夏の終わりに、映画を見ませんか?
『ラストレター』(2019)
人生は巻き戻せないからこそ、愛おしい
主人公・裕里の姉が亡くなり、葬儀が執り行われます。気丈に振る舞いながらも落ち込む姉の娘・鮎美に、裕里の娘・颯香が夏休みは一緒に過ごしたいと申し出ますが、何か理由がありそうで……。一方、裕里は姉が亡くなったことを伝えに姉の同窓会の会場へ向かいますが、ひょんなことからかつて姉に恋心を抱いていた男性と奇妙な文通が始まることに――。舞台となった宮城県白石市の風景も美しい作品です。
『SOMEWHERE』(2010)
再会した父と娘、爽やかで愛おしいサマーバケーション
日本で撮影された『ロスト・イン・トランスレーション』が人気のソフィア・コッポラ監督による、ロサンゼルスに実在するお城のようなホテル「シャトー・マーモント」を舞台としたヒューマンドラマです。有名俳優である主人公のジョニー・マルコと、元妻との間の娘・クレオとの微妙な距離感を描いた物語。
ハリウッドスターのジョニー・マルコは華やかなイメージとはかけ離れた空虚で冴えない日々を過ごしています。ある日、彼の前にクレオが現れ、サマーキャンプまでの間、ジョニーが暮らすホテルに滞在することに。久しぶりに会った、多感で難しい年頃の娘に戸惑うジョニーですが、次第に意気投合して空虚な心も輝きを取り戻し始め――。言葉にできない微妙な人と人との距離感や、高級ホテルでの爽やかなバカンス気分を味わえる本作で夏気分を楽しんでくださいね。
『プール』(2009)
穏やかで温かく、少し切ない異国での暮らし
企画はキナリノの読者の方にもおなじみ『かもめ食堂』『めがね』の霞澤花子氏。気持ちの良いきちんとした生活が心地いい他の作品とは一味違う、大きな不安や心の傷も包み込んでいくような穏やかな愛に、温かさを感じます。心の糸がほどけるような、ほろりと涙が一粒流れるような、不思議な気持ちになる作品です。
ふらりと家を出たっきり、タイのチェンマイで暮らす母・京子に会うため、日本からやって来た女子大生のさよとプールのあるゲストハウスに集まる人々との物語。チェンマイでの暮らしを楽しむ母を見て、自分と祖母がいながら日本を出て行った母へのわだかまりは強くなりますが、のんびりした時間の流れとゲストハウスに集まる人の人生に触れ、次第にさよの心にも変化が――。
『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)
大人の悩みも包み込む、14才の夏のファンタジー
原作は、野中ともそ氏による同名小説。家庭では妹が産まれようとしているけれど、両親は愛情いっぱいに自分のことも見つめてくれている。学校ではトラブルはあるけれど、味方になってくれる友達もいる。絶望的な生活ではないが、なんとも言い難い息が詰まる感覚のある主人公・つばめ。彼女のホッと心安らぐ場所は、書道教室のあるビルの屋上。ある夜そこで出会った個性的な老婆・星ばあと打ち解け、次第に持ち前の明るさを取り戻していきます。
つばめは書道教室で水墨画を勧められるものの、躊躇してしまいます。周囲や自分自身の変化に戸惑い、自由に逃げる場所もなく、違和感に対しても本音を言えずに気を使える、中学生という年頃……。物語が進むにつれ、星ばあの前でだけ素直になれたつばめの心の揺れの正体が明らかになっていき、再び周囲と向き合って交流できるようになる姿に心が温まります。
『海獣の子供』(2019)
生命や宇宙の神秘を描いた、体ごと吸い込まれるような映像
圧倒的な描写力で人間、動物、自然、霊的な神秘な存在まで、枠を超えた生命たちを表現する漫画家・五十嵐大介氏の長編漫画を原作としたアニメーション映画です。夏休み、ハンドボール部での練習に張り切っていた14才の琉花は、初日からトラブルを起こして部活禁止になってしまいます。楽しみを奪われ、自分自身の感情のコントロールがうまくできず、戸惑い落ち込む彼女は父親の働く水族館へ向かいます。
水族館のプールの中を魚たちと泳ぎ回る少年、海。彼は兄の空と共にジュゴンに育てられた少年で、研究のため水族館で暮らしているという。彼らとの交流の中でやがて大きく次元を超えた事象に巻き込まれていく琉花。謎の多いまま終わっていく壮大なストーリーにあなたは何を思うか――、まさに宇宙や生命の神秘を体感する作品です。鑑賞後にさまざまな考察をするのも楽しい時間になるでしょう。
『いなくなれ、群青』(2019)
繊細な世界観で紡がれる、ロマンチックな夏のファンタジー
シリーズ累計100万部を突破した、河野裕大氏の大ヒット、青春ファンタジー小説「階段島」シリーズの1作目が映像化されました。インターネットはメール受信のみ、外部との通信手段は郵便に限られた、人口2000人程度の小さな島「階段島」。住民は島に来る前の一定期間の記憶を失っており、ある日突然島から人が消えることもあった。誰もが島の謎を突き止めようとはせず、穏やかに暮らしていました。
主人公・七原はそんな島でも普通に高校生活を送っていました。しかし、彼の幼なじみ・真辺由宇が島にやって来てから七原の生活が一変します。真辺は達観している七原とは違って島の人々の空気を読まず、すぐさま島からの脱出を試みようとする正義感の強い一直線な性格で、謎の解明に恐れを知らず果敢に挑みます。ある日、学校の音楽祭の準備中の中等部で事件が発生し――。かつて、生活のため、大人になるため、いろんな事情で捨てた自分の性格や夢はどこへ行ってしまったのか。大人の感傷にも訴えてかけてくるロマンチックな世界観のミステリーです。
『茄子 アンダルシアの夏』(2003)
世界的ロードレースの熱き世界を描いた傑作アニメ
スペインのアンダルシア地方で行われる、世界三大自転車レースのひとつ「ブエルタ・ア・エスパーニャ」を題材としたアニメーション映画です。通常の映画の約半分程度、47分という時間にぎゅっと詰まった、スペインの人々の細やかに描かれた生活と熱き夏。アンダルシアを駆け抜けるストーリーは多くのロードレースファンや映画ファンから高い評価を得ています。
チームから解雇されることを知りながら、主人公・ペペはこのレースに懸け、独走態勢で故郷の地方を駆け抜けます。ちょうど彼の兄の結婚式が開かれていて、結婚相手はなんとかつてのペペの恋人だった――。『千と千尋の神隠し』などで作画監督を務めたアニメーター・高坂希太郎監督の、自転車愛もビシビシと感じてください!
「あのとき、ああしていれば、こんなことにはならなかった」。大人になると、小さな後悔だけではなく、悲劇につながる大きな後悔を経験した人もいるでしょう。スマートフォン、SNSのある現代でも昔と変わらない、すれ違いは多いものです。どんなに願ってもやり直せないけれど、嘘や誤解を重ねても、人が人を想う気持ちは通じ合うはず……。数多くの名作を生み出した岩井俊二監督による「初恋のその後」の物語。