そして、そんな願望を、そのまま絵にしたものを観てしまったとき、少なからず衝撃を受けるのではないでしょうか。
この絵のタイトル『Big Bear』のとおり、大きなくまが描かれ、そのまわりには、子どもや、魚、鳥、ふわふわの毛の犬、かわいらしいポニー、服を着たうさぎ、リアルなテディベア、マトリョーシカ、丘の向こうには山、見たことのない生き物、パイナップル、“2019”の文字…。かわいいけれど、かわいいというだけでは表現しきれない長井さんの絵は、不思議な魅力で観る人を惹きつけます。
今回は長井朋子さんの作品をご紹介しながら、その魅力をすこし探ってみましょう。
長井朋子さんについて
Photo by Shinya Kondo
東京、京都、鹿児島、香港、シンガポールなどで個展を開催。また、東日本大震災の被災地である宮城県七ヶ浜にある遠山保育所(設計:髙橋一平建築事務所。2013年に竣工)の再建に際し園児のための屋外プールに絵を描くプロジェクトに携わったり、NHK Eテレの番組「時々迷々」オープニングに作品を提供するなど、美術館やギャラリーでの作品展示に限らず幅広く活動しています。
長井さんの作品の魅力「世界観」
「桃色のアトリエ」
2017
oil and glitter on canvas
162.0 × 242.5 cm (a set of 2pieces)
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
こちらは部屋のなかのを描いた1枚。子どもと、動物、さらによく見てみると部屋のなかにキノコや木が生えていたりします。(さらに木には、ステーキ肉がぶら下がっています…!)
「おしゃべり」
2010
water color, pencil, color pencil and collage on paper
27.9 × 35.9 cm
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
いわゆる「普通の世界」ではあまりありえないことが、ごく自然に描かれます。かわいらしいけど、かわいいだけじゃないのは、観る側がなんとなく想像しているものと違うところにあるからかもしれません。
たとえば。子どもの頃、おままごとをしたことはありますか?おままごとの世界では、外で遊んでいても見えない部屋の間取りやドアがありました。おうちも外も関係なく、おもちゃを使うこともあったでしょう。子どもの頃はただ純粋に「その世界」を遊びのなかで実現していたように思います。(先にご紹介した絵のステーキ肉も、喜びや楽しさの表現のひとつ。だから絵に並ぶいろいろなものは、脈略がないようで、全部長井さんのなかのものです。)
長井さんの絵も、長井さんの意識の中で、好きなものを好きな場所へ置き、どんな場面でも必要なものであればそこに描かれます。それは空想のようでありながら、ほんとうかもしれない世界。
長井さんの作品の魅力「子ども」
「春の衣装」
2017
acrylic, water color, pencil, color pencil, ink, collage on paper
image: 17.5 x 22.5 cm (frame: 20.5 x 25.5 cm)
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
長井さんの作品の魅力「描写」
「鳥鳥、鳥」
2016
oil on canvas
97.0 × 194.0 cm
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
「ドラマチック」
2012
oil, glitter on canvas
227.5 × 364.0 cm
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
夢のなかのような景色は、子どもの世界の延長というわけではなく、素敵なもので溢れさせた「理想」なのかもしれません。現実にはないと誰かに言われてしまうかもしれない世界を、美しい描写で「存在」させられるのが、長井さんの作品です。
長井さんの作品の魅力「画材」
「雪よこんこ」
2010
water color, pencil, color pencil, ink and collage on paper
34.5 × 42.3 cm
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
この絵は、外の景色の上に窓枠がくりぬかれた壁の絵が貼られています。床部分には海上保安庁の廃版海図が使われ、左側のカーテン部分には本物の布が貼られているのです。部屋の壁に飾られている絵はコラージュだったり、額の部分だけがコラージュで絵を長井さんが描いていたりします。
長井さんは色鉛筆や、水彩絵の具、油絵の具、ペンといった絵を描く画材の違いだけでなく、1枚の紙の上にさらに何かを貼ったり(かわいいシールのときもある)、糸で縫ったりすることもあります。描かれる対象によって画材と素材が変わるのです。その作品に必要なものを、最適の画材と素材で描いています。
「毛むくじゃらハウス」
2010
drawing(water color, ink, pencil),cloth, fur, frame, dall, brooch
h.48 × w.26 × d.26 cm
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
ドールハウスのような小さな作品から、子ども部屋のようなサイズの作品、ぬいぐるみがたくさん縫い付けられたワンピース、展覧会の場所に似合ったパッチワークのカーテンなど。平面・立体の形にとらわれず、作品が生まれます。
長井さんの作品は、その完璧ともいえる世界観から「ナガイーランド(※)」と語られることがあります。その完璧は、果ての見えない宇宙のように、いつも縦横無尽に表現の形を変え、美しく調和します。観る人のあたまのなか、意識の境界線の「ふち」を軽やかに消しながら、長井さんの宇宙は拡張し続けます。
長井さんの作品を実際に観たい人は
2020年3月20日から@茨城県『しだれざくらと春を、』
「しだれざくら」
2014
oil on canvas
162.0 × 162.5 cm
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
薄ピンクの花びらが舞う絵の数々は、一度は本物を目にしてほしいという傑作揃い!今年の春は、長井さんの『しだれざくら』でお花見をしませんか?
長井さんの作品を今すぐたくさん観たい人は
長井朋子作品集『Thousands of Finches』
実物を観られることが少なくなる個人蔵の作品などもこの画集で観られるのが嬉しいポイントです。長井朋子さんの絵が気になる方、絵は好きだけれどおうちの事情で飾れないという方も、ぜひこの1冊をどうぞ。
「ホットココア」
2016
watercolor, colored pencil, pencil, ink, pastel, glitter and collage on paper
image: 42.0 x 34.5 cm (frame: 44.5 x 37.0 cm)
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery
「Big Bear」
2019
227.5 × 182.2 cm
oil and glitter on canvas
photo by Kenji Takahashi
©Tomoko Nagai, Courtesy of Tomio Koyama Gallery