退屈、やる気がでない…、そんなときにコミックはいかが?
気軽なだけではない、コミックの楽しみ方
「理想の生活や自分」を追い求めすぎて疲れた方へ
『舟を編む』雲田はるこ(作画)・三浦しをん(原作)/講談社
上下巻で物語は終了しますが、たった2巻でもさまざまな人間模様を堪能できます。辞書を編集して出版する物語ではあるものの、残すこと、成し遂げることばかりが人生ではないと思わせてくれる、大ヒット小説『舟を編む』のコミック版です。
『カノジョは今日もかたづかない』加納梨衣/祥伝社
めちゃくちゃになっている自宅をなんとかしたいと悩む毎日を送る主人公・あいなは、会社では仕事をばりばりこなし、皆の憧れの存在です。連日残業でへとへとになって帰宅し、自分の部屋にげんなりする彼女ですが、常にかっこいい自分でありたいと毎朝、自宅に背を向けて奮起し、会社に行きます。
部屋の片付けにチャレンジし始めるとともに、彼女の根本的なズレが次々に表面化します。いわゆる「木を見て森を見ず」ではない、自身の生活を見直すこともできる片付けストーリーの『カノジョは今日もかたづかない』。何より頑張り屋でキュートなあいなを見守りたくなりますよ。
『スキップとローファー』高松美咲/講談社
野望と理想を抱き、地方の小さな町から上京して東京の進学校に通い始めた優等生の美津未(みつみ)。初めての都会で、大人数の同級生との暮らしに慣れず入学当初は失敗ばかり。すっかり「不思議キャラ」となってしまった彼女に対して、都会育ちのクラスメイトは微妙な距離感を保とうとしますが…。
ひた向きに頑張り続けるだけではなく、都会での休日に心躍らせたり、ストイックでかっこいい同性の上級生に憧れて無茶をしたり、日々胸いっぱいにときめく姿に周囲の人が自然と集まり、一緒にハッピーな気持ちになっていきます。登場人物それぞれの奮闘にも励まされ、読後はタイトルの『スキップとローファー』どおり軽やかな気持ちになります。
たんたんとした「日常の豊かさ」を美しい作画で再確認
『ニューヨークで考え中』近藤聡乃/亜紀書房
私たちが何げなく過ごしている風景も、豊かな洞察力で普段とは違って見えることも。コミックでは画力の高い作家の手により、見慣れたものでも細やかに美しく感じる心を養えるかもしれません。
きらびやかで世界の最先端が集まるイメージのニューヨーク。しかし作者から見るこの街は、世間のイメージよりものんびりとしたものでした。作者にとっては特別な場所ではない海外の風景が、伸びやかな美しい線で描かれています。『ニューヨークで考え中』は小さな幸せや発見があり、作者が制作をたんたんとこなす生活にも心落ち着く、移住・コミックエッセイです。
『雪の下のクオリア』紀伊カンナ/大洋図書
心温まる情景に、定評のある作者による作品です。チェーン店だらけの商店街のお肉屋さん、雑然とした研究室、コインランドリー、田舎町を走る古い電車…。誰しも目にしたことがあるような、懐かしい光景が細密に描写されていてその場の空気感をも思い起こさせるよう。
同じ学生寮に暮らす、植物好きで人間嫌いな明夫とにぎやかな同性愛者の海。違う道を歩いていると思われた2人は、とあることがきっかけで交流するように…。『雪の下のクオリア』はBLレーベルの単巻にもかかわらず幅広く読まれ、出版後何年も愛され続けて重版もされている、心に染み入る一冊です。
さまざまな「異文化交流」に自分自身を再発見
『サトコとナダ』ユペチカ・西森マリー(監修)/星海社
お互いの生活習慣の違いに驚くことも多いルームシェア。初めてのアメリカ留学で、自分には遠い国だと思っていた国籍の人と暮らすとなおのことでしょう。『サトコとナダ』はイスラム文化を楽しく学べると、SNSを中心に話題になった4コマ漫画です。
アメリカに留学した日本人のサトコをルームメイトとして迎え入れてくれたのは、サウジアラビアから留学してきたイスラム教徒のナダでした。キュートで前向き、ロマンチストでパーティーが大好きなナダや、さまざまな国籍や宗教を持つ人々の魅力に、サトコと一緒に楽しくいろいろな価値観を知れます。
『女の園の星』和山やま/祥伝社
誰しも過ごしてきた「学校」は、「⽣徒」の学びの場であり、「教師」の職場でもあり、立場も見えている景色も違う人々が集まる不思議な空間だったのかもしれません。さらに女子校ともなると、生徒たちの異様なテンションに戸惑う大人も多いかもしれません。『女の園の星』はそんなノリや立場の違いが巧みにおかしく描かれています。
女子校の担任教師である生真面目な星先生は、生徒たちの悪ふざけや健げな親切心、純粋な将来の夢に翻弄されつつもたんたんたる毎日を送ります。同僚の男性教員も巻き込まれ…、ありそうでなかった一風変わった女子校ライフをのぞいてみて。
『水は海に向かって流れる』田島列島/講談社
高校生の直達は、叔父の自宅でさまざまな職業や年代の人や、1匹の猫と共同生活をすることに。風変わりな人々と楽しく会話したりご飯を食べたり、家事や仕事を手伝う毎日を送ります。住民の一人である、少し影のあるOLの榊は、直達に対して何か思うところがあるようで…、その理由は「衝撃的な偶然の出会い」でした。
いつかどこかで向き合うことになる、自分の過去の傷を見つめる直達と榊のストーリーに、私たちも「許しがたいことを許すとは何か」を考えさせられます。『水は海に向かって流れる』には共に生活する大人たちとのやり取りがとても楽しく描かれていて、おいしそうな食事に癒やされる場面も。
出版社の営業部で働いていた馬締(まじめ)は職場の整頓能力と言葉に対する異様なまでのこだわりを見いだされ、辞書『大渡海』の編集に抜てきされます。言葉の世界へとますます没頭し才能を開花させていく彼の姿に感動する人、嫉妬する人、変わらず見守り続ける人…。非凡な才能を持つ馬締の周囲の誰かに共感してしまう方も多いのではないでしょうか。