出典: どこの美術館に行こうか考えるとき、普通なら展示されている作品を目当てにして選ぶものですが、たまには「建築」という視点で美術館を選んでみるのもおすすめです。では、さっそく世界に誇る著名な建築家が設計した美術館巡りの旅をお届けします!
出典: JR上野駅(公園口出口)から徒歩1分の場所にあるのが、「国立西洋美術館」です。この美術館は、戦後に日本とフランスの国交回復・関係改善の象徴として、1959年にフランスで活躍していた建築家ル・コルビュジエ氏の設計によって建設されました。2016年7月には、世界文化遺産に登録されています。
ル・コルビュジエ(Le Corbusier)は1887年スイス生まれ。美術学校で学んだ後、ウィーンやベルリン、パリなどで多くの文化や芸術に影響を受けながら画家としてのデビューを果たします。建築については、鉄筋コンクリート建築の先駆けオーギュスト・ペレなどに短期間師事した後はほぼ独学だったそうですが、設計した建造物は多く、代表的なものとしてサヴォア邸やサン・ピエール教会などが挙げられます。1965年に没した後も「近代建築の三大巨匠」の1人として、多くの建築家に影響を与えています。
出典: 機能的で明快なデザインが特徴のル・コルビュジエ建築。国立西洋美術館のエントランスは一面ガラスになっており、開放感のある空間が広がっています。
出典: 本館には吹き抜けの天井に三角形の天窓があり、やさしい自然光が降り注ぎます。時間帯によって展示室に明暗が生まれ、彫刻作品の表情を変えます。
出典: 1979年、国立西洋美術館創立20周年の記念に竣工した新館は、ル・コルビュジエが設計した本館と一体に機能するように増築されました。一部の展示室の天井にはいくつものサークルがあり、アートな空間を演出しています。
出典: 敷地内の庭には日本でも親しまれているロダンの「考える人」像が展示されています。緑が茂る背景が像をさらに際立たせていますね。
出典: 港区南青山の美術館通りにあるのが「根津美術館」です。日本家屋ならではの大きな屋根が特徴のこの美術館は、東武鉄道の社長を務めた実業家として知られる初代館長・根津嘉一郎氏が長年に渡って収集した古美術品が展示されています。2009年に現在の新本館を設計したのが隅研吾氏です。
隅研吾(くま けんご)氏は1954年生まれ。東京大学建築学科大学院を修了し、1990年には隈研吾建築都市設計事務所を設立。現在は建築の仕事の傍ら、東京大学で教鞭をふるっています。2020年、東京オリンピック・パラリンピックの会場となる「新国立競技場」の設計を担当。国内外で活躍する、現代日本を代表する建築家です。
出典: 広々としたホールには根津嘉一郎氏のコレクションが展示されています。展示の先には、美しい日本庭園がガラス越しに広がっています。
出典: 本館脇にある石畳の通路です。手入れされた竹林の木漏れ日が、竹を施した美術館の外壁に差し込み、心地良い空間を作り出しています。
出典: 根津美術館は広大な庭園があるのも魅力のひとつです。秋には木々が紅葉し、カメラのシャッターを押さずにはいられない美しい風景が広がります。
出典: 庭園内にはカフェが併設されており、ひと息つくのにおすすめです。都心とは思えないほどの緑豊かな日本庭園を眺めることができます。
出典: 東京メトロ千代田線の乃木坂駅の目の前にそびえ立つ近未来的な雰囲気のある建築物が「国立新美術館」です。館内には国内最大級の展示スペースがあり、多彩な展覧会が随時開催されています。美術館では珍しく、収蔵品を持たず、展覧会の会場として場が提供される美術館です。美術館を設計したのは建築家の黒川紀章氏で、2007年に建てられました。
黒川紀章(くろかわ きしょう)氏は1934年生まれ。京都大学建築学科を経て東京大学大学院で建築を学びました。その後、日本建築学会終身会員をはじめ、英国王立建築家協会名誉会員や、フランス政府公認建築家など、世界各国で高い評価を受けています。2007年に亡くなるまでに、銀座にある中銀カプセルタワービル、名古屋市美術館や国立文学劇場、クアラルンプール新国際空港(マレーシア)など数多くの作品を手がけました。1992年には、ニューヨーク近代美術館の永久コレクションに日本人建築家として初めて、2点のドローイングが寄贈されています。
出典: エントランスを入って、美術館内部を上から見たところです。天井まで広がる壁一面のガラスから自然光が館内に降り注いでおり、訪れた人たちの憩いの場となっています。
出典: 壁一面の木材が作り出す世界は、未来的な空間の中で堂々たる印象を与えています。
出典: エントランスの天井を見上げると、クモの巣のようなデザイン。赤色が効いていてオシャレです。
出典: 日が落ちると、また違った印象を見せてくれる外観。訪れた人を幻想的な世界へと誘います。
出典: 阪神電車の岩屋駅から徒歩で約8分のところにあるのが「兵庫県立美術館」です。この美術館は、阪神・淡路大震災からの復興と新しいまちづくりのシンボルとして2002年に建てられました。設計したのは日本を代表する建築家として知られる安藤忠雄氏。ガラス張りの外観が印象的な建築物です。
安藤忠雄(あんどうただお)氏は1941年生まれ。1969年に安藤忠雄建築研究所を設立しました。1979年には自身が設計した住吉の長屋が日本建築学会賞を受賞。代表作には「光の教会」と呼ばれる茨木春日丘教会、表参道ヒルズ、ベネッセアートサイト直島にある地中美術館などがあります。
出典: コンクリートの建造物とは思えないような、なだらかな螺旋が美しい館内の階段です。画像の中央にいるのは本当の人ですが、まるで作品のよう。アートな写真を撮ることができます。
出典: 螺旋階段から上を見ると、独特なフォルムの中から美術館の外観と青々とした空が切り取られて姿をあわします。日によって、また時間によって複雑多様な表情を見せてくれるデザインです。
出典: みなとみらい線のみなとみらい駅からすぐのところにあるのが「横浜美術館」です。この美術館は、1989年に丹下健三氏の設計のもと建てられました。エントランスのピラミッド型のガラスの屋根を中心とした、シンメトリーな外観が印象的です。8階建ての半円形の建物が堂々たる風格を見せてくれます。
丹下健三(たんげけんぞう)氏は1913年生まれ。東京帝国大学工学部建築科を卒業後、ル・コルビュジェの教え子である前川國男の建築事務所に就職します。東京大学大学院を卒業後は1946年から28年ほど母校で教鞭をふるいました。その時の教え子には黒川紀章氏もいたといわれています。さらに、人材育成は国内に留まることなく、ミラノ工科大学やハーバード大学など世界各国で後進の育成に携わりました。1964年開催の東京オリンピックのために建設された国立屋内総合競技場(現在の国立代々木競技場)も丹下健三氏の作品です。
出典: エントランスは高さ20mもの吹き抜けになっており、開放的な雰囲気です。建物には御影石がふんだんに使われています。エントランスの左右には全長100mにもなる階段状の展示空間が広がっています。
出典: 都営地下鉄大江戸線の両国駅より徒歩5分の所にあるのが「すみだ北斎美術館」です。葛飾北斎が墨田区で生涯のほとんどを過ごしたことから、この場所に作られたそうです。スリットの入った、淡い鏡面のアルミパネルで覆われた外壁には、墨田の風景がやさしく映り込みます。この美術館を設計したのは日本を代表する建築家の1人である妹島和世氏です。
妹島和世(せじま かずよ)氏は1956年生まれ。日本女子大学大学院修了の後に建築設計事務所入所を経て、1987年に妹島和世建築設計事務所を設立しました。1995年には建築家の西沢立衛(にしざわ りゅうえ)氏と共にユニットを組み、SANAA(サナア)を設立します。現在は慶応義塾大学で教鞭をふるっています。SANAAの作品は、熊野古道なかへち美術館、金沢21世紀美術館やルーヴル・ランス(フランス)、ニューミュージアム(ニューヨーク)など、国内外に渡って活躍しています。
出典: 建物内部も個性的です。ミュージアムショップに向かう通路は、建物のスリット部分でガラス張りになっています。
出典: 気になる美術館や建築家はいましたか?建築家のプロフィールからも錚々たる顔ぶれであることがおわかりいただけたと思います。今回ご紹介しきれなかった著名な建築家さんもたくさんいらっしゃるので、気になる建物があったら、誰が設計したのか調べてみるのもよいかもしれませんね。次の休日はぶらりと美術館の外観巡りでも楽しんでみてはいかがでしょう。
どこの美術館に行こうか考えるとき、普通なら展示されている作品を目当てにして選ぶものですが、たまには「建築」という視点で美術館を選んでみるのもおすすめです。では、さっそく世界に誇る著名な建築家が設計した美術館巡りの旅をお届けします!