「異国の文化」を美しく捉えた本をめくり、視野を広げる体験を

そこで今回は、民族衣装やお祭り、暮らしの在り方など、さまざまな観点から「異国の文化・価値観」を知ることができる本をご紹介。

あなたの心のアンテナに引っかかる一冊を見つけて、ぜひページをめくってみてください。
1.アート作品のような、ヨーロッパの〈珍しいお祭り〉
「WILDER MANN (ワイルドマン) ―欧州の獣人 仮装する原始の名残」
動物の毛皮、あるいは植物などを巧みに使って獣人や魔物の装束をつくり、美しく着飾って生命の輪廻や季節のめぐりを祝います。19か国で取材したというさまざまな祝祭のスタイルを楽しむことができます。
2.アフリカ少数民族の〈自然を纏うファション〉から、新鮮な美意識に触れる
「ナチュラル・ファッション 自然を纏うアフリカ民族写真集」
こちらは、写真家ハンス・シルヴェスターが芸術の域にまで高められた遊牧民たちのボディーアートを捉えた一冊です。
エチオピアに住むスルマ族とムルシ族は植物の花や葉、実、そして、蝶の羽やカタツムリの殻など「自然」を自由にアレンジし、美しく装飾を施しています。さらに、ペンや襲撃用の銃の薬莢など彼らの日常にあるさまざまなものも利用し、アーティスティックに全身を装っていくのです。
斬新で奇抜なデザインの装飾は、私たちの固定概念の殻をやすやすと破ってくれます。哀愁を帯びたようなまなざしが心にストレートに突き刺さります。植物の配置ひとつとっても、高いファッションセンスを感じる写真ばかり。ただ眺めているだけでも、その深い世界観に引き込まれます。
まるで制服のように同じようなファストファッションに身を包む日本人には、考えさせられるところも多いかもしれません。豊かな自然の恵みを全身であらわし、美しいバランスでカラフルに彩っていく。自分らしさとはどのようなことなのか、あらためて考えてみたくなります。
3.デンマーク・コペンハーゲンにある〈自治コミュニティ〉を知る
「クリスチャニア 自由の国に生きるデンマークの奇跡」
世界で一番幸福な国として有名になったデンマーク。クリスチャニアは首都コペンハーゲンの中にある自治エリアのことで、現在では人気の観光地のひとつともなっています。
1971年に自由を愛する人たちによって誕生したこのコミュニティは、「暴力禁止」「武器の持ち込み禁止」といった独自のルールを作り、それを守って共存しています。
人々は自由に、自分の考える家を建て、ストリートアートを施し、気ままに暮らしています。ですから、ここに建つ家はそれぞれ個性的で、とても独特な趣があります。自分で作れるものは作り、再利用できるものは再利用して、独自の価値観を大切にしているのです。
2004年まで大麻が常設屋台で販売されていたことでも有名なクリスチャニア。現在はハードドラッグは禁止となっていますが、こうした店が完全になくなったわけではなく、独特のにおいが漂っているともいわれています。
デンマークという先進国の首都の中でも、自然に囲まれて自由な暮らしができる。ルールに則って、場を整え、手を取り合うことで新たな価値観の暮らしを実現できる。私たちは、自分たちの周りの世界を変えていけるのだという実感を得ることができる一冊になりそうです。
4.中国の〈辺境の地に息づく美しい手仕事〉
「中国手仕事紀行(雲南省・貴州省)」
日本と世界の美しい手仕事を集めた生活雑貨のお店、「みんげいおくむら」の店主である奥村忍さんが買い付けの旅の中で魅せられたのは中国。中国の奥地を渡り歩き、藍染め、竹細工、手織りの布、陶磁器、ガラス、銅や真鍮細工といったさまざまな手仕事に出会ってきたそう。
この本では、日本ではなかなか紹介される機会が少ない、中国の雲南省と貴州省が舞台。少数民族が作り出す、暮らしに寄り添った民具の魅力を掘り下げます。
雲南省の手仕事といえば、竹細工や銅や真鍮の雑貨、そして焼き物などが有名です。貴州省は少数民族の宝庫としても知られ、中でもミャオ族やトン族の藍染め・ろうけつ染めの布はその美しさで人気が高いんですよ。
こちらの本は奥村さんの旅ルポにもなっており、まるで一緒に中国を旅しているような心地に浸ることもできます。食通としても知られる奥村さん。民具の手仕事だけではなく、色鮮やかな中国料理の数々も登場し、五感を刺激される一冊になっています。
5.長い歴史を紡ぐ〈民族衣装〉から、彼らの暮らしに想いを馳せて
「100年前の写真で見る 世界の民族衣装」
世界の均質化は加速する一方で、どこに行っても、同じような装いの人たちが増えています。こちらは100年ほど前、まだ世界が豊かな多様性に富んでいたころの人々の美しい衣装を集めた一冊です。ヨーロッパから中東、アジア、南北アメリカにいたるまで、個性的な装いを見ることができます。
とっておきのときに着る正装としての民族衣装を堂々と着こなす姿は、自信に満ち、凛としています。強いまなざしからは生命力と民族に対する誇りを感じますよね。
清楚でかわいい学び舎の若者たち。100年も前の写真なのに、いきいきとした子供たちの様子にはときめきさえ覚えます。上品で優雅なドイツの子供たちはどんな大人になったのでしょう。ひとりひとりの人生にまで思いを馳せてみたくなります。
6.古き良き時代の精神を貫く〈アーミッシュ〉の暮らし
「アーミッシュカントリーの美しい暮らし」
テレビや車を持たない昔ながらの暮らしの営みを何世紀も続けているという「アーミッシュ」の人々。アメリカやカナダなどに約20万人いるといわれるキリスト教プロテスタントの一派です。
自給自足に近い生活をし、移動は馬車や自転車を使っています。極力電力を使わないようにしているので、現代の暮らしにはあるのが当たり前の家電製品もほとんどありません。
アーミッシュの人たちの暮らしは、基本的に質素で慎ましやかです。パイもシンプルな材料で、素朴な味わいに仕上げます。毎日食べたくなるのはこうしたオーソドックスなものなんですよね。
自然と共に暮らしがある。そんな実感を抱くことができるのがアーミッシュの日常です。
女性はワンピース、男性はシャツにズボンと全体的に統一感のある服装はなんともいえない優雅さを感じます。子供たちの教育は8年間、コミュニティ内で未婚の女性が担当するという決まりがあるそう。
アーミッシュで生まれた子供たちは16歳になると、一度、親元を離れて俗世の快楽を知る経験をする「ラムスプリンガ」という期間に入ります。なんの制約もない暮らしを体験して、その後、アーミッシュとして暮らすか、家族と絶縁して俗世で暮らすか選びます。ほとんどの子供たちはアーミッシュでの暮らしを選択するといわれています。
コミュニティで助け合い、古き良き時代を生き抜くという暮らしは実はとても魅力的なのかもしれませんね。
7.世界中の危機に瀕する〈少数民族〉の誇り、生き様
「BEFORE THEY PASS AWAY -彼らがいなくなる前に-」
写真家ジミー・ネルソンが世界の少数民族とともに生活を送りながら、彼らの暮らしを切り取った写真集です。原書が販売されてすぐに、欧米30か国以上で出版された非常に人気の高い一冊です。「German Photo Book Award 2014」でゴールド賞を受賞しています。
なかなかお目にかかることができない31の部族たち。近年まで、他民族が入ることさえ許されなかった地域も含まれています。それぞれの民族や伝統、信仰、暮らしなどについて、解説がなされているので、彼らを身近に感じることができそうです。
自然と向き合い、力強く生き抜く少数民族。その凛とした表情を見ていると、太古から途絶えることなく伝えられてきた彼らの文化に敬意を表したくなります。
写真としてのクオリティが非常に高く、センスの良さは抜群!生きる力が漲った美しい彼らの表情にはっとさせられますよ。
8.各国固有の〈翻訳できない言葉〉から、未知の感受性に触れる
「翻訳できない世界のことば」
他の言語に直接翻訳するのが難しい言葉というものがあります。その国の言葉を話す人にしか分からない感覚のようなものを上手に伝えるのはなかなか難しいものですよね。
この本に集められている世界の言葉を眺めていると、その言葉の背景にある文化のようなものを感じとることができます。
右ページには言葉の意味と、ニュアンスをあらわすイラストが描かれ、左ページにはどこの国の言葉なのかと品詞、そして、作者が短く説明を入れています。
こうした言葉が表す感覚的なものを知るのは、世界の広さを感じることにつながりますよね。
この本で取り上げられている日本語のひとつが「木漏れ日」。他の国には「木漏れ日」の持つゆらめきやきらめきのような言葉がなかったということにも驚いてしまいます。
端的で分かりやすく、ぱらぱらと楽しめる大人の絵本といった感じですね。大切な人へのプレゼントにしても喜ばれそう。
2013年に刊行した本書で、世界的な評価を確立したフランスの写真家、シャルル・フレジェ。世界各地の装束(民族衣装や伝統衣装、習わし、儀式、祭礼のためのコスチュームなど)をシリーズとして撮影し続けています。
この写真集「WILDER MANN」でフォーカスをあてたのは、ヨーロッパで何世紀にもわたって伝えられてきた祭りに登場する、不思議な魅力に溢れた獣人(ワイルドマン)たち。