粛々と想いをつのらせて手に入れたときの喜びは、何ものにも代えがたいもの。きっと末永く愛用したい愛すべき一品になるはずです。
——「Pumpulipuikko(プンプリプイッコ)」。
おまじないのような不思議な名前のアクセサリーブランドが、大切にしたいそんな気持ちを思い出させてくれます。
個性が引き立つ「OHANA(おはな)」たち
お客さんの中には「いつか」と想い焦がれてようやく叶ったという人も多く、届いた作品にはその想いに応えるように手書きのお手紙が添えられています。
そんなPumpulipuikkoにまつわるストーリーを伺いたい、とアクセサリー作家・溝渕亜由美さんのご自宅兼アトリエのある高知県へ行ってきました。
高知県は、パワフルな太陽と大きな海に懐の広さを感じる土地でした
空港に降り立った私たちを迎えてくれたのは、溝渕さんの満開の笑顔。宮崎県出身で3年ほど前に高知県に嫁いできたという溝渕さんは、生まれ育った南国の太陽のように、いるだけでその場がパッと華やぐ女性でした。
会った瞬間から、ユーモアのあるおしゃべりと弾ける笑顔で一緒にいる人を心地よくしてくれる溝渕さん
築60年の離れをリノベーションしたというお住いは、古きよき味わいを活かした素敵な空間です
おまじないのように唱えたくなる「Pumpulipuikko(プンプリプイッコ)」
高知の日の光にきらめくビーズと艶やかな刺繍糸。ひと針ひと針丁寧に作られているのが伝わります
ブランド名の由来をたずねると、溝渕さんはそういって隣に座るご主人と顔を見合わせ笑います。
「ブランド名を考えているとき、フィンランド語を調べていたら、辞書で“Pumpulipuikko:綿棒”っていうのを見つけたんです(笑)主人も『響きが可愛いし、面白くていいんじゃない』って同意してくれたのでこれに決めました」
なんと、ブランド名の意味は綿棒!ロゴも綿棒になっているというから、茶目っ気たっぷりで人を楽しませるのが好きな溝渕さんらしいといえます。気軽な気持ちからつけた名前ですが、今ではすっかりお気に入りなのだそう。
「作品をSNSにアップしたら知らない方からもご要望いただいて。それなら作ってみようかなって。それがブランドスタートのきっかけです」
絶妙な色合わせ
「色合わせは自分の中でこだわりがあります。作りながら感覚で色を合わせていくことが多いのですが、『この色を合わせたらこの色が引き立つかな』とか、対比する色を入れることが多くて。メインにする色が引き立つようにアクセントのカラーを入れることが多いですね」
デザインは一緒でも微妙な色の違いによってイメージも変化するから不思議です。
ビーズ部分のイメージは同じだというオーダー品の子たち。少しの違いが表情を変えます
「お客様も気がついていない『きっと好きだろうな』というニュアンスを入れたいと思っています。でき上がった作品を見たお客様に『そうそう!これ!こういうのが欲しかった』と喜んでいただけるのがうれしい」と溝渕さん。
「デザインの構想をサプライズのようにギリギリまで内緒にして『どやっ』と出したときに、『どうして分かったの!?』という反応をもらえるのが嬉しくて(笑)」と溝渕さん。
うまく言葉で伝えることが難しいイメージを汲み取って形にしていく。本人すら気がついていない「好き」を提案できたときに喜びを感じると、嬉しそうに話します。
自由でのびやかな「色合わせの感性」ができるまで
もの持ちのよい溝渕さん。いくつかある刺繍の枠の中には、なんと溝渕さんのお母様が高校時代に使っていたものも
ビーズなどの収納も色別のグラデーションで
「母がいうには、ボタンケースの中から自分でちゃんと色を選んでつけていたようです」
5歳にしてこのクオリティはさすが。糸の色やボタンの配置など意図的にデザインされた作品は、今のPumpulipuikkoに通ずる可愛らしさがあります。
幼いころの色への感性は、その後、高校・短大と産業デザイン科に進んだことで、より実践的な色の基礎知識として培われていきました。
宮崎に暮らすお兄さんがずっと大事にとっておいてくれていたという作品
自然の中の色から
色とりどりの昆虫たちがアートのように美しい図鑑。『世界一うつくしい昆虫図鑑』(宝島社)
昆虫に興味をもつきっかけになったハチの一種『大青蜂(オオセイボウ)』
ひとりひとりへの想いをしたためたお手紙
「主人の両親が材木店を営んでいるのもあり、嫁いできたからには家業もしっかりこなしたいという想いがあります。その分制作できる数が限られてしまい申し訳ない気持ちですが、とにかくお客様に恵まれていて。今回撮影した作品たちは、オーダー品が完成してこれからお客様に発送するものなんですが、取材があるので紹介したいと事情を説明したら、みなさん快く発送を待ってくださったんです。お客様の中には『マタニティフォトの撮影で使いたいから』と一度お送りしたものの、返送してくださった方もいらして……」と言葉を詰まらせ、「涙もろいんです」と照れ笑い。
「購入できなかった方には申しわけないのですが、『くやしいけど、また頑張ります』というコメントをくださる方も多くて本当にあり難いです。それでも欲しいと思ってくださることが嬉しくて、いただいたコメントは丁寧に返しています」
溝渕さんは、対面販売ではないことや数が多く作れないこともあり、お客様を大事にしたいという気持ちから、作品に手書きの手紙を添えています。
そして手塩にかけた作品達を渡すとなると、つい熱量のある手紙になってしまうといいます。
「手紙には、お客様への想いはもちろん、作品にかけた想いも伝えています。気に入っていただけたことに感謝の気持ちを伝える術が、それしか浮かばなくて。なんでも買える時代だからこそ、こういうのを大事にしたいなって」
「喜ばせたい」という想い
手作りだという鶏ハムに、ふわふわのしらす丼、宮崎のお母様お手製の味噌が入ったまろやかな味わいのお味噌汁。どれもこれも丁寧に作られていて、作品やお客様に対してだけでなく普段の暮らしの節々にも、丁寧に想いを込めているのが伝わります。
「僕の友人なんかがきても、色々ともてなしてくれるのであり難いです」とご主人
「私はクリエイターの方が向いてるんだなって思います。もともとは絵を描くのが好きでアートをやりたい気持ちが強かったんですが、今思えば、アーティストよりも相手がいて表現するクリエイターのほうが合ってるみたいです」
お客様が好きそうなものを探り、提案をすることで、自分の良さも引き出されて「こんな自分もあったんだ」と意外な発見もある。一方通行ではないお互いのやりとりが好きだ、と笑います。
ご縁のあるタイミングを待つのも、きっと楽しい
“つけるとき、少し背筋がのびます。このピアスが似合う素敵な女性になれるように頑張ります“
その文面からは、ずっとずっと大切にしたいお気に入りの一品に出逢えたうれしさが溢れていました。
どのお洋服に合わせよう?
これをつけてどこへでかけよう?
きっと、晴れた空に似合うはず。
ひと針ひと針、丁寧に作られるPumpulipuikko。
待ってる時間さえも愛おしい。そんなアクセサリーのお話でした。
(画像提供:Pumpulipuikko)