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vol.20 MOONSTAR-「MADE IN 久留米」のスニーカーが、世界で愛される日を夢見て

オーセンティックなデザインと職人の手仕事による精巧な作りで、多くの有名ショップや人気ブランドから厚い支持を受ける「MOONSTAR(ムーンスター)」。人々を惹きつけるムーンスターブランドの魅力の秘密と、ここ数年で瞬く間に人気となった経緯、そしてこれからの夢を伺いに福岡県・久留米市にある本社工場を訪ねました。(2015年09月16日作成)

写真:松木宏祐 文:キナリノ編集部

靴そのものよりも、自分たちの“靴作り”を伝えたかった

福岡県久留米市にあるムーンスターの本社工場。ここで一日に何千足という靴が生み出されています

福岡県久留米市にあるムーンスターの本社工場。ここで一日に何千足という靴が生み出されています

vol.20 MOONSTAR-「MADE IN 久留米」のスニーカーが、世界で愛される日を夢見て

シューズメーカーの「ムーンスター」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?
数年前ならきっと、「学校の上履き」と答える人がほとんどだったと思います。でも現在であれば、「SHOES LIKE POTTERY(シューズライクポタリー)」、もしくは人気ブランドのステューシーやスティーブン・アランとのコラボスニーカーを挙げる方も多いのではないでしょうか。
以前までの上履きや作業靴といった、およそファッションとは懸け離れたイメージを覆し、現在のムーンスター人気の火付け役ともなったのが、先にも挙げた「SHOES LIKE POTTERY」。
意外なことに、この「SHOES LIKE POTTERY」が生まれたのは、とあるデザイン展で【ヴァルカナイズ製法】という靴作りの工程を見せるため、サンプルとして作られたことがきっかけでした。
ムーンスターブームのきっかけとなった「SHOES LIKE POTTERY」(画像提供:MOONSTAR)

ムーンスターブームのきっかけとなった「SHOES LIKE POTTERY」(画像提供:MOONSTAR)

「ムーンスターの強みである【ヴァルカナイズ】という製法をもっと世の中の人に知ってほしいという思いから、若手社員が中心となり「SHOES LIKE POTTERY」を立ち上げました。商品を売るというよりは、とにかく自分たちが持っている“特別な製法・特別な技術”を多くの人に伝えたかったんです。そのため、当初は商品としてのマーケティング的な戦略は全く考えていなくて、ただ純粋に、ムーンスターの“技術”を皆さんに知ってもらいたいという気持ちでしたね」
「SHOES LIKE POTTERY」つまり“ポタリー(焼き物)のような靴”というユニークな名前も、この【ヴァルカナイズ製法】で最後に“釜に入れて仕上げる”ことからきています。
靴作りの仕上げに、焼き物を焼くように専用の“窯”に入れて熱と圧力を加えることで、生ゴムの中に配合した硫黄に化学反応が起き、粘土のような状態から「変形しても、ちゃんと元のかたちに戻る」ゴム本来の性質へと変化し、独特のしなやかさを持った履き心地の良い製品ができあがるのです。
こちらが【ヴァルカナイズ製法】での仕上げに使用している「加硫缶」と呼ばれる釜

こちらが【ヴァルカナイズ製法】での仕上げに使用している「加硫缶」と呼ばれる釜

120℃で70分間、熱と圧力を加えることで、履き心地がよくシルエットも美しい靴が完成します

120℃で70分間、熱と圧力を加えることで、履き心地がよくシルエットも美しい靴が完成します

「【ヴァルカナイズ製法】は時間も労力もかかるため、この製法で靴を作っているのは日本国内に3社ほどしかありません。でもムーンスターでは品質基準を高く設定しているので、他社がコストダウンのために省いてしまうような工程も省略せずに行っているんです。また、ゴム材の材料から全て自社で研究して配合しているので、他には真似できない履き心地が実現できています。この配合は創業140年以上という長い歴史の中で、研究に 研究を重ねて作り上げてきたもの。ソールに使用しているゴムも1種類ではなく、パーツ毎に削れにくいもの、柔軟性が高いもの、はがれにくいものなど、全て配合を変えて使用しているんですよ。それぞれの箇所に合わせたオリジナルのゴム剤を使用することで、履き心地と丈夫さ、そして美しいシルエットを併せ持ったスニーカーが出来上がります」
vol.20 MOONSTAR-「MADE IN 久留米」のスニーカーが、世界で愛される日を夢見て

例え手間がかかっても、履く人に喜んでもらえるものを作りたい。そんな気持ちがムーンスターの靴には詰まっているんですね。「商品を売るというよりは、自分たちの“技術”を沢山の人に知ってほしかった」というのは少し意外な気もしますが、それはつまり、ご自分たちのもの作りに確かな自信と誇りを持っていることの表れでもあるのでしょう。そしてそんな高い技術のもの作り、実は機械ではなく“人の手”によって作られるからこそ実現しているのです。

熟練の手仕事でしか生み出せない、精巧で美しい”作りの良さ”

vol.20 MOONSTAR-「MADE IN 久留米」のスニーカーが、世界で愛される日を夢見て

「1日に何千足と作るので機械化されていると思われがちですが、ほとんどの工程を手作業で行っています。工場を見学に来られた方は、皆さん驚かれるんですよ。「こんなに手間をかけて作っているなんて、もう絶対に踵は踏めません!」って(笑)。機械では出来ないような細やかな作業が多く、それぞれの職人さんが長年の経験で培った技術があってこそ、うちの製品は完成するんです」
細かな作業も全て手作業で。職人さんが長年培った経験と勘があってこそ、ムーンスターの靴は出来あがるのです

細かな作業も全て手作業で。職人さんが長年培った経験と勘があってこそ、ムーンスターの靴は出来あがるのです

vol.20 MOONSTAR-「MADE IN 久留米」のスニーカーが、世界で愛される日を夢見て

大手シューズメーカーの工場と聞けば、巨大な機械が並びオートメーション化された様子を想像しますが、実際にはほとんどの工程を手作業で仕上げているのだから驚きです。工場には勤続何十年にもなるベテランの方も多く、働いている方それぞれが熟練の技を持っていらっしゃるそう。ムーンスターの工場で靴を作っている皆さん一人ひとり、全員がマイスターなんですね。そして、その職人技が培われてきたのは、他でもない「学生用の上履き」を長年作り続けてきたからこそなんだとか。
「学生が“3年間毎日履いても壊れない靴”を作れるというのが、ムーンスターの大きな強みです。それほど耐久性のある靴を作る高い技術力が、全ての製品に活かされています。それに、靴を作っている側からすると、有名ショップに並んでいるオシャレな靴も学校用の上履きも全く優劣はなくて、どの製品も全て同じように手をかけているんですよ。まじめに丁寧に、全ての靴に自分が持つ技術をしっかりと注ぎ込むことが、私たちにとっては当たり前のこと。でも、逆にまじめだからこそ出来ないって事もあるんです。例えば海外製のスニーカーなどは、よく歪みやズレなんかがあって、それが返っていい味になる場合もあるんですが…、うちではそういった事が出来なくて。本当に、ただひたすらまじめに、きちんとしたものしか作れないんですよね(笑)」
ソールのゴムも丁寧に手巻きしています。テープの太さや位置を調整しながら、絶妙な力加減で巻いていくこの工程も、機械では決して出来ないもの

ソールのゴムも丁寧に手巻きしています。テープの太さや位置を調整しながら、絶妙な力加減で巻いていくこの工程も、機械では決して出来ないもの

勤続40年以上になる方も多くいらっしゃるそう。熟練の技を持ったこの職人さんたちこそ、ムーンスターの大切な資産なんですね

勤続40年以上になる方も多くいらっしゃるそう。熟練の技を持ったこの職人さんたちこそ、ムーンスターの大切な資産なんですね

そんなまじめで丁寧な靴作りと手仕事の良さが伝わり、多くの人から支持されるようになったムーンスター。自分たちから積極的に宣伝するようなことはなかったのですが、製品を気に入った人たちが自然と周りに勧めるかたちで、評判がどんどん広まっていきました。

日本を飛び越え、海外でも認められたクラフトマンシップ

シンプルでオーソドックスなデザインだからこそ、丁寧に作られていることがよく伝わってきます(画像提供:MOONSTAR)

シンプルでオーソドックスなデザインだからこそ、丁寧に作られていることがよく伝わってきます(画像提供:MOONSTAR)

キレイな形が持続することも、ムーンスターの自慢の一つ。数ヶ月履いた後でも「シルエットがキレイなまま」と実感できるはずです(画像提供:MOONSTAR)

キレイな形が持続することも、ムーンスターの自慢の一つ。数ヶ月履いた後でも「シルエットがキレイなまま」と実感できるはずです(画像提供:MOONSTAR)

今では日本だけでなく、海外の人気ブランドや有名ショップからもラブコールを受けるほどになったムーンスター。世界でも人気が拡大したのは、ファッション・インテリアの展示会として有名な「 FOR STOCKISTS EXHIBITION 」に出品したことがきっかけでした。
「福岡のファブリックブランドの方がうちのスニーカーを気に入ってくださって、それが縁で「FOR STOCKISTS EXHIBITION」に出品したことが、多くの人に知っていただけたきっかけですね。STOCKISTSは世界中のバイヤーが見に来るようなイベントで、そこでロスの有名セレクトショップのオーナーの目に留まったことから、世界でも人気が広まっていきました」
当時はまだあまり認知されていなかったムーンスターのユース向けスニーカー。しかし、その確かな技術と履き心地の良さ、そしてシンプルながらも温もりが感じられるルックスが人々の心を掴み、日本でも世界でも瞬く間にファンを獲得していきました。
(画像提供:MOONSTAR)

(画像提供:MOONSTAR)

「その頃は、ファッション全般にスポーティーなスタイルがあまり好まれなかった時代で、スニーカーを履く人自体が少なくなっていて。そんな中で、スニーカーでありながらも手をかけた丁寧な作りがちゃんと伝わる、“どこかクラフトのにおいがする”靴を打ち出したことで、多くの人が目を留めてくださいました。そもそもは靴というより「製法を紹介したい」との思いで始めたプロジェクトだったので、デザインも【ヴァルカナイズ製法】を的確に伝えるための表層的な要素として考えているんです。とてもシンプルな見た目ですが、この削ぎ落とされた潔いデザインだからこそ、手仕事の味わいや作りの良さが伝わり、多くの人に評価して頂けたんだと思います」
「SHOES LIKE POTTERY」のソールのゴムテープには、一つひとつ縄目模様の型押しが。焼き物のように、一点ごとに異なる表情が生まれます

「SHOES LIKE POTTERY」のソールのゴムテープには、一つひとつ縄目模様の型押しが。焼き物のように、一点ごとに異なる表情が生まれます

「シーリングワックス」に見立てたロゴマーク。布製のタグではなく「ゴム」のマークを付けているのも、ゴムにこだわりのあるムーンスターならでは

「シーリングワックス」に見立てたロゴマーク。布製のタグではなく「ゴム」のマークを付けているのも、ゴムにこだわりのあるムーンスターならでは

しかもこのデザイン、“履きやすさ”はもちろんしっかりと計算して作られていますが、それ以外にもう一点、“作り手にとって作りやすい靴”となるようにも考えてデザインされているんです。それは、自社工場を日本国内に持っているムーンスターならではの心配り。多くの企業が生産拠点を海外に移す中、地元の「久留米」に在り続け、工場で働く地域の人々としっかりコミュニケーションをとりながら作り上げている靴だからこそ、「履く人」だけでなく「作る人」にとってストレスがないことも大切に考えているのです。

「MADE IN “KURUME”」の印に込めた想い

スニーカーのインソールには、久留米で培った技術に対する自信と誇りの表れとして“MADE IN KURUME”の文字が(画像提供:MOONSTAR)

スニーカーのインソールには、久留米で培った技術に対する自信と誇りの表れとして“MADE IN KURUME”の文字が(画像提供:MOONSTAR)

地下足袋の生産を契機にゴム産業の町として栄えた久留米で、長きに渡り靴を作り続けてきたムーンスター。久留米の地で生まれ、久留米の人たちと共に靴作りの技術と経験を培ってきた象徴として、製品には「MADE IN KURUME」と表記がされています。
「日本でのゴム底靴の発祥は“久留米の地下足袋”にあるということを、もっと多くの人に知ってもらいたいんです。「眼鏡といえば鯖江」、「デニムといえば児島」というように、“日本のスニーカーといえば久留米”として認知してもらいたいという願いを込め、あえてMADE IN JAPANではなく“MADE IN KURUME”と表記しています」
1873年に「つちやたび店」として創業した当時の足袋と、現在のスニーカーの原型もなった地下足袋。工場の側にある「つきほし歴史館」で見ることができます

1873年に「つちやたび店」として創業した当時の足袋と、現在のスニーカーの原型もなった地下足袋。工場の側にある「つきほし歴史館」で見ることができます

数年前に東京のイベントで“MADE IN KURUME”と紹介した時には、「“KURUME”って、ヨーロッパのどこかですか?」と聞かれた事もあったのだとか。しかし、ここ数年で状況は大きく好転。ムーンスターがシューズブランドとしての地位を確立すると共に、久留米の名も徐々に浸透してきました。
「この何年かでムーンスターのイメージは大きく変わりました。以前はやはり「ムーンスター=上履き」といった印象が先行してしまい、なかなか評価してもらえなかったんです。他ブランドからスニーカーの生産を請け負っても、「ムーンスターで作っているということは伏せてほしい」と言われる事もあったんですよ。でもこの数年で、多くの人から技術力とデザイン面の両方で支持していただけるようになりました」
自分たち自身の手で、これまでのイメージを見事に塗り替えたムーンスター。高い技術力と固定観念に縛られない自由な発想を武器に、これからも彼らの挑戦は続いていきます。

日本製スニーカーの代名詞となる日を目指して

シンプルなものからポップで可愛らしいもの、キッズ向けスニーカーなど、ラインナップも充実。年齢や性別を問わず履けるスニーカーが沢山あります(画像提供:MOONSTAR)

シンプルなものからポップで可愛らしいもの、キッズ向けスニーカーなど、ラインナップも充実。年齢や性別を問わず履けるスニーカーが沢山あります(画像提供:MOONSTAR)

ブランドとしての人気が高まってきたことに伴い、製品のラインナップも増え、今ではデザインもバリエーション豊かに。来年の春にはムーンスターの新機軸として、これまでとは全く異なるスニーカーを発表する予定なんだとか。
「新しいラインとして【インジェクション技術】で作るスニーカーをリリースします。【インジェクション】は手仕事で仕上げる【ヴァルカナイズ】とは対極にあり、全工程を綿密にプログラミングされた機械によって作り上げる製法。実は、手仕事の職人技だけではなく、機械生産においても高い水準をクリアしていることが、ムーンスターの大きな強みなんです。両極ともいえる二つの製法を同時に実現しているのは、とても稀なこと。そしてこの二つの技術があることで、各製品の特性に合わせ、両方の技術のいいとこ取りをしたハイブリットなシューズを作ることが出来るんです」
温もりが感じられる職人の手仕事と大手シューズメーカーならではの工業技術。この二つは一見相反するもののようにも思えますが、実はそのどちらも、「履く人にとって心地よい靴を作りたい」という想いが出発点。壊れにくさと履き心地の良さを追及してきた結果、培われた技術なのです。ハンドメイドとマシンメイド、この正反対の技術を自在に組み合わせるムーンスターが、これから先、どんな新しい価値を創造してみせてくれるのかが楽しみです。
照れながらもお写真に写ってくださった皆さん。ひたむきでまじめ、そして暖かな雰囲気は、ムーンスターの靴から受ける印象とよく似ていました

照れながらもお写真に写ってくださった皆さん。ひたむきでまじめ、そして暖かな雰囲気は、ムーンスターの靴から受ける印象とよく似ていました

「いつかは、日本製スニーカーの代名詞のような存在になりたいですね。アメリカで靴の代名詞といえば「コンバース」と名前が挙がるように、日本でもスニーカーといえば「ムーンスター」と言ってもらえたら嬉しいです。そして日本だけでなく、世界の人たちにももっと履いてもらいたい。いつの日か、「MADE IN KURUMEのムーンスター」として世界中の人に知ってもらうこと、それが私たちの夢なんです」
最後にそう語ってくださったムーンスターの皆さん。しかし、ムーンスターが世界基準のブランドとして認知される兆しは、すでに少しずつ見えてきているのではないでしょうか。夢が現実のものとなる日は、そう遠くはないのかもしれません。
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MOONSTAR|ムーンスター

1873年の創業以来「一人ひとりに心地よい靴」を目指し、まじめな靴作りを続けてきたムーンスター。長い歴史の中で培ってきた技術と経験が息づくスニーカーは、国内外を問わず多くのファンを獲得している。今後は2016年春夏のニューモデルや、新ラインとなる【インジェクション製法】のスニーカーをリリース予定。最新情報は公式ホームページやフェイスブックで確認を。

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