ストーリーの背景が、あなたの次の目的地になる。

そこで今回ご提案したいのが、「次の旅へと思いを馳せながら見る」という映画の楽しみ方。
ストーリーと共に、魅力的な日本のロケ地に出合える作品をご紹介します。
また、映像のプロがハンティングして選び抜かれた撮影場所の数々は、美しさや魅力が溢れるロケーションなので、実際に足を運べば大きな感動を与えてくれることでしょう。

画像/熊本・阿蘇山
1.しあわせのパン
東京から北海道に引っ越し、パンカフェを開店した夫婦。パンを丁寧にこねるのは夫の担当、妻はそれに見合う料理を作る日々。そこに訪れる客たちは、それぞれの事情を抱えて訪れる。北海道の豊かな大地で育った食材をたっぷり使った食事が、その人々に小さな奇跡をもたらす―。
おいしそうなパンと、美しい風景に囲まれて織りなされるのは、優しい夫婦の掛け合いや、個性豊かなお客さんとの心温まる交流。まるで北海道の空気を体現するかのような、自然体で人々とかかわる夫婦の様子を見るにつけ、いつかこの地に足を運びたい・・・と思いを馳せてしまう映画です。
ロケ地は・・・『北海道・洞爺湖』
夫婦のカフェ『マーニ』の舞台となったカフェは、湖畔にたたずむカフェ「ゴーシュ」
2.海街diary
美しい4姉妹の日常が淡々と描かれた映画『海街diary』。あの是枝裕和監督ならではの、現実と映画の境界があいまいになるほどのリアルな空気感で描かれた風景は、映画であることを忘れさせるほど。
四姉妹は派手なことが絶えず起きるわけではない日常の中で、一人一人が胸の中にそれぞれの過去や想いを抱いて生きている―それはまさに私たちが生きる日々と同じであり、だからこそ登場人物の心情やその変化にグッと惹きこまれていきます。
情感豊かに描かれた何気ない日常風景だからこそ、その背景に広がる景色まで含めて「画(え)」として深く心に刻まれるような映画です。
ロケ地は・・・『神奈川・鎌倉』
あの人気の「江の島」内の食堂にも、ロケ地が・・・
映画の中で「次女がデートしていた」カフェに寄り道も・・・
姉妹が喪服で歩くのは、「稲村ケ崎」
3.ノルウェイの森
高校時代に親友・キズキを自殺で失い、孤独な大学生活を送るワタナベ。そんな中ワタナベは、東京でキズキの恋人だった直子と偶然再会する。静かに気持ちを寄り添わせていく二人だが、直子は突然姿を消してしまい、一方でワタナベは直子とは対照的な魅力を放つ緑に惹かれていく―。
村上春樹の名作「ノルウェイの森」は、読書や文学に精通していなくても知らない人はいない、と言えるほど有名な作品ですね。
小説の映画化となると、原作との世界観にギャップが生まれることも珍しくありませんが、あの村上作品独特ならではの、どこか影がつきまとう捉えどころのない空気感が見事に再現されている映画版は、必見です。
ロケ地は・・・『兵庫県・砥峰高原』
足を延ばせるなら「森」にも・・・
4.おおかみこどもの雨と雪
アニメ映画界で名作を数多く生み出す細田守監督。ファンタジー要素もありながら、それをリアルに感じさせてくれる世界観が魅力の一つです。
この「おおかみこどもの雨と雪」も、大学生の女の子と、実はおおかみおとこである男性の恋からスタートする、言わば「ファンタジー」の世界。
にもかかわらず、二人の間に生まれた男の子と女の子の成長の様子や心模様の変化、それを見守る母親・花の葛藤や決断は私たちがかつて、あるいはまさに今感じるそれそのものであり、いつの間にかリアルな共感や感動を呼び起こしてくれます。
モデルとなった舞台は・・・『富山県』
有名観光地・「称名滝」も映画に登場!
5.八日目の蝉
未知ならぬ恋の過程でお腹に命を授かるも、母親になることができなかった女性・希和子が、恋人の妻が生んだばかりの赤ちゃんを連れ去るところから展開するストーリー。
母親が誘拐犯だとは知らず、たくさんの愛情を受け赤ちゃんから4年間育てられた女の子・恵理菜(育ての親には薫と名付けられる)。だが、二人は引き離され実の親元に戻るが、本来の家族が送る「ふつう」の日常生活に戻れぬまま・・・。そんな中21歳になった恵理菜は、自身が妊娠していることに気づく。その相手は、家庭のある男性。そこで恵理菜は、自分の置かれた現実と、かつて日々を重ねた過去に向き合うべく、4年間の育ての母と暮らした島へと向かっていくのであった―。
本当は複雑な関係なのにも関わらず、精いっぱいの愛情を注ぎ「親子」で過ごすシーンは、まるで現実と隔絶されることを祈るかのような空気に満ちているかのよう。島の美しい光や景色が、余計に切なさを際立たせています。
ロケ地は・・・『香川県・小豆島』
希和子と薫が学校ごっこをする校舎もそのままに・・・
中山千枚田
幼い薫の思い出が詰まった海辺は「戸形崎」
6.めがね
舞台は島の中の小さな町。人生を一休みすべく南の街に降り立ったタエコはハマダという宿に宿泊する。しかし、そこに登場するのは、個性豊かなマイペース過ぎる人々ばかり。観光できる場所がないか尋ねても、帰ってくる答えは「ここは、たそがれるだけ」。耐えかねたタエコは、ハマダを出ていくことにした―。
(こちらの画像はDVD版です)
タイトルの「めがね」に深い意味はなく、このタイトルに決まったから登場人物全員にめがねをかけさせることにしたんだとか。こんなエピソードに象徴されるとおり、作品に漂う空気はここちのよい「ゆるさ」。実際筆者が映画館で鑑賞したとき、筆者自身も、そして隣の見知らぬご夫婦も、途中思わず眠ってしまった思い出が・・・。それは、ストーリーが退屈だったからではなく、漂う空気と波音があまりにも心地よかったから。(その証拠に、筆者もDVDを購入したほどお気に入りの作品ですが、何度見ても途中で眠ってしまうことが珍しくありません!)
美しい風景の中織りなされる、チャーミングな登場人物たちの物語に、いつ見ても心が緩む作品です。
ロケ地は・・・『鹿児島県・与論島』
空港に降り立った瞬間から、あの映画の中にいるよう・・・
やっぱり気になる、「民宿ハマダ」
「メルシー体操」の舞台はトゥマイビーチ
サザンクロスセンターには、あの自転車の実物が・・・!
いつだって、心は自由。
ガイドブックをめくって旅先をピックアップするのとはまた違う楽しみがある、物語を追体験できるロケ地の旅。『次のあなたの目的地を選ぶ』―そんな楽しみと共に映画を鑑賞するのも、なかなかいいものですよ*
画像/竹富島・西桟橋