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vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

ちょっぴり首をかしげたようなスプーンや、やわらかな曲線を描くカッティングボード。monom(モノム)のうだまさしさんが作る木のアイテムは、その自由な形が人気です。見ているとワクワクし、使っているとうれしくなる作品たちは、この世にたったひとつのもの。埼玉県・秩父の工房に伺うと、うださんご自身の自由さと愛嬌が映し出されかのような、一本のスプーンが生まれる瞬間に立ち会うことができました。(2016年12月22日作成)

写真:岩田貴樹 文:キナリノ編集部

vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

これらのカトラリーや器を手に取ると、そのかわいらしい形に誰もが思わず笑みをこぼしてしまいます。

まるで絵の中から踊り出てきたかのような躍動感ある木のアイテム。定番の形と、ひとつひとつ形が違うスプーンや器。まさにこの世にたったひとつしかないもので、夢中で集めたくなる魅力を持っています。
サーバースプーンやおやつスプーン、カッティングボードはさまざまな大きさ。左から3番目・4番目の定番型のフォークとスプーン以外は、すべてこの世にひとつしかない形です

サーバースプーンやおやつスプーン、カッティングボードはさまざまな大きさ。左から3番目・4番目の定番型のフォークとスプーン以外は、すべてこの世にひとつしかない形です

「定番型以外は、完全にフリーハンドで輪郭を描いてから作っています。シンプルさ、モダンさをめざしている自分も、自由でちょっと愛嬌のある自分も、どちらも自分なんです」

そう話してくれるのは、monom(モノム)というブランド名で作品を作る木工作家、うだまさしさんです。
パッと花がひらいたような笑顔で迎えてくれたうださん

パッと花がひらいたような笑顔で迎えてくれたうださん

その日、埼玉県の秩父にある工房の大きなドアは開放され、冬が交ざった空気が外と地つなぎになっていました。「いい季節に来てくれました。太陽のあったかさを感じる、とってもいい日ですよ」

ひんやりとした空気とは裏腹に日の当たった背中は暖かい工房の中。「何を作りましょう。スプーンにしましょうか」と、うださん。

絵の中から飛び出してきたかのような木のアイテム

取材のために、実際に制作過程をみせてくれました

取材のために、実際に制作過程をみせてくれました

スプーンの元となる木片を機械でカットしたうださんが取り出したのは、鉛筆。うださんのスプーンは、フリーハンドで描かれます。「絵の中から飛び出してきたかのような」という表現は、半分はファンタジーですが、半分はある意味で事実。うださんは、慣れた手つきでサラサラと木片にスプーンを描いていきます。

「こうやって描くわけですよ。頭の中で、コレがいいな、とか、この形いいな、というのを進めます。ほんと、その日、その時々の感覚で」
「どの子にしようかな、と選んでもらえるように」と、それぞれひとつだけの愛嬌を持って描かれます

「どの子にしようかな、と選んでもらえるように」と、それぞれひとつだけの愛嬌を持って描かれます

描かれたスプーンは、いくつかの機械と彫刻刀によって、どんどん立体的に形を成していきます

描かれたスプーンは、いくつかの機械と彫刻刀によって、どんどん立体的に形を成していきます

削られていくスプーンは、どんどんイラストから“スプーン”へと姿を変えていきます。
それぞれ個性豊かな形を有するうださんの作品。作っている最中に「この形は売りものにはできない」と思うことはないのか訊ねると、作業の手をとめ、顔を上げて「あります」と答えるうださん。

「ありますけど、それがね、木のいいところなんですよ。木って、削りなおしができちゃう。すごい変なのができたらとりあえず手元に置いておいて、少し時間ができたときに手直ししちゃうんです。小さくしたり、成型しなおして。それが、木のすごくいいところですね。ほとんど無駄がない」
わずかな加工具合で調整し、口に入れたときにスッと抜けるようにしていきます

わずかな加工具合で調整し、口に入れたときにスッと抜けるようにしていきます

「これが陶芸なんかだと、窯に入れて焼いてみないとできあがりがわからないですよね。畑違いなので予想でしかありませんが、完成するまでに、自分の手から離れて自然に託す時間が大きいんじゃないでしょうか。そういうのとはまたちょっと違うかもしれません。木を扱うということは、多分、距離が近いと思います。木と、僕との距離」

そういってうださんは再びスプーンを削る作業に集中します。その手の中で、スプーンはあれよあれよと輪郭をはっきりさせていきました。
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

「木板の状態からできあがるまで、どんどん形どられていって、それこそ、妊娠して、大きくなって、最後に『子どもが生まれた!』みたいな(笑)。そういう感じかもしれないですね」

うださんは、スプーンやフォーク、そしてお皿を、時々「この子」と呼んでいました。そしてそれらのカトラリやお皿を育てていくのは、わたしたち使い手。ひとつひとつ違うからこそ、使い手もまた、それらを大切にしたいと思うのでしょう。作り手と使い手をこのあたたかい関係性に導く作品を生み出すうださんの人生には、今までどのような物語があったのでしょうか。

「モノと結ぶ暮らし」の原体験が、ブランド名に

vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

うださんがmonom(モノム)として独立してから、現在6年目。独立前は家具工房に勤め、それ以前はテレビのセットなどを作る大道具の会社に勤めていました。大道具の会社では、特番などのためにセットを作り、収録が終わると壊し、また次のセットにとりかかる、というサイクルにせつなさを感じてしまったといいます。

「二年ほど勤めたんですけど、だんだん嫌気がさしてしまいまして。オモテを綺麗に化粧して、ウラはハリボテという大雑把なセットのつくり。そんな中でも、たとえば塗りだったり造形だったり、自分なりに力を入れてやったこともテレビでは細部まで伝わらない。『映るかもわからない、伝わらない苦労だ』と思いました。作っては壊しの連続に、『こんなに苦労して作ったのにすぐ壊されるのか』と。自分が働いている楽しさを感じられなかった。もっと、リアルに直接何かを感じたかったんです」
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

作り上げたものが次々に壊される仕事を繰り返す中、ある日うださんは友人から家具づくりを依頼されます。
「一応ちゃんとお金もいただいて家具を制作したんです。そのとき、これでお金をもらえるんだっていうことに、純粋にすごく喜びを感じたんですよ。いままでにない感動がありました。自分の作ったもので喜んでもらって、お金をいただいて生活できるって最高だなって。で、木の家具などを作っていきたいという方向に頭がシフトしていったんです」
こちらは現在工房でうださんが普段から使っている自作の椅子。三角形の座面がかわいらしい、三本足です

こちらは現在工房でうださんが普段から使っている自作の椅子。三角形の座面がかわいらしい、三本足です

うださんが次に務めたのが家具工房。そこでは会社の仕事と並行し、自分のために作りたいものも制作しはじめました。会社での仕事が終わったあと、そのまま工房を借りて夜遅くまで自分の家に置くための家具などを作っていたうださん。その生活を続ける中で、『もっとこういうものを作りたい』という欲がどんどん出てきたのだそうです。
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

「自分で考えて作っていくのが楽しかったです。会社の仕事って、図面もあってやり方が決められているからやりやすい部分もあるんです。だけど、会社で受けた仕事をやるんじゃなくて、自分で受けた仕事をやりたいという想いが強くなっていきました」

そんな中、あまりにもひとりで遅くまで残っていたため、ある日とうとう心配した当時の社長に「もうあんまり残るのはやめて欲しい」と言葉をかけられます。うださんはそのことをきっかけに、よいタイミングだと独立を決めました。
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

独立の際、名付けたブランド名は「monom(モノム)」という造語でした。これには「モノと結ぶ」という意味があり、うださんが大道具の会社員時代にはじめて友人に家具を制作したときの体験がコンセプトになっています。

「モノで結ぶ、でもいいんですけど。要は、使い手と作り手の関係性の話です。一番最初に僕が感動した、『友達に頼まれて、作って、対価をいただいた』という関係性。家具を通して僕とその友達がつながった。それってつまり、モノと結んだ、結ばれたわけですよ。僕の作ったこのカトラリや器を手とってくれた人たちがそれを使ってくれることって、モノを通してその人と結ばれたような幸福感があります。そういう関係性がmonomにあるコンセプトです」

モノと結ぶ、をコンセプトとしたmonom。作ったものがうださんと友人をつなげてくれた原体験を大切に、うださんは今、自分の作りたいと思うカタチを、「うだまさし」という自分の名前を背負って生み出しています。

自由でいることへの挑戦

手彫りのボウルに、サンカク小皿。左の三角形には「ホシ皿」、右下のものには「ツキ皿」というかわいらしい名前も。カトラリーやカッティングボード同様、お皿もフリーハンドで描かれたカタチがたくさん

手彫りのボウルに、サンカク小皿。左の三角形には「ホシ皿」、右下のものには「ツキ皿」というかわいらしい名前も。カトラリーやカッティングボード同様、お皿もフリーハンドで描かれたカタチがたくさん

「モノと結ぶ」というコンセプトのもと生み出される作品の特徴を伺うと、こんな答えが返ってきました。

「決まった形というのがそこまで好きなわけではなくて、自由な気持ちで作ってるんですね。なので、形も自由な感じになる。ひとそれぞれいろんな好みがありますから、使ってくれる人が、どれがかわいいと思うか、どれを欲しいと思ってくれるか、それぞれにゆだねる。同じものをきっちりと作って、シンプルで実用的で、価格も抑えてプロダクトとして成功してるっていうものはほかにお任せして。何十年も作り続けてきた職人さんにはもちろん敵わないですし、僕はそれとは別の……気持ちみたいなものを含めた提案という感じです。グッとくる感じというか。そういうものを、自由なカタチを作ることで届けたい」

「生き方もそうだけど、”自由”って難しい」

vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

「フリーハンドで描いて形づくっていくことで、“挑戦”をしているのかもしれません」
そういってうださんは、言葉を選びながら続けます。

「“自由”って、生き方もそうですけど難しいじゃないですか。決まったスプーンの形を型で作るのも、生き方を型にはめるのも、多分ラクだと思うんですよ。『自由にしていいよ』っていわれると何していいかわからなくなる。型をいくつか作れば、同じ形のものをずっと作れるんですよ。だからフリーハンドって、うまく出来上がってしまえば、あ、いいのできたなって思うんですけど、反対に、型があればよかったなって思うときもあります。でも、僕はそれも含めてを自分で決めていくのが楽しいというか。そこに喜びを感じているのかもしれないです」
最近引っ越したばかりのご自宅。大道具を作っていたときの経験を活かし、一軒家を自らリフォームしながら、奥様とお子さんの3人で暮らしています

最近引っ越したばかりのご自宅。大道具を作っていたときの経験を活かし、一軒家を自らリフォームしながら、奥様とお子さんの3人で暮らしています

家の中には、いたるところにうださんの作品と、ご自身や奥様があつめたものが置かれていました

家の中には、いたるところにうださんの作品と、ご自身や奥様があつめたものが置かれていました

想いを込めて、自然体で

たくさんのものがあふれ、たくさんの選択肢と暮らし方がある中で「この子だ」と選べる楽しさを提供しているうださん。選ぶという体験のうえで、「ものを大切にする」というとてもシンプルなメッセージも伝えられればいいと話してくれました。

「想いの入ってないものは、捨てちゃったり使わなくなったりするけども、やっぱり、“長く使う”ことのよさを伝えたい、と思っています。特に、木って変化するんですよね。大事に使ったほうが楽しいですよ、それもいいもんですよ、ということ。だから、どうせ新たにものを迎えてくれるんだったら、大事に使ってね、というか。新しいものを買うことももちろんあると思うけれど、たまに出して使うとか、手入れをするとか。ちょっと頭の片隅にとどめといてもらえたらいいなって」
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

もちろん作り手が使い手にものとの付き合い方を強制することはできません。使い手は、どんな気持ちでどんな使い方をするのも自由です。しかし、「もの」の奥には作った人がいるという事実を意識するだけで、ものに対する考えかた、ともすれば暮らし方まで変わるかもしれません。

「家にあるテーブルも、カーペットも、すべてのものには奥があって、それを作った人がいますよね。でもどうしても、工場で作ったものは、作り手の顔が見えにくいじゃないですか。だから、僕のようなやり方だったら、わかりやすいかな、想いも込めやすいかなって思うんです」
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

大道具からはじまり、家具工房に勤め、そして現在は主にカトラリー・器といった小さなものを作っているうださん。その人生は、どんどん方向性を定める一方、しかしますます自由になっているように見えます。独立してからある程度の時間も経った今、作家という立場ややり方が向いていると思うかをあらためて尋ねると、うださんは躊躇なくまっすぐに答えます。

「すごく向いてますね。結果論ですけど、向いてました。今、とても自然体なんです。作っていても、気持ちや調子がよくないときって変な形しかできないんです。だから日々、いかに気持ちよく暮らすかに気をつけていたりもしますね。無理をしないほうがよりいいものができると思ってるので、すごく今いい感じに作れていると思います」
人気のフラワーべース「壁掛けサンカク」。生花もドライフラワーも、額に入ったようにかわいらしく壁に飾れます

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新しい章へ

最近、うださんの家族には小さな男の子が生まれました。
「まさに新しい章のはじまりです」と、うださんはにっこり笑います。

ちいさなこどもにひとつの世界があるように、うださんの手から生まれたスプーンもまた、ひとつのちいさな世界を持っています。奇跡のように、生まれたカタチ。その世界の密かな純粋さは、こちらの気持ちまでワクワクさせ、強く自由にしてくれる気がします。
新しい自宅から望む景色。近く、工房もこちらの自宅の敷地内に引越し予定です

新しい自宅から望む景色。近く、工房もこちらの自宅の敷地内に引越し予定です

さて、スプーンを形づくる最後の工程。
さっきまで木片でしかなかったスプーンをナイフで加工しながら「今日みたいないい天気の日は結構はかどりますね」と、うださんはいいます。

「気持ちがいい。ラジオ聴きながらのんびりと、この時間が好きです。なんか、楽しいです。春になったら山桜も咲きますよ」
vol.52 monom うだまさしさん-自由な形が愛おしい。暮らしをワクワクさせる、木のアイテム

ナイフで削られていくスプーンは、目で見るだけで、その手触りがスベスベしていくことがわかります。「ここは、みなさんが口に入れるところなので」といって、口をつぐんで仕上げの作業を続けるうださん。スルリとナイフを当てると、次の瞬間には木肌が光ってなめらかに。カリ、カリ、ザク、ザク、とカタチづくられる木の音が、秩父の山に静かに吸い込まれていきます。
うださんは最後にじっとスプーンを見つめ、「完成ですね」とつぶやきました。

(取材・文/澤谷映)
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うだまさし・monom|うだまさし・モノム

卯田 真志。1983年秋田県生まれ、千葉育ち。千葉県立市川工業高校インテリア科入学。初めて家具とデザインを知る。その後、ディスプレイデザインや舞台美術を学び、大道具会社に入社。特注家具を作る家具工房で勤務した後、鍛錬を重ねるため、城南職業訓練校にて学ぶ。2011年秋 、monomとして活動を始める。現在は、展示会やクラフトフェアを中心に、木の器・カトラリー・カッティングボード、ランプなど暮らしにまつわるものを制作しています。

monom公式サイト
monom公式インスタグラム

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