出典:
日本モダニズム建築の旗手と言われた建築家、前川國男(まえかわくにお)。その自邸が東京都小金井市にある「江戸東京たてもの園」に移築され、自由に見学することができることをご存知ですか?20世紀最大の建築家、ル・コルビュジエの弟子であった前川國男の自邸は、建築好きでなくても一度は訪れてみたいものです。
出典:
都立小金井公園の中に位置する「江戸東京たてもの園」は、1993年に開園した野外博物館。敷地面積は約7ヘクタールの園内には、江戸時代から昭和初期までの30棟の復元建造物が建ち並んでいます。現地保存が不可能な文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示するとともに、貴重な文化遺産として次代に継承しています。
日本の現代建築の発展に大きく貢献した建築家、前川國男
出典:
新潟に生まれた前川國男(1905~1986)は、東京帝大(現東大)卒業後に単身フランスに渡り、ル・コルビュジエの事務所で働きました。2年間コルビュジエのもとで働いたのち帰国し、アントニン・レーモンドが東京に開いた事務所に勤め、1935年には自身の事務所を設立。50年に及ぶ活動を通して、200を超える建物の設計を手がけ、戦前戦後の日本のモダニズムをリードした建築家として知られています。
出典:
代表作がありすぎて、ご紹介したい建築は沢山ありますが・・・。
まずは、ル・コルビュジエの元から日本へ帰った前川國男氏が、日本で初めて手掛けた「木村産業研究所」。現存する「日本最古のモダニズム建築」の建物は現在、国の有形重要文化財に指定されています。彼が学んだコルビュジエの考え方を、ともかく日本で実現させてみよう、とする意気込みが感じられます。最先端のモダニズムのデザインが施された建物です。
出典:
上野駅を出てすぐそこにある上野恩寵公園。曲線の庇がダイナミックな印象を与える東京文化会館は1961年建築の作品です。すぐ前には師であるル・コルビュジエの作品である国立西洋美術館が建っています。前川國男氏は国立西洋美術館の増築部分の設計も手がけており、まるで師弟が力を合わせて創り上げたような一角です。
出典:
1961年建築の国立国会図書館も前川國男氏の作品のひとつ。コンクリート仕上げのバルコニーはコルビュジエ直系を感じさせる滑らかさと端正さ。最上階のペントハウス部分は青基調の美しいタイル貼りです。50周年を機に耐震補強工事が行われ、2013年に竣工。建築当時のデザインが次の世代に大切に継承されていきます。
出典:
前川國男氏の母方の原籍地である弘前市には、前述の木村産業研究所をはじめ多くの作品が残されています。弘前市民会館は、学都弘前のシンボルとして1964年に建てられました。コンクリート打ち放しの外観は県産材のヒバの型枠で造られ、コンクリートでありながら木目肌が息づく仕上げで周囲の緑に溶け込みます。大ホールの緞帳は棟方志功作。津軽の文化が息づく建物です。
出典:
この住宅は、1942年(昭和17年)に東京都品川区上大崎に建てられました。前川國男氏の生前、1973年(昭和48年)に解体され、軽井沢の別荘で解体材の状態で保管されていましたが、その後前川家から「江戸東京たてもの園」に寄贈され、1996年(平成8年)に再建されました。
出典:
1941年に太平洋戦争が勃発、この家は、その開戦の翌年に建てられたものです。日本古来の伝統文化への回帰が叫ばれる時代、その波は建築界をも飲み込んでいきました。黒く塗られた壁は空襲に備えたものだったのでしょうか。当時の文化状況を反映して、瓦屋根を載せた和風のデザインになっています。
出典:
しかし一見和風のこの家には、モダニズムの旗手前川國男らしいモダニズムの精神があふれています。
外壁は切り妻の大屋根に縦板張りと伝統的な仕様ですが、幾何学的な格子窓や灯り障子などの要素が大胆に大きく配置され、まさにモダニズムの造形となっています。物資の無い中で、限られた建築資材と建坪100㎡以下という制限の中で建てられたので、家の中心となる正面の円柱は電信柱を使用したのだとか。
出典:
出典:
では、気になる内部を見ていきましょう。建材の入手もままならなかった、戦時下の物資不足の時代。そのような限られた状況の中でも工夫を重ね、豊かな空間を実現しているのはさすがです。
出典:
この家最大の見所は、家の中心にあるリビングでしょう。大屋根中央部分の真下に当たる天井の最も高い場所を二層吹き抜けのリビングとし、両脇に書斎、女中部屋と寝室、台所、浴室などを配しています。
高窓の下部に入れられた障子や壁に配された地袋など、モダニズムの造形の中にも和の要素が見られます。
出典:
南側の壁は上から下まで丸ごと窓になっているので、非常に解放感にあふれた明るい空間になっています。大きな窓から光が入り、その明るさは想像以上です。和紙を使った照明は彫刻家、イサム・ノグチのデザインです。
出典:
広々とした空間は、とても制限された面積で建てられたとは思えません。窓はガラス以外、サッシの車輪やレールに至るまで、すべて木材。昭和初期で、このモダンなデザインとクオリティは圧巻です。
出典:
リビングの上部にロフト風の2階を設け、階段で結んでいます。
出典:
こちらはダイニングスペース。ダイニングテーブルは前川氏自身のデザインで、椅子は水之江忠臣がデザインしたもの。もともと自邸においてあった家具は、ダイニングテーブル以外は、前川氏が自身でセレクトしたものだそうです。移築されたこちらの自邸にあるものは、「江戸東京たてもの園」がオリジナルをもとに復元しました。
出典:
玄関から入って突き当たりにある前川氏の書斎。銀座の設計事務所が東京大空襲で消失後は、新しい事務所ができるまで設計事務所としても使われていました。
出典:
木で縁取りをしたドーム型のドア枠。細かな意匠にも注目したくなります。
出典:
白を基調とした、当時としてはモダンなキッチン。台所は昭和31年の改修時に拡張しているので、創建当初はもっと狭かったようです。
出典:
黒とアイボリーの小口タイルを張った浴室。シンプルかつ衛生的で、近代的な空間は、現代芸術のアート作品のようです。現代でも全く違和感ありませんね
出典:
こちらは寝室。朝、気持ちよく目覚められそうな寝室ですね。
戦後の復興期から始まるモダニズム建築の基礎を作りあげた「前川國男邸」は、幾何学的で、動感にあふれた空間を木造で実現した、日本特有の木造モダニズムと言えます。当時の木造モダニズム建築がほどんど失われた現代、現存するこの自邸は大変貴重です。建築に興味のある方はもちろん、そうでない方も、ぜひ一度訪れてみて下さい。
都立小金井公園の中に位置する「江戸東京たてもの園」は、1993年に開園した野外博物館。敷地面積は約7ヘクタールの園内には、江戸時代から昭和初期までの30棟の復元建造物が建ち並んでいます。現地保存が不可能な文化的価値の高い歴史的建造物を移築し、復元・保存・展示するとともに、貴重な文化遺産として次代に継承しています。