神戸に暮らし、ローカルを食べる。
そんなかけ声でスタートした「地産地消」を考えるプラットフォーム。
港町で知られる神戸は、六甲山系の山々に囲まれており地元の農水産物に恵まれている。
なんでも、人口100万人を超える政令指定都市の中で農業産出額がトップクラス。
しかしながら、それを知る市民はどれほどいるのだろう?
神戸産を買いたくてもどこで手に入るのか分らない。
それならば、発信して購入が出来る場所を作ることが必要だ。
そうしてスタートした活動は、街の喜ばしい噂として駆け抜けている。
故郷の「食」に関する話題に、神戸っ子は興味津々の様子なのだ。
神戸の人たちが育てるファーマーズマーケット
これまでの歩み
2015年の立ち上げ当初に実行したのは、ウェブサイトで神戸産の季節の食材と誰が栽培しているのかという情報を発信するというシンプルなもの。
しかし、野菜や果物を紹介したものの市内で買える場所も少なく分りにくいというのが現状でした。
「実際に生産者に会えて、農水産物を直接購入できる場所を神戸の中心部に設けることが必要だと感じました」
そう話してくれたのは、(一社)KOBE FARMERS MARKETで理事として運営に携わるひとり小泉 亜由美(こいずみ・あゆみ)さん。
農家同士そして消費者との繋がりから生まれる新しいコミニュティは、次世代に残していくことが大切であると唱えます。
神社やどこか公園が良いのか、また駅からのアクセスはどうかなど下見にも時間を費やします。
そして、ようやくたどり着いた答えが中央区の東遊園地(ひがしゆうえんち)だったのです。
そこまでの道のりの中で、今のスタイルで運営するヒントをくれたのは海外のファーマーズマーケット事務局だったと言います。
実は、事前視察ではお手本ともいえるマーケットを開催するポーランドを訪れたのです。
その時にもらった重要なアドバイス、それは
「木の下で開催しなさい、毎週続けてやりなさい」
ということ。
単に空いているスペースを使用してやればいいというものではなく、人々が行きたくなるような心地良い空間でなければ意味がないのです。
それと定着させることが大切だと学び、続けるほどにお客さんはやって来るというメッセージはとても印象的だったそうです。
公園の木々の下で最初は13の出店者であったのが今は穏やかな季節には150ほどのテントが連なり、年間150回催されるようになったのです。
現在、土曜日の朝になるとおよそ30から40の出店者が集う東遊園地。
気候により変動はありますが、ゆるやかに今後も増えていく見込みなのだとか。
「そんな海外のマーケットのような理想を描いていた所、高い木々が四季折々の表情を見せてくれる中央区の真ん中にある東遊園地が、ちょうど公園活性化のための社会実験を行っておりプログラムに参加するという形で実施が出来る運びとなりました」
そう、この大きな公園は冬の風物詩であるルミナリエなどのイベント時に盛り上がりを見せる場所。
「この東遊園地を日常的に憩いの場として活用していこう」
という動きとタイミングそして目的も合致したところで想いが実り、EAT LOCAL KOBEを「生」で知ってもらえる現場が生まれたのです。
みんなで手を取り合って創り上げる
中には、
「早朝から野菜などを収穫して街の中心まで出向くことは農家や飲食店に見返りがあるのか」
という声もあったことは事実。
しかし、この活動は都市部で暮らす人たちに「農」の存在を思い出させ、人同士を繋ぎ次世代の未来を開拓することへの入り口になるのだという信念が浸透していったのです。
「立ち上げ当初に一番苦労したのは、会場の設営と撤収でした。事務局で大きなテントなど相当の荷物を何度も往復して運びました。今ではテントなどを格納するための車を持つことができ、回を重ねるごとに信頼関係が築けて自然と出店者も一緒になって準備をしているので随分早くなりました」
看板などのディスプレイやフライヤーそして醸し出す雰囲気など、どこを取ってもフォトジェニックな会場です。
でも、小泉さんは
「おしゃれにしようとしているのではなく、朝の時間を落ち着いた空間で穏やかに過ごしてもらいたいという『おもてなしの気持ち』が重なり自然とこういう演出になっています」
エントランスやテーブル各所に飾られた植物などは農家持参の旬のもの、都心でありながら里山らしさを感じられると評判です。
決まっているのは、テントの素材や色はナチュラルにして、宣伝の「のぼり」は禁止ということ。
誰かが目立つのではなく、みんなでフラットにお客さんがゆったりと過ごせるような空間になるよう心がけています。
芽生える絆―次世代のために―
お客さんとの交流そして生産者や飲食店など他の出店者同士が繋がりを持つようになり、いつしか仲間へ。
「技術を教え合ったり、種や苗を交換するなどお互いを高め合うような付き合いが生まれています。農家と飲食店がタッグを組んで生まれた商品もあり、お客さんも楽しみにしてくれてるんですよ」
このように開催出来るのも、次世代のためにと願う出店者やそれを察して支えてくれるお客さんに恵まれているから。
今後もそうでなければ継続は難しいとも話します。
例えば就農してから浅い若手には、先輩農家が必要な知識を伝授するなど販路の確保や自分たちが苦労してきたことを次の世代に伝えていけるコミュニティとしても機能しているのです。
若い世代が新たに農家になったとしても、孤立してしまい最終的には続けられない状態になるという状況を少しでもなくしたいとのこと。
こんなデータがあります。
2020年には、65歳以上の農家が65%になると予測されているのです。
農家の年齢も高くなりますし、人数は年々減少しています。
そうすると今の子供たちが大人になる頃には、神戸産どころか日本産が食べられたら幸運なんていう厳しい現状が浮き彫りになってきました。
そこで、若者にも農水産物の生産者に興味を持ってもらえるような取り組みも行っているのです。
確かに東遊園地のファーマーズマーケットに足を運ぶと大学生らしい姿も多く目に付きます。
「学生に意見を聞いたり、ボランティアに来てもらうなど10代、20代が参加できる仕掛け作りもしています。
最初は農業に興味がありませんでしたが、農家と友達になることで農業にも興味を持てるようになっていることは嬉しいです」
この神戸からも未来のために少しでも役立つことを、EAT LOCAL KOBEに則りファーマーズマーケットやイベントにメッセージをのせて送り出していくということです。
いつでも気軽に訪れてみて!
誰もがいつでも気軽に行ける、ほのぼのとした優しい現場の雰囲気をお届けします。
「ここで朝ごはんを食べます!」
この朝市では、週替わりで農家や飲食店が担当する朝ごはん目がけてやって来る人も。
もちろん、朝市限定メニューです。
あなたが行く日は何でしょうか?ぜひ、SNSでチェックしてみて下さいね。
その昔、神戸の港にやってきた珈琲は今でも私たちのブレイクタイムには欠かせないもの。
街中に数あるおいしい珈琲ショップから、週替わりで出店されているのも魅力。
真剣に話しを聞きながら、時間を掛けて買い物をする。
当たり前なようで、現代人にとっては貴重な瞬間。
地元で老舗の豆腐専門店も出店。
「お豆腐や揚げのお買い物と濃厚な豆乳もおいしい!」
というお客さんの意見もキャッチ。
各お店にリピーターが定着してきています。
あの店もこの店も、あそこのテーブルも!
会場内では、花に負けないような綺麗な笑顔がたくさん咲いています。
「お母さん、これナアニ?」
丁寧に説明をしてくれるので、お子さんもすっかり興味津々。
ここから生まれる繋がりが広がっていくといいですね。
はじめてのファーマーズマーケットも、ほら安心。
だって、「前から知り合いだったかな?」
というくらいの人との心地良い距離感。
ニコニコ笑顔で「おはようございます!」と挨拶をし合うと日頃の疲れもスッとどこかへ離れていくよう。
小さな子供たちが気兼ねなく遊べるようなスペースもバッチリ。
季節によって入れ替わるのにもワクワクさせられます。
夏には涼しくなれるような工夫が随所に見られました。
昔ながらの風鈴という文化そのものが、今の子供たちにとって珍しかったようです。
「始まったばかりの小さな朝市ですが、『子どもの時、夏はここでスイカ割したんだよね』という風に、
神戸暮らしの思い出の一ページとして登場できたら嬉しいです」
夏にはスイカ割りをして、その場でみんなで分けて食べました。
このような体験は大人になっても覚えているもの。
都会で過ごしていると忘れがちな、草花が四季を知らせてくれるということ。
ここに来ると季節の変わり目を意識するようになったというお客さんも少なくないのです。
エコバッグやマイ箸なんかを持参して、旬のものを思いっきり吟味しましょう。
おすすめの食べ方を聞いてみて、あなたのレシピに仲間入りさせてみては!?
これはお正月のひとコマ。
日本の伝統的な風習も思い出させてくれる丁寧なおもてなしは、老若男女親しめるもの。
自分たちの暮らしを豊かにするヒントをくれる場でもあります。
マーケットから広がるイベントもお楽しみ
参加してみたくなるような魅力たっぷりの暮らしの学校や秋のお祭りも見逃せません!
日頃味わえないような、自然体験や農家によるお料理教室などEAT LOCAL KOBEならではの発想が詰まっています。
暮らしの学校
野外活動ではファームビジットや地引き網まで登場し、ほかでは出来ないプログラムが待っています。
カフェなどを会場としての旬の野菜を使った料理教室は毎回盛況です。
農家が教えるとあって主婦を中心に人気のこのようなイベントは、後で告知するファーマーズマーケットのリアル店舗で今後も展開されるようです。
家族で参加したい地引き網を引くという企画。
神戸沖は豊かな漁場に恵まれており、その魚は兵庫産として築地などの市場へ出荷されているのです。
そのことをもっと広く知ってもらえる機会、力一杯に引いた網に新鮮な魚が大漁。
実物を観察しながら水族園の職員の説明を聞き、調理して食べるところまで実行する充実した内容に子供たちも大満足!
ファーマーズマーケットで市街地までやって来てくれる農家の人たちを自分たちが訪ねようというもの。
「こんな風に育てられているんだね」
というように、畑を見学させてもらうことも小さな子供や若い世代の成長過程での財産となります。
土曜日の朝におしゃべりをする関係が発展して、収穫を手伝いに行くというお客さんも出てきているのですよ。
FARM TO FORK
「農地(FARM)と食卓(FORK)をつなげよう!」を合言葉に開催されました。
実は、神戸市北区は茅葺古民家が残る日本有数の地域でもあります。
このイベントでは、茅葺き職人が手掛ける茅と竹のレストランが見どころです。
子供たち、そして親世代にとっても普段は感じることの出来ない特別な2日間。
日本が誇る職人技に目が釘付けになります。
屋外で食べると、おいしい食事がもっとご馳走に。
昼と夜でも演出の変化があるので1日中楽しめます。
北野にリアルショップOPEN
2018年3月末、北野坂沿いにEAT LOCAL KOBEのリアルショップがオープン。
ファーマーズマーケットで買えるような神戸の野菜や加工品などが並び、その場で食べることも楽しめるイートインスペースもあるそう。
マーケットと同じように神戸の暮らしに溶け込むアットホームな空間をイメージしているそうで、お料理のデモンストレーションなど各種イベントを実施する予定もあるのだとか。
館内にはヨガスタジオも登場するということで、健康的な暮らしを送るということをトータルで叶えてくれそうです。
「農水産物が買えるだけでなく、配達中の農家さんがコーヒーを飲んでいたり子供食堂があるなど『食』を真ん中に様々な人が集うクラブハウスのような場になれたらと思っています。旬はもちろん、野菜の少ない端境期などもみんなで理解して工夫しながら一緒に地産地消を楽しみましょう!」
EAT LOCAL KOBEが思い描く未来
今のこどもが大人になった2040年頃の神戸は、どうなっているでしょうか?
私たちはこんなことを思い描いています。
ファーマーズマーケットが町のあちこちで開催されており、新鮮な地元の野菜が常に手に入り、農家から直接勝った野菜が日々食卓に並んでいる。
日頃からやりとりする親しい農家や漁師がいて、時には農地や漁場に訪れる関係がある。
レストランや学校では、神戸産の食材が当たり前のように使われていて、地元産のフレッシュでおいしい野菜が楽しめる。
町のあちこちで、屋外ダイニングや畑の移動レストランなどが展開され、屋外で食を楽しむことが定着している。
住宅街には必ず共同の菜園があり、バルコニーや屋上で家庭菜園をすることなども普及し、農が暮らしの一部になっている。
農業や漁業などの第一次業に携わる人、食で起業する人が増え、様々な食のビジネスが生まれ、地域の次代を支えている。
食育が私たちの生活やこどもたちの教育に根付き、世代から世代への食の大切さが継承されている。
十分実現可能な未来。みんなで一緒につくりませんか。
土曜日の朝、ゆるやかな時間の流れる東遊園地の朝市を訪れると1日のはじまりがとても有意義なものになるという声がたくさん聞かれます。
旬の野菜といった食材の買い物はもちろん、週替わりの朝食を楽しみに散歩がてらという人も。
なにより家族や友人といつもよりじっくりと会話が出来るし、新しく知り合った人との立ち話も盛り上がります。
これからの芽吹く季節は、公園内の草花に目を向けることでも心身ともに充たされることでしょう。
撮影/片岡杏子、運営事務局スタッフ
ここにしかない情景がいくつも見られます。
ウェルカムボードとして活躍している大きな黒板と春夏秋冬に合わせた飾りは、お客さんを迎える玄関のような役割。