インタビュー
vol.3 HARIO ランプワークファクトリー -職人の技術を次の世代のカバー画像

vol.3 HARIO ランプワークファクトリー -職人の技術を次の世代に

写真:神ノ川智早

耐熱ガラスのキッチン・テーブルウェアのメーカー「HARIO」から新しく生まれたブランド「HARIOランプワークファクトリー」。ガラスの新しい魅力を引き出すアクセサリーを中心としたアイテムは全て職人が作ったもの。手仕事にこだわるものづくりには、こんな理由がありました。

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2015年04月08日作成

職人の仕事を作ることが役目

東京・小伝馬町駅から徒歩1分、大通りから路地に入った先に見えるレンガとガラス張りの建物。中をのぞくと、バーナーの火の元でガラスを操る職人の姿を見ることができます。
遠くからでも目立つ外観。

遠くからでも目立つ外観。

ここは、HARIOが新しく設立したブランド「HARIOランプワークファクトリー」のお店兼工房。1Fはお店と工房が半々になっていて、2F全てが工房という造り。お店部分には職人の手仕事によるガラスで作られたアクセサリーやグラスなどのアイテムが並んでいます。
光を反射してキラキラと輝くアクセサリー。

光を反射してキラキラと輝くアクセサリー。

大きな窓の前で職人が作業をしています。

大きな窓の前で職人が作業をしています。

HARIOはV60ドリッパーをはじめとする耐熱ガラスを使ったキッチン・テーブルウェアや、ビーカーといった理化学ガラス製品を作っている老舗のメーカーです。そのHARIOが新しいブランドを作った理由は一体何なのでしょうか?

「職人の仕事を作ることがHARIOの役目だと思っています」

そう語るのは、HARIOランプワークファクトリー所長の根本新さん。穏やかな物腰でブランド誕生の背景を教えてくれました。
所長の根本新さん。

所長の根本新さん。

根本さん(以下:根):「HARIOが設立された1921年の当時は、理科の実験道具を作っていました。製品は全て手仕事によるものです。しかし、需要が伸びるにつれ人の手を借りずにできる機械化がどんどん進んでいきました。極端に言うと職人が作るものがほとんどなくなってしまったんです」

供給には間に合うようになったものの、そこには思わぬ落とし穴がありました。例えば、新しい商品企画ができたとしても、まずはその物を作れる人がいないといけません。同じように、機械を一から作るとしても、そもそも機械は人の動きを研究して作られているので、結局もとになる人や技術が失われてしまっては成り立たないのです。

根:「つまり、ものづくりをしているメーカーとして、職人の技術をなくしてしまうということは、進歩がなくなってしまうということなんです。その状況に危機感を感じていた今の会長が『職人の技術をつないでいかないといけない』という思いで作ったのがHARIOランプワークファクトリーです」

一人ではなく、みんなで作っている

バーナーが火を吹くゴォーッという音が響く工房。ここで働くのは平均年齢33歳という12人の若い女性の職人さんたちです。製品の原料となるガラスの棒がバーナーの青い炎で熱されることで溶け出し、繊細な手の動きによって美しい形に生まれ変わっていきます。そんな芸術的ともいえる数々の場面が指先の小さな世界で繰り広げられています。
作業している姿はどこか神聖な空気をまとっています。

作業している姿はどこか神聖な空気をまとっています。

ガラス職人として働く櫻田寛子さんにお話を伺いました。「キラキラしたものが好きでそれを自分の手で作りたいと思った」ことがきっかけでこの世界に入った櫻田さんは、もともとHARIOの工場で手加工をしていたという人物。ブランドの立ち上げと共にHARIOランプファクトリーへと移動してきました。それまでは、比較的大きな手加工をしていたため、アクセサリーのような細かい作業を前に、毎日が試行錯誤の繰り返しだと言います。

櫻田さん(以下:櫻):「一見単純に見える丸い玉も、同一の美しい玉を作らなければならないとなると、すごく難しいんです。毎日続けてやらないとすぐに感覚が鈍ってできなくなってしまう。一日一日の積み重ねがやっぱり何よりも大事なんですよね」

技術を磨くためには、熟練の職人技を学ぶことも必要です。HARIOランプファクトリーでは、ベテランの職人が週に2、3回工房へ訪れ、これまで培ってきた技術を若い職人たちに教えています。ベテランの職人も若い職人の熱に触れ、新たな意欲が芽生えるなど、お互いにとっていい刺激となっているそうです。
ガラス職人の櫻田寛子さん。

ガラス職人の櫻田寛子さん。

櫻:「一人で作業しているというよりも、みんなで作っているという感覚の方が強いです。悩んだら他の職人に投げかけてみると、自分の中にはなかった答えが返ってきて解決することができたりするんです」

職人の世界は個人の世界で完結するイメージもありますが、ここでは違います。お互いを補いながら切磋琢磨できる関係が築かれているのです。基本的に職人の仕事は孤独な作業の連続ですが、だからこそ分かり合える仲間がすぐそばにいることは張り合いになるし、なにより心強いはずです。これからも技術の向上と共に、絆はより強くなっていくことでしょう。
「このピンセットどこで買ったの?」と職人ならではの話題で盛り上がることもしばしば。

「このピンセットどこで買ったの?」と職人ならではの話題で盛り上がることもしばしば。

手仕事から新しい技術が生まれる

現在お店で扱っている商品のほとんどを占めているアイテムがアクセサリーです。ガラスのアクセサリーとしては買いやすい価格に設定されていますが、それには理由があります。

根:「作家さんやブランドものの価格はひとつ数万円するようなものもありますが、それが1ヶ月に1つ2つ売れるよりも、1ヶ月に10個売れる方が職人の仕事として成り立ちます。つまり、価格をある程度抑えて買いやすくすることで職人さんの仕事をつくり続けることができるんです。それがここを作った本来の目的でもあります」

この視点が功を奏して、人気は急上昇。今やアクセサリーは1ヶ月待ちの状態です。嬉しい悲鳴ですが、新たな課題も。
こちらはWater Dropsシリーズの新作。

こちらはWater Dropsシリーズの新作。

HARIOランプワークファクトリーの商品は、店頭か公式のオンラインショップでのみ取り扱っています。お店に置きたいという声も少なくないのですが、生産が追いつかず、全てを断っているという現状です。今必要なのは、技術をつないでいく職人の数を増やすこと。「欲しいと思ってくれる人たちに応えられるようにしたい」という根本さんの気持ちはそのまま行動へと移ります。

根:「まずは4月に川崎市にあるガラスの専門学校と、6月に北海道の上川町の町役場と一緒にHARIOランプファクトリーの仕事ができる環境を作る予定です。同じような場所を10箇所、職人の数を100名まで増やしていきたいと思っています。それがここでの僕の役目です」

これまで穏やかな口調で語っていた根本さんが、少し語気を強めます。そして、続けて手仕事への思いを話してくれました。

根:「手仕事は職人さんから『こういう形ができますよ』とか、『こんな形がやりたい』という意見が自然と出てきます。きっと、そういった部分に、技術の進歩があるのだと思います。機械ではこうはいきません。僕はそんなものづくりの形を次の世代につなげていきたいんです」

機械化が進んだ結果、一度は失われかけた職人の技術。それが、今こうして再び芽吹きはじめています。その芽は近い将来、美しい大輪の花を咲かせてくれることでしょう。
 HARIO ランプワークファクトリー|ハリオ ランプワークファクトリー HARIO ランプワークファクトリー|ハリオ ランプワークファクトリー

HARIO ランプワークファクトリー|ハリオ ランプワークファクトリー

耐熱ガラスメーカーのHARIOから生まれた新しいブランド。2014年2月に東京・日本橋に工房併設のお店をオープン。HARIOらしいガラス技術をいかしたアクセサリーを中心に取り扱っている。お店に並ぶアイテムは全て工房で働く職人の手仕事で作られており、1Fでは、その加工技術を直接見ることができる。

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