洗いたての、さらっとした肌着に包まれて眠る安らかな夜。とっておきの下着を身につけると、すっと背筋がのび、気が引き締まる朝。肌着や下着は単なる「消耗品」ではありません。私たちの心と体を健やかにしてくれる、いちばん初めの衣服なのです。
「TESHIKI-手式-」は、デザイナーの中田絢子さんと松岡朋子さんご姉妹によるアンダーウェアを中心としたブランド。「毎日着たい、シンプルで着心地の良いパンツ」をコンセプトに、個性豊かでバラエティに富んだデザインと、天然素材使用の抜群の履き心地で、じわじわとファンを増やしています。
「TESHIKI-手式-」のパンツは自分がずっと求めていたもの
「それまでは、売っている下着で満足したことがなかったんです。服は自分でも作っていましたけど、すでに色々なテイストのものが売っているじゃないですか。でも、下着は気に入るものがなくて、かつ『絶対に欲しいもの』だったので。自分はレースのランジェリーっていう感じでもないですし、かといってシンプルすぎる無地のパンツも味気ない。ずっと自分に合うものを探していたんですけど、仕事を辞めたタイミングで試しに自分で作ってみようと思って。何度か試作を重ねたら、思いのほか良いものができたんです」
ラベルも手作り。一枚一枚丁寧に巻かれています。※ピンクとピンクストライプはイベント用に作られた限定モデルです(画像提供:TESHIKI-手式-)
人気ウェアブランド「homspun(ホームスパン)」が主催するワークショップイベントに参加して作ったというフックド・ラグ(ウール地を裂き、フックで刺して模様を描いていく手芸法のひとつ)。展示会やイベントの際などに、看板代わりに使用しているそう
「自分があまり考えない方なので、姉が正式に入ってくれたことで、また違うやり方を教えてもらってる感覚ですね。どちらかが『これちょっと違うな』って思っても、一人のときには気付けなかったことをお互いに言い合えるので。二人になったから仕事が二倍になったとかではなく、どんどん世界が広がっていくような」
シックなドット柄がおしゃれな二色展開の「Monochrome Dots」。どちらも欲しくなってしまいそう!
お二人のお話を聞いて思わず納得。遊び心があって、機能性も兼ね備えた「TESHIKI-手式-」のウェアは、正反対の二人がバランスよく助け合っているからこそできることなのです。
服の延長で、もっとカジュアルに下着を楽しんでほしい
「もう少しオープンにしてもいいかなって思うんですよね。神経質になりすぎているというか。極論を言ってしまうと、多少透けたりひびいたりするのもアリなんじゃない? と(笑)。公の場で下着の話ってしないじゃないですか。どうしてもまだ、『触れちゃいけないもの』という感じがありますよね。でも、もう少しカジュアルに服の延長で服屋さんに並んでいてもいいんじゃないかなって。服を買うときに下着も一緒に買ってもいいし、そんなにくっきり分けなくてもいいと思うんです」
おっとりした雰囲気の中にも、一本の芯がすっと通っている松岡さん
「私はわりと、買う側として製品のことを考えてしまうんですよね。例えば、同じネイビーのパンツを選ぶにしても二色の内から選ぶより、ダーッとたくさん並んでいて『あ~、どれにしよう! 』って悩める方が絶対楽しいと思うんです。洋服を買うときと一緒で、下着を買うときにもそういう楽しさがあっても良いんじゃないかと思って。似た柄で種類を増やしたり、シーズンで変化をつけたり、そんなふうに作っていけたらなあって」
こちらはリラックスウェアのカタログ。深みのあるカラーから、鮮やかなものまで、季節に合わせたものを展開しています
服と同じように、沢山の選択肢の中から下着を買うことをもっと楽しんでもらいたい。「TESHIKI-手式-」のアイテムは、「選べる」という純粋な楽しみをベースにして作られています。
「選べる楽しさ」を大切にしたデザイン
従来のコットンより軽量なライトウェイトコットンで作られた、春夏にぴったりの爽やかなシリーズ
「これは、先にすごく良い生地を見つけたんです。まず『ニューヨーク』と『バルセロナ』。ラインのちょっとした違いなんかが、国っぽいねっていう話を二人でして。一つ一つに名前があったら選ぶときに面白いし、私自身も自分の好きな都市があったら買いたくなってしまう方なので(笑)」と、常に買い手目線を忘れない松岡さん。
2015年のコレクション「Trip」。左からTOKYO、NEWYORK、LONDON、BARCELONA、AMSTERDAM。生地の下には、イメージの元となった各都市の写真が貼られています
「逆にそこに時間を多く掛けられるんです。ほんのちょっとしたことなんですけど『ここを1cm減らしてみよう』とか、試作を何度も作って。色々な体型の人に着てもらいたいので、最終的に知人に一週間着てみてもらったりとか。ひとつの工程にすごく時間を掛けて仕上げてます」
「企業じゃ考えられないよね(笑)」といたずらっぽく笑うお二人。大手のメーカーなら考えられない「ロスタイム」は、二人だからこそできる時間の掛け方なのです。
こちらは花の色からインスピレーションを受けたもの。左からPuff、Geranium、Muscari。最初に見つけたピンクの生地が、「ゼラニウム」の花の色に似ていたことから、他のカラーも植物に寄せて模索していったのだそう
デザインの楽しさはもちろん、履き心地も「ストレスフリー」。締め付け感を少なく、どんな糸を使えば痛くないか、縫い代(ぬいしろ)の始末にも気をつけて、違和感なく快適に履けるアイテム作りを大切にしています(画像提供:TESHIKI-手式-)
今年の春夏コレクションより「Drape Coat」。軽いヘリンボーンリネンで作られています。着れば着るほど生地はふんわり、ドレープラインは柔らかになるそう
下着に特化した「絶対的」なブランドを目指して
「お店のスタッフさんから『こういうところが良かったみたいだよ』って、お客さんの声を聞くことがあるんですけど、下着に対する悩みや、自分の作ったアイテムにこれだけ共感してくれる人がいたんだって、うれしかったですね。家族や友人だと、どうしても同じようなものが好きな人が集まるので、製品が世に出たときにどんな反応が返ってくるんだろうっていうのはずっとあって。レースだけではなく、こういうテイストの下着が欲しかった人は、自分だけではなかったんだなって」
ブランドを始めた当初からずっと変わらない「TESHIKI」のロゴは、判子によるもの。タグにも一つ一つ手押しされています
「私たちの製品を知らない方も多いと思うんですけど、このテイストを好きになってくれる人はたくさんいらっしゃると思うんです。もっと多く、そういう人たちに知って欲しいという気持ちはありますね。『あそこのパンツだったら、選ぶのも楽しいし履き心地も良いし、絶対だよね』って思っていただけるように。今、パンツは型が一つしかないので、もっとバリエーションも増やしたいです」
たしかにアンダーウェアの幅を広げたい、と、すかさず相槌を打つ松岡さん。アトリエも欲しいし、パンツとお揃いのブラジャーやメンズアイテムも作りたい……。こうして取材をしている間にも、二人の間ではやりたいことやアイディアがぽろぽろと尽きることなく溢れ出します。
二人の気持ちは、いつだってリラックスしていて、とてもシンプル。デザイナーであり、母としての顔も持つお二人ですが、楽しそうにブランドのこれからを語るのを見ていると、ものづくりがただただ大好きだった、少女の頃の姿が見えるようでした。
ブランド名である「TESHIKI-手式-」は、“手を動かして作る”や、私たち“式”という言葉のイメージから作られたもの。何か一緒にすることがあったら、と二人の間でずっと決まっていた名前でした。
「式」という漢字には、一定のやり方、作法、手本といった意味があります。きれいなリズムで、黙々と、まず自分たちが胸を踊らせながら作ること。それは、自分の内面に一番近い「下着」という衣服を作る上で、もっとも大切な作法なのかもしれません。
(取材・文/長谷川詩織)
(左)姉・松岡朋子さん、(右)妹・中田絢子さん