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土屋鞄製造所-日々を重ねる革財布 [前編]

写真:岩田貴樹

この連載では、作り手のこだわりが詰まった美しい「名品」のストーリーに迫ります。第一回目は、長い月日を共にするランドセルを半世紀以上にわたり作り続けてきた「土屋鞄製造所」。毎年この季節になると、多くの親子が今か今かと真新しい“相棒”の到着を心待ちにしています。子供だけでなく、大人になった私たちの日常にも寄り添ってくれる彼らの製品。今回は、昨年の総合売上1位となった革財布「ディアリオ ハンディLファスナー」の開発秘話を中心に「大人のための土屋鞄」のお話をお届けします。

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2022年03月09日作成

多くのアイテムから選ばれた“昨年一位”の財布とは?

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土屋鞄製造所-日々を重ねる革財布 [前編]
鞄から財布、最近ではインテリア小物まで。ランドセルから始まった土屋鞄の製品は、年々その幅を広げてきました。ブランドの入り口として手にする人も多い財布だけでも、60種類以上。なかでもこちらの「ディアリオ ハンディLファスナー」は、昨年、メンテナンス製品を除き販売数1位となった人気アイテムです。
ディアリオ ハンディLファスナー(写真:土屋鞄製造所)

ディアリオ ハンディLファスナー(写真:土屋鞄製造所)

電子マネーの普及で現金を持ち歩く機会が減り、どのブランドでもコンパクト財布の需要は年々高まっています。ディアリオのLファスも手のひらにしっくり馴染むサイズ感。尻ポケットに入れることが多い男性にも、手が小さい女性にも幅広く支持されているのもうなづけます。しかし、小さなお財布は気軽に持ち運びしやすいものの、どうしても小銭の出し入れが不便なイメージが……。そう思いながらファスナーを開けると、視界に飛び込んできたのは大きな中央ポケット。何が入っているか一目瞭然、笹マチ付きで底も浅めなので、さっと小銭を取り出すことができる動作のスムーズさに驚きます。
小銭は中央のポケットに、紙幣は二つ折りでサイドに。カードも必要最低限なものは充分に収納できる(写真:土屋鞄製造所)

小銭は中央のポケットに、紙幣は二つ折りでサイドに。カードも必要最低限なものは充分に収納できる(写真:土屋鞄製造所)

バッグと財布、各6型がラインナップされている「ディアリオ」。プレーンなデザインと使うほど味わいを増すレザーが魅力(写真:土屋鞄製造所)

バッグと財布、各6型がラインナップされている「ディアリオ」。プレーンなデザインと使うほど味わいを増すレザーが魅力(写真:土屋鞄製造所)

今年2月には限定色のタンとブラックが発売された(写真:土屋鞄製造所)

今年2月には限定色のタンとブラックが発売された(写真:土屋鞄製造所)

シリーズ名の「Diario(ディアリオ)」は、イタリア語で「日記」という意味。使用されている「オイルメロウレザー」は使うほどに色濃く、つややかに、使う人のライフスタイルによってそれぞれ個性的な表情に変化します。豊かなエイジングは、その名の通り日々の自分を重ねていく日記のようです。土屋鞄でも「特に好き!」というスタッフが多く、財布だけでなくバッグも愛用者が多いのだとか。
デザイナーの舟山真利子さん。美大でテキスタイルを学んでいたころもあり、土屋鞄のものづくりに興味をもち、2005年に入社

デザイナーの舟山真利子さん。美大でテキスタイルを学んでいたころもあり、土屋鞄のものづくりに興味をもち、2005年に入社

同シリーズのデザインを手がけたのは舟山真利子さん。2015年に発売して話題になった「OTONA RANDSEL」をはじめ、土屋鞄の新しい顔となる数多くのアイテムを生み出してきました。製品を隅々まで撮影していると、「ふだんなかなか写されないところを撮られて、恥ずかしそう(笑)」と我が子を見るようにつぶやきます。
デザインは不織布や紙の模型を動かしながら作っていくことが多い。「『ひとつ開ければもうおしまい』という感じで(笑)、マジックじゃないですけど、そういった原理も利用したくて」と舟山さん

デザインは不織布や紙の模型を動かしながら作っていくことが多い。「『ひとつ開ければもうおしまい』という感じで(笑)、マジックじゃないですけど、そういった原理も利用したくて」と舟山さん

二度のリニューアル!「ディアリオ」の歴史

ディアリオシリーズの元祖、「ユニック」の革タグ(写真:土屋鞄製造所)

ディアリオシリーズの元祖、「ユニック」の革タグ(写真:土屋鞄製造所)

長い土屋鞄ファンの方はご存じかもしれませんが、実は二度のリニューアルを経て現在の形になったディアリオシリーズ。初代の「ユニック」は、土屋鞄製造所の京都店オープンを記念して誕生したシリーズです。ナチュラルスタンプと呼ばれる傷やトラなどを色濃く残し、ひとつひとつの表情も違うため、京都店限定で販売されていました。それでも人気は高く、廃盤となった今でも古くからのお客さんに愛されています。大型コレクションとしては、これが舟山さんの鮮烈(!)デビュー作でもあります。
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土屋鞄製造所-日々を重ねる革財布 [前編]
「単に私が社内デザイナー第一号だったってこともあるんですけど(笑)。当時、それぞれのお店らしいアイテムを考えようということで、ユニックが生まれました。京都は古きよきものを大切にしつつ、変化を楽しんでいる街でもありますよね。だからユニックも、それまで土屋鞄が大切にしていた革本来の味わいがもっと顕著に出る革を使って、『ナチュラルな革を自分色に染めていく!』というコンセプトで。実物を見て、しっかりご説明したうえでお気に入りを選んでいただけるのは、店舗限定販売ならでは。接ぎや凝ったデザインもあまり入れず、革を味わってほしいという気持ちで作りました」

革の個性をそのまま活かしたユニックは、人と同じように皮膚の表情が違っているからこそ、同一製品として長く作り続けるのが難しくなってしまうという面も。「突出した味わいの変化を楽しんでほしい」という当初の目的に回帰するため、誕生から6年後の2014年、「ユニック」は「ユニックリベルタ」として生まれ変わります。前シリーズの好評を受け、今度は全店舗での販売を開始。その後、品質面も検討しながら、より安心して使ってもらえる素材を追求し、現在の「ディアリオ」にたどり着いたと、舟山さんは話します。
ディアリオのLファスを4年半使用したもの(写真右)。深みのある表情に育っている

ディアリオのLファスを4年半使用したもの(写真右)。深みのある表情に育っている

「リベルタが悪かったということでリニューアルしたわけではなくて。あれはあれで突出した色や艶が出て、経年変化をとても楽しめるシリーズでした。でも、やっぱり販売する中で大変な部分もあって。リベルタのよさを活かしつつ、時代やお客様の声を反映した結果、現在の形になりました。今の『ディアリオ』を作るときも、社内でもかなり意見が割れて、何度も話し合ったのを覚えています。10年以上ロングセラーで販売していく以上、一度作って終わりではないので。やはりがっかりせずに喜んで使ってもらうために、自分たちにとって素材の選定はすごく重要ですね」

手間を惜しまない、きめこまやかな縫製などはもちろんのこと、土屋鞄の最大の魅力は素材の力強さ。レザーフリークたちをもうならせる品質に辿りつくまでには、気が遠くなるような長い時間がかかります。タンナーと何度も話し合い、紫外線や摩擦、色落ちなどの試験を経て、ようやくスタッフ全員で胸を張れる素材が完成するのです。
ディアリオシリーズに採用されているオイルメロウレザー。奥行きを感じる色味の秘密は、丹念に塗りこまれたオイル。さまざまな条件で仕上がりのカラーに差が出てくるため、オイルを重ねる工程で微調整をしながら丁寧に仕上げられている(写真:土屋鞄製造所)

ディアリオシリーズに採用されているオイルメロウレザー。奥行きを感じる色味の秘密は、丹念に塗りこまれたオイル。さまざまな条件で仕上がりのカラーに差が出てくるため、オイルを重ねる工程で微調整をしながら丁寧に仕上げられている(写真:土屋鞄製造所)

ディアリオの製品は、しなやかな柔らかさがあり使いやすい。ほどよいハリの秘密は、原皮となる北米産のステア(満2歳以上の牡牛)。放牧されているため筋肉がついており、繊維が締まっているのが特徴(写真:土屋鞄製造所)

ディアリオの製品は、しなやかな柔らかさがあり使いやすい。ほどよいハリの秘密は、原皮となる北米産のステア(満2歳以上の牡牛)。放牧されているため筋肉がついており、繊維が締まっているのが特徴(写真:土屋鞄製造所)

「やっぱり『これが土屋鞄としてかっこいい革だよね』っていうのは大前提としてあります。しっかり鞣されている革じゃないと、使っていくうちにヨレヨレしてしまうことがある。ほどよいコシが残って、長く使っても品よく持っていただけるような革選びをしていますね」

素材を活かす「機能とデザイン」の関係

今年で入社10年目になるという広報の山田智子さん

今年で入社10年目になるという広報の山田智子さん

舟山さんの傍らで、「革がほぐれたときの姿も格好いいんですよ」と愛用しているバッグを見せてくれた広報の山田智子さんは、「素材を活かす形も土屋鞄ならでは」と話します。新しい型を投入するときに、素材と同じくらい議論になるのが機能面のことなのだそう。

「初代のユニックのときに、『中身が見えてしまうのでトートバッグに天マチ(蓋)をつけてほしい』というお声が結構あったんです。あとは、社内でも『内装を貼ったほうが革の裏地も見えなくてきれいなんじゃないか』って意見も。でも、それを実現したら製品の良さがなくなってしまうんですよね。良い意味で作りっぱなしというか、天マチがないことで開け閉めしなくていいという使いやすさにも繋がるし、裏まで見えて一枚革の迫力が伝わるから、その案は違うよねって。当時かなり検討していましたね」
山田さん愛用の「レザーキャンバス2wayショルダー」。素材や形の品の良さはそのままに、ちょうどよく肩の力が抜けて雰囲気が出ている

山田さん愛用の「レザーキャンバス2wayショルダー」。素材や形の品の良さはそのままに、ちょうどよく肩の力が抜けて雰囲気が出ている

「使う人のことを考えたものづくり」は、希望をすべて盛り込むこととイコールではありません。経年変化した素材が物語るように、100人いれば、100通りの日々の重ね方があるもの。土屋鞄の製品が男女問わず受け入れられているのは、シーンやイメージの型にはめられない心地よさを感じるからかもしれません。セカンド財布や小物入れとしても活用されている “Lファス”にも、その心意気が表れています。デザインにはどんな工夫が込められているのでしょうか。
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土屋鞄製造所-日々を重ねる革財布 [前編]
「自分で好きな使い方ができるような、余白のあるデザインを提案したかったんです。使いやすい機能をどんどん追加していったら同じようなものしか生まれない。たとえばカード段は、たくさんあればあるほどそこに差し込めるけど、厚みが出てしまったり、カードを持たない人にとっては不便を感じてしまう。このアイテムが多くの人に支持されたのも、お客様ご自身に使い道を決めてもらえるという機能面をプラスに思っていただけたんじゃないかなと思っています。あとは、作り自体はシンプルなんですけど、長く“品よく”持ってもらうために、職人の手間と技術が詰まっているんです!ということを、最後にお伝えしておきたいです(笑)」
透明感があり美しいコバの処理は特に高く評価されている。やすり掛けで表面をならし、布で磨き、革を薄く漉いて断面を調整することも。複数のパーツが重なりながらも一枚の革に見えるよう様々な工夫が凝らされている

透明感があり美しいコバの処理は特に高く評価されている。やすり掛けで表面をならし、布で磨き、革を薄く漉いて断面を調整することも。複数のパーツが重なりながらも一枚の革に見えるよう様々な工夫が凝らされている

最適なミシンや針の大きさを選びながら魂が宿ったステッチが完成。ミシンの抑えで固定しにくい小さな引手は、職人泣かせのパーツでもある。毎日開け閉めするファスナーは特に神経を使うパーツ。左右の“ムシ”にずれが生じないよう、目と指先の感覚で、木型の上にひとつひとつ張り込んでいく

最適なミシンや針の大きさを選びながら魂が宿ったステッチが完成。ミシンの抑えで固定しにくい小さな引手は、職人泣かせのパーツでもある。毎日開け閉めするファスナーは特に神経を使うパーツ。左右の“ムシ”にずれが生じないよう、目と指先の感覚で、木型の上にひとつひとつ張り込んでいく

デザインのポイントにもなっている補強のステッチは手縫いで、糸止めを結びしっかりと中に押し込む。この手間を怠ると糸のほつれなど初期不良にもつながる

デザインのポイントにもなっている補強のステッチは手縫いで、糸止めを結びしっかりと中に押し込む。この手間を怠ると糸のほつれなど初期不良にもつながる

舟山さんにご自身のことについてたずねると「引き続き楽しんでもらえるものを作り続けたい」ととてもシンプルな答え。しかし、職人のことになると、いっそう話に熱が入ります。その気持ちに応えるように、作り手はまた、指の先まで魂を込めるのです。

(取材・文=長谷川詩織)
>>インタビュー後編はこちらから

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