インタビュー
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vol.101 テキスタイルデザイナー・鈴木マサルさん -生き物のように力強く。心を飾る魔法の色

写真:岩田貴樹

鈴木マサルさんは、「マリメッコ」をはじめ、国内外の数々のメーカーやブランドのデザインを手掛けてきた人気テキスタイルデザイナー。今にも飛び出してきそうな動物や植物、あざやかな色彩。鈴木さんのデザインには、心がパッと明るくなる魔法がかけられているようです。この大胆で美しい色もようには、どんなメッセージが込められているのでしょうか。美大生時代のお話から、デザインに対するルールまで、お話を伺いました。

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2019年05月31日作成
(写真:原田智香子)

(写真:原田智香子)

気持ちがよいほど迷いなく配された色もよう、物語を感じさせる木々や動物のモチーフ。鈴木マサルさんのテキスタイルには、そこにあるだけで周囲の空気をも変えてしまう生命力があります。

1995年に独立して以来、さまざまなテキスタイルを生み出してきた鈴木さん。オリジナルのファブリックブランド「OTTAIPNU®(オッタイピイヌ)」のみならず、北欧の老舗テキスタイルメーカー「マリメッコ」のデザインを手掛けるなど、数々のメーカーや企業とコラボし、積極的に活動してきました。

イラストレーターに憧れ美大へ進学……突然の挫折?

鈴木さんの事務所にて。都会の真ん中にありながら、穏やかな日の光が差し込む

鈴木さんの事務所にて。都会の真ん中にありながら、穏やかな日の光が差し込む

この日、目が覚めるような赤ニットでインタビューに答えてくれた鈴木さん。作品では鮮烈な色使いが多いイメージですが、ご本人は春のように穏やか。よく笑い、話しているだけでその場に心地よい空気が流れます。

幼少期から絵を描くことが好きで、多感な時期に心惹かれたものも、やはりアートの世界でした。鈴木さんがまだ高校生だった1980年代初頭は、PARCOが主宰する「日本グラフィック展」など大規模な公募展が開催され、アート業界に最も勢いがあった時代。それまでの商業的なものとは違った、自由な発想のイラストレーションに強い影響を受けた鈴木さん。その衝撃はいつしか憧れへと形を変えていきました。

「僕が通っていたのは普通の県立高校だったんですけど、一人だけ美大を目指すって子がいたんです。話を聞きに行ったら、どうやら美大を目指すための予備校ってものがあるらしい、ということがわかって。高3の夏休みに予備校の夏期講習に行ってみたら『絵が上手い』ってことがすべての価値観という感じだったんです。本当にそれでいいんだったら、すごく幸せなことだなって衝撃を受けましたね」
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自分の好きなことを極めさえすれば、憧れていた世界に手が届くかもしれない。視界が開かれ、迷わず進路を決めました。当時活躍していた気鋭のイラストレーターたちに憧れを抱いていた鈴木さんは、美大のグラフィック専攻を中心に受験。努力が実り、多摩美術大学に現役合格します。しかし、合格したのは、グラフィック科と併願して受験していた「染織科」でした。

「合格したものの、『染織って何だろう』っていうレベルで(笑)。そのときは受けられるところは受けて『とにかく美大に入る』っていう気持ちが強くて、結果として合格したのが染織科だったんですよね。当時の多摩美の染織科は手描き友禅とか型染とか、伝統工芸的なことを学ぶ科だったんです。先生たちもデザイナーではなく、『作家』という感じ。すごく古典的な世界だったんですよね。手を動かす作業は好きなんですけど、僕が憧れていたのはいわゆるデザイナーやイラストレーター。正直、あまり興味が持てなかったんです」

人生を変えたふたつの出会い

鈴木さんが手がけたマリメッコのテキスタイル(写真:UNPIATTO INC.)

鈴木さんが手がけたマリメッコのテキスタイル(写真:UNPIATTO INC.)

長い時間をかけて受け継がれた技が光る伝統工芸と、既存の枠組みを超えた発想で生み出されるグラフィック。どちらも違った魅力をもつ「表現」ですが、一見してグラフィックと対極にあるような染織の授業は、当時の鈴木さんにとっては退屈なものでした。目標を見失い、なんとなく日々を送っていた大学1年生のある日のこと。課題の資料を探しに訪れた図書館で、古い洋雑誌を手に取ります。そこに写っていた1枚のモノクロ写真に、目を奪われました。

「昔のマリメッコのテキスタイルの写真でした。吊るされた布がただ風になびいている、それだけの写真だったんですけど、すごく惹かれたんですね。調べると、北欧ってところにあるテキスタイルのメーカーなんだっていうのがわかって。その後、当時マリメッコでデザイナーをされていた石本藤雄さんの展覧会が銀座で開催されているのを、先生に教えてもらって観に行きました。『花鳥風月のようなもの以外にもこんなデザインがあるんだ』って、そのときから少しずつテキスタイルの世界にも興味を持つようになったんです」
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目にしたのは白黒写真でしたが、一瞬で鈴木さんの心を彩ったマリメッコのテキスタイル。後の恩師となる、テキスタイルデザイナー粟辻博氏*と出会ったのは、それから2年後のことでした。当時、多摩美術大学の教授を務めていた氏の最初の授業で、鈴木さんはすぐに彼の作品の虜になったといいます。

「作品のスライドを見ただけでもう、『大好き!!』ってなりました(笑)。粟辻先生は北欧のテキスタイルにすごく影響を受けていた方だったので、僕がもともとそういうものに惹かれていたこともあり、一気に惹き込まれて。こんなことをやっている人もいるんだなあって」
* 京都出身のテキスタイルデザイナー。欧米旅行でモダンデザインに刺激を受け、それまで日本になかった斬新なデザインを生み出し、国内のテキスタイルデザインを世界的水準にまで高めた。代表作であるフジエテキスタイルとのコラボレーション「ハートアート」シリーズをはじめ、その作品の数々は現在でも国内外で高く評価されている。1995年没。
2012年に開催された「粟辻博のテキスタイルデザイン展」(写真:ブログ「テキスタイル獣道」より)
出典:ameblo.jp

2012年に開催された「粟辻博のテキスタイルデザイン展」(写真:ブログ「テキスタイル獣道」より)

一度見たら忘れられない、大胆で美しいデザインに惚れ込んだ鈴木さんは、「先生の元で働かせてほしい」と直談判。その熱意が通じてか、卒業後は粟辻博デザイン室に入社し、念願かなってデザイナーとしての第一歩を踏み出しました。しかし、鈴木さんは当時を振り返りながら苦笑い。なんでも、憧れの粟辻氏に「史上最悪の所員」と言わしめるほど、「ダメダメ」だったのだそう。

「今は色が好きで、たくさん使いますけど、実は僕、学生の時は色が苦手だったんです。極端にいうと原色しか使わなかったのが、仕事となるとすごく微妙な色を使い分けていくことになる。先輩たちが『もうちょっと青、赤』とか話していても、僕には全部同じグレーに見えるんですよ。この人たちは一体何をやっているんだろうって感じで(笑)。そこから猛勉強しました」
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まず鈴木さんが教わったのは、「色を見ること」。師匠の教えをもとに、きれいだと思った色を部屋に貼り、意識的に色を視界に入れることから始めました。現在の鈴木さんの作品を見ていると、いったい頭の中に何色入りのパレットをもっているのか不思議になるほど。自由で豊かな色彩のテキスタイルは、このときの訓練の賜物です。

「粟辻先生には、『物を作る人としてこういう風に生活をしなさい』ってことまで叩き込んでもらいましたね。ちょっと大げさにいうと、どう生きるかってことを。会社に行くのが年間200日だとしたら、190日は怒られていたし、本当に怖かったですけど(笑)。でも、あれだけ怖くて、あれだけ元所員たちに慕われている人を僕は知らない。普通はボスの悪口三昧になりがちだけど、粟辻先生はOBやOGに本当に慕われていて、太陽のような人でした。若い頃にそういう人の仕事を見られたのは本当にラッキーだったし、本当に財産。僕のすべてなんじゃないかなあ」

「自分のしたいこと」に向き合った独立後

(写真:原田智香子)

(写真:原田智香子)

約4年間、「すべて」を与えてくれた恩師は、1995年にその生涯を閉じました。葬儀が終わり、鈴木さんは「粟辻先生のような仕事がしたい」と独立しますが、無名のデザイナーを相手にしてくれる先はありませんでした。今までの仕事はすべて「粟辻博」という名前のもと行われていたことだったと、実感した瞬間でした。独立後10年ほどは、食べていくために、企業や商社と契約してインテリアファブリックを作る、地道な仕事を続けていました。

「いってみれば『名前が出ない仕事』ですよね。どこのショップでも扱っているような、ベージュの無地のカーテンとかをずっと作っていました。そのころは、デザイン雑誌とかを見るのもちょっと辛かったですね(笑)。今の自分が立っている場所とのギャップというか、そんな時期もずいぶんあったように思います。それでも、仕事はそれなりに楽しくやっていたんですよ。現場に入ってものを作っていたので、作り方を一から見ることができたし、機屋(はたや)さんや印刷会社にも繋がりができて。そのときの経験は今すごく強味になっています」
北日本新聞社の130周年を記念した「富山もようプロジェクト」で手掛けたラッピング紙面。読むのが楽しくなりそうなユニークなデザイン(写真:小柴尊昭)

北日本新聞社の130周年を記念した「富山もようプロジェクト」で手掛けたラッピング紙面。読むのが楽しくなりそうなユニークなデザイン(写真:小柴尊昭)

鈴木さんが手がけるのは、ファブリックに留まらず、パッケージや電車、新聞、空間など多岐に亘ります。デザインを施して終わるのではなく、ものづくりの仕組みを理解し、生産調整や管理まで提案できるデザイナーは業界でも希有な存在。自分が今いる場所で真っすぐに生きてきた鈴木さんだからこそ、どんな経験も力に変えてきたのでしょう。「鈴木マサルのデザインがあれば、何か楽しいことがおこるかもしれない」――ボーダーを引かない鈴木さんのデザインには、わくわくするような余白があるのです。
家具メーカー「arflex(アルフレックス)」の代表作「A・SOFA」の誕生30周年コラボ企画。ファブリックを鈴木さんが手がけた。写真は日本橋高島屋のディスプレイ(写真:アルフレックス ジャパン)

家具メーカー「arflex(アルフレックス)」の代表作「A・SOFA」の誕生30周年コラボ企画。ファブリックを鈴木さんが手がけた。写真は日本橋高島屋のディスプレイ(写真:アルフレックス ジャパン)

JR西日本の「ふるさとおこしプロジェクト」では、なんとラッピング電車「SETOUCHI TRAIN」をデザイン。今年の3月に瀬戸内海と多島美の間で運行を開始。美しいスカイブルーが豊かな景色に映える(写真:JR西日本)

JR西日本の「ふるさとおこしプロジェクト」では、なんとラッピング電車「SETOUCHI TRAIN」をデザイン。今年の3月に瀬戸内海と多島美の間で運行を開始。美しいスカイブルーが豊かな景色に映える(写真:JR西日本)

(写真:UNPIATTO INC.)

(写真:UNPIATTO INC.)

そんななか、好きなことを形にする機会にも恵まれます。現在も関係が続いているテキスタイルメーカー「クォーターリポート」と数名のデザイナーがコラボする企画に、鈴木さんも参加することに。制約もなく、自分の思うように生地を作る時間はとても楽しいものでした。しかし、売り上げは思うように伸びません。自分の好きなことと利益を両立する難しさを実感していたある日、鈴木さんは過労で倒れてしまいます。休むことなく仕事をこなし、気がつけば独立から約7年が経っていました。

「点滴を打ちながら20日間入院していて、『これはさすがに仕事のやり方を変えなければまずい』と思ったんです。ちょうどそのころ、東京造形大学で非常勤講師の仕事を始めたのですが、そのことも今後を考えるきっかけになりました。学生のころを思い出すと、本当に失礼ながら、自分が興味を持てない仕事をしている人をすごくバカにしていたんですよ。今思えばとても立派で素晴らしい仕事なんですけど、『どこの誰が描いたかわからないような花柄の生地を見せられても……』って。でも、教える立場になって、今まさに自分が学生からそう見られているんじゃないかって、ドキッとしたんです」
鈴木さんの事務所「有限会社UNPIATTO(ウンピアット)」。イタリア語で「皿」という意味をもつ。ちなみにブランド名である「OTTAIPNU」はこれを反対にした造語。、偶然にも、文字の並びが北欧の雰囲気をもっているため、よく北欧の言葉と間違えられるのだそう

鈴木さんの事務所「有限会社UNPIATTO(ウンピアット)」。イタリア語で「皿」という意味をもつ。ちなみにブランド名である「OTTAIPNU」はこれを反対にした造語。、偶然にも、文字の並びが北欧の雰囲気をもっているため、よく北欧の言葉と間違えられるのだそう

独立して初めて、本当に自分が志していたことに向き合った瞬間でした。自分でお金を出してでも、少しずつ作りたいものを作っていこう。そう決心した鈴木さんは、2004年にオリジナルブランドをスタート。大きな転機となった東京造形大学での仕事は、現在も教授として授業を担当しています。

「うちの大学には教育者として学生のことを真剣に考え、熱心に⼒を注いでいる素晴らしい先⽣がたくさんいます。僕はやはりデザイナーという立ち位置なので、教育という観点では、その⼈たちには適わない。でも、デザインの仕事に対して全速力で走っている姿を学生に⾒せてあげたいという思いはあります。僕にとっても『学⽣に⾒られている』っていうのは刺激になるし、彼らにも何かを感じてもらえたらうれしい。学校にいなかったら知りえなかった感覚というのは、間違いなくありますね」
vol.101 テキスタイルデザイナー・鈴木マサルさん -生き物のように力強く。心を飾る魔法の色
ブランドを立ち上げた翌年には、今治タオルメーカー「吉井タオル」でコレクションを発表し、海外の展示会などにも積極的に参加。そして2010年には、自身の原点でもあるマリメッコ社のテキスタイルデザインを手がけます。華々しい活躍の裏にある地道な仕事も、「その時その時で楽しかったし、やりがいがあった」と、柔らかな表情を見せる鈴木さん。しかし仕事のモットーをたずねると、ただひとこと「いい加減なことはしない」ときっぱり。好奇心旺盛な少年のような瞳が一転、プロフェッショナルのそれに変わります。

「もしかしたら、今作っているものを、バイトでこつこつ貯めたお金で買う人がいるかもしれない。そう考えると、適当なことはできないですよね。僕は、今まで100%完璧な仕事はしたことがないと思っていて。終わってしまえば『もう少しこうすればよかった』ってことが絶対に出てくるんです。それは仕方ない。ただ、作っている段階で、自分が一晩頑張って直せるようなことだったら、面倒くさがらず、最良のところまではもっていこうと思っています」
「吉井タオル」のkoishi(小石)バスマット。当時、今治タオルはとても柔らかいことが特徴だった。そこで鈴木さんが考えたのは「柔らかくないけど気持ちよいを」という逆転の発想。地面に敷き詰められた石をイメージしたシンプルなデザインで、ブランド初のコラボ商品にして、10年以上愛されているロングセラー品。フィンランドの展示会で知り合ったマリメッコのデザイナーも、偶然来日時にこのバスマットを購入していたのだとか

「吉井タオル」のkoishi(小石)バスマット。当時、今治タオルはとても柔らかいことが特徴だった。そこで鈴木さんが考えたのは「柔らかくないけど気持ちよいを」という逆転の発想。地面に敷き詰められた石をイメージしたシンプルなデザインで、ブランド初のコラボ商品にして、10年以上愛されているロングセラー品。フィンランドの展示会で知り合ったマリメッコのデザイナーも、偶然来日時にこのバスマットを購入していたのだとか

ヴィンテージファブリックのコレクターでもある鈴木さん。1950年代にトーベ・ヤンソンがデザインしたファブリックの現物を見たときのことが忘れられない。ムーミンをモチーフにデザインするときは、可愛らしさではなく、トーベ独特の少しひねくれた世界観を出せるように意識しているそう(写真:クォーターリポート)
©Moomin Characters™

ヴィンテージファブリックのコレクターでもある鈴木さん。1950年代にトーベ・ヤンソンがデザインしたファブリックの現物を見たときのことが忘れられない。ムーミンをモチーフにデザインするときは、可愛らしさではなく、トーベ独特の少しひねくれた世界観を出せるように意識しているそう(写真:クォーターリポート)
©Moomin Characters™

今年、ライフスタイルショップ「Afternoon Tea」から発売された限定チョコレートのパッケージを担当(写真:Afternoon Tea)
出典:ameblo.jp

今年、ライフスタイルショップ「Afternoon Tea」から発売された限定チョコレートのパッケージを担当(写真:Afternoon Tea)

2015年に手がけた「ユニクロ×OTTAIPNU by Masaru Suzuki」のUT(写真:UNPIATTO INC.)

2015年に手がけた「ユニクロ×OTTAIPNU by Masaru Suzuki」のUT(写真:UNPIATTO INC.)

届けたいのは、気持ちが高揚するような色や柄

2013年、東京の「CASE GALLERY」で開催された「鈴木マサル 傘展 持ち歩くテキスタイル」より(写真:三嶋義秀)

2013年、東京の「CASE GALLERY」で開催された「鈴木マサル 傘展 持ち歩くテキスタイル」より(写真:三嶋義秀)

「鈴木マサルのデザイン」と聞いてまず思い浮かべるのは、あざやかな色や柄ではないでしょうか。それらはお行儀よく画面の中に留まることはありません。けれども、正反対に見える色も柄も調和し、お互いを引き立てているようです。この不思議なバランスは、どんな規則の上に成り立っているのでしょうか。

「僕は『派手=きれいな色』とは思っていません。単体で見て汚い色なんて絶対に存在しなくて、生かすも殺すも組み合わせなので、そこはすごく意識しています。まあ、個人的に派手な色は好きなので、許されるのであれば使いたいんですけど(笑)。もちろん白黒ベージュも好きですし、自分でも着るんですけど、どこかにインパクトのある色を使うようにしていますね。ずっと無難な色ばかりだと、なんだか思考が停止してしまうような気がして」

「たとえば、部屋の中に赤いクッションがひとつボン、とあったら、周りをどうにかしなくちゃ、っていろんな物事が動きますよね。もともと日本はたくさんの色を使っていた国なので、もっと服とか小物とか、後先考えず、きれいだと思ったら直感で選んでいいと思うんです。後悔はするかもしれないけど、『こんなの買っちゃった!』って、ちょっと嬉しいし、気分が上がりますよね」
2015年の展示「鈴木マサルのテキスタイル」より(写真:三嶋義秀)

2015年の展示「鈴木マサルのテキスタイル」より(写真:三嶋義秀)

奥行きのある色使いや印象的なモチーフ使いだけでなく、鈴木さんのデザインが愛されるゆえんは、「人を楽しませたい」という気持ちが根底にあるから。今年の6月で9回目を迎える「鈴木マサルの傘 POP UP STORE」も、その試みのひとつです。「憂鬱な雨の日でも、パッと気持ちが明るくなるように」という思いで作られた傘には、雨をも吹き飛ばしてしまいそうなパワフルで楽しい色もようが踊ります。鈴木さんが心を奪われたあの日のマリメッコのテキスタイルにも、そんなパワーがありました。

「北欧のようなテキスタイルって、なかなかほかの国にはないんですよね。大学時代は『繊細であることが美学』というすごくコンサバティブで伝統的なことをしていたので、よけい印象的でした。ドンッと色面がある大胆さが心に響いて、ただただ気持ちが上がったんです」
(写真:原田智香子)

(写真:原田智香子)

自分がそうであったように、これからも人の気持ちを動かすテキスタイルを作り続けることが、鈴木さんの変わらない目標です。

「我々はオギャーと生まれて、10秒後にはもうテキスタイルにくるまれちゃうわけですよね。それからほぼ離れることなく今に至って、24時間ずっと肌に触れている素材ってほかにない。たとえば紙は、手で触るくらいですけど、布は今この瞬間も足の裏にさえ触れている。紙や鉄、木なんかとはまったく違う感覚で人の中に入っていく、本当に特別な素材だと思うんです。僕はそこに気持ちが高揚するような色や柄をのせて、人に届けたいと思っています」
vol.101 テキスタイルデザイナー・鈴木マサルさん -生き物のように力強く。心を飾る魔法の色
喪に服す無地の黒から、春の訪れを喜ぶ植物や花のプリントまで……。装いだけでなく、私たちの感情は目に入るものによって、ときに大きく左右されます。色をなくした都会の人ごみを歩くとき、どんよりした曇り空の日、どうしようもない感情に飲み込まれそうなとき。傍に置きたいのは、悲しみに負けないパワフルな色もよう。

「あなたが少しでも楽しい気持ちになりますように」
そんなメッセージが込められた鈴木さんのテキスタイルは、きっとあなたの強い味方になってくれるでしょう。

(取材・文=長谷川詩織)

Information

今回お話を伺った鈴木マサルさんの作品が楽しめる、開催間近の展示を2つご紹介します。憂鬱な季節に心が明るくなるテキスタイルを、ぜひ間近でお楽しみください。

森と湖と、アンブレラと。

ポルトガルの小さな街アゲダで芸術祭の一環として2012年から始まった「アンブレラスカイ」。傘が頭上を埋め尽くす非日常的な光景は、多くの人の心を引きつけます。今回のイベントは、メッツァビレッジで開催される日本最大級のアンブレラスカイ・デザインプロジェクト。空間のディレクションと100mを超える「色柄の道」のデザインを鈴木さんが手がけています。とびきりカラフルでドラマチックな空間体験を楽しんで。

開催期間:2019年6月8日(土)~7月15日(月)
時間:10:00~21:00 ※施設・イベント内容により異なる
会場:メッツァビレッジ(埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァ)
出典:www.instagram.com(@masaru_suzuki_textile)

ポルトガルの小さな街アゲダで芸術祭の一環として2012年から始まった「アンブレラスカイ」。傘が頭上を埋め尽くす非日常的な光景は、多くの人の心を引きつけます。今回のイベントは、メッツァビレッジで開催される日本最大級のアンブレラスカイ・デザインプロジェクト。空間のディレクションと100mを超える「色柄の道」のデザインを鈴木さんが手がけています。とびきりカラフルでドラマチックな空間体験を楽しんで。

開催期間:2019年6月8日(土)~7月15日(月)
時間:10:00~21:00 ※施設・イベント内容により異なる
会場:メッツァビレッジ(埼玉県飯能市宮沢327-6 メッツァ)

【公式】森と、湖と、アンブレラと6月8日(土)〜7月15日(月)|イベント|メッツァビレッジ|metsa(メッツァ)
詳しいイベント情報はこちらから!

鈴木マサルの傘 POP UP STORE

「鈴木マサルの傘 POP UP STORE」
今回で9年目を迎える、色とりどりの傘が楽しめる展示。1枚布だからこそできる、大胆で楽しいデザインに心も踊りそう。今年の梅雨を彩る、お気に入りの一本が見つかるはず。

<東京>
開催期間:2019年6月15(土)~6月23日(日)
時間:11:00~19:00
会場:CASE GALLERY(東京都渋谷区元代々木町55-6)

<松山>
開催期間:2019年6月15日(土)~7月7日(日)
時間:10:00~19:00 ※火・水曜定休日
会場:MUSTAKIVI(愛媛県松山市大街道3-2-27 美工社ビル1F/B1F)

「鈴木マサルの傘 POP UP STORE」
今回で9年目を迎える、色とりどりの傘が楽しめる展示。1枚布だからこそできる、大胆で楽しいデザインに心も踊りそう。今年の梅雨を彩る、お気に入りの一本が見つかるはず。

<東京>
開催期間:2019年6月15(土)~6月23日(日)
時間:11:00~19:00
会場:CASE GALLERY(東京都渋谷区元代々木町55-6)

<松山>
開催期間:2019年6月15日(土)~7月7日(日)
時間:10:00~19:00 ※火・水曜定休日
会場:MUSTAKIVI(愛媛県松山市大街道3-2-27 美工社ビル1F/B1F)

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MUSTAKIVI
MUSTAKIVI(ムスタキビ)は愛媛県松山市にマリメッコのデザイナーとして活躍した石本藤雄氏がプロデュースしたギャラリー&茶房。石本氏の作品が常設で見られるほか、「砥部焼」や、オリジナルパッケージの和菓子、茶葉、ヴィンテージ商品(ブック、テキスタイル)の販売も行い、茶房では甘味と愛媛県産の厳選されたお茶が楽しめます。
鈴木マサル|すずきまさる鈴木マサル|すずきまさる

鈴木マサル|すずきまさる

多摩美術大学染織科卒業後、粟辻博デザイン室に勤務。1995年に独立、2002年に有限会社ウンピアット設立。2004年からファブリックブランド OTTAIPNU(オッタイピイヌ)を主宰。自身のブランドのほか、2010年よりフィンランドの老舗ブランドmarimekkoのデザインを手がけるなど、現在、国内外の様々なメーカー、ブランドのプロジェクトに参画。東京造形大学教授、有限会社ウンピアット取締役。

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