インタビュー
vol.2 Rie-Came・宇津木りえさん -フィルムカメラの良さを伝えていきたのカバー画像

vol.2 Rie-Came・宇津木りえさん -フィルムカメラの良さを伝えていきたい

写真:中野扇

1960年代のフィルムカメラを独自の世界観でカスタマイズした作品が注目されているRie-Came(リエカメ)。それと平行してカスタマイズしたカメラと花をテーマにした写真作品も発表しています。一台のフィルムカメラに込められた思いと夢を伺ってきました。

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2015年03月31日作成

1960年代のフィルムカメラに新しい命を

「こんにちは。今、庭のお花をアトリエに飾ろうと思って」

右手に花切りバサミ、左手に花瓶を持って現れたRie-Cameの宇津木りえさん。春を感じさせる陽射しの中で、それと同じくらい温かな笑みで迎えてくれました。
vol.2 Rie-Came・宇津木りえさん -フィルムカメラの良さを伝えていきたい
千葉県の自宅前に作られた小屋を改装したアトリエは、木の温もりが感じられる居心地のいい空間が広がっています。部屋の中心に作業机と椅子がひとつずつ。壁にはこれまでに作ってきたカスタムカメラが飾られています。「とってもかわいいんですよ」と宇津木さん。まるでわが子を紹介するかのようです。
アトリエに飾ってあるRie-Cameのカスタムカメラ。現在は注文を受けてから一ヶ月待ちとのこと。

アトリエに飾ってあるRie-Cameのカスタムカメラ。現在は注文を受けてから一ヶ月待ちとのこと。

Rie-Cameという屋号で、1960年代のオリンパスペンを中心にクラシックフィルムカメラをレストア(老朽化などの理由により劣化や故障してしまったものを修理し復活させること)し、デザインしている宇津木さん。そのカスタムカメラの販売と「もう一つの世界」をテーマに、カメラと花をモチーフに撮影した作品の制作を軸に活動しています。
革の部分にデザインを施していきます。過去に作った余りも「何かに使えれば」と保管しています。

革の部分にデザインを施していきます。過去に作った余りも「何かに使えれば」と保管しています。

じっと修理を待っているカメラたち。

じっと修理を待っているカメラたち。

「もともと不器用な私が、今こんなことをやっているのがとても不思議なんです」

偶然の出会いによって、アシスタントにつくことになったカメラマンRyu Itsukiさんが写真家としての活動と一緒に行っていたレストアという仕事。その作業を傍らで見続けていた宇津木さんもごく自然にやってみたいという好奇心が芽生えていきました。

「修理に関する知識や技術は直接教わったというわけではなく、見よう見まねで学んでいきました。最初は修理だけできればと思っていたのですが、60年代のカメラを知らない若い人たちに、もっと良さを知ってもらいたくてデザインも始めました」

そうして作り続けていくうちに欲しいという声が増えていき2013年に独立。Rie-Cameが誕生しました。
初期にデザインしたというカスタムカメラ。

初期にデザインしたというカスタムカメラ。

初期にデザインしたカメラは、革の部分を白く塗装したシンプルなもの。実際に手に持ってみると、心地よい重みを感じます。

「このオリンパスペンは形がもともと好きでした。このなんともいえない重みがいいんですよね。小ぶりで作りが複雑ではないため修理もしやすいです。使う際もシャッターを押すだけ。フィルムカメラの良さは、撮り直しがきかない分、一枚一枚しっかり向き合えることだと思います」
カチッとフィルムがカメラに収まる音も心地良い。

カチッとフィルムがカメラに収まる音も心地良い。

蓋を開けると中身が塩で真っ白なんていうことも。「海で写真を撮るのが好きな人のカメラだったんだなって想像すると楽しいです」

蓋を開けると中身が塩で真っ白なんていうことも。「海で写真を撮るのが好きな人のカメラだったんだなって想像すると楽しいです」

鳥の声が時折聞こえてくるアトリエでの作業。

鳥の声が時折聞こえてくるアトリエでの作業。

毎日手にするカメラへの思いは人一倍。だから自然とこだわりも強くなっていきます。修理前のカメラの状態はさまざまで、中には大きく傷が付いているものや、へこみがあるものもあり、そのまま使えないことも少なくありません。その場合は、2台3台と他のカメラのきれいな部品を集めて1台の修理をするそうです。修理にかかる時間は、塗装も合わせておよそ3日。デザインが凝っているものだとさらに時間がかかります。
「Rie-Cameのテーマカラーのラベンダー色と白で春らしいものを作りたいなと思って」と見せてくれた、最新のカスタムカメラ。

「Rie-Cameのテーマカラーのラベンダー色と白で春らしいものを作りたいなと思って」と見せてくれた、最新のカスタムカメラ。

「もう一つの世界」を撮り続けたい

宇津木さんがクラシックカメラのレストア・デザインと平行して大切にしていることに、「もう一つの世界」をテーマにしたカメラと花を組み合わせた写真作品の制作があります。
宇津木さんの好きな花のひとつアジサイと組み合わせた「Sherbetシリーズ mintgreen」。(画像提供:Rie-Came)

宇津木さんの好きな花のひとつアジサイと組み合わせた「Sherbetシリーズ mintgreen」。(画像提供:Rie-Came)

こちらの「冬の世界シリーズ2014」は海外のオリンパス公式instagramに掲載されたもの。(画像提供:Rie-Came)

こちらの「冬の世界シリーズ2014」は海外のオリンパス公式instagramに掲載されたもの。(画像提供:Rie-Came)

こちらの新作カメラのテーマはまだ決まっていないそう。「どうしましょうかね。うふふ」。(画像提供:Rie-Came)

こちらの新作カメラのテーマはまだ決まっていないそう。「どうしましょうかね。うふふ」。(画像提供:Rie-Came)

「このシリーズはずっと続けていきたいです。5年10年と撮りためていきたいと思っています。今は自分でデザインしたカメラとお花を組み合わせて撮影していますが、近い将来、他のテキスタイルやデザイナーさんがデザインしたカメラと花を組み合わせたシリーズもできればいいな、と思っています」

そんな目標を語る宇津木さんですが、Rie-Cameを始める少し前まではカメラに触るのも嫌になってしまうほどのスランプ状態に陥っていたそう。しかし、その状況を乗り越えるきっかけを与えてくれたのもやはりカメラでした。

「修理したカメラと向き合った時に自然と『撮りたい。ここに自分がずっとテーマにしていた“もう一つの世界”を表現したい』と思いました。それは、やっと自分が撮りたい物に出会えたと思えた瞬間でした。最初は庭の一輪の花を組み合わせて写真を撮ってみたんです。そんな風にお花とカメラを組み合わせていく中で作品と言えるものが撮れていきました」

スランプの前までは、モノクロの暗い世界を「もう一つの世界」として制作していたそうですが、今の宇津木さんが表現するのは人を癒すことができるような明るく、やさしい世界です。

カメラに向き合うために心の余裕を持つことが大事

「修理やデザイン、作品を撮影する際は、とても集中力を使います。焦りは厳禁」

だからいかに心の余裕を自分の中で作っていくかが大事だと言います。
花を飾ることは生活の一部。

花を飾ることは生活の一部。

例えば、それは朝、アトリエへ向かう前にコーヒーを丁寧に淹れることだったり、季節によって変わる庭に咲く花をアトリエに生けておくことだったり。

「これから使ってくれる人たちのことを考えると、自然と作業も丁寧になりますが、きちんとカメラに向き合うために心の余裕を保つことは常に心がけています」
自然が多く、空も大きく広い。生まれ育った千葉のこの場所が大好きだという宇津木さん。

自然が多く、空も大きく広い。生まれ育った千葉のこの場所が大好きだという宇津木さん。

まだまだやりたいことはたくさん

独立してから2年。最近ようやくRie-Cameとしての生活のサイクルができてきたといいます。忙しくも充実した毎日を過ごす宇津木さんですが、頭の中は次のことでいっぱい。今後は修理の際に余ったカメラパーツを使ったアクセサリーの制作販売や、レストアのワークショップをアトリエで開催することも計画しています。さらにその目線は海外へ。
パーツひとつひとつがとても魅力的な形をしています。

パーツひとつひとつがとても魅力的な形をしています。

「去年、オリンパスの海外サイトで作品を取り上げてもらったんです。そのこともあって、カスタムカメラと写真を組み合わせた展示会を、国内はもちろん海外でも実現していきたいと思っています」

宇津木さんは再び朗らかな笑顔でそう答え、両手に包まれた自慢のわが子を優しく見つめます。その眼差しには未来への希望とカメラへの愛が溢れていました。
Rie-Came|リエカメRie-Came|リエカメ

Rie-Came|リエカメ

カスタムカメラ作家・写真家の宇津木りえさんによるブランド。60年代の小型フィルムカメラをレストアし、オリジナルのデザインを施したカスタムカメラの製作と販売をしている。また、それと平行して「カメラと花」をテーマにした写真作品も発表。宇津木さんが手掛ける優しい世界観にファンが増え続けている。2015年6月から一ヶ月間、西武池袋本店ライカ&カメラスタイルにてカスタムカメラと写真作品を展示する予定。

公式サイト
公式インスタグラム

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