仲間と作った小さなお家「ちせ」
梅雨のはじまりを感じさせる雨の中、京都駅から電車を乗り継ぎたどり着いた先は北白川。京都の中心街から少し外れた閑静な場所です。ここに彫金作家の谷内亮太さんが店主を務める小さな2階建てのお店「北白川ちせ」があります。
1Fは芦田尚美さんや竹中悠記さんをはじめとする作家さんの器・ガラス・雑貨が並んでいます。さらに谷内さんの妹いのはらしほさんが作る人気のジャムtorajamやこだわりのお菓子やパンの販売も。2Fのギャラリーでは、作家さんによる展覧会が定期的に開催されています。
「ちせ」とはアイヌ語で「家」を意味する言葉。天井から聞こえてくる雨粒が心地よくて思わず耳を傾けたくなるのは、お店全体を包み込む温かな空気が、まるで家にいるかのようなのんびりとした気持ちにさせてくれるからなのでしょう。
1Fは芦田尚美さんや竹中悠記さんをはじめとする作家さんの器・ガラス・雑貨が並んでいます。さらに谷内さんの妹いのはらしほさんが作る人気のジャムtorajamやこだわりのお菓子やパンの販売も。2Fのギャラリーでは、作家さんによる展覧会が定期的に開催されています。
「ちせ」とはアイヌ語で「家」を意味する言葉。天井から聞こえてくる雨粒が心地よくて思わず耳を傾けたくなるのは、お店全体を包み込む温かな空気が、まるで家にいるかのようなのんびりとした気持ちにさせてくれるからなのでしょう。
1Fには陶器やガラスの器といった作家さんの作品が置かれています。奥にいるのが谷内亮太さん
2Fのギャラリー。この日は障害福祉のNPOスウィングによる展覧会が開催
谷内さんは、もともと大学で陶芸を、大学院では工芸を学んでいたという人物。器だけでなく立体作品やオブジェも制作していた谷内さんは、その頃から自分で作ったものを売って生活していきたいと思うようになったそうです。大学院を卒業し、自分自身のこれからの生き方を模索する日々の中でたまたま出合った彫金。その出合いがちせの誕生に大きく関わってくるのです。
「大学の先輩で彫金をやっている方がいて、軽い気持ちで自分もやってみようと思ったのがアクセサリーを作り始めたきっかけです。その後、素人ながら作ったものを手作り市に出して売っていたのですが、それがすごく楽しくて。それでお店を作って直接売るのが早いんじゃないかって。当時は自分の中ですごく勢いがあったので、それでうまいこといくかいかないか、いうことも含めてほんとなんも考えずにお店をやろうと思ったんです」
「お店をやりたいからやる」とてもシンプルでまっすぐな理由でお店をやろうと決めた谷内さんは、ジャム作りを始めようとしていた妹さんや、陶器を作っていた谷内さんの奥さん、パン職人、養蜂家、木工家の知人たちと一緒にお店作りをスタートさせました。もともとクリーニング屋だったという建物を自分たちで改装し、2007年10月17日にちせを開店。それから7年経った今もこの場所でちせとしての歴史を静かに刻んでいます。
「大学の先輩で彫金をやっている方がいて、軽い気持ちで自分もやってみようと思ったのがアクセサリーを作り始めたきっかけです。その後、素人ながら作ったものを手作り市に出して売っていたのですが、それがすごく楽しくて。それでお店を作って直接売るのが早いんじゃないかって。当時は自分の中ですごく勢いがあったので、それでうまいこといくかいかないか、いうことも含めてほんとなんも考えずにお店をやろうと思ったんです」
「お店をやりたいからやる」とてもシンプルでまっすぐな理由でお店をやろうと決めた谷内さんは、ジャム作りを始めようとしていた妹さんや、陶器を作っていた谷内さんの奥さん、パン職人、養蜂家、木工家の知人たちと一緒にお店作りをスタートさせました。もともとクリーニング屋だったという建物を自分たちで改装し、2007年10月17日にちせを開店。それから7年経った今もこの場所でちせとしての歴史を静かに刻んでいます。
とってもチャーミングなtorajamのいのはらしほさん。ジャムはちせの奥に構える厨房で丁寧に作られています
パンは隔週で月に2回程度販売。午前中にほとんどなくなってしまうほどの人気
不安を振り払うためにやるしかなかった
お店をオープンさせた当初、谷内さんは郵便局のアルバイトをしながら店主・作家としての活動をしていたそうです。そこまでしてお店を立ち上げようと思った背景にはこんな気持ちがありました。
「男の人って27歳くらいの時に壁があるんじゃないかなと思っているんですけど、その頃の僕も不安な時期でそれを振り払うためにすごい勢いをつけてやるしかなかったんです。なんかやらな生きていけへんって。また、お客さんや作り手の方、友人や社会との繋がりを求めていた部分もあったんだと思います」
でも、その不安もすぐに吹き飛んだそう。
「不安なこともしんどいこともあったけど、お店を始めてからは毎日がほんまに楽しかったんですよ。沢山の方と知り合えたことも、今こうして続けられていることも、ありがたいと思っています。もちろん今でも不安はあるけど、それでも何か行動したら返ってくるものがあったりして。やっぱり楽しいです」
その顔には、全てを物語るかのような混じりけのない純粋な笑顔が浮かんでいました。
「男の人って27歳くらいの時に壁があるんじゃないかなと思っているんですけど、その頃の僕も不安な時期でそれを振り払うためにすごい勢いをつけてやるしかなかったんです。なんかやらな生きていけへんって。また、お客さんや作り手の方、友人や社会との繋がりを求めていた部分もあったんだと思います」
でも、その不安もすぐに吹き飛んだそう。
「不安なこともしんどいこともあったけど、お店を始めてからは毎日がほんまに楽しかったんですよ。沢山の方と知り合えたことも、今こうして続けられていることも、ありがたいと思っています。もちろん今でも不安はあるけど、それでも何か行動したら返ってくるものがあったりして。やっぱり楽しいです」
その顔には、全てを物語るかのような混じりけのない純粋な笑顔が浮かんでいました。
一つひとつの質問にじっくりと考え、丁寧に答える姿が印象的だった谷内さん
使う人の思いや気持ちが入るようなものを作りたい
彫金作家としての顔も持つ谷内さん。大学で陶芸を学んでいた頃からのテーマだという「万物のつながり」を表現したアクセサリーは、植物・動物・星など自然をモチーフにしたものが多くあります。真鍮やシルバーといった独特な輝きを持つ金属素材と「心地よい形を探っていった」という谷内さんのデザインを掛け合わせて作られる作品はそこにあるだけで絵になる美しさを持っています。
「宇宙、星座、歴史、宗教が昔からずっと好きで、自分と自然とのつながり、関係性のイメージを形にしたいと思っています。例えば歴史で言うと、昔の文明や遊牧民族の装飾などに影響を受けたり、太古から形をほとんど変えず生き続けているシーラカンスをモチーフにしたりしています。また、4歳の息子と1歳の娘がいるんですけど、息子と一緒に散歩して、鳥を見たり、虫を探したりすることがすごく楽しいんですけど、そこで感じたことも作品作りに反映されたりしてますね」
「宇宙、星座、歴史、宗教が昔からずっと好きで、自分と自然とのつながり、関係性のイメージを形にしたいと思っています。例えば歴史で言うと、昔の文明や遊牧民族の装飾などに影響を受けたり、太古から形をほとんど変えず生き続けているシーラカンスをモチーフにしたりしています。また、4歳の息子と1歳の娘がいるんですけど、息子と一緒に散歩して、鳥を見たり、虫を探したりすることがすごく楽しいんですけど、そこで感じたことも作品作りに反映されたりしてますね」
ここから何か物語が始まりそうな作品の数々
他の丁寧な手仕事と同様、細やかな技術とセンスが必要とされる彫金。谷内さんのものづくりにおいても随所にこだわりが見られます。
「単純に金属を切ってブローチにしているわけではなくて、叩いて打って、その後やすりをかけて角を取り丸くすることで、柔らかい雰囲気を出しています。さらにバーナーで軽く焼き付けて雰囲気を出したりと時間と手間をかけてやっています。また真鍮とシルバーでは作り方が違うので、仕上がりのイメージが同じでもそれぞれ別々に作らなければいけないんです」
「単純に金属を切ってブローチにしているわけではなくて、叩いて打って、その後やすりをかけて角を取り丸くすることで、柔らかい雰囲気を出しています。さらにバーナーで軽く焼き付けて雰囲気を出したりと時間と手間をかけてやっています。また真鍮とシルバーでは作り方が違うので、仕上がりのイメージが同じでもそれぞれ別々に作らなければいけないんです」
経年変化も楽しみたい彫金のアクセサリー
出来上がるまでに手間暇かけて作られるアクセサリーですが、谷内さんにとって作品は「作家としての自分の思いを伝えるものではない」と言います。
「自分が陶芸をやっていたこともあって、アクセサリーも装飾品としての用途だけではなくて、入れ物のイメージがあるんですよね。だから作家の自分の思いが詰まっているというよりも使われる方の思いや気持ちが入るようなものであってほしいと思っています」
「自分が陶芸をやっていたこともあって、アクセサリーも装飾品としての用途だけではなくて、入れ物のイメージがあるんですよね。だから作家の自分の思いが詰まっているというよりも使われる方の思いや気持ちが入るようなものであってほしいと思っています」
僕はやっぱりものづくりが好きなんです
店主として、彫金作家として、二足のわらじを履いてきた谷内さんですが、2013年からは作家としての活動を軸にすることを決意。現在も新しい技術を取得しながらものづくりに向き合っています。
「このままだと店主としても作家としても中途半端やし、僕はやっぱりものづくりが好きなんです。とは言っても店を切り離すわけではなくて、今後も僕と妻と妹の三人で力を合わせてお店もしっかり続けていこうと思ってます」
今年の秋には宝石を使ったジュエリー作品を始めたり、来年には個展の予定もあるのだとか。これからまた谷内さんが作り出す新しい世界を見ることができるはずです。
「このままだと店主としても作家としても中途半端やし、僕はやっぱりものづくりが好きなんです。とは言っても店を切り離すわけではなくて、今後も僕と妻と妹の三人で力を合わせてお店もしっかり続けていこうと思ってます」
今年の秋には宝石を使ったジュエリー作品を始めたり、来年には個展の予定もあるのだとか。これからまた谷内さんが作り出す新しい世界を見ることができるはずです。
この日は出展イベントのために作られた作品がお店にずらり。ここまで谷内さんの作品がお店にあるのは珍しいことなのだとか
お店に置かれるアイテムは現在奥様がメインで担当。「周りの空間に溶け込む、絵になるもの」をセレクトしています
ラッピングに添えられるかわいらしい小さな花。実は谷内さんのご両親が育てたものだそう
「ちせ店主」から「彫金作家 谷内亮太」へとあり方の重心が変わるだけで谷内さんにとってどちらもかけがえのない自分自身であることに違いはありません。
「作家とは別の活動として、これから先もちせをずっと続けていきたいです。例えばもっと街中や田舎でやってもいい。形にこだわらずやっていきたいです。とはいえ、肩肘張ってがんばるというわけでもなくて、お店も作家としての活動もその場その場を楽しめるよう自然体のままに、これからも目の前にあることをただただやっていきたいと思っています」
一歩ずつ実直に、何より自然体で。それは「人生をよりよく生きる」ということにもつながっているように思います。谷内さん自身の変わらないその姿勢がこれからもちせと作品に温もりと輝きを与えていくことでしょう。
「作家とは別の活動として、これから先もちせをずっと続けていきたいです。例えばもっと街中や田舎でやってもいい。形にこだわらずやっていきたいです。とはいえ、肩肘張ってがんばるというわけでもなくて、お店も作家としての活動もその場その場を楽しめるよう自然体のままに、これからも目の前にあることをただただやっていきたいと思っています」
一歩ずつ実直に、何より自然体で。それは「人生をよりよく生きる」ということにもつながっているように思います。谷内さん自身の変わらないその姿勢がこれからもちせと作品に温もりと輝きを与えていくことでしょう。
左から谷内さんと奥様。手前がいのはらしほさん。3人が集まればそこに笑顔が生まれます
この看板が目印