ふたりのマイルール
【連載】ふたりのマイルール 
vol.6- 姉妹の関係も、なにごとも。
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ふたりのマイルール
vol.6- 姉妹の関係も、なにごとも。
“機が熟す”のを待つ

写真:yansuKIM 取材・文:西岡真実

“ルール”と聞くと少し堅苦しさを感じますが、夫婦や仕事のパートナーなどごまかしのきかない距離感では、なにかしら決め事があったほうがスムーズにいくような気もします。それなら「素敵な関係のためのルール」って?毎回さまざまな「ふたり」に登場してもらい、心地よい関係を保つ秘訣を伺う連載。今回は、精進料理「iori」の園部曉美さんと中園五月さん姉妹。最近になって、お互い「羨ましい」と思っていたことが判明し驚いたというお二人に、年齢を重ねて変化した姉妹の関係について伺いました。

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2020年02月25日作成
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vol.6- 姉妹の関係も、なにごとも。
“機が熟す”のを待つ
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vol.6- 姉妹の関係も、なにごとも。
“機が熟す”のを待つ
「私、ずっと姉を追い越したかったんです」
そう話すのは、姉妹で活躍する精進料理「iori(イオリ)」の中園五月さん。
「かっこいいお姉ちゃんで憧れの存在って感じだったのよね」

その隣で「最近それを知って、びっくり!」という姉の園部曉美さんもまた、妹を羨ましく思っていたと言います。「姉妹って、結局、自分にないものを相手のなかに見ているのかもね(笑)」

お二人のテンポのよい会話とコロコロ軽やかな笑いに、周りの空気がやわらかくほぐれていくよう。なにより、曉美さんと五月さんが並ぶ姿は、失礼ながら70歳前後の姉妹とは思えない可愛らしさ。自然と周りに人が集まるのも頷けます。

姉と妹。違う場所から見えるもの

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“機が熟す”のを待つ
7人兄妹の長女と次女として、生まれたときから今までどこかしらお互いの存在を感じながらの数十年。幼い頃の記憶では、姉を慕ってひたすら後を追っていたという五月さん。その後、別の世界が広がり縁遠くなった社会人時代、そしてほどよい距離感で繋がっていた主婦時代を経て、再び姉妹を近づけたのは「精進料理」でした。


それは、40代半ばで子育てを終え、人生に一息ついた五月さんが「これから、どう生きていけばいいんだろう」と途方にくれた頃に出逢ったもの。
「精進料理の考え方に救われて『これからはこれで生きていこう』って思って。それですぐ姉に電話したんです。精進料理を一緒にやろうって」

「不思議だけど、妹から電話をもらって精進料理のことを聞いたら、ストンと腑に落ちて。お肉を食べることに対して、昔からずっと感じてた違和感が解消されたようでした」
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それから日常の家庭料理で実践する精進料理を広めるべく、精進料理「iori」として料理教室や書籍の出版、テレビ出演など、食生活だけでなくお二人を取り巻く環境は少しずつ変化していきました。

「まさか、還暦過ぎてこんな人生が待ってるとは思わなかったわよね」
「あら、70過ぎてもまだあるわよ(笑)!」
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“機が熟す”のを待つ
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Rule1:“伝えること”を怠らない

「どれくらいの大きさで切るのがいいかしら」
「お皿の向きはこっちに盛り付ける?」

キッチンでのお二人は、細かい確認を欠かしません。もちろん長年一緒にいるから会話も料理も息はぴったり。しかし、そこに甘んじないように。というのが曉美さんと五月さんのマイルールのひとつです。
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“機が熟す”のを待つ
曉美さん:やっぱり、人によって「感覚」って全然違うのよね。例えば料理で「薄く切って」って頼んだとき、その「薄さ」ひとつとっても人によって全然違う。そういうときは、たとえ姉妹でも、見本としてひとつ切って見せたり、細かく説明するようにしてます。

五月さん:特に家族だと『言わなくても分かってくれる』と思いがちだけど、結局、自分が思ってる以上にきちんと伝えないと分からないのよね。

曉美さん:そうそう。面倒でも細かく伝えるようにしてます。

五月さん:姉妹だからって“なあなあ”でやっちゃいけないなって。たとえ他の誰も見ていないところでも、きちんとしていたい。そこから精進とか精進料理っていうものに繋がっていくと思うんです。
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“機が熟す”のを待つ
殺生を嫌い、慈悲の心を大切にする仏教の教えを基にした精進料理。肉類、魚介類、五葷(ごくん)、酒を使わず、出汁は椎茸や昆布・野菜でとります。

殺生を嫌い、慈悲の心を大切にする仏教の教えを基にした精進料理。肉類、魚介類、五葷(ごくん)、酒を使わず、出汁は椎茸や昆布・野菜でとります。

和食のイメージが強い精進料理も、姉妹の手にかかればカフェメニューのよう。この日のメインはミートローフならぬナッツローフ。お肉の代わりにナッツやマッシュルームを使ったお腹も満足の一品

和食のイメージが強い精進料理も、姉妹の手にかかればカフェメニューのよう。この日のメインはミートローフならぬナッツローフ。お肉の代わりにナッツやマッシュルームを使ったお腹も満足の一品

Rule2:安心感に甘えない

「言わなくても分かる」と思うのは、気の許した関係だからこそ。そのうえで「伝える」を大切にしたいと思ったとき、そこにもまた難しさが付きまとうのが家族というものです。
「身内だから」という甘えから言い方が直球になること、余計なひと言で相手の気を悪くさせてしまうこと、お二人にはないのでしょうか。
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曉美さん:やっぱり他人よりも踏み込んだ話ができるし、少し関係がこじれてしまっても家族だから修復可能って思ってる。その安心感がベースにあるわよね。

五月さん:そうだね。たとえ縁を切るようなことがあったとしても、姉妹であることは変えようがない。深いところで繋がってる安心感はあるかな。

曉美さん:姉妹だから「この言葉は言ったらマズイな」っていうのも分かるし、「これを言ったらこんな言葉が返ってくる」とかも大体想像がつく。

五月さん:だから一歩踏み込んだ話ができるのよね。
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曉美さん:ただ、そういう話をするとき大事にしているのは、タイミング。自分の気持ちが高ぶったまま話してもいいことはないから、感情が落ち着くのをじっと待つの。そうするとスッと口から出る時期がくる。そのほうが本当の気持ちが伝わるのよね。感情が高まってるときは、尾ひれが付いて余計なことまで言っちゃうから。

五月さん:何年も前のことまで思い出しちゃったりしてね。「あのときもああだったじゃない!」って(笑)。

曉美さん:そうそう(笑)。だからひとまず「明日にしよう」って、機が熟すまで待つ。

五月さん:そのまま忘れることもあるけど。それは別に言わなくてもいいことだったってこと。

Rule3:一緒にやっていく覚悟をもつ

精進料理を実践していくと決めてから、より近づいた姉妹の関係。人生に共通事項が見つかった絆はやはり強いもの。
思いがけずこじれてしまっても、すっと元にもどれる。「家族」という以上の繋がりが、そこにはあるようです。
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曉美さん:もし私たちの関係がこじれてしまっても修復可能だと思うのは、姉妹であることの他に「人生の目的が一緒だから」というのも大きいかな。精進料理を一緒にやっていくって腹をくくったから。

五月さん:私たちは『食べることで平和になる』って、信じてるんです。食事って人を仲よくさせてくれるし、美味しいものでお腹が満たされると幸せになるでしょ。

曉美さん:それに精進料理は、殺生しないっていうのが一番大きな決め事だから、それが平和に繋がっていったらいいなって。

五月さん:お互いの関係だけでなく、自分自身も修復しながら、日々精進よね。こじれてしまっても「じゃあ一人で料理教室やろう」とは思えないし、結局、姉妹でやっていきたいから。

曉美さん:他の人とやってもなかなか「あうん」の呼吸までは難しいわよね。「あ、軽量スプーン」と思った瞬間にサッと出てくるんだから。

五月さん:たまに違うもの差し出したりするけどね(笑)!

姉と妹。合わせ鏡のような二人

女同士だからか「姉妹」とは不思議なもので、お互いを羨ましく思ったり、そこからほんの少し嫉妬が混じったり。
小さなことでいえば、生まれつきまっすぐな妹の髪質が羨ましかった姉と、姉のくせっ毛に憧れて「くせ毛風パーマ」をかけていた妹。そんなエピソードの数々を「ないものねだりの嫉妬心」と名付けて笑うお二人。でも今、姉と妹の立場から見える景色は、数十年かけてそれぞれ変化してきたようです。
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曉美さん ― 前は「この人、いつもえらそうだなぁ」って(笑)

実はね、前は妹のこと『いつもいつも、えっらそうだなあ〜』って思ってたの(笑)。

妹は社交的でいつも人の輪の中心にいて、私は性格的にその一歩後ろにいるタイプ。一時期は、前に出る役もやろうとしたことはあるけど、やっぱり私の立ち位置じゃないのかなって。後ろにいるほうが楽だし、ずっと姉の立ち位置を譲ってたのよね。

ただ、身内の集まりなんかでも長女として前に出るべき機会もあるし、苦手だけどここ何年か少しずつチャレンジしてみたの。

そのせいか、いつの間にか最近はごく自然に妹と同じ位置にいられるようになってきたかな。そうしたら妹に対する気持ちも変わったりして。ちょっと前までは「私が長女なのに」なんて思ってたのに、不思議よね(笑)。
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“機が熟す”のを待つ

五月さん ― ずっと、一番になりたくて仕方がなかったから

私は、姉に対して「長女なのに」っていう目で見てたの(笑)。多分、姉がそう思ってたのと同じ時期だったんじゃないかな。不思議だけど、同じことをお互い違う角度から見てたみたい。

私は生まれたときすでに姉がいて『二番手』だったことが、どうしても自分のなかで納得いかなくて(笑)。生まれた順番は変えられないから超えようがないのに、いつも一番でいたい、主人公でいたい人生だったのよ。

それが最近になって、「妹の立場が心地よい」と思えるようになって。執着を手放したら、すごく楽になったの。姉は憧れだし、超えたい存在だった。でも、今は人と比べることに意味がないって分かったから、過去の自分と比べてる。いつも過去の自分を超えていけるよう精進したいなって。

もしかしたら、今回の人生は「二番目」っていうものを学ぶために生まれてきたのかしら(笑)。

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“機が熟す”のを待つ

お互いへの憧れを超えて。今が一番いい関係

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“機が熟す”のを待つ
「精進料理を仕事にする」と覚悟を決めて12年。最後に、お二人のこれからを伺いました。

「私たちは、“縁”とか“成り行き”に任せることも多いんです。機が熟せば、自然と“あるべき場所”に流れていくものだと思うから。今は、やるべきことはしっかりやりつつ、それを待つという感じかな」



――機が熟すのを待つ。
なにかに迷ったとき、近しい人との関係がねじれてしまったとき、焦って答えを探しがちですが、ときには「待つ」のもありかもしれません。いったん寝かせてみたり、少し遠くから「へえ」と眺めてみたり。

なかなか根気もいるけれど、ゆったり気長に構えてみたら、「iori」のお二人のように、いつの間にか心地よい場所に納まって違う景色が見えているかもしれません。

◆ お二人のレシピ本はこちら
おばあちゃんの精進ごはん (momo book) iori 暁美と五月 |本 | Amazon
意外にも砂糖や油、牛乳、無精卵は使える精進料理。ioriのメニューは、しっかりコクがあり日常に取り入れやすいものばかり。海苔と豆腐で作るカキフライや、動物性のもの・ネギ・にんにくを使用しないラーメンなど、楽しいアイディアと美味しいレシピが満載の一冊です。
おばあちゃんの精進ごはん その2 (momo book) | iori 暁美と五月 |本 | Amazon
第二弾は、保存食やスイーツも含め、楽しいアイディアと美味しいレシピが90点。料理の手順もシンプルでチャチャッと作れるのがうれしいレシピ集です。
◆取材協力/カフェinacujira(イナクジラ)
inacujira(@inacujira_labo) • Instagram写真と動画
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