まるで絵の中から踊り出てきたかのような躍動感ある木のアイテム。定番の形と、ひとつひとつ形が違うスプーンや器。まさにこの世にたったひとつしかないもので、夢中で集めたくなる魅力を持っています。
そう話してくれるのは、monom(モノム)というブランド名で作品を作る木工作家、うだまさしさんです。
パッと花がひらいたような笑顔で迎えてくれたうださん
ひんやりとした空気とは裏腹に日の当たった背中は暖かい工房の中。「何を作りましょう。スプーンにしましょうか」と、うださん。
絵の中から飛び出してきたかのような木のアイテム
取材のために、実際に制作過程をみせてくれました
「こうやって描くわけですよ。頭の中で、コレがいいな、とか、この形いいな、というのを進めます。ほんと、その日、その時々の感覚で」
「どの子にしようかな、と選んでもらえるように」と、それぞれひとつだけの愛嬌を持って描かれます
描かれたスプーンは、いくつかの機械と彫刻刀によって、どんどん立体的に形を成していきます
それぞれ個性豊かな形を有するうださんの作品。作っている最中に「この形は売りものにはできない」と思うことはないのか訊ねると、作業の手をとめ、顔を上げて「あります」と答えるうださん。
「ありますけど、それがね、木のいいところなんですよ。木って、削りなおしができちゃう。すごい変なのができたらとりあえず手元に置いておいて、少し時間ができたときに手直ししちゃうんです。小さくしたり、成型しなおして。それが、木のすごくいいところですね。ほとんど無駄がない」
わずかな加工具合で調整し、口に入れたときにスッと抜けるようにしていきます
そういってうださんは再びスプーンを削る作業に集中します。その手の中で、スプーンはあれよあれよと輪郭をはっきりさせていきました。
うださんは、スプーンやフォーク、そしてお皿を、時々「この子」と呼んでいました。そしてそれらのカトラリやお皿を育てていくのは、わたしたち使い手。ひとつひとつ違うからこそ、使い手もまた、それらを大切にしたいと思うのでしょう。作り手と使い手をこのあたたかい関係性に導く作品を生み出すうださんの人生には、今までどのような物語があったのでしょうか。
「モノと結ぶ暮らし」の原体験が、ブランド名に
「二年ほど勤めたんですけど、だんだん嫌気がさしてしまいまして。オモテを綺麗に化粧して、ウラはハリボテという大雑把なセットのつくり。そんな中でも、たとえば塗りだったり造形だったり、自分なりに力を入れてやったこともテレビでは細部まで伝わらない。『映るかもわからない、伝わらない苦労だ』と思いました。作っては壊しの連続に、『こんなに苦労して作ったのにすぐ壊されるのか』と。自分が働いている楽しさを感じられなかった。もっと、リアルに直接何かを感じたかったんです」
「一応ちゃんとお金もいただいて家具を制作したんです。そのとき、これでお金をもらえるんだっていうことに、純粋にすごく喜びを感じたんですよ。いままでにない感動がありました。自分の作ったもので喜んでもらって、お金をいただいて生活できるって最高だなって。で、木の家具などを作っていきたいという方向に頭がシフトしていったんです」
こちらは現在工房でうださんが普段から使っている自作の椅子。三角形の座面がかわいらしい、三本足です
そんな中、あまりにもひとりで遅くまで残っていたため、ある日とうとう心配した当時の社長に「もうあんまり残るのはやめて欲しい」と言葉をかけられます。うださんはそのことをきっかけに、よいタイミングだと独立を決めました。
「モノで結ぶ、でもいいんですけど。要は、使い手と作り手の関係性の話です。一番最初に僕が感動した、『友達に頼まれて、作って、対価をいただいた』という関係性。家具を通して僕とその友達がつながった。それってつまり、モノと結んだ、結ばれたわけですよ。僕の作ったこのカトラリや器を手とってくれた人たちがそれを使ってくれることって、モノを通してその人と結ばれたような幸福感があります。そういう関係性がmonomにあるコンセプトです」
モノと結ぶ、をコンセプトとしたmonom。作ったものがうださんと友人をつなげてくれた原体験を大切に、うださんは今、自分の作りたいと思うカタチを、「うだまさし」という自分の名前を背負って生み出しています。
自由でいることへの挑戦
手彫りのボウルに、サンカク小皿。左の三角形には「ホシ皿」、右下のものには「ツキ皿」というかわいらしい名前も。カトラリーやカッティングボード同様、お皿もフリーハンドで描かれたカタチがたくさん
「決まった形というのがそこまで好きなわけではなくて、自由な気持ちで作ってるんですね。なので、形も自由な感じになる。ひとそれぞれいろんな好みがありますから、使ってくれる人が、どれがかわいいと思うか、どれを欲しいと思ってくれるか、それぞれにゆだねる。同じものをきっちりと作って、シンプルで実用的で、価格も抑えてプロダクトとして成功してるっていうものはほかにお任せして。何十年も作り続けてきた職人さんにはもちろん敵わないですし、僕はそれとは別の……気持ちみたいなものを含めた提案という感じです。グッとくる感じというか。そういうものを、自由なカタチを作ることで届けたい」
「生き方もそうだけど、”自由”って難しい」
そういってうださんは、言葉を選びながら続けます。
「“自由”って、生き方もそうですけど難しいじゃないですか。決まったスプーンの形を型で作るのも、生き方を型にはめるのも、多分ラクだと思うんですよ。『自由にしていいよ』っていわれると何していいかわからなくなる。型をいくつか作れば、同じ形のものをずっと作れるんですよ。だからフリーハンドって、うまく出来上がってしまえば、あ、いいのできたなって思うんですけど、反対に、型があればよかったなって思うときもあります。でも、僕はそれも含めてを自分で決めていくのが楽しいというか。そこに喜びを感じているのかもしれないです」
最近引っ越したばかりのご自宅。大道具を作っていたときの経験を活かし、一軒家を自らリフォームしながら、奥様とお子さんの3人で暮らしています
家の中には、いたるところにうださんの作品と、ご自身や奥様があつめたものが置かれていました
想いを込めて、自然体で
「想いの入ってないものは、捨てちゃったり使わなくなったりするけども、やっぱり、“長く使う”ことのよさを伝えたい、と思っています。特に、木って変化するんですよね。大事に使ったほうが楽しいですよ、それもいいもんですよ、ということ。だから、どうせ新たにものを迎えてくれるんだったら、大事に使ってね、というか。新しいものを買うことももちろんあると思うけれど、たまに出して使うとか、手入れをするとか。ちょっと頭の片隅にとどめといてもらえたらいいなって」
「家にあるテーブルも、カーペットも、すべてのものには奥があって、それを作った人がいますよね。でもどうしても、工場で作ったものは、作り手の顔が見えにくいじゃないですか。だから、僕のようなやり方だったら、わかりやすいかな、想いも込めやすいかなって思うんです」
「すごく向いてますね。結果論ですけど、向いてました。今、とても自然体なんです。作っていても、気持ちや調子がよくないときって変な形しかできないんです。だから日々、いかに気持ちよく暮らすかに気をつけていたりもしますね。無理をしないほうがよりいいものができると思ってるので、すごく今いい感じに作れていると思います」
人気のフラワーべース「壁掛けサンカク」。生花もドライフラワーも、額に入ったようにかわいらしく壁に飾れます
新しい章へ
「まさに新しい章のはじまりです」と、うださんはにっこり笑います。
ちいさなこどもにひとつの世界があるように、うださんの手から生まれたスプーンもまた、ひとつのちいさな世界を持っています。奇跡のように、生まれたカタチ。その世界の密かな純粋さは、こちらの気持ちまでワクワクさせ、強く自由にしてくれる気がします。
新しい自宅から望む景色。近く、工房もこちらの自宅の敷地内に引越し予定です
さっきまで木片でしかなかったスプーンをナイフで加工しながら「今日みたいないい天気の日は結構はかどりますね」と、うださんはいいます。
「気持ちがいい。ラジオ聴きながらのんびりと、この時間が好きです。なんか、楽しいです。春になったら山桜も咲きますよ」
うださんは最後にじっとスプーンを見つめ、「完成ですね」とつぶやきました。
(取材・文/澤谷映)
サーバースプーンやおやつスプーン、カッティングボードはさまざまな大きさ。左から3番目・4番目の定番型のフォークとスプーン以外は、すべてこの世にひとつしかない形です