インタビュー
vol.69 そのみつ・園田元さん -「そのひと」が見える靴。
オーダーシューズをもっと日常のカバー画像

vol.69 そのみつ・園田元さん -「そのひと」が見える靴。
オーダーシューズをもっと日常へ

写真:岩田貴樹

「そのみつ」は東京・谷中に店舗と工房をもつ、1997年創業のシューズメーカー。小さな工房の中では、靴作りの伝統的な製法である「ハンドソーンウェルテッド製法」、「マッケイ製法」、「ノルヴェジェーゼ製法」を中心に、ひとつひとつ手作業で丁寧な靴作りがおこなわれている。履き捨てるのではなく、一足を長く大切に履くこと。それは、足元だけではなく、人生にも愛着をもつということかもしれない。内なる情熱をもった靴職人、代表の園田元(はじめ)さんに、手製靴に込められた思いを伺った。

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2017年09月22日作成
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「お気に入りの靴は?」と聞かれて思い浮かぶものが、誰にでも一足はあるはずだ。
しかしそれは、あなたにとって「人生のパートナー」と呼べる靴だろうか。

「そのみつ」は東京・谷中に店舗と工房をもつ、オーダーメイドのシューズメーカー。代表の園田元(はじめ)さんが1997年に創業し、今年で20周年を迎える。現在、園田さんを含め従業員数は5人。小さなメーカーながら、デザインから木型切削など、初めから終わりまですべて自社でおこなっている。そのみつの工房では、靴作りの伝統的な製法である「ハンドソーンウェルテッド製法」、「マッケイ製法」、「ノルヴェジェーゼ製法」を中心に、ひとつひとつ手作業で靴が生み出されていく。
東京メトロ「千駄木」駅から5分ほど歩くと、そのみつのショップが見えてくる。このすぐ裏には工房も

東京メトロ「千駄木」駅から5分ほど歩くと、そのみつのショップが見えてくる。このすぐ裏には工房も

代表の園田元(はじめ)さん。作業中の真剣な表情とは裏腹に、ときどき出る人懐こい長崎弁でインタビューに答えてくれた

代表の園田元(はじめ)さん。作業中の真剣な表情とは裏腹に、ときどき出る人懐こい長崎弁でインタビューに答えてくれた

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「オーダーの革靴」と聞くとフォーマルな印象が強いけれど、そのみつの特徴は、色や形もさまざまでそれぞれに“日常”を感じさせる表情のある靴。

私たちの暮らしの中で、靴を履かない日はほぼない。1日の始まりに靴ひもを結べば「よし」と気持ちのスイッチ代わりになるし、靴擦れができたら1日が台無し。そしてとっておきの靴を履けば、それだけでその日は特別なものになる。
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生活を共にするものは数あれど、これだけ日常とセットになっているアイテムは少ない。
イタリアでは「その人が履いている靴は、その人の人格そのものを表すものである」ということわざがあるように、靴は自分の分身といっても過言でないだろう。しかし、自分の足元を気に止める人はどれくらいいるだろう。靴が汚れていたり、お手入れの方法を知らずに履いていたり……。それが「自分の分身」と思えるようなものならば、もっと愛着をもてるかもしれない。そのみつの靴は、そんな靴だ。

手製靴に魅せられて、靴メーカーから職人へ

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園田さんが靴作りを始めて21年が経つ。もともとイギリスの手製靴を好んで履いていたが、靴業界に足を踏み入れたきっかけは大学時代に授業の一貫で目にした手製靴工房の現場だったという。

「それまでイギリスの靴ばっかり買っていたから、『ああ、日本でも靴って作れるんだ』って思ったんですよ。当然といえば当然なんだけど。そこで『靴を作る』ってことが、自分の中にぐっと入ってきた感じだよね」
靴のベースとなる木型(ラストとも呼ばれる)。幅や厚みがある場合はこれに革を足し、反対に細い足は削るなど、人に合わせて調整している

靴のベースとなる木型(ラストとも呼ばれる)。幅や厚みがある場合はこれに革を足し、反対に細い足は削るなど、人に合わせて調整している

その光景が強く心に残っていた園田さんは、大学を卒業後、靴メーカーに就職する。しかし、思い描いていた「手製靴」の現場は、どこにも存在していなかった。戦後、高度経済成長期に入ると、それまで職人が手で作っていた革靴も機械での大量生産が可能になる。職人たちは次々に廃業し、国内での手製靴産業は風前の灯火だった。就職先のメーカーでは、主に企画やデザインに携わっていた園田さん。靴が大量生産・大量消費される今の業界に疑問を持ちながら日々を過ごすうちに、工場で働く人たちと親しくなった。

「むかしは、ちゃんと手で作っていたんだよ」。糊づけなどの単純作業をしながら、かつての腕利き職人がつぶやく。あるとき職人の家に遊びに行くと、桐箪笥の中に仕舞われた上等な手製靴を見せてくれた。
こちらは「釣り込み」と呼ばれる作業。“ワニ”と呼ばれるペンチでアッパー(足の甲を覆う部分)を引っ張り、釘で木型に仮止めする

こちらは「釣り込み」と呼ばれる作業。“ワニ”と呼ばれるペンチでアッパー(足の甲を覆う部分)を引っ張り、釘で木型に仮止めする

釣り込みが完了した状態。素材の特徴を見極めながらしっかりと引っ張り、正しい位置に釘を刺す。シンプルながら熟練の技が必要な作業

釣り込みが完了した状態。素材の特徴を見極めながらしっかりと引っ張り、正しい位置に釘を刺す。シンプルながら熟練の技が必要な作業

「ハンドソーンウェルテッド製法」の大きな特徴である「すくい縫い」。“ウェルト”と呼ばれる細い革のパーツを、釣り針のような曲がった針ですくいながら縫う。このウェルトにさまざまな底のパーツを縫いつけていく

「ハンドソーンウェルテッド製法」の大きな特徴である「すくい縫い」。“ウェルト”と呼ばれる細い革のパーツを、釣り針のような曲がった針ですくいながら縫う。このウェルトにさまざまな底のパーツを縫いつけていく

底材を貼り付ける手前の状態。クッションとなるコルクが入る

底材を貼り付ける手前の状態。クッションとなるコルクが入る

数ミリ単位の作業で作られた「ハンドソーンウェルテッド製法」は丈夫で耐久性がある。中底が厚いため、初めの履き心地こそ硬く感じるが、履いていくうちに足型を形成してくれ、自分の足に馴染んでくれる。一般的な靴の製法「グッドイヤーウェルト製法」は、このすくい縫いなどの複雑な手縫い工程を一部機械化したもの

数ミリ単位の作業で作られた「ハンドソーンウェルテッド製法」は丈夫で耐久性がある。中底が厚いため、初めの履き心地こそ硬く感じるが、履いていくうちに足型を形成してくれ、自分の足に馴染んでくれる。一般的な靴の製法「グッドイヤーウェルト製法」は、このすくい縫いなどの複雑な手縫い工程を一部機械化したもの

「やっぱり、これだ。手製の靴をつくりたい」

職人として独立を決意した園田さんだったが、周囲の年配職人は「靴なんて覚えたって食えねえよ」「やめておけ」と口を揃えた。それでも、園田さんの気持ちは変わらない。退職後は、靴問屋の企画で生計を立てながら、知人の職人に教えてもらい見様見真似で自分の靴作りに没頭した。
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しかし、一度は衰退している手製靴。今でこそ学生でも購入できるようになったが、当時は靴作りの道具が手に入らないのはもちろんのこと、材料となる革も個人が一枚から入手できるような店はなかなかない。職人から使っていない道具を譲り受け、メーカー時代の知人を頼って材料が買える店の情報を聞きながら、すこしずつ必要なものを揃えていった。「靴作り」以前の、多すぎるハードル。しかし当の本人は、さらりとそれを蹴散らした。

「当時は、物やお金がなくても『手がありゃなんとかなるだろう』って思っていろんなことをしていたので。木型を買うお金もないから、木型を使わないで靴を作ったときもあったなあ。だから、いろんなつくり方は試したよ。たまに靴作りをしている人たちと話す機会があるけど、『お金がないから○○ができない』っていう発想だからさ、今の感覚だとちょっとわからないのかもしれないね。そういうこともあって、自分の靴の作り方も自由なのかもしれない。もちろん、基本の作り方はあるんだけど」
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毎シーズンのデザインはどのように生まれるのかを聞くと「デザイン?そのときの感覚で」と、なんでもないように話していた園田さん。条件に捕らわれず、自由な発想で探求できる園田さんだからこそ「そのみつ」の靴には堅苦しさがなく、毎日でも履きたいと思える魅力があるのかもしれない。

「手製靴」ブームの到来、「そのみつ」の創業

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園田さんが靴作りを始めて数年経った90年代の中ごろ、手製靴業界には大きな転換期が訪れていた。1枚の革が、気の遠くなるような工程を経て1足の靴に生まれ変わる。そこに表れるクラフトマンシップや、手しごとの美しさに心を惹かれる人たちが増え、手製靴ブームが巻き起こったのだ。

「それまでは、100足あれば100足同じじゃないとダメ、革靴といえば黒!みたいな状態で。でも革って結局生きものだから、もっといろんな色や表情があったりするんだよね。靴業界にいる人とも、『売り場に行儀良く並んでいる靴より、履き古した靴の方がかっこいいよね。そういう靴を作りたいよね』っていう話はよくしていて。そこに価値観を持つような人が多かったですね」
職人の田中さん。知人の紹介で出会ったそうで、園田さんとの付き合いも長い

職人の田中さん。知人の紹介で出会ったそうで、園田さんとの付き合いも長い

写真左は、そのみつで定番人気の「ボタンシューズ」。イギリスの兵隊をイメージしてデザインされたものなのだそう

写真左は、そのみつで定番人気の「ボタンシューズ」。イギリスの兵隊をイメージしてデザインされたものなのだそう

同じく職人の赤尾さん。園田さんと共に、毎シーズンのデザインにも携わっている

同じく職人の赤尾さん。園田さんと共に、毎シーズンのデザインにも携わっている

1階の店舗はシャビーシックな雰囲気で落ち着いて商品を眺めることができる。奥はスタッフの森さん

1階の店舗はシャビーシックな雰囲気で落ち着いて商品を眺めることができる。奥はスタッフの森さん

確実に変わっていく業界の空気感を肌で感じていたとき、知人の紹介で雑誌『Olive(オリーブ)』(2003年に休刊)に園田さんの靴が掲載された。たちまち問い合わせが増え、兼業では靴の製作が追いつかなくなってきた。園田さんは靴作りを本業にするべく、1997年に「そのみつ」を立ち上げた。

「ブームもあったし、ある意味タイミングよかったですよ」と園田さんは笑うが、手製靴で「食べていく」ことは、並大抵のことではない。現在「そのみつ」では年間約800足を仕上げているが、園田さんも当初は一足を仕上げるまでに長い時間が掛かり、理想の形に行きつくまで何度も何度もつくり直したという。それでも、技術はまだまだ模索中。
創業当時、園田さんが作ったファーストシューズ

創業当時、園田さんが作ったファーストシューズ

「靴は、数作らないとダメ。いろんなものを作っていかないと、絶対(靴のことが)わかんないと思う。そういう意味で、昔の職人さんと比べたらまだまだ我々は劣るよね。昔の職人さんたちの作る数って、やっぱり半端ないから。でも、昔の職人とうちが違うのは、自分たちでつくって、お客さんと直接話してわかったことをずっと製品に反映できて、一方通行じゃない靴作りができる。そこが、うちの特徴ではあるよね。結局、靴って履くものじゃない?ただ形にすればいいってわけじゃない。眺めるだけでもいいんだけど、そういうものを作ろうとは思ってないし、いろんな人が履くものだから答えがないよね。全員がOKっていうものはもちろん目指したいけど、そこにはその人の生活習慣、歩き方、履く頻度もあるから。考えさせられることは日々ありますよね」
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ひと呼吸おき、「そうだね、あるなあ」と確認するように園田さんがつぶやく。
ちなみに園田さんには中学生の娘がいるそうで、娘さんの靴を作ることもあるのかと聞くと、苦笑しながら即座に首を横に振る。「お客さん優先だからさ。欲しい欲しいとはいうけど、自分の親の靴だって作ってないし。そんな暇ないね(笑)」。現在、そのみつのオーダーシューズは、採寸から完成まで約8~10ヶ月ほどの時間が掛かる。それでもなお、全国からオーダーが入り、多くの人が完成を心待ちにしている。
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「不思議なもんで、やればやるほど一足にかける時間がかかってしまうんですよ。『もっとこうしたほうがいいな』っていうのがどんどん増えちゃうから。人には見えない部分なんだけどね。これがたとえば、ほかのお店に卸してほかの人が売って、っていうスタイルであれば多分そこまでは感じないだろうし、感じる必要もないのかもしれないけど。だから、自分で忘れてるくらい昔の靴をリペアで持ってきてくれるお客さんがいると、長く履いてるなあってうれしくなるね。それまで履いてきた靴を見ると、そこでまたいろんなことがわかるし。そういうことの繰り返しだから、『おっ、完璧!』ってものができても、すぐにまた宿題を出される感じ(笑)」
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そのみつの靴が愛されてきたのは、単にブームに乗ったからではない。日々をこつこつと積みあげ過ごしていくように、一日一日、靴とそれを履く人たちに常に真摯な姿勢で向き合ってきたからこそ、靴に魂が宿り、またそれを履いた人を虜にする。

「靴作りはもう日常」という園田さんの言葉と、20年という年月がそれを証明している。

「よい靴」は「佇まいがよい」靴

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今回の取材では実際に、「そのみつ」でシューズをオーダーさせてもらった。デザイン、革の素材・色を選んだら、次は採寸に入る。スケッチブックの上に足を乗せ、立ったり座ったり、かかとを上げ下げしている間に、園田さんがすらすらと鉛筆を走らせていく。聞けば足の特徴は東北や九州、山間部など地域性もあり、日本人に多いといわれる「幅広・甲高」は実はそうでもないらしい。さらに、にわかには信じがたいが「名前」で括れる足の形もあるのだとか!年間何百という人の足を見て必要なポイントやよりよい測り方を模索してきたから、20年前から大幅に変わったという採寸法は、そのみつ独自のものだ。
カラーバリエーションの豊富さもそのみつの魅力。素材はイタリア革が多いのだそう

カラーバリエーションの豊富さもそのみつの魅力。素材はイタリア革が多いのだそう

靴を選ぶ際にアドバイスしてくれたのはプレスの常木さん。学生時代からそのみつの靴が好きで入社したのだそう。直接お客さんに接しながら、最近では靴作りにも携わっている

靴を選ぶ際にアドバイスしてくれたのはプレスの常木さん。学生時代からそのみつの靴が好きで入社したのだそう。直接お客さんに接しながら、最近では靴作りにも携わっている

「くるぶしは当たる?」「靴を履いていて左右差を感じることは?」
足の占い師なのでは……と思うほど足の特徴を言い当てられ、ふだん選んでいる靴のサイズは実際の足のサイズより1cmも大きいという衝撃の事実も発覚した。この一枚のスケッチが「自分だけにあつらえられた一足」になると思うと、すでに感慨深いものがある。
かかとの形、指の付け根の周囲など、足のパーツごとに細かく測定していく

かかとの形、指の付け根の周囲など、足のパーツごとに細かく測定していく

採寸したスケッチにはたくさんの数字がメモ書きされている

採寸したスケッチにはたくさんの数字がメモ書きされている

採寸をおこなった店の2階には、サンプルシューズがずらり。新入生のように、ぱりっと初々しい新品から、一流ジャズプレーヤーのようなボタンシューズ、バーと酒が似合いそうな、白髪まじりの老人のように経年変化した靴まで……それぞれの“顔”があり、そんな靴たちに囲まれていると、なんだか背筋ものびる気持ちになる。これだけ多くの靴を作ってきた園田さんが今思う「良い靴」とはどんなものかをたずねると「見たときの佇まいでしょ」と、きっぱり。製作中のブーツを指し、うれしそうに微笑みながらこう続ける。

「あれなんか、今、大好きなんだけど。立ち方や、ラインがいいでしょ?それって、バランスを考えながらつくってるから。木型の形も素材もそうだし、筒の傾きとか、足を入れたときにきれいに見える高さとか。そういういろんな要素が施されているものって、佇まいがいいはずなんだよね。違和感がない。素敵って思うものってそういうものじゃない?“はっ”とさせられるものには、ひとつだけじゃなくていろんなものが組み合わさって成ってるんだよなあっていうのは、思う」
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よい靴は、佇まいがよい靴。
「お酒や食べものもそうじゃないですか」という園田さんの言葉を聞き、「きれい」や「オシャレ」というひと言では表せないそのみつの魅力がどこにあるのか、分かったような気がした。
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オーダーメイドを、もっと日常的なものに

(画像提供:そのみつ)

(画像提供:そのみつ)

2010年より、そのみつは年に2回、パリでコレクションが開催される時期に行われる靴の展示会に参加している。園田さんいわく「世界に向かおうと」思ったことがきっかけ。靴作りはもとより海外の技術であるが、日本でも質がよく、おもしろい靴が作れるということを見せたいという思いがあった。

とはいえ、現地では実績のない日本のメーカー。複雑な柵で成り立っているファッション業界では、初出展から3年ほどは様子見されたという。日本製ゆえ、関税の問題で商品がどうしても高値になってしまうなど不利な点もあったが、園田さんは「大変だけど、面白くもある」とニヤリ。
通常、工房は開放していないが、通りがかった外国人観光客が窓越しに見学しにくることも多い

通常、工房は開放していないが、通りがかった外国人観光客が窓越しに見学しにくることも多い

「大きい広告やら業界の柵やらを抜きにしたところで勝負をしている人たちっていうのはたくさんいて、やっぱり『わっ』と感動してくれるバイヤーも世界にいっぱいいるわけよ。技術的なものでもなんでもそうだけど、佇まいがしっかりしていれば、わかってくれる人はいる。そんな人たちとまた知り合えて、なんかそういう空気はいいなあって、改めて思うよ」

世界に通用するような技術を持った職人は、日本にも数多く存在する。作り手が自分のためだけに仕上げてくれた「オーダーメイド」品は、誰でも一度は憧れるものだろう。同時に、時計や結婚指輪、スーツなど、人生の節目に注文する、まだまだ高級で“敷居の高いもの”というイメージだ。
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パソコンやスマホひとつで「自分の欲しいもの」を探すことはできても、「本当に自分に合うもの」をみつけることはきっと難しい。園田さんはこれからのオーダーメイドの役割をこう話す。

「たぶん、“オーダーメイド”や“ビスポーク”ってもの自体も、なんか変わっていく気がする。特別な階級の人たちだけのものではなく、選択肢のひとつになっていくというか。特にメンズは、ビスポークで作った靴を年に何回履いているんだろう?って思うよね。それはそれでいいのかもしれないけど、やっぱりちゃんと履いて、感じて、その人の気分が上がって、それをまた大切にリペアしながら自分の物にしていくっていうことが、もっと日常的なものになってくればいいよね」
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そのみつの靴の中敷きには、すべてに「shoe making is my life」という一文と、職人のサインが手書きで記されている。靴づくりの工程は100以上あるといわれているが、その途方もない作業のひとつひとつに光るのは、作り手の人生そのもの。今度はそれに、自分なりの人生を塗り重ねていく。「オーダーメイド」には、そんな素敵なストーリーがある。

靴を選び、足を入れて、歩き出す。この靴の佇まいに恥じないよう、しっかり前を向いて。そうすれば、何年後、何十年か後に、ふと足元の靴を見たとき、しっかりと地面を踏んで歩いてきたことを誇れるような気がする。

何かに迷ったときも、明日に一歩踏み出すときも、そのみつの靴は頼もしいパートナーになってくれるはずだ。

(取材・文/長谷川詩織)
そのみつ|SONO MITSUそのみつ|SONO MITSU

そのみつ|SONO MITSU

東京・谷中にある、1997年創業のシューズメーカー。「ハンドソーンウェルテッド製法」、「マッケイ製法」などの伝統的な製法で、デザインから木型切削など、初めから終わりまですべて自社で制作している。丁寧で確かな職人技と、ベーシックながらも独特の味わいがあるデザインで、リピーターとなるファンも多い。

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