インタビュー
Vol.18 Taneru・関谷聡美さん -ジュエリーを通して描く、自然の美と日本人のこころ
写真:神ノ川智早
自然をモチーフとしたアンティークな趣のジュエリーや、お互いの指紋を贈り合う“指紋デザイン”のマリッジリングが人気の「Taneru(タネル)」。日本人の心に響く普遍的な美しさと独創性を併せ持ったTaneruのジュエリーたちが、どのように生み出され、そしてそこにはどのような想いが込められているのか、創作の背景についてデザイナーの関谷聡美さんに伺った。
映し出したいのは、誰の胸にも眠る古き良き日本の原風景
どうして、忘れてしまっていたんだろう?
木立を渡る風のささやき、野山に咲く小さな花々、雨上がりの土の匂い、むせかえるような青い草いきれ…。
幼い日々に当たり前のように傍にあった優しい自然の記憶は、大人になりめまぐるしく時間に追われる生活の中で、多くの人がいつの間にかすり減らしてしまっているもの。ふとした瞬間に思い起こし、郷愁を感じたことは誰にでも経験があるのではないだろうか。
Taneru(タネル)のジュエリーデザイナー関谷聡美さんが造り出すのは、そんな誰の胸にも眠っているであろう“原風景”を写し取ったような、繊細で美しく、自然の優しさをそのままカタチにしたような作品たち。
自由が丘の駅からは少し離れた、閑静な住宅街にあるTaneru。お店を訪れると看板犬のJIN君が愛想よく出迎えてくれる
ジュエリーサロンのほか、完全オーガニックのヘアサロンとブライダルサロンも併設されている
「山の中で遊び、自然と触れ合いながら育ったので、小さな頃から慣れ親しんできた環境がそのまま創作の原点になっています。自分自身が素直に感動できるもの、良いと思えるものも、やはり自然の姿をありのままに写したものなんです」
関谷さんが生まれ育ったのは新潟県の山間部。現在でも昔ながらの里山の風景が残り、土地のいたるところに歴史が息づいている緑豊かな地域だ。そんな場所で自然と触れ合いながら幼少期を過ごした関谷さんは、一緒に暮らしていた祖母の影響もあり、自然や四季の移り変わりを意識した生活がごく当たり前のことだったそう。しかしあまりにも当たり前のことだったがために、常に自分の側にある自然を、当時は意識したことがなかったという。
本物の木の実を使用したピアスとブレスレッド。天然素材をジュエリーにするためには特殊な加工が必要なため、完成するまでに最低でも1年はかかるそう
草木染の柔らかな色味を再現して作られた天然石のピアス。淡く涼やかな輝きが美しい
「東京に出てきてしばらくした頃、幼い時には日常だった自然との関わりを、いつの間にか忘れてしまっていたと気付いたんです。でも、自分がもの作りをしようと思う時に心に浮かぶのは、やはり自然の美しさをそのまま写したもの。自分自身が心から感動できるものを作品にしたいと思うと、おのずと自然や植物がモチーフになるんですよね」
生まれ育った土地を離れたことで、自身の心と自然との強い結びつきを改めて感じた関谷さん。また作品として作りたいものも、「自然に触れ、美しいと感じた瞬間をそのまま表現したもの」なんだと再認識したことで、自分自身が本当に伝えたい世界観もより明確になったのだそう。
作品同様に自然体でとても気さくな関谷さん。お店にリピーターが多い理由の一つには、関谷さんの暖かなお人柄もあるのだろう
水が描き出す泡をパールで表現したシリーズ。手前のピアスはモチーフ部分を取り外してパールのみでも使える2way仕様
パールネックレスには、金具部分にビジューとリーフパーツでTaneruらしい華やかさをプラス。定番のアイテムだからこそ、無難なだけでなく長く愛せるデザインの物を選びたい
自然のありのままの姿を作品にしたいと考える関谷さんは、その創作方法も“自然と触れ合いながら行う”というちょっとユニークなもの。作品づくりの際には、実際に野山に分け入ってアイディアを練り、その場で制作してしまうことも多いのだとか。
「バックパックに必要な道具を入れて山に登り、自然の中で作品を作ることもよくあるんです。植物が“生きている”場所に足を運んで、自然そのままの姿を見ながらでないと私が作りたいものは作れなくて。植物はやっぱり生き物なので、見る時期によって趣も全く違いますし、自分が美しいと感動した“その時・その瞬間”の姿そのままを形にして伝えたいんです」
万葉の暦に合わせた植物をモチーフとしている「万葉の12ヶ月」シリーズ。楚々として可憐なこちらは、7月の「萩」を象ったジュエリー
山登りなど到底似つかわしくない細腕の関谷さん。山中での作品づくりは、さぞかし大変な作業ではないかと思いきや、「創作のための山登りは少しも苦になりません。むしろ楽しくてしょうがないんですよ」と朗らかに笑う。華奢でたおやかな容姿からは想像もつかないが、その内側には、作品づくりにかける熱い想いが溢れているよう。机上で頭を悩ませて作るのではなく、自然の中に身を置くことで生まれる感動をそのまま投影したものだからこそ、関谷さんの作品は、見る人の心に響く生命力に満ちた輝きを放つのだろう。
そして、そんな自然との繋がりを大切にしている関谷さんがもう一つ大切にしている「繋がり」がある。それは、人と人とが縁を結ぶ“絆”という繋がり。それを象徴するような作品が、Taneruの代表作ともいえる指紋捺印をそのままデザインにしたリングだ。
向かって左側がヘアサロンのスペース。カラーリングやパーマ剤など全て完全オーガニックなため、皮膚が弱い方でも安心だ
関谷さんがジュエリーをデザインし、ご主人でオーナーでもある今道芳和さんが併設のヘアサロンを手がけているTaneru。人と人とを結ぶ最も大事な繋がりともいえる「結婚」をとても大切に考えているTaneruでは、「一生に一度の特別な日のお支度を、本当に納得いくものにしていただきたい」との想いから、ウェディング用ジュエリーの制作と当日のへアメイクを手がける、花嫁支度のプロデュースも行っている。
ゆったりとした落ち着ける空間で、二人のためだけの特別なジュエリーを仕立ててくれる
そんなTaneruのブライダルラインの中でもとくに注目を集めているのが、指紋デザインのマリッジリング。お互いのアイデンティティそのものともいえる“指紋”を贈り合うこのロマンチックなリングは、もともとは関谷さんと今道さんがご自分たちの結婚指輪として考えたものだった。
「全く違う土地に生まれて別々の家庭で育った人間が、縁を結び一つの家族になるというのはとっても凄いことですよね。その“絆”の印としての特別なアイテムに、最も相応しいデザインをと考えた時に「お互いの身体の一部である“指紋”を交換し合う」という発想に辿り着きました。指紋は、その人が何十年と生きてきた歴史が刻まれているもの。だからこそ、他のどんなデザインよりも強い結びつきを感じられると思うんです」
指輪の中央に大きく指紋を捺印したリング。他にも、少し細身のものや石をプラスしたタイプの指紋リングもある
完成後はブナ材を使用したボックスに入れてお渡し。ブナは豊かな自然を象徴する木とされることから「二人の豊かな未来を願って」との意味が込められている
“結婚する・縁を結ぶ”という繋がりをとても大切に考えた結果、生み出された指紋リング。商品として販売する予定ではなかったのだが、友人や知人伝いに評判が広まり、同じように絆を大切にしたいと共感する人たちから自然とオーダーが寄せられるように。「子供にも引き継ぎたい」との要望もあり、今では指紋デザインのベビーリングも制作しているのだそう。愛おしい人の分身ともいえる指紋リングは、離れていてもお互いをすぐ側に感じられる、正に“お守り”のような存在。夫婦間だけでなく、子や孫とも共有したいという声が上がるのも自然なことなのだろう。
お子さんの誕生・成長の記念に作る方が多い指紋ベビーリング。まさに一生の思い出となる素敵なプレゼントだ(画像提供:Taneru)
人と人との結びつきや家族の絆を大切にすること、そして四季を感じながら自然と寄り添って暮らしていくこと。この二つを何よりも大切に考えている関谷さんには、実はずっと叶えたかった夢がある。
店内にさり気なく置かれたグリーン。華美な花ではなく野草をいけてあるところにも、Taneruらしい美学が感じられる
「自然の豊かな土地で自分たちの作品を伝えていけるお店を作りたい、そうずっと願っていました。その念願が叶って、来年の春に私の故郷である新潟県にお店をオープンすることになったんです。皆さんの大切な記念となるマリッジリングを、大自然の中で作っていただけたらと思っています。一生身につけていく特別なものだからこそ、それが出来上がるまでの過程も、思い出に残るような特別な場所で特別な時間として過ごしていただけたら嬉しいです」
新しいお店がオープンする新潟県新潟市の秋葉区は、昔ながらの里山の風景が残る自然豊かなエリア。そんな緑溢れる場所で、生涯身につけていく“特別な指輪”を夫婦で作り上げるという体験は、きっとお互いの心に深く残り、二人の絆をより一層強いものにしてくれることだろう。
四季を感じながら自然と共に生きる暮らしや、人との繋がりを尊び家族を深く思う気持ち。関谷さんがジュエリーを通して描き出すこれらのモチーフは、いずれもかつての日本人にとってごく当たり前だったはずのこと。しかし、そうした古き良き日本的美学は、多くの人が知らず知らずのうちに見失ってしまっているものでもある。
あなたにとって本当に大切なモノ、生活に潤いをもたらし豊かにしてくれるモノとは、一体なんだろうか?
もしかしたら、その答えはTaneruを訪れることで見つかるかもしれない。
あなたの心の原風景をそのまま象ったような懐かしい存在、もしくは、あなたと家族とを繋ぐお守りのような存在、もしそんな特別なジュエリーを探しているのなら、ぜひ一度Taneruのドアを叩いてみてほしい。きっと20年先、30年先も末長くあなたの心に寄り添ってくれる、“大切な友人”のようなジュエリーに出会えるはずだ。
自由が丘の駅からは少し離れた、閑静な住宅街にあるTaneru。お店を訪れると看板犬のJIN君が愛想よく出迎えてくれる