地元民ももらって嬉しい“鎌倉スイーツ”【フォンフォンシフォン カマクラ】
教えるのがちょっぴりもったいないような、“知る人ぞ知るお店”の人気の秘密を伺いに行ってきました。
シンプルに、丁寧に作る「ふつうのおやつ」
「有名なお店出身のパティシエでもないし、初めは色々悩みました。でも愛子さんのシフォンケーキだからおいしい、と言ってくれる声に背中を押されて、私にしかできない私らしいケーキを作ろう。」
と決意。
「家族をはじめ、子育て中のお母さんや子どもたちに、安心でおいしいお菓子を。」
と作ってきた今まで想いを大切に、お店を始められたそうです。
シフォンケーキの基本となる素材は卵、砂糖、粉。とてもシンプルだからこそ吟味した素材を選んでいるそう。三浦半島の温暖な気候の中のびのび育った鶏の新鮮な卵、小麦の真ん中の部分を使った純度の高い良質な特等粉、てん菜グラニュー糖、米油を使い、一台一台ご自身の手で焼いています。
「大事な人に食べてもらうものだから、嘘のないものを作りたい。だからといってあまりにこだわり過ぎて、高級菓子みたいになるのも違うかなって...。」
と愛子さんは言います。
例えばお母さんがお子さんと一緒に、包みを膝の上で開いて手づかみで食べるような、忙しい毎日の中で少しだけ一息つく瞬間に寄り添うお菓子。暮らしの中で「ああ、あれが食べたいな」と思い出してもらえる、“素朴でふつうのおやつ”を作ろう、という気持ちでお店を営まれています。
好き、から生まれる工夫と発見
お店にはおよそ5、6種類のシフォンケーキがあり、定番は素材の味が活かされている〈プレーン〉、濃厚な〈ベルギーチョコレート〉、香りも華やかな〈紅茶〉のシフォン。その他季節ごとに、旬のフルーツを使ったシフォンや、クリスマスには〈シュトーレンシフォン〉などが並びます。
「個人的な好みですけど、野菜のシフォンは作らないんです。でも日本酒が大好きなので、和風サバランのようなシフォンケーキを出すことも。高知の四万十川の伏流水で仕込んだ、純米吟醸生酒〈久礼〉をたっぷり染み込ませていておいしいですよ。」
とお茶目に笑う愛子さん。おいしい味をとことん追求・表現できるのは、好きだからこそ。
取材に訪れた際、季節のシフォンケーキは画像の〈とちおとめのシフォン〉でした。一台のケーキにはとちおとめ1パックが贅沢に使われており、甘酢っぱいいちごが爽やかに香ります。
とはいえ具材の量が多いほど沈みやすいシフォンケーキ、ふわふわに焼き上げるにはかなり試行錯誤もされたとか。人知れぬ努力と確かな腕によって、出来上がったメニューの一つです。
中に入れるいちごは、片面ずつじっくりオーブンで焼いてセミドライに。ピューレやジャムは甘すぎて、味も食感もセミドライが一番ぴったりだったそう。
「うちのシフォンケーキはふつうのおやつ。わざわざ生クリームを添えなくても、それだけで完結する味を目指しています。」
と、手間暇を惜しまない愛子さん。
週末には、限定の〈シフォンサンド〉が登場することも。
画像はクリームチーズを挟んだキャラメルイチジクとクルミのシフォンサンドと、粒あんとカルピスバターの抹茶シフォンサンドです。
定番以外のメニューも必食のおいしさ、ぜひお店のSNSでチェックしてみてくださいね。
実はパンも人気です
「実は楽しみにしてくださるお客さんも多いんです。」
というのが、焼きたてのパンたち。こちらは〈角食パン〉、常連さんからは「あいこパン」と呼ばれる人気者です。
なんとも言えぬ香ばしい香り、ふんわりしながらもギュっと詰まった旨味は、流行の生クリームや蜂蜜などを入れず少ない素材のみを使っているからだとか。
使うのは、特等粉、よつ葉バター、てん菜糖、塩、よつ葉スキムミルク、イースト、水。パンもシンプルな素材で、手間暇をかけて焼き上げていきます。
「一人でやっているので、大量生産はできないんです。食パンが出来上がるのは大体14時頃、表の黒板に焼き上がり時間を書いていますよ。」
こちらは〈シナモンレーズンの角食パン〉。食欲を刺激するシナモンの香りと、爽やかなレーズンがちょうどいい塩梅で、何枚でも食べてしまえそう。実際にいただきましたが、バターをたっぷり塗るとさらにおいしく、ペロリと平げてしまいました。
その他、〈グラハムパン〉や〈チョコ角食パン〉なども日替わりで登場。小さなお店は訪れる度に新鮮な驚きを与えてくれます。
キュートなオリジナルロゴマークを道しるべに
ケーキやパンの美味しさもさることながら、【フォンフォンシフォン カマクラ】の心地よい雰囲気も、多くの人に親しまれている理由の一つです。
甘い香りと、くるみの木に囲まれた小さな空間。静かに佇むガラスケースにはふわふわのシフォンケーキやパンが並んでいます。そこには、食べる人のことを家族のように考え、お客さんの子育て相談にも優しく寄り添ってくれる愛子さんの笑顔。
まさに「フォンフォン」という柔らかな響きを体現したようなお店。チリリンと扉のベルを鳴らして、今日もお客さんがおやつを買いがてら、おしゃべりをしにやって来ます。道しるべは、ビル前の看板や、扉に記されたオリジナルロゴマーク。
「ケーキのシールを剥がして集めてくれるお子さんもいるんです。」
というキュートなオリジナルロゴは、鎌倉【もやい工藝】の〈手仕事カレンダー〉でもおなじみの、型染め作家・小田中耕一さんによるもの。
「もやい工藝さんが、お店の雰囲気に合うんじゃないかって紹介してくださったんです。お店の物件を借りるのも、内装も色々な人が助けてくれて。子育てもそうでしたが、今までたくさん後押ししてもらって来ました。私も何かお返しできるように、次の夢はケーキやパンを焼くだけじゃなくて、ホッと一息つける場作りもしていきたいです。」
そんな愛子さんのあたたかな人柄は、店舗オープンから4年を経て鎌倉の町を照らし続けています。
「フォンフォンさんのケーキだ!」と大人も子供も喜ぶ鎌倉スイーツ、ぜひ忙しい毎日を送る人にこそ味わってもらいたい優しい味。鎌倉を訪れる際は、魅惑のしっとりふわふわを体験してみてはいかがでしょうか。
(インタビュー・撮影/二木薫)
【フォンフォンシフォン カマクラ】には工房も併設されており、製造から接客販売まで、オーナーの今泉愛子さんが一人で切り盛りされています。
保育士として働きながらパン・菓子製造の資格を取り、3人の子育てや介護を経て、2015年9月に念願のケーキ屋さんをオープンしたのは50歳の時のこと。