心が疲れたときに観たい。ペーソスとユーモアを楽しめる映画
静かでほのぼのとした物語の中に、そこはかとないユーモア
『今さら言えない小さな秘密』
主人公のラウルは自転車は直せても乗れないのですから、悩みも大きいのかもしれません。しかし、著名な写真家のエルヴェもまた、今さら人に言えない隠し事があるのです。二人のほのぼのとした友情と、プロヴァンス地方の小さな村の景色が美しい映画です。
『ホルテンさんのはじめての冒険』
【あらすじ】
勤続40年、67歳の超まじめなノルウェー鉄道の運転士ホルテンさん。オスロのアパートで小鳥と一緒に慎ましくも穏やかに暮らしていた。とうとう定年退職を迎え、人生最後の運転をする日に、ホルテンさんは人生初めての遅刻をしてしまう。遅刻したことからおかしな偶然が重なり、癖のある風変わりな人々と遭遇していくことになる。
生真面目で少々臆病なホルテンさんですが、初めて出会う個性的な人たちとの交流で、自分の新しい人生を踏み出す勇気が出てきます。「何事にも遅すぎることは決してない」というセリフに勇気づけられます。
『キッチン・ストーリー』
【あらすじ】
1950年。ノルウェーで一人暮らしをしているイザックの元へ、「独身男性の台所での行動パターン」についての調査をするためフォルケと名乗る調査員がやってきた。調査に協力すれば馬が貰えると聞いて応募したイザックだったが、実際に手にしたのはスウェーデン特産の赤い馬(ダーラナホース)だった。
怒ったイザックは調査を拒否しようとしたが、結局は受け入れることになる。この日からイザックは台所の隅に置かれた監視台から調査されるおかしな生活がはじまった。
「お互いに会話をしてはいけない」「いかなる交流ももってはならない」という規則があるので、会話もなく淡々と物語がすすでいきます。国籍の違いや、調査される側とする側だった二人のおじさんはしだいに心をかよわせていくシーンはほっこりします。静かで心が温まる映画です。
ノスタルジックな気分で心もほぐれる。恋と友情の物語
『ムーンライズ・キングダム』
【あらすじ】
1960年代のアメリカ東海岸のニューイングランド島。ボーイスカウトに所属する個性的な少年サムと、周囲の環境になじめず問題を起こすスージーは共に12歳。ある日、二人は駆け落ちすることを決意する。二人がいなくなったことに気付いた大人たちは大慌て。二人の気持ちを汲み取ることができない大人を巻き込み、小さな島に騒動が広がっていく。
恋愛に揺れるのは子どもたちだけではありません。二人を探す大人たちにもそれぞれ事情があります。映画の構成や色のトーンが、どこか絵本のようにも思えて、ウェス・アンダーソン監督の作り上げる物語は独自の美しさがあります。
『バグダッドカフェ』
【あらすじ】
ドイツのミュンヘン郊外から夫と旅行に来ていたジャスミンは、道中で夫とケンカになり車を降りてしまう。重いトランクを提げてようやくたどり着いたのは、うら寂れた「バグダッド・カフェ」。
いつも不機嫌で怒ってばかりいる女主人のブレンダに、昼寝ばかりしているバーテンなど個性的な面々に戸惑いながらも心を通わせていくジャスミン。怒ってばかりいるブレンダもしだいに明るく穏やかになっていく。友情と再生の物語。
ジャスミンが現れるまでは、女主人のブレンダをはじめ、「バグダッドカフェ」にいる人たちは砂漠のように心が乾いていました。口数は少ないけれど大らかできれい好きなジャスミンが動くことで、砂漠のように乾いていた心に潤いが生まれてきます。出会いと変化を恐れずに受け入れることの大切さに気付かされる映画です。
観終わったあと前向きな気持ちになれる人間ドラマ
『CHEF シェフ』
【あらすじ】
ロサンゼルスの有名レストランで料理長を務めているカールは、口うるさいオーナーに辟易していた。自分の作った料理を酷評する評論家ともケンカになり店をやめてしまう。
元妻イネスのすすめで息子を連れて故郷のマイアミを訪れたカールはキューバサンドウィッチの美味しさと出会い、フードトラックで移動販売を始める。元妻や仲間たちと移動販売をしながらマイアミからロサンゼルスへと旅をする。
Twitterやブログなどを面白おかしくストーリーに盛り込んでいく設定も現代の映画ならでは。ラテンの音楽に合わせて軽快に作られる料理のシーンは見ものです。ロバート・ダウニー・Jr.、スカーレット・ヨハンソン、ダスティン・ホフマンなど、豪華ハリウッドスターも出演しています。
『マルタのやさしい刺繍』
【あらすじ】
スイスの小さな村に住む80歳のマルタ。最愛の夫に先立たれ生きる気力を失くしたマルタは何もする気が起きない。そんなある日、生地店で美しいレースを目にしたマルタはかつての夢だった「自分でデザインしたランジェリーのお店をオープンさせること」を思い出す。
マルタと友人たちは夢に向かって動き出すが、小さな保守的な村では受け入れられず反対にあう。それでもマルタは夢を実現させるために前へむかって進んでいく。
『セラヴィ!』
【あらすじ】
ウェディングプランナーとして30年間働いてきたマックス。数えきれないほどの結婚式をプロデュースしてきた。そろそろ引退を考えようと思っていた矢先、17世紀の城で行われる豪華絢爛な結婚式の依頼が入った。
式を成功させるために完璧に準備を整えたマックスだったが、集まったスタッフは使えないポンコツばかり。スタッフのダメさ加減に怒りを爆発させたマックスは、最後の最後でどんでん返しをくらう。
家族ってたいへん。でも家族って面白い。ハートフル映画
『シンプル・シモン』
【あらすじ】
アスペルガー症候群のシモンにはルールがたくさんある。規則正しい生活が何よりも大事で、変化が嫌い(でも物理とSFは大好き)。兄のサムは、シモンの唯一の理解者だった。
しかし、サムはシモンのせいで恋人に振られてしまう。振られて落ち込むサムに動揺し、ペースを乱されるシモン。サムに完璧な恋人ができれば生活が元に戻ると思いついたシモンは、サムの新しい恋人を探し始める。
障害ということを深刻に描きすぎず、北欧特有のポップな色使いとおしゃれな小道具でシモンの世界を素敵に演出しています。映画を観たあとはほのぼのとした気持ちになれるはず。毎朝サムの運転するバイクで職場まで送ってもらうシモン。シモンはバイクの荷台に乗っているのですが、このバイクは北欧ではよくあるタイプなのでしょうか。気になります。
『神様の思し召し』
【あらすじ】
心臓外科医のトンマーゾは腕は一流だが傲慢で毒舌、周りの人間からのウケも悪い。妻とは倦怠気味で、娘はどうにもサエない男と結婚してしまった。頭脳明晰の息子が医者になってくれればと願っている。
ところがその息子が「神父になりたい」と言い出したことからトンマーゾの苦悩と調査が始まる。息子をそそのかしたのはピエトロ神父だと確信したトンマーゾはピエトロ神父と対決することになる。
科学と信仰というナーバスになりがちなテーマですが、イタリア映画特有のブラックユーモアが満載で難しく感じることなく観ることができます。この映画のラストには賛否両論があります。心地よい余韻が残るハートフルな映画なのですが、ラストのある出来事の結末がはっきりと描かれていないのです。どう解釈するかは観ている側にゆだねられているのでしょう。
『リトル・ミス・サンシャイン』
【あらすじ】
それぞれに問題を抱え、個性がありすぎて協調性ゼロのフーバー家。そんな一家の中で天真爛漫に育ったオリーヴの夢は美少女コンテストで優勝すること。
地方予選で繰り上げ優勝したオリーヴは、美少女コンテストの決勝に進むことになった。オリーヴを応援しようと協調性ゼロの家族はポンコツ車に乗り込み、アリゾナからカルフォルニアへの珍道中の旅に出る。
多くの国際映画祭でスタンディング・オベーションの絶賛を受け、第19回東京国際映画祭で最優秀監督賞、最優秀主演女優賞、観客賞など最多3部門を受賞しました。
頑固だけど温かい。おじさんたちのヒューマンドラマ
『幸せなひとりぼっち』
【あらすじ】
住んでいる地域の規律に厳しい中年男オーヴェ。近隣の住民からも嫌われるほど口うるさい。そんなオーヴェは最愛の妻を亡くし、43年間も務めていた鉄道局から突然リストラされてしまう。失意のどん底に突き落とされたオーヴェは自殺を決意する。
しかし、向かいに越してきたイラン人女性のパルヴァネ家族の訪問に何度も邪魔をされ実行できない。すべての隣人に心を閉ざしていたオーヴェだったが、パルヴァネ家族との交流で心を開きはじめる。
ユーモアがあるストーリー展開の中に、生き方の違いや人種の違いで心の壁を高くしてしまう現代の普遍的な問題も交えた奥深い映画です。スウェーデンのアカデミー賞と言われるゴールデンビートル賞で主演男優賞と観客賞をダブル受賞しました。
『ハロルドが笑うその日まで』
【あらすじ】
ノルウェーで40年間、家具店を営んできたハロルド。大きな店ではないが、美しく温もりがありクオリティの高い家具にこだわってきた。そんなハロルドの家具店の前に、世界的に有名な大型家具店「IKEA」がオープンしたことから、ハロルドの生活は一変する。
閉店を余儀なくされ、施設に入る予定でいた妻は亡くなり、自殺を試みるも失敗。ハロルドの怒りはIKEAの創業者、イングヴァル・カンプラードを誘拐し復讐することにむかった。
実在するIKEA創業者を誘拐する、という発想がすごいこの映画。IKEA側は「私たちは家具を作り、それを売るのが仕事。君たちは映画を作り、公開するのが仕事だ。それぞれがそれぞれのベストを尽くせばいいじゃないか」と快くOKしてくれたのだとか。さすがですね。
『家へ帰ろう』
【あらすじ】
アルゼンチン・ブエノスアイレスに住む88歳の仕立て屋のアブラハム。足が悪くなったアブラハムを娘たちは高齢者施設に入れようとする。施設に入りたくないアブラハムは娘たちから逃げ、最後に作ったスーツを持ってポーランドへ旅立つ。70年前、ホロコーストを抜け出し、命を救ってくれた親友と交わした約束を果たすために。
決して軽くなはいテーマですが、繰り返してはいけない歴史を考えさせられ、何度も心が折れそうになるアブラハムを助ける人々の温もりにほっとします。約束を果たす重みと、どんな状況でも助けてくれる人はいる、と心強くなる映画です。
『希望のかなた』
【あらすじ】
内戦が激化する中、故郷のシリアから逃れたカーリド。妹と難民になるが、その妹ともはぐれてしまう。偶然にも流れ着いたフィンランドの首都ヘルシンキは難民に厳しく、次第に追い詰められていくカーリド。
そんなカーリドにレストランのオーナーのヴィクストロムが救いの手を差し伸べる。オーナーのヴィクストロムも辛い過去を捨て人生をやり直し、レストランを再建させようとしていた。
今回ご紹介する映画も難民問題という難しテーマを扱っていますが、寿司店のシーンはどうしてそんなことに・・・と思わず笑ってしまいます。人間の本質を真摯に描く見ごたえのある映画です。ちなみに可愛らしいワンちゃんも登場しますが、カウリスマキ監督が飼っている愛犬だそうです。
【あらすじ】
村で一番の自転車修理工であるラウルは、少年の頃から自転車に乗れない。自転車に乗れないことは彼の最大の悩みであり、今さら人に言えない隠し事になっていた。
美しい妻と子どもに恵まれ、慎ましく穏やかに暮らしていたが、ある日、村人を撮影する著名な写真家エルヴェがやってきた。エルヴェは自転車で疾走するラウルの姿を写真に撮りたいと言い出す。自転車に乗れないことが村中にバレてしまうと動揺したラウルはあの手この手で撮影を阻止しようとするのだった。