たなびく幌を見た瞬間、自分の中で何かが起こった
アトリエペネロープの帆布で作られたバッグを初めて見た時、力強さとかわいらしさが同居したような不思議な魅力を感じたのを覚えています。
1996年に設立されたアトリエペネロープは、バッグを中心とした帆布を使ったアイテムを作り続けているブランド。シンプルなデザインと、どこにもないオリジナルのカラーを使ったアイテムは男女を問わず幅広い世代から支持を得ています。
1996年に設立されたアトリエペネロープは、バッグを中心とした帆布を使ったアイテムを作り続けているブランド。シンプルなデザインと、どこにもないオリジナルのカラーを使ったアイテムは男女を問わず幅広い世代から支持を得ています。
静かな住宅街の一角にあるアトリエペネロープの直営店。白壁が目印
中目黒駅と池尻大橋駅のちょうど中間に位置する場所にアトリエペネロープの直営店があります。古いビルをリノベーションした3F建てのビルは、1Fが事務所、2Fがショップ、3Fがアトリエになっています。
「こんにちは」
オーナー兼デザイナーである唐澤明日香さんとスタッフの渡邉さんが、親しみ溢れる笑顔で迎えてくれました。
唐澤さんは、服飾の学校を卒業した後、インテリアを扱う会社や輸入雑貨店で働くものの、自分には会社勤めが向いていないと感じ4年で会社員の道をドロップアウト。その後、もともと好きだったものづくりの道を歩み始めます。その頃作っていたのは、エプロンやサシェのようなインテリア雑貨がメイン。生活のためにアルバイトをしながらものづくりをする日々でしたが、次第に実を結び、小売店へ卸すようになります。そんな中、運命を変える出合いは突然訪れました。
「ある日、高速道路を車で走っていた時に、軍のトラックを見かけたんです。その幌にできた皺やあせた色、雨にさらされても強くたなびく姿がかっこよくて、自分も何かそういうものを作れたらいいなって。その一瞬で物語が見えた。自分の中でピピッて何かが起こったみたいなんです」
「こんにちは」
オーナー兼デザイナーである唐澤明日香さんとスタッフの渡邉さんが、親しみ溢れる笑顔で迎えてくれました。
唐澤さんは、服飾の学校を卒業した後、インテリアを扱う会社や輸入雑貨店で働くものの、自分には会社勤めが向いていないと感じ4年で会社員の道をドロップアウト。その後、もともと好きだったものづくりの道を歩み始めます。その頃作っていたのは、エプロンやサシェのようなインテリア雑貨がメイン。生活のためにアルバイトをしながらものづくりをする日々でしたが、次第に実を結び、小売店へ卸すようになります。そんな中、運命を変える出合いは突然訪れました。
「ある日、高速道路を車で走っていた時に、軍のトラックを見かけたんです。その幌にできた皺やあせた色、雨にさらされても強くたなびく姿がかっこよくて、自分も何かそういうものを作れたらいいなって。その一瞬で物語が見えた。自分の中でピピッて何かが起こったみたいなんです」
終始笑顔を絶やさなかった唐澤明日香さん。会えば思わず好きになってしまう、そんな魅力的な女性です
何かに突き動かされるように、心がぐっと動いた唐澤さん。帆布という素材を使いたいという思いから、今まで作ったこともなかったバッグを作るようになり、少しずつ帆布を中心にしたものづくりへと切り変えていきました。
「インテリアや家具にも通じるのですが、使っていくうちに、どんどん馴染んでいく物が好きなんです。きれい、かわいい、やさしい、というよりも、長く付き合えるもの、強いもの、経年変化を楽しめるものに惹かれます。それが自分の根底にあるものなのかな、と思います」
そんな唐澤さんだからこそ、帆布という素材の魅力を人一倍感じることができたのでしょう。
「インテリアや家具にも通じるのですが、使っていくうちに、どんどん馴染んでいく物が好きなんです。きれい、かわいい、やさしい、というよりも、長く付き合えるもの、強いもの、経年変化を楽しめるものに惹かれます。それが自分の根底にあるものなのかな、と思います」
そんな唐澤さんだからこそ、帆布という素材の魅力を人一倍感じることができたのでしょう。
層を決めるものづくりは絶対やりたくなかった
アトリエペネロープで、最初に生み出され、今でも不動の一番人気を誇っているのが、シリンダーバッグ。「一番初めに作ったものなのに不思議ですよね」と唐澤さんが笑います。
スタッフの渡邉さん。手にしているのは人気のシリンダーバッグ。唐澤さんは渡邉さんにとって「上司だけれど、それよりもっと近くて大きな存在」なのだそう
これだけの種類のバッグが揃うのは、直営店だからこそ
「実は外で使うというよりは、部屋の収納として使えて、中でちょっと持ち歩ける感じをイメージしてデザインしたものなんです。それで帆布でバケツみたいな形を作ろうと思ったんですよね」
インテリアが好きな唐澤さんらしい発想。今でもアトリエペネロープには、部屋の収納としても使用できるアイテムが残っています。さらに、ハードなイメージの強い帆布に対して意外性をもたせるために、薄手の帆布を二枚仕立てにするという工夫も。そのため、無骨過ぎずスマート。けれど置いたときにしっかり立つという、アトリエペネロープ独自の帆布の風合いが生まれました。また、丈夫さと、幌のような雰囲気を出すためにパラフィンという蝋引きの加工を施しているのも特徴です。「バッグ作りに関しては素人だから自由にそういう発想が出てきたのかもしれない」と振り返ります。
インテリアが好きな唐澤さんらしい発想。今でもアトリエペネロープには、部屋の収納としても使用できるアイテムが残っています。さらに、ハードなイメージの強い帆布に対して意外性をもたせるために、薄手の帆布を二枚仕立てにするという工夫も。そのため、無骨過ぎずスマート。けれど置いたときにしっかり立つという、アトリエペネロープ独自の帆布の風合いが生まれました。また、丈夫さと、幌のような雰囲気を出すためにパラフィンという蝋引きの加工を施しているのも特徴です。「バッグ作りに関しては素人だから自由にそういう発想が出てきたのかもしれない」と振り返ります。
こんな風に小物を収納できるアイテムも。まとめて買っていくお客さんもいるのだとか
今までの色チップは全てとっておいているそう
色へのこだわりも強く、アトリエペネロープの色は全てオリジナル。唐澤さんが最初に絵の具で色を作り、それをコットンの布に染めて色チップにしたものを、染色工場に渡して色を作ってもらっています。
「カラフルな色といっても少し落ち着いたトーンなので、男女問わず、どんな年代の人でも持ちやすくなっていると思います。層(ターゲット)を決めるものづくりは絶対やりたくなかったんです。こういう人に持ってほしいというものを決めず、好きだと思ってくれた人が気軽に持てるものを作りたい。その思いは、ブランドができてから今まで、変わっていません」
「カラフルな色といっても少し落ち着いたトーンなので、男女問わず、どんな年代の人でも持ちやすくなっていると思います。層(ターゲット)を決めるものづくりは絶対やりたくなかったんです。こういう人に持ってほしいというものを決めず、好きだと思ってくれた人が気軽に持てるものを作りたい。その思いは、ブランドができてから今まで、変わっていません」
自分も他人も絶対に縛り付けない。その自由さが大事
来年で20周年を迎えるアトリエペネロープ。ここまで続けてきた根っこにあるものとは何なのでしょうか?
「自分が作っているのは、シンプルで、すごく『普通』のもの」だと唐澤さんは言います。あくまで「普通」のものを奇をてらうことなく、作り続けてきた。それしかできないから、それだけを続けてきたのだと。
「自分が作っているのは、シンプルで、すごく『普通』のもの」だと唐澤さんは言います。あくまで「普通」のものを奇をてらうことなく、作り続けてきた。それしかできないから、それだけを続けてきたのだと。
ここから新しいデザインが生まれていきます
「誰にでも馴染むし、誰のものにもなれる。それが私の中の『普通』なのかもしれません。その人次第で勝手に解釈にできるものが好き。自分も他人も絶対に縛り付けたくない。その自由さが私の中で大事なんです。人間関係においても、『私たちって親友だよね』ってわざわざ言い合う関係も昔からあんまり好きではないし、そういうことじゃなくてその時共感し合えることのほうが大事。生き方、選ぶもの、作るもの。結局自分自身にみんなつながるんでしょうね」
「そうか、自由が大事だったんだなぁ」と自分の言葉に改めて感慨深げにうなずく唐澤さんの姿が印象的でした。
「そうか、自由が大事だったんだなぁ」と自分の言葉に改めて感慨深げにうなずく唐澤さんの姿が印象的でした。
新作のストラップトート。口元を絞るストラップで大きさを調整することができて便利
麻を使ったアイテムなど、帆布以外の生地を使ったアイテムも作っています
ひとつひとつを丁寧に作るというアトリエの精神を大事にしたい
「自由」という言葉を軸にして、ものづくりをしてきた唐澤さんが次に目指すのは「パン屋のようなお店」。
「私自身は『ものづくりの人』。だから店をものすごくやりたいというわけではないんです。例えるなら、パン屋さんみたいにできたものを、ほかほかのうちにその場で売るような。本当はそんな形でやりたいんです」
「私自身は『ものづくりの人』。だから店をものすごくやりたいというわけではないんです。例えるなら、パン屋さんみたいにできたものを、ほかほかのうちにその場で売るような。本当はそんな形でやりたいんです」
「生地が好き。触っていると何か形にしないとって思っちゃうんです。それは本能に近いもの」と唐澤さん
こちらはバッグの取っ手の部分を作っている様子。テンポよくどんどん出来ていきます
こちらのミシンは、なんと唐澤さんが学生時代の時から使っているもの。「昔のミシンの方がどっしりしていて使いやすいんです」
「一日に一回はミシンを踏まないと仕事をした気がしない」という唐澤さん。その言葉の通り、ほとんどのアイテムを工場生産する傍ら、アトリエの中でも作る事ができる製品は今でもスタッフと一緒に自らも手作りしています。そして、これからはもっとその量と範囲を増やしていきたいのだそう。
「もちろん今は工場生産なしではやっていけないので、その部分は守っていきます。けれど、量産ベースじゃない、“ひとつひとつを丁寧に作る”というアトリエの精神を今よりもう少し強く持っていたいんです」
「もちろん今は工場生産なしではやっていけないので、その部分は守っていきます。けれど、量産ベースじゃない、“ひとつひとつを丁寧に作る”というアトリエの精神を今よりもう少し強く持っていたいんです」
このミニバッグもアトリエ内で手作りされています
さらに、もうひとつ。唐澤さんの心の中には、芽吹きの時を待つ新しい種が眠っています。
「ブランドを始めたばかりの、アルバイトをしながらものづくりをしていた頃が、今思うと一番充実していたと思うんです。お金が全然なくても情熱だけでやれる。何もないところからイチから始めることをまた経験したいなって最近ふつふつと思っています。だからといって、どうするのかは全く未定なんですけどね」
「またトラックの幌を見た時みたいに突然降ってくるかもしれませんね」と言ってウフフッとかわいらしく笑う唐澤さん。その時が来るのは、なんだかそう遠い未来の話ではないような気がします。
アトリエペネロープの魅力の秘密。それは、唐澤さんが大切にしている自由さや、丁寧なものづくりへの姿勢、そして未来へのワクワクした気持ち。それらが重なり合って生まれたものであり、今までもこれからも変わらないもの。
「ダダダダダ」
今日もミシンの小気味よい音がアトリエに響きます。
「ブランドを始めたばかりの、アルバイトをしながらものづくりをしていた頃が、今思うと一番充実していたと思うんです。お金が全然なくても情熱だけでやれる。何もないところからイチから始めることをまた経験したいなって最近ふつふつと思っています。だからといって、どうするのかは全く未定なんですけどね」
「またトラックの幌を見た時みたいに突然降ってくるかもしれませんね」と言ってウフフッとかわいらしく笑う唐澤さん。その時が来るのは、なんだかそう遠い未来の話ではないような気がします。
アトリエペネロープの魅力の秘密。それは、唐澤さんが大切にしている自由さや、丁寧なものづくりへの姿勢、そして未来へのワクワクした気持ち。それらが重なり合って生まれたものであり、今までもこれからも変わらないもの。
「ダダダダダ」
今日もミシンの小気味よい音がアトリエに響きます。
使い勝手のよいバッグは色違いで欲しくなってしまいます