季節感に溢れる京の食。多彩で繊細な京の味。
風土がもたらす豊かな恵み
鴨川や高野川等の清流、川の沖積によって育まれた肥沃な大地、豊富に湧き出る地下水、春から秋の温暖な気候と、自然に恵まれた京都では、古くから稲作や畑作が盛んに行われてきました。

京都人の濃やかな情感
京都は、大陸からもたらされた食文化や、地方諸国の産物を取り込みながら、公家や貴族、僧や武士、町衆といった人々が交錯する中で、地域それぞれに多彩な食文化を育んできました。
京都の近郊農村も、そうした京の食文化影響を受けながら、都の需要に応じつつ、農産や加工の技術、生産体制や流通機構を発達させてきました。

【「千枚漬け」は、京都の伝統野菜の一つ“聖護院かぶら”を薄く切って漬け込んだ名物の漬物です。聖護院かぶらは、聖護院の篤農家が近江かぶらの種を植え、改良を重ねて出来た品種と伝わります。明治中期までは、聖護院(京都市左京区南部)で盛んに栽培されていました。現在は主に、亀岡市の篠地域で生産しています。】
宮中や公家社会、地域文化の影響を受けながら、行事や慣習を暮らしの中に定着させ、ハレの行事食と、ケの日常食を上手に切り替えながら、季節の恵み、地域の産物を、京都人の濃やかな情感をもって活用してきました。そして、新しい調理法や外来の産物を取り込みながら、創意工夫を重ねて、今日の京の食文化を築き上げてきました。
【「田楽豆腐」は、京の食文化形成、真髄を端的に示す食物かもしれません。
平安末期に中国から豆腐がもたらされると、拍子木切りにし竹串を打って焼き上げた豆腐が誕生しました。鎌倉から室町時代にかけて、隙間なく摺り目が付いた「すり鉢」が調理道具として普及し、「味噌」をすり潰して調味料として用いるようになり、やがて焼いた豆腐に味噌をつけた料理が流行しました。「田楽豆腐」の名は、田の神を祀って豊作を祈願する「田楽(日本の伝統芸能)」の踊り手である“田楽法師”に由来し、豆腐の姿が、白袴を穿いて一本足の高足に乗って踊る法師に似ていることから、その名がついたと云われています。
「田楽味噌」は、豆腐以外の素材にも用いられ、京都では生麩や里芋、茄子や万願寺とうがらし等がよく使われています。また一般的な「田楽味噌」は、味噌にみりん、砂糖、水を加え、煮詰めて作りますが、京都では、季節や食材に応じて、白、赤、合わせ味噌を用い、柚子や山椒、木の芽や唐辛子等の香味を加え、様々なバリエーションの田楽味噌を作ります。
(画像は、南禅寺「順正」の豆腐田楽)】
京都ならではの風雅な味わい “京の白味噌(西京味噌)”
賀茂茄子や壬生菜、千枚漬けやすぐき漬け。湯葉や生麩、棒鱈やちりめん山椒。抹茶や干菓子…等など、数え上げれば切りがないほどに多彩です。

【柚子味噌をのせた大根の炊きもの(摘み草料理の名店「美山荘」の春の頃の献立から)】
味噌の歴史と種類
その起源は、飛鳥時代に中国から朝鮮半島を経てもたらされた“醤(ひしお)”だと伝わります。“醤”とは古代中国の大豆を塩蔵した食品で、“醤”の醸造過程である状態のもの(=味噌)が美味だったことから、味噌として独立発展し、日本の代表的な調味料、発酵食品の一つとなりました。

【「美山荘」献立から味噌汁・ご飯・香の物】
米味噌の味や色、香り等の風味を決めるのは、凡そ麹の割合と醸造期間で、米麹の割合が多い程、醸造期間も短く“甘く白い”味噌となり、麹が少ない程、醸造も長くなり、色味が強くなります。

【「麹」は、中国から伝わった漢字。日本では、米麹に限り“糀”とも記します。蒸した米に麹菌が着くと、“花”が咲き開いた様にフワフワと菌糸が米の表面を覆い尽くします。】
京都の白味噌(西京味噌)
白味噌は、関西や中国地方、四国など西日本で一般的に用いられている味噌ですが、“*西京味噌”とも呼ばれる京都の白味噌は、甘味に特徴がある味噌としてよく知られています。

【京料理、お雑煮には欠かせない、白味噌(西京味噌)。(「虎屋菓寮 京都一条店」の季節料理『お雑煮』)】

【「美山荘」の白味噌仕立ての椀】
京都を旅するのなら
京都へ足を運べば、料亭から街中の食事処まで、老舗の和菓子店から現代のカフェまで、様々な場所で、こっくりとして風雅な味噌を味わうことができます。
また市内には、幾つか老舗の味噌蔵も在し、デパートや錦市場等でも名店の“京の白味噌”が各種販売されています。訪れれば、味わい方や使い方を教わりながら、好みの逸品を手に入れることが出来ます。

【京都の人気うどん店「おめん」の『京野菜の白味噌うどん』(季節限定)】
1.伝統の味。老舗味噌蔵を訪ねて
本田味噌本店

「本田味噌本店」といえば、何と言っても『西京白味噌』です。
御所御用達の味は、明治維新以降一般にも販売され、現代の私達も楽しむことが出来ます。西京白味噌は、淡黄色で滑らか。はんなりと甘く、円やかな味わいです。
山利商店
御幸町 関東屋
八百三
大阪屋こうじ店
2.京の食卓を味わう。ーお味噌汁&お雑煮ー
◆ふわっと香りが立ち上る。ー京のお味噌汁ー
京料理や和食処では、味噌汁は付き物ですが、京都にはお味噌汁にこだわったお店が数々あります。せっかく京都を訪れるのなら、白味噌仕立ての“味噌汁”を。ぜひ味わってみましょう。
糀やカフェ
志る幸 (しるこう)
◆上品な甘味と深み。「京のお雑煮」
京都人にとって雑煮は、思い入れの深い料理。贔屓の店の白味噌を用いて、心を込めて作り、神仏に供えてから頂きます。
京都のお雑煮は、京の白味噌(西京味噌)だけを用い、合わせ味噌や一般の白味噌を使いません。雑煮は元々神饌でもあるため、昆布だけで出汁をとり、味噌を溶き入れて作ります。
中村軒
一条寺中谷

店内にはカフェ“茶家”が併設。人気のスウィーツや和菓子が楽しめる他、食事も頂けます。夏はそうめんですが、9月下旬から5月下旬までは、京都の雑煮と赤飯等がセットになった『京雑煮のいろどりごはん』を楽しめます。
中谷の雑煮は、杵つきの焼き丸餅入り。出汁が効いた汁は、ふっくらと甘く、円やかで餅とよく合い美味しいと評判。甘味処ならではの味わいです。
京都、錦 もちつき屋
3.香ばしい風味がたまらない“西京漬け”
味噌漬けの肉や魚は、焼き上げると香ばしく、味も香りも豊か。こっくりとした味噌の芳香と味わいは、ご飯や弁当のお数にぴったりです。中でも、京の白味噌に酒やみりんを加えた漬け床を用いる“西京漬け”は、誰もが喜ぶご飯のお伴です。
一の傳
三味洪庵(さんみこうあん)本店
4.京の白味噌を使った伝統の和菓子
以下で紹介するのは、京都でも古くから親しまれている伝統の焼き菓子「味噌松風」と門前菓子「あぶり餅」。それぞれ二店ずつ紹介します。

京都の新春を彩る“花びら餅”は、紅色の餅(求肥)と甘く炊いた牛蒡、味噌餡を求肥で包んだ伝統の生菓子。
松屋常盤(まつやときわ)
松屋藤兵衛 (まつやとうべえ)
かざりや
一文字屋和輔 (一和)
- 住所
- 京都市北区紫野今宮町69
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 定休日
- 水曜(※1日、15日、祝日が水曜の場合は営業し、翌日休業)年末など長期休業もあるので要注意
- 平均予算
- ~¥999 /~¥999
旅のおわりに
京都の食は、長い歴史を通じて培われた伝統に、新しいスタイルを取り込みながら発展した、日本が誇る大いなる文化です。その歩みは、今もなお止めることなく続いています。
京の特産品や食文化のスタイルは、地元京都だけでなく全国的にも広く流通し、“和食”が世界遺産に登録されたように、京の食は、遠く海外まで知られています。
はんなりと甘く、雅趣に富み、癖のない澄んだ味わいは、食材の持ち味を活かすだけでなく、他の調味料ともよく馴染みます。和食や和菓子はもちろん、イタリアンや洋食、かき氷やアイスクリームといったスウィーツまで、様々なジャンルで幅広く使われています。
せっかく京都を旅をするのなら、伝統の味噌を存分に楽しみ、とびっきりの味噌をお土産にして、日々の暮らしの中で活用してみましょう。
旅のInformation
デパートで購入。京都の白味噌
記事で紹介した店舗一覧

記事内で紹介した画像の店舗は、以下の通りです。どの店も、京都らしい味を堪能できる名店です。(紹介は、画像紹介順)
【画像は「近又」の朝食。予約すれば宿泊せずとも頂けます。京都の食卓、味を楽しめるお勧めのお店です。】
【料理屋旅館「近又」の一品】