どんな女の子が好きですか?
女子校時代をプレイバック/柚木麻子
■『本屋さんのダイアナ』(新潮文庫)
お嬢様育ちの女の子と、母子家庭育ちの女の子。2人がそれぞれ社会人になるまでを描き切る作品です。前者の女の子は、大学に入って、新歓に参加し、同世代の男性たちの振る舞いにショックを受け、心身に大きな傷を負います。彼女は、デートDVなどの問題に直面し、とても悩んでしまうのですが、女の子として受けてきた“上質な教育”というものが世間に放り出された後、どういった方向で作用していくか…という所で、柚木さん自身の女性の権利や在り方についての意識が、学生時代から高かったことを実感しました。
地方育ち女子のシャープな切り口/山内マリコ
■『あのこは貴族』(集英社文庫)
映画化もされた山内マリコさんの本作品。英題は『TOKYO NOBLE GIRL』。そのタイトルの通り、東京の一等地で暮らしてきた、上流階級ともいえる裕福な家で育った女性と、山内さんの故郷である富山県から上京してきた女性の交錯を描きます。山内さんの持ち味は、リアルで鋭角な地方や田舎の描写。山内さん自身が育った故郷の有り様や、感じていた閉塞感、それに対する反骨精神がびしばしと感じられます。シャープな切れ味を、東京という都会の偶像に対してのねじ曲がった憧れの気持ちに乗せて。
■『パリ行ったことないの』(集英社文庫)
こちらも、都会やおしゃれな都市に対しての憧れの気持ちがテーマのひとつとして取り上げられた短編小説集です。雑誌でばかり眺める都市、なんとなく行った方が箔が付く気がする都市、でもきちんと美しく行ってみたい都市。それぞれの女性がそれぞれの立場から、旅行の計画を練ったり、練らなかったり…。個人的に好きだったのは、フランス旅行を計画していたものの、ずっと偉そうだった旦那が入院することになり、「キャンセルかなぁ」と内心残念がりながら病室の夫を眺めている妻のエピソード。内向的な妻の頭の中がゆるゆると語られ、最終的には同じノリでゆるんと大胆な行動に。自己革命的な行動も、これくらいの脱力感でやると案外うまくいくのかもしれません。
ラブリーでパワフルな女性たち/吉川トリコ
■『マリー・アントワネットの日記 Rose』(新潮文庫nex)
史実を元に描かれたマリー・アントワネットの生涯を描いた小説。贅沢三昧をしすぎて可哀想な最期を迎えた王妃様…という印象は全くありません。アントワネットが「〜だっつの!(笑)」とはすっぱな物言いをしていく、なんともポップな脚色です。しかし、彼女が王妃になったのは10代。イケイケに怖いもの知らずの年頃だったに違いなく、「実際こんな感じだったのかも?」と思わずにはいられません。宮廷の貴婦人たちの様子も、私たちと変わらない有り様。ロココ朝に着飾った貴婦人たちが、カフェで「こんなことあったんだけど!」と語りかけてきているような作品です。
■『少女病』(ポプラ文庫)
永遠の少女小説のバイブル『若草物語』をモチーフに描かれた装丁ですが、4姉妹ではなく、3姉妹+そのお母さんのお話です。お母さんは昔に売れていた少女小説家。いまだにロマンチックな趣味や小説内の主人公のようなピュアな心を引きずりに引きずりまくり、「ちょっと痛いんじゃない?」と苦笑してしまいそうなズレた生活を送っている状況です。3姉妹もその母親の影響をそれぞれ受けて、ちょっぴり世間とズレが生じています。全員に共通するのは、「母親のようになりたくない!」という絶叫。ハタチになっても、アラサーになっても、まだまだ心がティーンな女性の方が、実は多いような気がします。“少女”ってどんな子のことを言うんでしょうね。
のびやかすぎる女の子の不思議な魅力/江國香織
■『彼女たちの場合は』(集英社)
江國香織さんは若い頃から生粋の旅好き。作品の中には様々な外国の様子が描かれます。この作品の舞台はアメリカです。日本人の10代の女の子と、もう少し幼い女の子が手を取り合って冒険の旅に出ます。ページ数も多く、特段目を見開くような大事件や大々的な結末があったりするわけではない…ずっと静かに道路を走っていくような作品ですが、それでこそ“旅”なのだろうなと思います。長い長い道のりを少女たちが歩いていく中で出会っていく人々や風景たち。江國さんの文体は、少し余裕がありすぎる、いい意味でのだらしのなさ、贅沢な時間の浪費を感じることが多々ありますが、それは目的なく知らない土地を彷徨い歩く豊かさにも通じるように感じられます。
■『流しのしたの骨』(新潮文庫)
一風変わった家族のお話です。江國さんらしい、常識的だけれどもちょっと外れている気がする、自分に正直でまっすぐな登場人物たち全員を魅力的に感じた作品。暮らしぶりがひたすらに丁寧で、世間や社会、周囲の姿をいい意味で無視した姿と、隠された不器用さに温かい気持ちになることができます。大きなことを成し遂げたり、うまく物事を進ませることも大切ですが、下手くそな結果になったとしてもしっかり立っていられる様式を整えておくことの方が、毅然としていてかっこいいなと感じています。
現代女性の“からだ”の行く末/松田青子
■『持続可能な魂の利用』(中央公論新社)
近頃の社会問題を一挙に取り上げた作品です。日本の女性が置かれている今現在の状況を2Bの鉛筆でゴリゴリとなぞるような物語。ここに描かれているのは、「私たちの身体や心が何のために存在しているのか」という問いです。私たちは私たちの存在のために、身体を持っていて、その中に心が在ります。でも、実際この世の中で生きていると、「侵害されている」と思いませんか。なぜニキビだらけの肌ではいけないのか。なぜオシャレや身だしなみをしなくてはいけないのか。それを強制する存在の正体を暴いていきます。役者として自らの身体を使い尽くすことも経験された松田青子さんらしい小説だなと思いました。
■『英子の森』(河出書房新社)
松田青子さんは英文学科の出身。ご自身も英語圏に身を置かれた経験をお持ちです。とてもグローバルに活躍されてきた松田さんですが、ここで描かれるのは、「実際英語を活かせる女の子ってどれぐらい?」という皮肉。「グローバル化って、本当?」という台詞があります。実際、英語力は必要必要と言われていますが、日本で英語を使った仕事はどれぐらい存在するのでしょうか。私たちが置かれている世界というのは、“表現されている世界”と“実際の現実”でとても乖離があるように感じませんか。松田さんの小説はいつも、私たちの姿形そのものの認知の仕方を教えてくれるように感じます。私たちが普段触っているのは、本当に、私たち自身、世界そのものでしょうか。
- 寒さに負けない体を目指す!ゆらぎがちな冬のご自愛ケアキナリノ編集部
■『王妃の帰還』(実業之日本社)
柚木麻子さんの小説から見えてくるのは、青春時代を過ごした女子校生活への愛。女子校で過ごした6年間が、彼女にとってはかけがえのない経験だったということがよくわかります。この小説で描かれているのは、女子校のちょっとした事件。学年内での“王妃様”が失墜し、オタク気質な地味グループの主人公たちのところに所属してしまう…というもの。注目してほしいのは、作品内に陰湿な印象が存在しないところです。思春期らしい、誰かと自分を比べて格付けをしてしまう姿はあっても、グロテスクな表現は一切ありません。女子同士で固まるとより一層ドロドロするという話って、それ、本当に?柚木さん自身の、「女の子同士」像が見えてきます。