政治も社会も、実は全然怖くないジャンルです。
面と向かって誰かにこう言われたとして、「ウッ」と抵抗感を抱いてしまう人、いませんか。政治と宗教と野球の話はタブーです、と言われてきた世代の方もいるでしょう。しかし、今現在はもう少しオープンにしていい時代です。
そんな意見も聞こえてきます。この気持ちも、もちろん、よくわかります。では、そのハードルが“無い”話を政治経済分野でできるとしたら、どうですか?
PART1 切り口を変えればオープンに
文学の切り口から
「常識とは」の切り口から
■『狂気のススメ 常識を打ち破る、吉田松陰の教え』大杉学 著(総合法令出版)
幕末の志士たちを育てた吉田松陰。なんとなく名前を聞いたことがある方はいらっしゃいますか?幕末ファンにとってはかなり馴染みのある方かもしれませんね。実は、彼はかなり“やばい”人でした。
当時は宇宙船レベルの「未知との遭遇」であったであろう黒船にも、単身いきなり乗り込んで「ねえねえ」と船員に話しかける。牢獄の中で堂々と本を広げては朗々と文章を読み上げ、獄卒たちをびっくりさせる。いきなり「クーデターを起こすぞ!」と立ち上がる。アバンギャルドな人でしたが、彼のそのちょっと“変わった”ところが、たくさんの人を動かしていきました。私たちが信じている社会通念や、「こうあるべき」とはなんなのか、思わず考え直すことができる1冊です。実際に松陰が身近にいたら、「ストップストップ!」と言いたくはなってしまいそうですが…(笑)。
議論のやり方の切り口から
■『武器としての決断思考』瀧本哲史 著(星海社)
私たちが〈議論〉と呼んで敬遠してしまっているものは、本当に議論なのでしょうか。おそらく私たちが論争を目にするのはSNSや他者同士の口喧嘩だと思います。しかしそれらは、「本物の議論」とはにても似つかないただの〈ショー〉や〈言い争い〉でしかないということが、本書を読むとよくわかります。私たちが何かを選び、決断するためには、自分たちもしくは他者との議論が不可欠です。
「どっちの方がいいやり方だと思う?」という問いには、〈正しい〉という概念は存在しないことに着目してください。本来、正しい選択というものは存在しません。私たちは考え得る限りの中での〈最も良い〉選択しかできないのです。それを決めていこうと意見交換をしているだけ。この捉え方を大前提にして、他者と考えを話し合いましょう。
PART2 背景を知れば、実はこの本も〈社会〉の話
鋭く激しい詩人のことば
■『倚りかからず』茨木のり子 著(ちくま文庫)
「自分の感受性ぐらい、自分で守れ」という痛烈な言葉でお馴染みの茨木のり子。
詩人として彼女が残した作品の数々にも、実は密接に当時の社会情勢が関わっています。彼女は戦時下の動乱機に青春期を過ごしました。19歳の時になんとか終戦を迎えましたが、彼女が思春期に感じた痛ましさや悲しみの数々が、その後の作品にそのまま反映されていると言っても過言ではありません。私たちにとってはとても手厳しく聞こえる言葉の数々も、当時声を上げることすら許されず、頭を下げて耐え忍ぶことしかできなかった彼女自身のやるせなさゆえだと思います。
さまざまな信仰の土壌と理由
■『置かれた場所で咲きなさい』渡辺和子 著(幻冬舎)
渡辺和子シスターが残した言葉の数々はキリスト教の教え、すなわち聖書に基づいたもの。彼女が修道女の道を志した要因は、歴史の教科書にも載っている〈事件〉によるものでした。シスターのお父様は当時とても位の高い陸軍の軍人で、二・二六事件にて44発もの銃弾を受けて絶命。彼女はそれをたった1メートルの距離で目撃したのです。シスターは当時9歳。洗礼を受けたのは18歳の時です。以来、布教活動を行い、私たちの手元にも著書が届くようになりました。〈宗教〉というと身構えてしまう方も多いと思いますが、様々なバックグラウンドや経験によって、拠り所や信仰の対象を知り、見つける。それを理解した上で、リスペクトをもって接するようにしたいですね。
若手作家の問題意識を知る
■『どうしても生きてる』朝井リョウ 著(幻冬舎)
敏腕若手作家の朝井リョウさん。映像化された作品を観たことがある方も多いのではないでしょうか。
本書は、著者がずっと悩んでいた問題を落とし込んだ長編小説です。
「家庭や仕事、夢、過去、未来。どこに向かって立てば、生きることに対して後ろめたくなくいられのだろう。」
どきりとした人はいませんか。私たちは明確に、他者に対して不寛容になりつつあるように思います。その「不寛容」が少しずつ降り積もった先にあるのは、どんなものでしょうか。私たちの暮らしぶりや気持ち、空気が、どのように社会に影響を及ぼすのか。大学生作家としてデビューした著者の鋭くも物悲しい視線に注目してください。
自然科学から考え直す私たちの〈正しさ〉
■『理不尽な進化 遺伝子と運の間』吉川浩満 著(ちくま文庫)
自然科学領域の知識も、私たちの生き方や行動、思考について考えることに役立ちます。こちらは進化と絶滅の観点から動物たちの生き様を紹介した一冊。タイトルの通り、〈生き残ること/死に絶えること〉の境界線は、かなり理不尽なものです。生き残るということは、単に運なのではないか?ということに気付かされるのです。私たちが現在「人はこうあるべき」とされている考えも、進化・絶滅の過程と同じく、「そうあった方が生き残りやすい状況であったから」です。私たちの適性は、世界の変化によって容易にひっくり返ってしまうものだということを理解できます。本当に正しいあり方なんて存在するのでしょうか。そして、正しくあることとは、本当に必要不可欠なことなのでしょうか。
PART3 私たちの身近な「もやっと」を考える
こんな気持ちも、見過ごさずに、読書でヒントを求めてみましょう。お子様がいる方であれば、最近の子供たちの教育事情について。女性として、どうして化粧やヒール・スカートを履くことが求められているのか。成長や自己肯定が、どうしてこんなにも必要だと叫ばれないといけないのか。
本当に、それって必要ですか?もっと大事なことって、あるんじゃないの…?こうして、自分の中のモヤモヤについて考えることは、決してわがままなんかじゃないのです。
子供の教育、このままでOK?
■『やりすぎ教育:商品化する子どもたち』武田信子 著(ポプラ新書)
近年の子供たちは、プログラミング言語を学んでいます。英語教育も身近でしょう。スマホから一流講師の授業を受けることができますし、Wi-Fiやギガに対しても、私たちより理解しているのではと思うこともしばしば(笑)。
私たちが子供だった頃よりもハイテクな機器を使いこなしていますよね。しかし、著者はその日本の至れり尽くせりな教育商品の氾濫に警鐘を鳴らします。日本の子どもの精神幸福度は、参加38ヵ国中、37位なのです。ワースト2位というこの状況、あなたはどう見ますか?
この話って、フィクション?
■『持続可能な魂の利用』松田青子 著(中央公論新社)
日本の女性を取り巻く現在の〈リアルな〉状況を、少々ファンタジックではありつつも、しかしクッキリとリアルにまざまざと見せつけられる一作です。どうして女性アイドルは、ここまで男性ファンに対して奉仕しなければならないのか?彼女たちが叫ぶ自由とは、本当に自由なのか?描かれるのは、「おじさん」という存在です。この「おじさん」とは、若い男性でも、女性でも、誰しもがなり得る存在です。彼らの不気味さを小説内で味わった後、ふと視線を上げてみて、あなたは何を感じますか。
「意味がないからって、なんなんですか!」
■『無意味のススメ: 〈意味〉に疲れたら、〈無意味〉で休もう。』川崎昌平 著(春秋社)
帯にも書かれている「それ、何か意味ある?」。この言葉を職場やプライベートで言われて、傷ついた経験は誰にでもあると思います。何か意味があるの?この言葉は、何もかもの価値を全て否定し得る言葉です。無意味だと決めつけていたものに救われていたことに気づいた。そんな状況を私たちはごくごく最近、味わいましたね。映画などの娯楽作品が、その一例です。何か意味や意義のあることばかり求められる現代社会ですが、意味があることとは一体なんなのでしょうか。意味があるから行動するのか、行動するから意味があるのか、無意味だったらなんなのか。その答えを探るべく、読んでいただきたい1冊です。
「ずるい!」よりも考えるべきこと
■『生贄探し 暴走する脳』中野信子、ヤマザキマリ 著(講談社+α新書)
生贄という言葉は、少々おどろおどろしく聞こえますね。しかし、私たちは無意識のうちにその〈生贄〉を作り出そうと努力してしまっている時があります。「あの人だけいい思いをしている」「私がこんなに苦しんでいるのに」「許せない!!」そうして振りまく怒りが生み出すのは、苦しみだけであることに気づくべきです。意見を主張するべきは、ずるく見える人たちよりも、そのシステムを作り出した人々であることを認識しなければなりません。2人の著者がヒトの本質を分析しながら、暴走する感情や脳を冷静にさせながら、より良い未来を作るための一手を探る知恵を伝授します。
思想を「知る」は武器になる
■『私がフェミニズムを知らなかった頃』小林エリコ 著(晶文社)
フェミニズムは、比較的若い世代が多く提唱しているもの…そんなイメージがある方はいませんか。1992年以降に生まれたZ世代などは、その意識を高く持っていると言われていますが、彼らのこの意識を形作ったのは、先人たちの姿であったことも忘れてはいけません。著者は団塊ジュニア世代。まだまだ男性優位社会が今よりももっと強かった時代でした。彼女が語るノンフィクションの経験は、どう考えても理不尽で、次の世代に受け継ぐべきものではないはずです。彼女がフェミニズムを知る前と、知った後。「知る」ことの力と希望を伝えてくれる1冊です。
■『文学で考える〈日本〉とは何か』飯田祐子、日高佳紀、日比嘉高 編(翰林書房)
まずは、文学の切り口から考えてみましょう。森鴎外や太宰治といった文豪から、私たちにとってはちょっとマイナーな作家までを取り揃えた、オムニバス短編集です。しかし、短編が淡々と掲載されているわけではありません。各小説の最後に、編集者たちからの解説と問題提起があるため、物語を軸にして明治時代から現在に至るまでの日本の社会情勢を学べます。なぜこの作品を書こうと思ったのか、誰に向けられたストーリーなのか、作者が何を考えていたのか。文学で作者が伝えたかったことから、いろんなその時々の〈理由〉や〈実情〉、みんなの〈悩み〉が見えてくるのです。すべて昔の小説なので、もちろん現代の問題には触れていません。しかし、私たちが何かを考えるときの材料として、上質なものが揃っています。