ものづくりの仲間が集まってできたコッペのお店
東小金井駅の北口から、すぐ右に曲がって歩いて数分。高架下に白い小さな建物が見えてきます。ここは東小金井で活動するものづくり仲間5組と作ったアトリエ併設のお店「アトリエテンポ」。この中にコッペのお店があります。ガラス張りの扉を開けた、正面奥。そこには優しい灯りに灯され、ぴかぴかと光った革靴が棚や床に美しく並んでいました。
コッペは、中丸貴幸さんと美砂さんご夫婦で活動しているブランド。ブランド名を象徴するコッペシューズと名付けられた靴をはじめ、ふたりの好きなものだけを詰め込んだ手作りの靴を展開しています。コッペの靴はこのアトリエテンポのお店はもちろん、信頼あるお店で行われる受注会やクラフトフェアまつもとといったイベントでも手に入れることができます。
こちらがコッペシューズ。まさにコッペパンのような形。
向かって左が外羽根ブーツ、右がコッペブーツ。ソールや作りの製法は靴によってさまざま。きっと好きな形が見つかると思います。
主にお店に立つのは、美砂さん。ここで靴作りの作業を行いながら、お客さんが来れば柔らかな笑顔で出迎えます。貴幸さんは、靴づくりの工程における後半部分を担当し、お店から程近い工房で作業をしています。
お店を構えることで、前を通った人がふらりと来ることも。そんな偶然の出会いもこの場所があるからこそ。
コッペの靴作り、見えない部分のこだわり
靴作りの工程は主に、型入れ、裁断、製甲、釣り込み、底付け、仕上げの6つの工程があります。コッペの工程もこの通りに行われるのですが、ひとつひとつ作業を細かく分解してみると、数えきれないほど多くの工程があるそうです。
貴幸さん(以下:貴):「作りたいと思ったものが、たまたま大変なものだったんです。それに、独立を考えた時、『作りたくないものは作らない』と決めたんです」
コッペのこだわりは、例えばこんな部分に現れています。サボで使われているオパンケという製法は、貴幸さん曰く「見た目以上に手間がかかる」というもの。靴の革は外側と内側が二枚一対になっています。内側に貫通させないようその二枚の隙間に南京鍼(なんきんばり)という特製の道具で一穴開けては手で糸を通す作業を繰り返します。これがオパンケ製法です。かなり手間のかかる作業の上、貫通するかしないかは「感覚でやるしかない」のだそう。
貴幸さん(以下:貴):「作りたいと思ったものが、たまたま大変なものだったんです。それに、独立を考えた時、『作りたくないものは作らない』と決めたんです」
コッペのこだわりは、例えばこんな部分に現れています。サボで使われているオパンケという製法は、貴幸さん曰く「見た目以上に手間がかかる」というもの。靴の革は外側と内側が二枚一対になっています。内側に貫通させないようその二枚の隙間に南京鍼(なんきんばり)という特製の道具で一穴開けては手で糸を通す作業を繰り返します。これがオパンケ製法です。かなり手間のかかる作業の上、貫通するかしないかは「感覚でやるしかない」のだそう。
全てが貴幸さんの感覚による手仕事。南京鍼で穴を開けているところ。
両手両足+口と体全身を使って、ひと縫いずつ進めていきます。
さらに、コッペブーツなどに使われている靴底の淵が特徴のグッドイヤーウェルト製法では見えない部分も大切にしています。
靴底部分が外側にぐるっと回っている見た目が特徴のグッドイヤーウェルト製法。
この製法では、靴底部分を作る際にウェルトというベルト状の革を靴本体に縫い付けていくのですが、ソールを貼ってしまうと、縫い目は全く見えなくなってしまいます。ですがコッペは見えないこの部分の美しさを大切にしています。なぜなら、美しい縫い目ということは、均一に力がかかっているということを意味し、このことが最終的な仕上がりや強度に関わってくるからです。
美砂さん(以下:美):「作業は貴幸がしていますが、ふたりとも見えない部分も丁寧に作りたいという思いを持って作っています」
美砂さん(以下:美):「作業は貴幸がしていますが、ふたりとも見えない部分も丁寧に作りたいという思いを持って作っています」
均一に力をかけていくからこそ美しい縫い目になります。(画像提供:コッぺ)
見えなくなってしまう部分さえも美しい仕上がり。(画像提供:コッぺ)
オパンケ製法やグッドイヤーウェルト製法をはじめ、こうした靴作りに対する強いこだわりがあるふたりですがそれも「自分たちが好きだから」と軽やかに笑います。
貴:「誤解されたくないのは、作りたいものがたまたま手作りのものだっただけということ。大量生産で作られたものでも好きなものが僕はいっぱいあります。機械生産や大量生産が悪いとも思っていないし、それを否定するために手作りをしているわけではありません。機械生産でも蓄積されたものは本物だと思うので、手作り、機械に関わらず、長く作り続けられているものはすごいと思っています」
貴:「誤解されたくないのは、作りたいものがたまたま手作りのものだっただけということ。大量生産で作られたものでも好きなものが僕はいっぱいあります。機械生産や大量生産が悪いとも思っていないし、それを否定するために手作りをしているわけではありません。機械生産でも蓄積されたものは本物だと思うので、手作り、機械に関わらず、長く作り続けられているものはすごいと思っています」
二人の自然な流れの中で生まれたコッペ
もともとSEという職業についていた貴幸さんと、木工関係の会社で設計や接客の仕事をしていた美砂さん。靴づくりに関する技術と知識をそれぞれ台東区の職業訓練学校で学びました。学校を卒業した後、数年かけて独立の準備を進めていた貴幸さんを美砂さんが手伝う中で自然と一緒に作っていくことになったと言います。
貴)「特に誘ったわけでも、やりたいと言われたわけでもなく自然とそうなっていきましたね」
美)「最初から筋道を付けてやろうということはなくて、形を作って行く中でそうなっていったという感じです」
貴)「特に誘ったわけでも、やりたいと言われたわけでもなく自然とそうなっていきましたね」
美)「最初から筋道を付けてやろうということはなくて、形を作って行く中でそうなっていったという感じです」
一度聞いたら耳に残る「コッペ」という名前は、ふたりで音楽イベントに遊びに行った際に、貴幸さんがこういう靴が作りたいとなんとなく描いた絵が元となっているそうです。その絵から作られたのがコッペシューズです。ふとした落書きから生まれたコッペ。自然な流れを大切にしているふたりらしいエピソードです。例えるなら、コッペは「やってやるぞ!」というやけどをするような熱を持った温度ではなく、もっと優しい、お互いにとってちょうどいい温度から生まれたものなのだと思います。
美砂さんのお手製ロゴが描かれた木製の看板。主にイベントなどで使っているのだとか。
この靴なんだという一足を作りたい
貴:「僕は、そもそも靴に対してクラフトというよりはプロダクトというイメージが強いんです。だから、自分は作家だとは思っていませんし、かといって職人という意識もありません。ただ靴を作りたくて、ただ靴が好きでそれでごはんを食べていきたい、それだけです」
美:「だから名乗るときは靴屋ですって言っているよね」
そんな「靴屋」のふたりが目指しているのは、履き心地、デザイン、作り全てにおいて完璧だと思えるような一足を作りあげること。
貴:「現時点の自分たちができることは表現できると思います。ですが最終的にコッペはこの靴なんだという一足を作りたい。今はそこに至るまでの過程を過ごしているような感じです。もしかしたら死ぬまでに作れないかもしれないかもしれないですが」
美:「作れたら、もう最後はその一足だけ残ればいいんじゃないかって思っています」
美:「だから名乗るときは靴屋ですって言っているよね」
そんな「靴屋」のふたりが目指しているのは、履き心地、デザイン、作り全てにおいて完璧だと思えるような一足を作りあげること。
貴:「現時点の自分たちができることは表現できると思います。ですが最終的にコッペはこの靴なんだという一足を作りたい。今はそこに至るまでの過程を過ごしているような感じです。もしかしたら死ぬまでに作れないかもしれないかもしれないですが」
美:「作れたら、もう最後はその一足だけ残ればいいんじゃないかって思っています」
右の貴幸さんのサボは4ヶ月、美砂さんの外羽根ブーツは3年経ったものだそう。どちらもいい表情です。
今は、朝から夜遅くまで生産に追われる日々を送っているというふたり。そんな中でも「朝ごはんは二人でちゃんと食べる」という約束はきちんと守っているそう。そんな小さくても大切な決まりごとが、絆をゆるやかに強めていきます。そして、夜は夜で思わず話しこんでしまうこともしばしばあるのだとか。
美:「家に帰って早くごはんの準備をしようと思いながら、結局いつも先に二人で話し込んでしまいます」
貴:「一日の考えを伝えようと思うとそのくらい時間がかかってしまって」
美:「だからごはんを食べるのがいつも遅くなっちゃう(笑)」
夫婦でやってきてよかったことは、遠慮なく思ったことを言えること。他人だと遠慮してしまって言えないことも夫婦なら言える。こうしたふたりの時間を積み重ねながら、コッペが求める完璧な靴が少しずつ作られていくのでしょう。
美:「家に帰って早くごはんの準備をしようと思いながら、結局いつも先に二人で話し込んでしまいます」
貴:「一日の考えを伝えようと思うとそのくらい時間がかかってしまって」
美:「だからごはんを食べるのがいつも遅くなっちゃう(笑)」
夫婦でやってきてよかったことは、遠慮なく思ったことを言えること。他人だと遠慮してしまって言えないことも夫婦なら言える。こうしたふたりの時間を積み重ねながら、コッペが求める完璧な靴が少しずつ作られていくのでしょう。
コッペが生まれて今年で4年目を迎えます。
貴:「満足はしていないけど、やりがいや楽しさは毎日あります」
美:「続けるということだけは心に決まっています」
そんな風に今を語る貴幸さんと美砂さんは、今日も「好きなものだから作る」という純粋な気持ちのまま靴作りと向き合います。それは、きっとこの先もコッペが続く限りずっと変わらない姿なのだろうと思います。
貴:「満足はしていないけど、やりがいや楽しさは毎日あります」
美:「続けるということだけは心に決まっています」
そんな風に今を語る貴幸さんと美砂さんは、今日も「好きなものだから作る」という純粋な気持ちのまま靴作りと向き合います。それは、きっとこの先もコッペが続く限りずっと変わらない姿なのだろうと思います。
アトリエテンポは、コッペをはじめ、ヤマコヤ、safuji、dogdeco HOME、あたらしい日常料理 ふじわらの5組で作られています。