ちょっと疲れてしまったあなたへ贈りたい15冊
PART1:痛快!新天地で輝くお仕事物語
荻原浩『メリーゴーランド』(新潮社)
森深紅『安全靴とワルツ』(角川春樹事務所)
自動車メーカーを舞台にした、働くリケジョの奮闘物語です。突然本社への異動を命じられた敦子は、赴任そうそう小型車のモデルチェンジチームのメンバーに抜擢されます。秒刻みのスケジュール、工場とのかけひき、悪夢のようなフランス出張……。“物づくり”に真摯に取り組む人たちの、働くことへのそれぞれの矜恃が胸に迫ります。出てくる上司や同僚たちも女性メンバーなのも面白いところ。女性ならではの軽やかさが心地よく、働く女性同士の微妙な関係性も良く描かれています。共感!
津村記久子『この世にたやすい仕事はない』(日経BP)
ストレスに耐えかね転職を決意した36歳の主人公が、1年で5つも職を変えながら「働くこと」とは何かを見つけていく連作集です。仕事は面白かったけれどやりすぎて燃え尽きてしまった主人公は、とにかく簡単そうな仕事・単純な仕事を探して就職活動。「おかきの袋の裏の一口メモを考える仕事」「店舗や民家を訪問してポスターを張り替えるだけの仕事」など、一見なんの変化もドラマもなさそうな仕事に就くものの、やはりたやすい仕事など世の中にはないもので…。5つの仕事を通して、主人公が「仕事との適切な関係」を取り戻していく姿に、希望の光を感じます。
PART2:憧れる!女性の生き様からエネルギーをチャージ
玉岡かおる『お家さん』(新潮社)
大正から昭和の初め、日本一の年商でその名を世界に知らしめた商社がありました。砂糖を扱う小さな問屋からはじまり、樟脳、絹、鉄鋼と、次々時代を先取りした商材を扱うことで日本一にまで上り詰めたその商社は、名を「鈴木商店」と言いました。その鈴木商店を1代でそこまで大きくしたのが、女頭首・鈴木よねです。よねは生まれ持っての商才と人の上に立つ器の大きさで、様々な苦境を乗り越え、その度会社は大きく成長していきます。よねの思い切りの良さ、毅然とした自己主張、先を見通す聡明さに、同じ女性として憧れずにはいられません。実際に日本の黎明期に実在した女性のドラマティックな一生を描いた大河小説です。
山川咲『幸せをつくるシゴト』(講談社)
不可能と言われていた完全オーダーメイドの結婚式のビジネスモデルが話題を呼び、業界の革命児と呼ばれる山川咲さん。そんな山川さんですが、最初から起業を目指していたわけではありませんでした。人生のすべてだと思っていた会社を辞めたのが27歳、その後1ヶ月のオーストラリアへの旅が山川さんの人生を変えました。この本は山川さんの生い立ちから起業までを振り返った本ですが、ただ「私はこうでした」というだけの内容ではありません。そこから一歩踏み込んで、「あなたは、どうですか?」とこちらに問いかけてくるのです。違う次元の成功者としてではなく、同じ目線の女性からの言葉として、彼女の言葉が心に響きます。
アリ・セス・コーエン『Advanced Style-ニューヨークで見つけた上級者のおしゃれスナップ』(大和書房)
こんなふうに歳を重ねたい!!この写真集を見ると、強く思います。この写真集に出てくるのは、60〜100歳代のおしゃれなマダム達。みんな生き生きと、自分のお洒落を心から楽しんでいるのが分かります。そして、自信と誇りに溢れています。それぞれのファッションから、生き様や人間性まで透けて見えるよう。サブタイトルに「上級者」とあるけれど、彼女達はファッションのみならず人生の上級者なのでしょう。疲れた時、明日にやる気が出ない時、この写真集を開くと彼女達の眩しさにこちらまで心が照らされるようです。
PART3:日々奮闘!華やかな世界の舞台裏
山本幸久『寿フォーエバー』(河出書房新社)
結婚式場の仕事って憧れる!そう思ったことはありませんか?華やかな会場、幸せそうな参列者、豪華な食事…、そんな幸せそうな職場に興味を持った方も多いでしょう。舞台は時代遅れの結婚式場、寿々殿。ウエディングプランナーの靖子は次々降ってわく難題に悪戦苦闘!人生の一大イベントの裏側では、泣いて笑っての大騒ぎが繰り広げられていたのです。お客様の幸せのために一丸となって働く職員のチームプレーに、どうぞご期待ください。
いとうあさこ『あぁ、だから一人はいやなんだ。』(幻冬舎)
とっても普通なのに、なんだか目が離せない、女芸人のいとうあさこさん。好きな芸人として名前が上がる派手さはあまりないかもしれないけれど、彼女のことを嫌いだと言う人も、また居ないんじゃないかなぁ。そんな親近感溢れるいとうあさこさんが、日々のこと、仕事のこと、仕事仲間とのこと、あれやこれやを面白おかしく語ります。芸能界や芸能人の話も、いとうさんが書くとなんだか華がなくて、そんなところまでもがじんわりと笑いを誘います。一生懸命仕事をしているいとうさんに、読んで元気付けられるエッセイです。
わたしの舞台は舞台裏(KADOKAWA)
まさに気になる、舞台裏。華やかな大衆演劇の世界を裏方の立場から描いたコミックエッセイがこちらです。現代では馴染みが薄い大衆演劇の世界がとても魅力的に伝わってきて、まずは大衆演劇に足を運んでみたい!と思わせてくれます。作者の大衆演劇への愛情がなせる技と言えるでしょう。表舞台のみならず、裏方の大変さ、やりがいや喜びなども丁寧に表現されていて、華やかな表舞台とは違った良さが伝わります。色んな仕事があるものですね!働くっていいもんですね!
PART4:好きを仕事にしてみたら…!
前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)
表紙ビジュアルの破壊力をご覧ください!内容も期待通り、表紙以上にとにかく面白い!モーリタニアのバッタ被害を食い止めるため、若きバッタ学者前野先生はアフリカに向かいます。表紙の写真は前野先生ご本人ですが、本人はいたって大真面目。バッタのことしか考えていないゆえの行動は、時として周りの人の目には奇行として映るのです。面白い反面、ひたすらバッタに愛情と情熱を注ぐ若き学者の姿に、生きていく上で働くとはなんだろうかと自分を振り返ってしまう面も。バッタやアフリカに興味がない人にも、仕事に悩む人にもおすすめの1冊です。
角幡唯介『探検家36歳の憂鬱』(文藝春秋)
日本で数少ない、職業として探検家の肩書きを掲げる角幡唯介の、自分語りエッセイ集です。冒険家というと骨太で朴訥とした男性を思い浮かべるところですが、少なくともこのエッセイから見える角幡氏は今時のちょっと変わった36歳。コンパにだって興味があるし、アイドルだって嫌いじゃない。そんなことをユーモラスに語ったかと思えば、一転して冒険の話になると熱の入り方がまるで違います。冒険を始めたきっかけ、冒険の魅力、職業に冒険家を選んだ理由…冒険のことを語る生き生きした角幡さん。甘い生活に憧れて卑屈になる角幡さん。そんな振り幅が人間らしく魅力的で、この人のことをもっと知りたいと思ってしまいます。好きを職業にする苦悩、喜び、生き様を等身大に感じられる名著です。
新井見枝香『探しているものはそう遠くはないのかもしれない』(秀和システム)
日本一本を売る書店員として有名になった新井見枝香さん。本が好きすぎて始めたアルバイトから、契約社員、正社員と実力で昇格した新井さんですが、自分では「会社員に向いていない」とこの本にも書いています。好きなことを仕事にして、それが評価されて、そんな幸せなことないんじゃない?と羨ましく見える新井さんの、日常と仕事を覗き見るような1冊です。あなたには羨ましく見えるでしょうか、それとも…?
PART5:働くって楽しい!爽快おしごと本
阿川大樹『D列車でいこう』(徳間書店)
“D列車のDはDreamのD”。廃線が決まったローカル線を救いたいと仕事を辞めて集まった3人組が、地元の人々を巻き込んで再建を目指すサクセスストーリーです。本作の魅力は、3人が次々と繰り出す奇抜なアイデア!驚くような策でありながら、3人がこれまで培った知識や経験、人脈をフル活用して実現していく展開は説得力があり爽快です。読んだ後には、さあ!前を向いて何をしよう、と気持ちが動き始める作品です。
杉山雅彦『ニッポンのはたらく人たち』(パイ インターナショナル)
どのページでもいい、開いて1枚写真を見れば、それだけで仕事のストレスなんて吹っ飛んでしまうと思える写真集です。林業、農業、医療にホストクラブまで!様々な業種で実際に働く人々が、自分たちの仕事をアピールするために一丸となって挑むほぼ合成なし、一発撮りの集合写真。チェーンソーをカッコよく振り回す職人さん、最高の決めポーズを披露するホスト、全身で自分の持ち場を表現する現場作業員さん…。みんな、みんなかっこいい!そして最高の笑顔!働くって楽しい、仲間って素晴らしいと素直に思える作品集です。
おかべりか『これがおばけやさんのしごとです』(偕成社)
絵本と童話の間のような、文章と絵があまりにも違和感なく混じり合った素敵な児童書です。児童書ですがあなどるなかれ、大人が読んでも可愛らしく、面白く、しごとに前向きになれる名作です。主人公のたもつくんは小学生。親代わりの大きなしゃべるうさぎと、かわいいおばけと、3人で暮らしています。そんなたもつには「おばけやさん」の仕事があります。おばけを売っているのではありません。店番やお使い、お年寄りの話相手…おばけが引き受ける何でも屋さんです。おばけやさんには日々変わった依頼も舞い込みます。迷ったり工夫したりしながら、どんな仕事でも誠実に一生懸命に取り組むたもつとおばけの姿に、読んだ後には自然と気持ちよく背筋が伸びていました。
どこにでもいるような平凡な家庭人・啓一はUターンして市役所勤務9年目。そんな啓一に天変地異の辞令が下されます。「大赤字のテーマパークを立て直せ」!!。前例のない仕事に戸惑い手探りながらも、次第にテーマパークの仕事にのめりこんでいく啓一。なぜか立ち塞がるお役所の面々…。地方都市の権力闘争やお役所仕事の理不尽さに歯がみしながらも、同じ目的に向かって奔走する仲間達とテーマパークを再建していく様に、応援する手にも力が入ります。主人公と一緒に笑って怒って、さわやかな感動が胸に広がります。