3つの整えメソッド
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正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」

取材・文:仁田ときこ イラスト:小池ふみ

年を重ねるにつれ、少しずつ現れるマイナートラブル。肩こり、片頭痛、便秘、さらには、気持ちが沈みやすくなったり、妙にイライラしたり。病気とまではいかない、心身の不調に悩まされる現代女性は多いもの。そこで、四季のある日本人の暮らしの基盤「衣・食・住」からヒントを得たケア方法「3つの整えメソッド」を提案します。毎回ひとつの不調に対して、日常生活でできる整え方を専門家からアドバイスいただきます。シリーズ連載第5回目の今回は、日本人の多くに自覚症状のある「肩こり」がテーマです。

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2019年11月21日作成

目次

正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
責任が肩にのしかかる、肩に力が入る、肩の荷が下りた……。日本語には肩にまつわる表現が数多くあります。その大半が精神的な負担を表したもの。それほど日本人は肩に負担をかけながら生活をしていることが多いとされています。
実際に、厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、女性の不調の第1位が肩こりで、男性も第二位に挙がっています。そこで今回は、理学療法士として医療や介護の分野に深く携わり、ヨガとピラティスの両方のインストラクターとして活躍する中村尚人先生に、肩こりをピラティスの動きや日常生活で解消する「3つのメソッド」を教えていただきます。

現代人の多くが陥る背骨つぶれ

体の中でも特に筋肉の多い肩まわりは、4つの筋肉から構成されています。重たい頭を支える首や2本の腕の重さが肩に集中するため、普通に暮らしているだけでも肩はこりやすい部分とされています。それに加えて、パソコンと向き合う時間が長かったり、背中を丸めてスマホを頻繁に眺めていたり、前かがみの不良姿勢が多ければ多い人ほど、肩まわりはガチガチに。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
「そんな生活習慣のせいで現代人の背骨はどんどん硬くなり、動かなくなっていきます。姿勢が崩れると本来働いていた筋肉が働かなくなり、体は他の筋肉に寄りかかりながら何とか姿勢を保とうとします。その不良姿勢の代表例が猫背と骨盤の後傾。背中が丸くなり、胸が詰まり、顔が前に突き出てきます。
そんな不良姿勢を続ければ、背骨はどんどんつぶれていき、硬く、動かなくなっていきます。背骨が硬くなると、歩いたり、走ったりしたときに、地面から受ける衝撃を柔らかく受け止められません。首や腰あたりで強い衝撃を受け止めることになり、筋肉にかかる負担が倍増します。これが、首や肩に痛みやこりが発生する原因になっていきます」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」

あなたは大丈夫? 姿勢のセルフチェック

自分では気をつけているつもりでも、いつの間にか悪くなっている姿勢ですが、中村先生いわく、自分の今の姿勢を簡単にチェックできる方法があると言います。肩こりを改善するには、まず自分の姿勢を知ることからスタート!
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
1.壁を使ってセルフチェック
壁を背にして、かかとを5cmほど壁から離して立つ。頭、背中、お尻の3点が付く人は比較的良い姿勢が維持できている人。

2.仰向けでセルフチェック
床に仰向けになり、枕のない状態で体を真っすぐにして寝る。首や肩が緊張する、苦しさを感じる人は背骨がつぶれ、姿勢が崩れている可能性大。

正しい姿勢に導くピラティスのこと

では、「自分の姿勢が悪い」「背骨が硬い」と気づいたら、私たちはどうすればよいのでしょうか?
「重力に対して、伸びればいいんです。特にピラティスは伸び伸びした姿勢づくりに必要な動きが沢山詰まったメソッド。人間の体は姿勢が崩れると筋肉が張ったり、関節がつぶれたりしますが、正しい姿勢を保つことですべての筋肉や関節が良い状態になり、正しく働くとピラティスでは考えられています」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
そんなピラティスですが、マットの上で行うエクササイズという印象からか、日本ではよくヨガと同一視されるそう。しかし、中村先生は、この2つは似て非なるものだと言います。
「ヨガとピラティスは歴史も目的もまったく違います。ピラティスは約100年前にドイツ人のジョセフ・ピラティスが負傷兵のリハビリのために考案し提唱したもので、ニューヨークからアメリカ全土、そして世界に広がりました。特に、ダンサーやトップアスリートらの間で実践する人が多いですね。一方ヨガは約4500年前にインドで生まれた悟りを得るための修行法です。簡単に言うと、ヨガは心を整えるもので、ピラティスは体を整えるものだと思います。だからこそ、ヨガでは必ず瞑想が行われ、自分の根本を見つめ直す時間があります」。

そんなピラティスにも大きく分けて3つのジャンルがあります。ひとつはバレリーナやダンサーなど、体で美や芸術を表現する人がパフォーマンス向上のために筋肉をつけ、体の可動域を広くする目的で取り組むダンスピラティス。もうひとつは、体幹部や腹筋、背筋などを引き伸ばし、骨格のアンバランスを調整して美しいボディラインに導くフィットネスピラティス。最後は、肩こりや腰痛、関節の痛みなど、体の不調を治すことを目的にしたメディカルピラティス。この医療系のピラティスはリハビリ効果が高く、生活習慣の見直しにも役立ちます。

中村先生の『3つの整えメソッド』

【整のメソッド】ピラティスを始める前の、正しい姿勢のつくり方

では、肩こり解消のためのピラティスをぜひ教えてください!
「ピラティスを始める前に、まずは正しい姿勢をインプットすることから始めましょう。それには3つのステップがあるので、プレ・ピラティスとして取り組んでください。3ステップを順番に行うことで体の軸が伸び、背骨のS字カーブも正しい形に導かれますよ」。

ステップ1:頭の位置を決める

「ピラティスの大原則は、エロンゲーション(軸を伸ばすこと)にあります。頭の位置が正しくないと、そのエロンゲーションができません。
正しい頭の位置というのは頭頂が真上を向いているものなのですが、実はこれがとても難しいのです。頭頂が真上に向いたときは、視野が最も広く、首に深い横ジワが入らない状態。下記のポイントに合わせて、頭の正しい位置を見つけましょう」。
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1.視線を上下させて最も視野が広いと感じる位置を探し、そのポジションを正面とする。
2.あごの下に親指を添えて、あごの力を抜く。
 あごは引きすぎると歯の上下に食いしばりが起こり、上げすぎると歯の隙間が空きすぎてあごが緊張する。
3.親指を小刻みに震わせたとき、あごが動いて歯がカチカチと軽く当たればベストポジション。
 できない場合は、顔を少しずつ上下させて、できる場所を探す。上と下の歯の隙間は約2〜3mm空いているのがベスト。

ステップ2:首を伸ばす

「頭を正しい位置にセットできたら、いよいよエロンゲーションのスタート。首をしっかり伸ばしましょう。
プレ・ピラティスでは、骨盤を起点に頭を持ち上げることで軸を伸ばし、正しい姿勢に導きます。すると、姿勢を支えるインナーマッスルの腸腰筋や多裂筋も刺激されます。ピラティスでは耳と肩をなるべく遠くに離し、首を長く保つ姿勢が基本。
人の体は、頭を持ち上げることで肩が自然に下がるようになっています。“肩に力が入るなぁ”と思ったら、首を伸ばすことを意識しましょう」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
1.耳の後ろの出っ張っている骨(乳様突起)に指を添える。
2.息を吐きながら頭蓋骨を持ち上げると同時に、首を長く伸ばす。

ステップ3:胸をほぐす

「プレ・ピラティスの最後は、胸椎(脊椎の一部)を柔らかくするエクササイズ。
胸が硬くなるのは、日々の不良姿勢や座りっぱなしの姿勢が原因です。胸椎の下にある腰椎や上にある頚椎は元々動きやすい所なのですが、胸椎が動きづらくなることで頚椎と腰椎が過剰に動き、これによって肩こりや腰痛が引き起こされます。しっかり胸椎をほぐすことで、肩こりや腰痛の防止に役立ちますよ」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
1.イスに座って両手を頭頂に置き、両肘は視野の範囲内で開く。頭の位置、首の伸びは先ほどのプレ・ピラティスの動きを意識。
2.胸から上をゆっくり大きく回転させる。4周したら逆回し。

【動のメソッド】 デスクワークの合間にできるピラティス

プレ・ピラティスの次はいよいよ本番ですね! 一見敷居が高そうなピラティスですが、初心者でもチャレンジしやすく、デスクワークの合間にできる簡単なものを教えてください。

前面の筋肉にアプローチする『フラット・バック』

「初心者でも取り組めるピラティスは豊富にあります。頭頂が伸び、首が長く保たれ、自由に動ける状態になったら、プレからピラティスへ入る準備も万端。まずは、イスに座ってできるフラット・バックから始めましょう。これならデスクワーク時、肩まわりの筋肉がこわばったり、こりを感じたら、すぐに実践できるのでオフィスでもおすすめです。2種類あるので、ぜひどちらも試してください」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
A
1. イスに浅く座り、両手のひらを合わせて、前から頭上に手を回す。
2. 無理のないところまで背骨を反らせる。ひと呼吸置いたら、手を下ろして背骨も元の位置へ。


B
1.イスに浅く座り、首を長く保ち、肩を下げる。肩甲骨を開き、背中を広くするイメージ。
 骨盤を起こすことを意識する。
2.両手を胸の上にクロスして置き、背もたれギリギリ触れない所まで体を後方に倒す。
 座骨は床下に斜めに突き刺さるイメージで。8秒~10秒ほどキープしてゆっくり戻す。3〜5回繰り返す。

「フラット・バックは胸やお腹、喉につながる体の前面の筋肉にアプローチします。動作の最中、舌は上あごに付けて行いましょう」。

背骨のゆがみを改善する『スパイン・ツイスト』

「次に、背骨の動きを滑らかにして、背骨のゆがみを改善していくスパイン・ツイストを行いましょう。こちらも座ったままできるのでオフィスで取り入れやすいポーズです。上半身をねじり、背骨をゆっくり動かしていきましょう」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
1.イスに浅く座り、足は肩幅に広げる。右手を左胸の上にのせ、左手は水平に開く。
2.反動をつけず、ゆっくりと息を吐きながら、腰から背骨にかけて上半身を左にねじる。
3.目線は体の後ろに、背筋を伸ばしながら。8〜10秒キープしたら息を吸いながらゆっくり元の位置に戻す。
4.反対側も同様に行う。3〜5回繰り返す。

「ねじるときは腰から下を安定させて、グラグラと動かないようにしっかり固定しましょう」。

体幹を鍛える『スタンディング・ロールダウン』

「最後に、背骨をひとつずつ動かしながら、背骨周辺のインナーマッスルも強化できるスタンディング・ロールダウンを行いましょう。立って行うのがポピュラーですが、座って行うことも可能なので、ぜひ仕事時に取り入れて」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
1. イスに浅く座り、足は肩幅に広げる。
2. 息を吐きながら、頭・首・肩の順にひとつずつ背骨を動かすイメージで上体を前に倒していく。
3. 下までいったら重力に従って全身を脱力。
4. 息を吸い、吐きながら下から順番に背骨を積み上げるイメージで上体を起こしていく。回数や長さに決まりはなく、自分のペースでOK。

「お腹は背骨側に引き込みながら動作することで、腹筋も鍛えられます。長時間のデスクワークで滞っていた血流も促されますよ」。

【日(常)のメソッド】日々の生活でできる肩こり予防

日中の、しかもビジネスシーンで実践できるピラティスがこんなにあることに驚きました。では、1日の中で最もリラックスできる入浴時に取り入れられるピラティスはありますか?

リラックスした入浴タイムにつながる『ハンモック肢位』

「入浴時に行うなら、ハンモック肢位がおすすめです。38〜40℃くらいのぬるめのお湯に浸りながら、楽な姿勢でユラユラ行うのでとてもリラックスできます」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
1.体温より2〜3℃ほど高いぬるめのお湯に浸り、頭をバスタブの上にのせる。
2.首の付け根の筋肉が緩んでいる肩側を指で押す。ただし、長湯はせず、20分以内に上がる。

「これはストレスの多い人におすすめのポーズです。肩こりがある人は熱いお湯に入るとよけいにこりが悪化するので、ぬるめのお湯に入りましょう」。

ピラティスの呼吸法

ピラティスを行うときの呼吸で何か気をつけることはありますか? ヨガを行うときは腹式呼吸だと教わりましたが、ピラティスではどうでしょう?
「ヨガとピラティスでは呼吸法が異なります。ヨガは腹式呼吸で副交感神経を優位にしてリラックスすることを重視しますが、ピラティスは交感神経を優位にする胸式呼吸を行います。
胸式呼吸とは、息を吐くときはお腹を締め、吸うときは肋骨がしっかり広がるように胸に酸素を入れる方法。ただし、初心者が呼吸を意識すると肝心のエクササイズが止まりがちになってしまうので、心地よく呼吸を続けることが大切です。心配しなくても呼吸は動きに伴って、自然に行われるもの。

例えば、走れば呼吸が速くなり、歩くとゆっくりになるのと同じ。ピラティスの動きに合わせて胸を開けば息を吸えるし、閉じれば吐けます。姿勢が呼吸をコントロールしてくれるので、まずは動きにまかせて自然な呼吸を行いましょう」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
ピラティスの胸式呼吸を意識したい人は、胸に手に置き、呼吸するたびに空気が広がるのを感じてみましょう。息を吸ったとき、手で胸を持ち上げるとさらに胸式呼吸がスムーズになります。

日常生活で気をつけること

肩こりがひどいとき、肩を押してこりをほぐそうとしているのですが、これには効果があるのでしょうか?
「固くなっている所を押しても肩こりはなかなか改善しません。そのときは一瞬良くなっても普段の姿勢が悪ければ、すぐに肩こりが戻ります。根本治療にはなりません。よく“肩がこったなぁ〜”と言って、首を反らして筋肉が張った状態でツボ押ししている人を見かけますが、これは逆効果。緊張状態の筋肉に刺激を与えてもこりはほぐれません。温泉などで見かける“打たせ湯”も肩こりがひどいときはあまりおすすめしません」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」
「固くなっている所を指で押すときは、首をこっている肩の方向に倒して、筋肉が緩んだ状態のところを優しく押しましょう。筋肉が緩むことでこりはほぐれていきます。
また、さすることも実は効果的。心臓の方向に手のひらで体をさするだけで疲労物質が流れやすくなり、血流が促されます。緊張してこわばった体も緩んでいきますよ」。

年齢を重ねても、ピンと伸びた背筋を目指して

正しい姿勢こそ、肩こりを根本的に治す近道なんですね! いつまでも美しい姿勢を保ちたいと実感しました。
「しなやかな姿勢はピラティスの目指すひとつのゴールです。年を重ねた高齢の女性が優雅にバレエを踊る姿を見たことがありますが、とても美しいと感じました。頭頂から指先、つま先まで美しく伸びている人は、自分の体をきちんと意識している人だと思います。
例えば、歯磨きをしっかり行う人は、歯がどれだけ大切か分かっている人ですよね? 分かっているから、面倒でもしっかり取り組める。姿勢も同じです。自分の姿勢にどれだけ重きを置いているかで、日々の気をつけるポイントが変わってきます。
今ある悪い姿勢やゆがみ、ひどい肩こりは、日々の積み重ねが招いたもの。姿勢を正すピラティスを日常で繰り返すことで、正しい姿勢を形状記憶していきましょう。縮こまりを動かし、ほぐして、ジワジワと可動域を広げていくことで、その継続がきっと健康的で痛みのない体に導いてくれると思います」。
正しい姿勢に整える、ピラティスの動き―11月の不調「肩こり」

プロフィール

中村尚人

株式会社「P3」代表取締役。理学療法士。温泉利用指導者。幼少より身体や心を動かすことに興味を持って育つ。理学療法士取得後、医療・介護分野にて急性期から訪問リハビリなど幅広い臨床経験を積む。クリニックへの転勤を機にヨガに出合い、インストラクターの資格を取得。その後、ピラティスにも興味を持ち国際ライセンスを取得。予防医学の実現化に取り組む。「そるだけでやせる腹筋革命」(飛鳥新社)、「体感して学ぶ ヨガの運動学」(BABジャパン)、「いちばんよくわかる ピラティス・レッスン」(学研プラス)など、著書多数。
タクトエイト of ヨガ・ピラティス|TAKT EIGHT
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Naoto Nakamura(@naoto_nakamura)
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仁田ときこ

ファッション誌やライフスタイル誌で衣食住に関する記事を執筆するライター。万年肩こりに悩まされ、筋力が落ちた産後は原稿の執筆時に肩こりが悪化すると頭痛も併発するように。月に1度は頭痛薬を飲んでいたものの、座ってできるピラティスを実践して頭痛薬とオサラバ中。5歳と7歳の男児を育てる母。
仁田ときこ(@tokikonitta)
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illustrator/小池ふみ

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