インタビュー
vol.82 holo shirts. 窪田健吾さん
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vol.82 holo shirts. 窪田健吾さん
- また袖をとおしたくなる、日常になじむシャツ

写真:川原崎宣喜 

「holo shirts.」は、お店も、取扱い店舗もない、オーダー専門のシャツ屋。つくり手である窪田健吾さんは、年に10回ほど、受注会を開くために全国を巡ります。窪田さんのシャツづくりは、人と会うことからはじまるのです。オーダーは、その人の日常を知り、ひとりひとりの個性を再発見する時間。お客さんに思いを馳せながら丹精込めてつくられたシャツは、また袖をとおしたくなる、日常になじむシャツになるのです。

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2018年04月20日作成
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人は、大きな節目を迎えて成長していきます。
入学、卒業、そして就職。社会人になっても、期待と緊張が入り混じる場面は幾度となく訪れます。

ふと思い返してみると、その多くの場面で着ていたのは、「シャツ」ではなかったでしょうか。
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アイロンをぴしっとかけたシャツを着れば、心は落ち着き、どこからか自信がわいてくる――それは誰かにそっと応援してもらっているような感覚にも似ています。

シャツには、そんなふうにさまざまな感情を受け止めて、前を向かせてくれる力があるように思います。
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そして、シャツにはもうひとつの顔があります。それは、「日常着」としての顔。心地いいやわらかな生地のシャツで出かければ、心はほっと和むのに、どこかシャンとする気持ち。晴れやかな日も、気分がのらない日も、やさしく受け止めてくれる存在です。

これほどまでに、さまざまな顔を持つ服はほかにはないかもしれません。

そんな「シャツ」の魅力に惚れ込み、たった一人のためのシャツをつくり続けるのは、店も、取扱い店舗もない、オーダー専門のシャツ屋「holo shirts.」の窪田健吾さんです。
オーダー専門のシャツ屋「holo shirts.」を営む窪田さん。話していると自然とこちらまで楽しくなってしまう笑顔

オーダー専門のシャツ屋「holo shirts.」を営む窪田さん。話していると自然とこちらまで楽しくなってしまう笑顔

初めて会った緊張感を一瞬でとっぱらってしまうような太陽のような笑顔。「人見知りはしないんです」という窪田さんからは、人懐っこさがあふれ、前から知っていたような親近感が湧いてきます。

窪田さんがつくるシャツは、清々しく、上品。そして、その中に感じるのは確かな温かさ。知識がなくとも、仕立ての良さと丁寧にひとつひとつの工程を経て完成したことが伝わってきます。

シャツの受注会は、年に10回ほど。受注会を開くために全国を巡ります。窪田さんのシャツづくりは、人と出会うことからはじまるのです。丹精込めてつくられるシャツは、袖をとおす度に、身体と気持ちにフィットし、日常を包み込んでくれます。
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店名にある「ホーロー(holo)」という言葉のひとつの意味は「放浪」。拠点を構えず全国を旅してオーダーを受けるスタイルを表しています。そして、保存容器に多く使われる素材「琺瑯」にもかかっています。道具となったときに使い勝手がよく、味わいが増しながらも、やわらかくて清潔感のある白さは、窪田さんが目指すシャツのイメージにぴったりだといいます。

「ホーローのROをLOにしたのは、奥行きのある言葉に使われる接頭辞”holo”からです。立体感、奥行きのある服づくりがしたいと思って」こう説明を加えた窪田さんに、想いを表現してくれるぴったりの言葉ですねと伝えると、「うれしいです」とますます顔をくしゃっとくずして笑いました。

憧れの服を追いかけて

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窪田さんが服に興味を持ちはじめたのは、高校生のころ。ファッション誌『MEN'S NON-NO』や『POPEYE』に載っていた有名ブランドの服に目を輝かせました。「着てみたい!」そんな憧れは膨らむものの、1着あたり数万円。とても高校生に手が出せる価格ではありませんでした。
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しかし、窪田さんがひと味違うのは、買えないとあきらめるのではなく、憧れの服を自分でつくってしまったこと。どうやら、窪田さんには好奇心を育てる才能があるようです。

窪田さんは、ご両親が着なくなった服をタンスの奥からひっぱり出してきては改造し、憧れの服に近づけていきました。誰からも教わることなく、服のパーツや縫い目に目を凝らして”つくり”を解読し、ときにざくざくっとハサミをいれ、ときにパンツを裏返して縫っていく。そんな自由な創作活動は楽しく、窪田さんは服づくりに夢中になったといいます。

探究心がたくさんつまった服を着て、遊びにも出かけました。そのときの友達の反応は?と窪田さんに質問すると「どうだったかな…」とあまり憶えていない様子。窪田さんにとって周囲の反応は重要ではなく、服をつくるということが何より楽しかったのです。

服を仕事にするという決意

取材当日に着ていたのは、ギンガムチェックのシャツ。チェック柄がやわらかく波打つ様子から着心地のよさが伝わってきます

取材当日に着ていたのは、ギンガムチェックのシャツ。チェック柄がやわらかく波打つ様子から着心地のよさが伝わってきます

服がもたらしてくれた多くの喜び
窪田さんは大学に進学すると、さまざまな分野へ好奇心は広がり、時間を見つけては映画や美術館など興味のむくままに街へ出かけていきました。お気に入りの場所として足繁く通ったのは、今でも付き合いがあるという、当時、吉祥寺では珍しかったメンズのセレクトショップ。スタッフの方と服について話すこともあれば、大好きなサッカーの話に花を咲かせることもあったといいます。”服が好き”という気持ちは、窪田さんをさまざまな場所へ連れ出し、大切な出会いを運んできてくれました。

あいかわらず、窪田さんにとって服づくりも大きな楽しみでした。創作意欲は冷めることなく、母親のミシンで型紙をアレンジしては失敗と成功を重ねる、楽しい試行錯誤は続きました。

どう服と向き合うのか―問い続けた時間

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服を仕事にしようと決めたのは、窪田さんにとって気持ちに沿ったごくごく自然の流れでした。ただ、服をどう仕事にするのかがはっきり見えなかった窪田さんは、業界全体の仕組みを知ることも目的に繊研新聞社へ入社すると、大阪支社に配属され、広告営業や紙面の特集記事を企画する担当になりました。

取引先は、名だたる合繊メーカーから、業界人だったら知らない人はいない老舗の染色工場まで。さまざまな分野のプロと仕事をする日々は、忙しくも充実していたといいます。

「繊研新聞社での4年間で、素材についての知識をたくさん得ることができました。また、兵庫や広島などに綿織物の産地があるので、個人的に休みの日に機屋さんに見に行って、工場の人とコミュニケーションをとったり。もともと生地も好きなので、いろいろな展示会にも足を運びました」
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業界を俯瞰して捉えることができたのは、窪田さんにとって宝物のような経験。業界の仕組みを理解することは、現場の人たちを推し量る力を身につけることでもあるのです。

「どれくらいの生地量を発注すれば機屋として仕事になるのかとか、間に入っている問屋さんの役割とか、生地発注の仕組みを見ることができました。僕は現場にいませんが、生地発注の流れはある程度わかっているつもりですので、無理のないというか、失礼のないやりとりができるかなと思います」
襟は、中に入れた芯を含めると6枚もの生地からつくられています。複雑な縫い合わせを経て、美しい襟が完成します

襟は、中に入れた芯を含めると6枚もの生地からつくられています。複雑な縫い合わせを経て、美しい襟が完成します

肌で感じた「服づくり」の難しさ
足を運んだ地方の工場は、高齢のご夫婦が営んでいるところも多く、後継ぎの問題を垣間見て業界の行く末に寂しさと不安を感じることもあったといいます。そのころは、ファストファッション全盛期。世の中には、今までの常識をくつがえすような安価な服がブームとなっていました。

「世界を相手にしていくには、服づくりを大きな資本でシステマティックに進めることが必要なんだと思いました。でも、自分がやりたいのはそういうことではなかった。だったら自分はどう服を仕事にするのかという目線で自分に問いかける貴重な時間でした」

光と影を見てたどりついた「オーダー」という道

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「理由はいくつかありますけど、たくさんつくって、たくさん売るような仕組みは、売上は大きいかもしれないけど、無駄もたくさんあるので。セールをして、それでも売れなかったら処分する。そういうところは、この業界の良くない点でもあります。だれの手にも渡らずに、袖をとおされることなく、処分される服はつくりたくなかった。それが確実にできるのはオーダーしかないだろうと思ったんです」

業界の光と影を理解したうえでたどり着いた「オーダー」というスタイル。ただ、窪田さんとお話しする中で感じるのは、製作過程や価格を含めて、さまざまな服を受け止める心の余白がちゃんとあること。「オーダー」は、窪田さんが情熱を燃やし続け、お客さんにまっすぐに向き合うことができる自分にとってベストな道なのです。

素敵な日常着「シャツ」に魅せられて

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そして、数ある服の中から選んだのは「シャツ」。ビジネス、フォーマル、カジュアルと着用シーンは広く、そして、男女ともに着ることができるところに魅力を感じたといいます。服があたえてくれる喜びを、他の人も日常的に感じてもらえたら…という窪田さんの気持ちが見えてきます。

「話すのも好きですし、実際にお会いして、話しながらつくっていくというスタイルも憧れがあり、スーツをつくるテーラーにも興味があった時期もあったんですけど、着用シーンが日常から離れるなと思って。価格的に、着られる人も着る場面も限られてしまうので、それだった日常に近いアイテムで、自分が好きなものといったときにシャツだったんです」
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ただ、生活シーンになじみやすいという魅力がありながら、身体になじむシャツをつくることは簡単ではありません。しかし、そこに面白さを感じる、と窪田さんはやりがいをにじませます。

「シャツは、肌に近いけど伸びない。そして、Tシャツに比べて、身体に合わなければいけない箇所も多い。着丈、袖丈、首周り、身幅、すべてのバランスがはまらないと似合わなくなってしまう、悩み多きアイテムでもあります。自分も合わないと感じたシャツを無理して着ていた時期もありますし、そういうのを解決できたらいいなと思って」
3方面にある大きな窓から太陽の光が降り注ぎます。壁の白にやわらかく反射し、なんとも清々しい空間

3方面にある大きな窓から太陽の光が降り注ぎます。壁の白にやわらかく反射し、なんとも清々しい空間

窪田さんは、サラリーマン時代の最後の1年は、大阪の服飾専門学校の夜間部に通いました。その目的は、自分の服づくりと答え合わせをし、足りない部分を補足するため。窪田さんは、それほどまでに独学で服をつくりこんできたのです。

そうして4年勤めた繊研新聞社を退職すると半年の準備期間を経て、2014年11月、自宅の一室で「holo shirts.」をはじめました。そして、お子さんの誕生を機に、国分寺にある今のアトリエを構え、新たなスタートをきったのです。

デザインで心の荷物を軽くする

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シャツ1枚が完成するまでの製作時間は1日ほど。対して、採寸を含めたオーダーにかかるのは約1時間。製作時間に比べると短いですが、気持ちのウェイトの6~7割を占めるのはオーダーの時間、と窪田さん。その表情には緊張感が漂います。オーダーは、限られた中でどれだけお客さんの理想をつかみとれるかという勝負の時間でもあるのです。
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シャツは、襟、前立て、カフス、裾、バックプリーツ、生地、ボタンなど多くのパーツから構成され、デザインやサイズによって機能性も雰囲気も異なります。ひとつひとつの選択によって、シャツはいかようにでも表情を変えてくれますが、デザインの可能性が無限大だからこその難しさがあります。

「肩幅が広いのが気になるんです」
ときに、緊張しながらお客さんが口にする悩み。多かれ少なかれ、誰しもが抱えるコンプレックスは、周りは気にしていなくても、そのことで自信をもてなくなってしまうこともあります。

そんなとき窪田さんは、デザインによって心の荷物を軽くするのです。たとえば、肩の切替え線。袖の切替えが肩より内側に入ればシュッとしたスマートな印象に。逆に、肩より外側に落ちていれば、ラフでやわらかな雰囲気に。「骨格的な基準だけでは、採寸はできない」と窪田さんが語る理由はここにあります。

オーダーはその人を「知る」時間

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お店でデザインを一目で気に入って購入したものの、どう着ればいいのかわからずに、一度も着ることなくクローゼットで眠りつづけている服はないでしょうか。

窪田さんは、日常で生きるシャツにするために、お客さんの好みを尊重しながらも、そのまま取り入れずに必ず提案するといいます。これを「自分の仕事」と力強く語る窪田さんが大切にしているのは、「シャツをどう着るのか」という質問です。

「シャツのデザインは、どういう風に着たいのか、服装全体に関わってくることなので、だまってささっと測れるものではないんです。たとえば、短めの丈にしてふわっとしたスカートと合わせたい人もいる。着丈は短めが好きだと言う男性も、他のアイテムとのバランスが取れなくなってしまう場合は、ちょうどいい丈をアドバイスしたり、それに合わせて袖を短めにすることをご提案しながら採寸していきます」
本縫い用のミシン。このほか、ボタンホールを開ける穴かがり用のミシンも使用し、シャツを製作しています

本縫い用のミシン。このほか、ボタンホールを開ける穴かがり用のミシンも使用し、シャツを製作しています

日常で生きるシャツにしたい
その質問の範囲は、小物やアクセサリーにまで及びます。日常的に腕時計を欠かさない人にとっては、腕時計に袖が被ったほうがいいのか、それとも袖口が腕時計につっかかったほうがいいのか、細かなことのようですが、心地いい所作のためには重要なこと。窪田さんのオーダーは、お客さんが改めて自分を知る時間でもあるのです。

日常のささいなことがデザインに大きく関係するとわかって驚く人も多く、オーダーが終わると、窪田さんもお客さんもどっと疲れるほど。いつも、心から「おつかれさまでした」と言葉が出るといいます。そう語る窪田さんは、とても充実感に満ちた表情をしていました。きっとお客さんもそのとき同じ表情をしているのでしょう。

好みがはっきりしないのであれば、「たんすの中にどんな服があるのかを思い出してもらえれば、それに合わせた雰囲気のシャツを提案できます」と窪田さん。それは、普段着の好みを把握することで、本人でさえわからなかった日常になじむシャツが見えてくるから。窪田さんの目線は、常にその人の日常に向いているのです。
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言葉にできなかった「言葉」をつかみとる
窪田さんはオーダーをとるとき、その人の感覚にまで意識を研ぎ澄まします。たとえば、襟やカフスなどのひとつのパーツデザインを決めるとき。言葉の行間や、質問をしたときの表情にまで。その人が、言葉にしなかった、できなかった言葉に耳を傾けて理想のイメージをつかみとろうと意識を集中させるのです。そうして、その感覚を、つくり手としてデザインに落とし込んでいきます。

「たとえば、スーツの下に着るようなドレスシャツだったら、まじめできっちりした印象なので、すごく細かいステッチで縫うんです。でも、細かくぴっしりと縫うのが正解だとは思っていなくて、普段着るようなスタンダードなシャツは、ざくざくと縫ってラフな感じを出したりします」

これは、窪田さんいわく「余計なお世話」。このパターン、この線はお客さんがイメージしたものに近づけているのか――そう自分に問いかけながら進める工程は、緊張の連続だといいます。だからこそ、思わず「そうそう、こういう感じ!」と声を出してしまう、気持ちにフィットするシャツが生まれるのです。

目指すのは「ついつい着ちゃうシャツ」

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人の心の機微まで寄り添っていく窪田さんは、シャツがどんな存在であってほしいと思っているのか尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「長くというか、たくさん、いろいろな場面で着てほしい。『なんかこれ選んじゃうんだよね』っていうシャツになってくれるのが理想です。からだに合う着心地と、このデザインで良かったという気持ちに合うことが両立して、ついつい選んじゃうシャツになると思うので、100%実現できているかというとどうかというのはありますけど、そこは目指すところです」

きっと、もう誰かの”そんなシャツ”になっているはず。そう、いっそう目を輝かせた窪田さんの表情が物語っているようでした。
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自分を知れば、服との付き合い方が変わる
窪田さんは、オーダーが服との付き合い方が更新される機会となれば、と願っています。それは、服が窪田さんにあたえてくれた多くの喜びを「おすそ分け」したいという気持ちから生まれています。

「オーダーをとおして、服のディテールの知識が増えたとしたら、買い物に行ったときに、服が選びやすくなると思うんです。こういう形だったらこういうふうに見えるとか、情報が整理されることで、服選びがラクに、楽しくなったらいいなと思って。試着疲れをして服選びをやめてしまうよりも、このディテールなら似合うかもな、となんとなくでも頭に入っている状態で買い物すると楽しいと思うんです」
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「だから、毎回シャツをオーダーしてほしいとは思っていなくて。ただ、そういう目線をもって、たとえば無印に行ってすごく似合うシャツがあったら、それはその人にとって一番幸せなことだと思うんです。どうしても自分に合うシャツが見つかないときに戻ってきてくれたらいいなって思います」

そう穏やかな表情で語る窪田さんには、夢中で服をつくっていた高校生のころの姿が見えてくるかのよう。服ってとても素敵なものなんだよ――そう伝わってくる清々しい笑顔に、彼にまた会いたくてオーダーする人もいるのだろう、とふいに浮かんできました。
小さいながらも、襟にあしらわれたボタンでシャツに表情が増します。サイズは、XS・S・M・L・XLの中から選ぶことができます

小さいながらも、襟にあしらわれたボタンでシャツに表情が増します。サイズは、XS・S・M・L・XLの中から選ぶことができます

「シャツ屋のTシャツ」
生地選びの楽しさを
「夏はシャツを着ないんだよね、Tシャツなんだよねっていう方も結構いらっしゃって、それがくやしいなと思って(笑)」

春から夏にかけて開くのは、「シャツ屋のTシャツ」。シャツの素晴らしさを知るからこその”くやしさ”から生まれた、シャツ生地を使ったTシャツです。採寸はせず、サイズと生地選びだけでシャツをつくることができる気軽さが魅力。

「採寸はちょっと…という方もいらっしゃるので、試着であれば合う、合わないで判断してもらえます。あとは、シャツ屋のTシャツは、形の提案だけでなく、シャツ生地を選ぶ楽しさも体感してもらえたらいいなという思いでつくったんです」

窪田さんのこの思いは、300種類もの豊富な生地のラインアップに表れています。色、柄、素材までさまざまなタイプが用意され、迷うことすら楽しいと思えるほど。これがいい、あれがいいかも…と考えをめぐらす時間――この時間こそ、窪田さんが届けたい体感なのでしょう。

ものづくりに励む人たちを思って

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「オーダーをとおしてなのが理想ですけど、オーダーが疑似体験できるような、もう少しフラットに知識とか面白いことが伝えられるような場がもてたらいいなというのが、少し先の目標です。予約してオーダーとなれば、お金使わなきゃみたいに身構えてしまうので。面白い展示を見に行くスタンスで、発見して何か持ち帰ってもらえたらいいな」

この目標の根っこにあるのは、ものづくりに真剣に向き合う人の作品が、手にとってもらえる社会であり続けてほしいという思いです。

「僕もシャツをつくり続けたいので(笑)」
気恥ずかしくなったかのようにこう言いたすと、窪田さんは無邪気に笑いました。窪田さんには、これまで出会ってきた現場で働く人たちが見えているのです。
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楽しい日もあれば、悲しい日もある。そんな揺れうごく日々に寄り添ってくれるのは、心までもやさしく包み込んでくれるシャツ。窪田さんがつくるのは、きっとそんなシャツです。

窪田さんは、お客さんの気持ちに思いを馳せながら、パターンをひき、ハサミをいれ、生地を縫う――作業を積み重ねるほどに、着られるのを待ちわびたかのようにシャツが姿を現していきます。

また会いたくなる人がつくるシャツは、やがて「また袖をとおしたくなるシャツ」になるのです。


(取材・文/井口惠美子)
holo shirts.|ホーローシャツholo shirts.|ホーローシャツ

holo shirts.|ホーローシャツ

2014年にスタートした「holo shirts.」は、店も、取扱い店舗もない、オーダー専門のシャツ屋。年に10回ほど全国で受注会を開くほか、希望があれば国分寺のアトリエでもオーダーが可能。窪田健吾さんが、その人の日常に寄り添いながらつくるシャツは、身体にも、気持ちにもフィットする心地いいシャツ。春から夏にかけては、採寸が必要なく、シャツより価格帯的にも気軽な「シャツ屋のTシャツ」を開いている。

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