1960年代のフィルムカメラに新しい命を
右手に花切りバサミ、左手に花瓶を持って現れたRie-Cameの宇津木りえさん。春を感じさせる陽射しの中で、それと同じくらい温かな笑みで迎えてくれました。
革の部分にデザインを施していきます。過去に作った余りも「何かに使えれば」と保管しています。
じっと修理を待っているカメラたち。
偶然の出会いによって、アシスタントにつくことになったカメラマンRyu Itsukiさんが写真家としての活動と一緒に行っていたレストアという仕事。その作業を傍らで見続けていた宇津木さんもごく自然にやってみたいという好奇心が芽生えていきました。
「修理に関する知識や技術は直接教わったというわけではなく、見よう見まねで学んでいきました。最初は修理だけできればと思っていたのですが、60年代のカメラを知らない若い人たちに、もっと良さを知ってもらいたくてデザインも始めました」
そうして作り続けていくうちに欲しいという声が増えていき2013年に独立。Rie-Cameが誕生しました。
初期にデザインしたというカスタムカメラ。
「このオリンパスペンは形がもともと好きでした。このなんともいえない重みがいいんですよね。小ぶりで作りが複雑ではないため修理もしやすいです。使う際もシャッターを押すだけ。フィルムカメラの良さは、撮り直しがきかない分、一枚一枚しっかり向き合えることだと思います」
カチッとフィルムがカメラに収まる音も心地良い。
蓋を開けると中身が塩で真っ白なんていうことも。「海で写真を撮るのが好きな人のカメラだったんだなって想像すると楽しいです」
鳥の声が時折聞こえてくるアトリエでの作業。
「Rie-Cameのテーマカラーのラベンダー色と白で春らしいものを作りたいなと思って」と見せてくれた、最新のカスタムカメラ。
「もう一つの世界」を撮り続けたい
宇津木さんの好きな花のひとつアジサイと組み合わせた「Sherbetシリーズ mintgreen」。(画像提供:Rie-Came)
こちらの「冬の世界シリーズ2014」は海外のオリンパス公式instagramに掲載されたもの。(画像提供:Rie-Came)
こちらの新作カメラのテーマはまだ決まっていないそう。「どうしましょうかね。うふふ」。(画像提供:Rie-Came)
そんな目標を語る宇津木さんですが、Rie-Cameを始める少し前まではカメラに触るのも嫌になってしまうほどのスランプ状態に陥っていたそう。しかし、その状況を乗り越えるきっかけを与えてくれたのもやはりカメラでした。
「修理したカメラと向き合った時に自然と『撮りたい。ここに自分がずっとテーマにしていた“もう一つの世界”を表現したい』と思いました。それは、やっと自分が撮りたい物に出会えたと思えた瞬間でした。最初は庭の一輪の花を組み合わせて写真を撮ってみたんです。そんな風にお花とカメラを組み合わせていく中で作品と言えるものが撮れていきました」
スランプの前までは、モノクロの暗い世界を「もう一つの世界」として制作していたそうですが、今の宇津木さんが表現するのは人を癒すことができるような明るく、やさしい世界です。
カメラに向き合うために心の余裕を持つことが大事
だからいかに心の余裕を自分の中で作っていくかが大事だと言います。
花を飾ることは生活の一部。
「これから使ってくれる人たちのことを考えると、自然と作業も丁寧になりますが、きちんとカメラに向き合うために心の余裕を保つことは常に心がけています」
自然が多く、空も大きく広い。生まれ育った千葉のこの場所が大好きだという宇津木さん。
まだまだやりたいことはたくさん
パーツひとつひとつがとても魅力的な形をしています。
宇津木さんは再び朗らかな笑顔でそう答え、両手に包まれた自慢のわが子を優しく見つめます。その眼差しには未来への希望とカメラへの愛が溢れていました。
アトリエに飾ってあるRie-Cameのカスタムカメラ。現在は注文を受けてから一ヶ月待ちとのこと。