商店街で生まれる「完全受注生産」のボーダーカットソー
「G.F.G.S.」は、ピュアオーガニックコットン100%のカットソーを作る加茂市発のファクトリーブランド。中でも、自分だけのオリジナルボーダーカットソーを作ることができる、完全受注生産の「ORDER BORDER(オーダーボーダー)」が注目を集めています。
最大の特徴は、その名の通り「ボーダーをオーダーできる」こと。ボディタイプ、袖丈、ボーダー幅、カラーを、すべてユーザー自身が自由にセレクトし、自分だけのボーダーカットソーを一着から(!)注文することができるというものです。
HPからもパターンやカラーのシミュレーションすることができます
「G.F.G.S.」代表の小柳雄一郎さん
「ORDER BORDER」のカットソー
そう答えてくれたのは、「G.F.G.S.」代表の小柳雄一郎さん。トレードマークの金髪に映えるブルーのボーダーTシャツで迎えてくれました。
「もうまずは『自分の着たい服を作る』というところからスタートしました。最初のうちは家業と兼業で続けていたんですけど、出会いがあって、仲間が増えてきたところで、これはちゃんと組織としてやるべきだ、と思って」
「もちろん、好きなブランドやその時々で着たい服はあるんですけど、自分が納得できる『着心地』っていうところを追い求めていったときに、なかなかしっくりくるものがなくて。そんな中でピュアオーガニックコットンに出会いました。あとは、僕はやっぱり音楽が好きで、『オーダーボーダー』のシステムはレコードを手にとって聴く感じと似ていると思っているんです。その一着が、自分のための“特別なボーダー”というか。いつもボーダーは着ないという人に注文をいただくことも多いんですよ」
オーガニックコットンとは、無農薬畑で作られたコットンのこと。素材の風合いがそのまま残るため、それぞれ微妙に表情が異なります。「G.F.G.S.」で扱っているのは、オーガニックコットンを育てるのに適したアメリカ・テキサス州から輸入されたもの。厚地にしても風合いがよく柔らかいのだそう。さらに、「ピュアオーガニックコットン」は、「日本オーガニックコットン協会」の一番厳しい認定基準をクリアしたもののみ「ピュア」として認証されるのです(画像提供:G.F.G.S.)
小柳さんが過去にご自分で刷ったというTシャツを何枚か見せていただきました。どれもご自身の信念を感じ取れるものばかり。現在手掛けているアイテムも、そのスピリットをしっかりと受け継いでいます
自分が心から欲しいと思うもの、「あったらいいな」を生み出すこと。それは、どんなものづくりにも共通していることなのではないでしょうか。誰でも自分の理想のカットソーを作ることができる「オーダーボーダー」の始まりは、ボーダーラインのように真っ直ぐでシンプルな気持ちからスタートしたのです。
製造から発送まで、すべてを「この街」で行う理由
加茂駅前では、朝は年配の方が、夕方になると学生の交流があり、まったく違うコミュニティが生まれていました。人が絶えることなく、とても元気のある街という印象です
生まれも育ちも加茂市で、ずっとこの街を見てきた小柳さん。「加茂ってどんな町? 」という問いに、そう答えてくれました。
駅前商店街のPRとして、各店舗の前に下げられた旗
「初めは『町内生産』という形で協力工場さんと一緒に生産していたんですけど、受注生産っていうと大変なイメージがあるし、そんなに注文が来るはずないって、同業者の職人さんにはなかなか受けてもらえないことも多くて。未知の世界なので敬遠されてしまうというか。やったことのない領域に踏み込まないと、新しいところへはいけないんだけれど、みんなそこに踏み込んでいかないからすごくもどかしかったんです。これはやっぱり自分たちで機械を持って生産できるようにしないと、ということで『LAB.2』を作って、今年から『商店街生産』という形になりました」
今年完成した「DESIGN LAB.2」。編み立て、縫製を行います(画像提供:G.F.G.S.)
ラボの近くには加茂川が流れています。加茂山公園で大きなフェスが開かれることもあるそう
「『Made In Kamo』といっても、よくある“地元愛”みたいなものがそこまで強いわけではないんです(笑)。地元の産地とか商店街を活性化させようとするつもりはまったくなくて。工業地帯に出るよりも、僕は商店街にいた方がカッコイイと思っているし、そもそも『空き店舗がこれだけあるのに何で貸さないんだろう? 』という素朴な疑問もあったので、ラボを商店街に作ることにしたんです」
「LAB.2」で使われている編機は2台あり、この機械を使ってカットソーのパーツごとに編み立てをします。大きな音を立てて元気に稼動。機械なのにどこか素直で実直で、見ているうちになんだか愛着がわいてくる編機。それぞれ「ROCK’N ROLL号」という名前がつけられ、可愛がられているのにも頷けます
ゆっくりと生地が出てきました。編み上がりの早さにびっくりしましたが、これでも通常より遅い方なのだとか
編み立てられたパーツは、高温のスチームを当てて一度洗いに立てられます。この「整理」と呼ばれる工程により、安定した生地ができあがるのだそう
整理を終えた生地は、手作業で丁寧に裁断・縫製されていきます。「G.F.G.S.」では、海外生産が多くなった縫製作業を丁寧に仕上げることを何よりも大切にしています
「一人一人のお客さんから違ったオーダーが来るじゃないですか。大きく分けると同じ工程ですけど、一人一人微妙に違うものなので、ルーティンワークじゃなくて、『この人にとっての一着、失敗ができない』って意識で作っています。毎日“個人”と向き合う作業になっているんです。単なる『製品作り』というものを越えてしまっている気がして。この『一着』がこの人の元へ届くと思うと、より一層、手は抜けないですよね」
どんな場所でもムーブメントは生まれていく
「実家の下請けの仕事を見ていたり、刃物メーカーで職人の仕事をしていると、毎年県外のデザイナーさんと関わるんですけど、思うところがあって。今はだいぶ業界の考えも変わりましたよ。でも、僕が勤めているときは、自分たちが搾取されている気がしたんですね。下請けの仕事だけしていると、どんなブランドで、どこへ行くのか分からないまま服を作っている。県外から来た人たちから『あなたたち、技術はすごいけどデザインが足りないの! そこがないからダメなんですよ』と言われているような仕事のやり方というか」
小柳さんは、力強い目でこう続けます。
「音楽もそうですけど、みんなその土地でちゃんとムーブメントができているじゃないですか。僕はそんな業界の空気を傍から見ていて、『自分やメーカーが発信力を持っていれば、持っているアイディアやセンスをバチッと出せば、県外や国外に寄りかかる必要はない』とずっと思っていたんです。なので、自分たちの力で発信できるようなメーカーを作ろうと『G.F.G.S.』を立ち上げました」
「共感」がものづくりの輪を広げていく
「縫製業って斜陽なイメージがあるけど、毎年ファッションの専門学校・大学を出る人は多いし、興味はあるけど就職する先がないっていうのが現状で。そういうことも実感しましたね。スタッフは全員新潟出身なんですけど、加茂出身者は一人もいなくて。みんな県外経験者の人ばかりで、僕だけが加茂から出たことがなくて、ガラパゴス化してる感じです(笑)。昔から僕はいつも周りに人がいて、だから東京に行かなかったんだと思います。恵まれてたというか。人望があるとかいうことではなく、どちらかというと我が強いというか、お山の大将的なとこあるんでしょうねえ」
「LAB.1」の給湯室には、ステッカーがぎっしりと貼られた冷蔵庫が。遊びに来たブランドやショップの人たちに、自分たちのステッカーを自由に貼っていってもらっているそうです
「G.F.G.S.」で最初のスタッフ、石丸英宜さんもその一人です。元々は東京でWEBデザイナーの仕事をしていましたが、あるとき、故郷である新潟に戻ることに。「新潟に帰るのであれば、まずは新潟で面白いことをしている人のところに会いに行こう」。そう決めていた石丸さんは、まずは知り合いのブランドショップへ足を運びました。偶然か必然か、そこで小柳さんと出会うことになります。
「G.F.G.S.」マネージャー兼デザイナーの石丸英宜さん。「オーダーボーダー」という言葉の生みの親でもあるそう
それまで新潟市で生まれ育った石丸さんは、加茂のように地場産業が根付いている町に来るのが初めて。小柳さんに街を案内されているうちに、知らなかった「地元」の内側を初めて目の当たりにします。「ここはとても雰囲気が良い工場だけど、先月潰れたんだ」、「この会社さんはすごく元気に見えるけど、もう資本が中国なんだ」……など、当時の石丸さんにはショッキングな事実も多かったといいます。
駅前にこんな看板が。長くまっすぐに続く加茂の商店街を見ていると、「ながいき」は年齢のことだけではなく、人が出合い、一緒にいきていく、という意味がこめられているような気がしてなりません
「自分も、地元に帰ってきたからには『何かできたら』という漠然とした想いもあったし、僕は服に関しては専門外だったんですけど、小柳さんが『違うこと』が面白い、って言ってくれて。『全然服を知らないからこそ出てくるものがある』って呼び込んでくれました。服に関してはわからないことだらけで迷惑を掛けることもあるんですけど、すごく刺激をもらっています」
それから、初めての展示会に出展し、「DESIGN LAB.1」ができ……。「共感」が生んだ輪は、口コミで広がり、いつしかたくさんの人が集まる場所となりました。
「洋服」だけではなく、違う媒体から自分たちの内面を伝えたい
2013年に発行された「G.F.G.S. MAGAZINE」(画像提供:G.F.G.S.)
「海外に行くと、たとえばパスタ屋さんとかで『地産地消』って当たり前なんですよ。でもこっちだと県内で外食しても、『新潟のどこそこで作った野菜を使用しています』っていうんです。東京じゃないんだから、地元のものを使うに決まってるじゃんって思うんだけど。だから自分たちが作っている洋服も、『地場産』って仰々しい括りにされることにすっごく違和感があって。もっとほかのアンテナというか、自分たちの内面が出せる媒体があるといいなと思ったんです」
「side-B」のHPには、こんな言葉が綴られていました。
「マガジンやCDを手にとってくれた人が、『あ、服屋が本作ってるんだ』って興味持ってくれたり、そういういろんな方面の反応が欲しくて。自分自身がどんなことを考えてるのかっていうのは、意外とブログやなんかでは説明しきれない。この金髪も、怒りでこういう頭になったんだ、とか。ファッションじゃなくスーパーサイヤ人みたいなイメージなんですよ(笑)。それをわかって欲しくて本とかそういうメディアを持ちたいって思ったんです」
一番初めに参加した展示会で使用した思い出のチョークボード。当時、展示会の「て」の字もわからず、一日目は散々だったとか。参加二日目でチョークボードを購入し、「受注生産のボーダー」という説明を書いたところ、すこしずつ興味を示してくれる人が増えていったそう
ある種のアンチテーゼは「負」として捉えられがちですが、それをポジティブなものに変換できるエネルギーを、小柳さんは持っています。「G.F.G.S.」で作られる洋服も、雑誌も、CDも、ただの「モノ」ではなく、「なんだか面白そう! 」と思わせてくれるのは、そのすべてのものに「感情」があるからなのだと思います。
今ある環境を守るのではなく、変化させながら続けていきたい
「ブランドさんはもちろん、今後アーティストやクリエイターの方が自由に組み合わせてくれればいいなあと思っていたときに、丁度お声掛けいただいて。僕らは自分たちの生地に自信があるので、テキスタイルベースのデザインだったら、もう無限にできることがあると思うんです。今ある環境を守るんじゃなくて、変化させながら、毎年楽しみにしていただけるものを長く作り続けられたらなって」
このとき、LAB.2では丁度新しいコラボアイテムを製作中。「見る!? 」そういって目を輝かせながら、小柳さんはサンプルを見せてくれました。オーダーボーダーのカットソーの生地は、小柳さんが自ら太鼓判を押す自信作。そこに誰かの「自信作」が加わることで、みたこともない素敵なカットソーができ上がる。考えただけで想像が膨らみます。
LAB.2の扉には「ON THE BORDER」の文字。自分が何かの境界に立たされたとき、線の内側に入らずにいるのは、勇気がいることです。でも、そこを越えたときには、見たことのない世界が待っているかもしれません。
「『この人数でやってるんですか!?』と言われるくらい、面白くて内容が濃いことをずっと続けていきたい」と、小柳さんは話してくれました
「G.F.G.S.」は「Good Feel, Good Style.」の略。続けて、「心が動くことを、私たちらしいやり方で。」と綴られています。本来、ムーブメントは「場所」ではなく、「心を動かされること」を中心として、自然と巻き起こるもの。
新潟から生まれた小さくも力強いこのムーブメントは、まだ始まったばかりです。
(取材・文/長谷川詩織)
【オーダーボーダー受注会のお知らせ】
TRAVELER’S FACTORY (東京) 9月15日(木)~9月19日(月・祝)
senkiya (埼玉) 9月3日(土)~9月16日(金)
hakkasui (山形) 9月15日(木)~9月25日(日)
他会期・最新情報は gfgs.net をご覧下さい。
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