作っていってくれるのでしょう。
アルテック製品に感じる心地よさの秘密と共に、アルテックのデザイン、そしてものづくりの向こう側にある、北欧の美しい風景が見えた気がしました。

(取材・文/澤谷映)
artek(アルテック)artek(アルテック)

artek(アルテック)

北欧フィンランドの家具ブランド「Artek(アルテック)」。建築家であるアルヴァ・アアルトが、妻のアイノ・アアルトらと共に1935年に設立した、北欧モダンを代表する家具ブランド。「art(芸術)」+「technology(高い技術)」の融合を意味する「Artek(アルテック)」は、創業80年を超えた現在も、革新的でありタイムレスな良い製品を作り続けています。

日本公式Facebook
公式HP

アプリ限定!
12星座占い、天気予報と気温に合わせたコーデをお楽しみいただけます

お買いものも
キナリノアプリで◎

キナリノアプリ

「これが好き」「これが心地よい」と感じてもらえるお買いもの体験と情報を。自分らしい暮らしがかなう、お買いものメディア

App Store バナーGoogle Play バナー