素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ
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素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】

写真:松木宏祐 ヘアメイク:草場妙子 文:キナリノ編集部

「素敵なあの人は、なんでおしゃれなんだろう?」――この疑問をご本人にぶつけて、おしゃれのあれこれを聞く連載の第11回目。今回はモデルの前田エマさんにお話を伺いました。 前編では、自身のおしゃれの基本や大切な洋服についてのエピソードを伺いました。独自の感性でおしゃれを楽しむ前田エマさんの「あれこれ」をどうぞ。

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2019年04月08日作成
【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
モデル、エッセイ、ペインティング、写真、ラジオパーソナリティ、朗読など、挙げればきりがないほどさまざまな活動をしている前田エマさん。
豊かな感性で、ジャンルレスに活躍されています。
さまざまなものに興味を持つ彼女は、どのように洋服やおしゃれと向き合っているのでしょうか。

子どもの頃にできた「おしゃれの基本」

「わたし、人の名前や顔は全然覚えられないけど、昔から服のことだけは覚えていられるんです。服を見れば、その人のことを思い出せる。小さな頃から、家に帰ったらその日見た人の服装を絵に描くのが好きでした。絵本、漫画、テレビで見たアイドルの服も覚えていて、自分なりに描く。その時からおしゃれが好きというよりは、とにかくモノとして洋服が好き。細かいところまで、全部記憶できました。特技というか、癖でもあります。」
【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
おしゃれよりも先に、おしゃれを構成する「洋服」に興味を持ったというエマさん。
中でも深く影響を受けた本やぬりえを見せていただきました。

「今日持ってきた絵本の『すばらしい季節』は四季によって変わる女の子の服装にすごく影響を受けました。スカーフを頭からかぶって巻く“真知子巻き”や、ワンピースの下にかぼちゃパンツを穿く、などの着こなしを真似して描いていました。この頃の影響がとても大きくて、オーソドックスでガーリーなスタイルがわたしにとっての“おしゃれの正義”です。」

アメリカの絵本作家タシャ・チューダーによる『すばらしい季節』は、農場に暮らす小さな女の子サリーが主人公。四季のうつろいとともに変化するサリーの服装が、強く印象に残っているそうです。
他にも、鮮やかな青色の表紙が目をひく絵本『マザー・グースのうた』、懐かしくも愛らしい『きいちのぬりえ』を持ってきていただきました。
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「『マザー・グースのうた』も、好きです。とてもカラフルなのに品がある。セーラーカラーのワンピースを見たときは、外国の子どもはこんなにかわいい服を着て学校に行けるのかなあ…と憧れていました。『きいちのぬりえ』もわたしにとってすごく重要。“お散歩に行くときに着る服”“水遊びをするときに着る服”など行く場所や季節によって洋服を替える、ということをこのぬりえから学びました。」

小学校に上がる前に触れたという、エマさんのおしゃれの基礎を作ったのが絵本やぬりえ。かわいい洋服や、シーンに合わせたコーディネートなどのちょっと“おませ”な世界観に魅せられていたそうです。
そして、小学生からは、あるアニメに夢中になりました。

「『カードキャプター さくら』にすごくはまっていました。主人公のさくらちゃんが戦うときのコスチュームは毎回違う。しかも、親友の知世ちゃんによる手作りなんです。毎週アニメの放送を観終わると、すぐに落書き帳に描いていました。」
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【服を覚えて絵を描く】ということは、エマさんにとっては“好き”を超えて小さい頃から当たり前の習慣。
今も、街で見かけた素敵な人の服装を日記に描いているそうです。
そして、エマさんの子どもの頃の写真には、絵本やアニメから出てきたようなワンピース姿が写っていました。

「母や祖母が“オーソドックスなかわいい”服が好きで、よく着せてくれました。今でも刺しゅうやフリルなどを好きなのはこの頃の影響です。」

絵本・ぬりえ・アニメと、その頃着せてもらっていた洋服たち。
すべてに共通するのは、フリルやレース、Aラインシルエットなどの普遍的な“かわいい”を象徴するようなものだということ。
それらに抱いたときめきが、大人になった今でも強く残っているそうです。

自分の本当に好きなものを見つける

高校生の頃、美術大学に進学するための予備校に通っていたエマさん。
多種多様な服装を楽しむクラスメイトたちから影響を受けて、自身も個性的な格好をすることはなかったのでしょうか。
【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
「みんなすごいんですよ。金髪でフリフリの服を着て、〈キャサリンって呼んでね〉って言ってくる女の子や、毎日網タイツを穿いている子とか。個性が強い人をたくさん見たときに、本当に好きなものを自分で見つけなきゃいけないと強く思いました。それで、“自分にしっくりくるものはなんだろう?”と考えたら、子どもの頃読んでいた絵本や漫画、着ていたワンピースなどに出てくる“オーソドックスにかわいい”メルヘンな雰囲気だったんです。」

周りに影響されることはなく、むしろおしゃれに対する姿勢を強く実感したそう。
ここで、エマさんのおしゃれ観が決まりました。

「ずっと好きなものが変わりません。いまだに中学生の頃の服を着たりするし、全然趣味がぶれないです。黒歴史がない。(笑)これからも変わる可能性があんまりない気がしますね。」

歴史を紡ぐことができる服

今日の撮影のために用意していただいた服は、すべて“歴史を紡ぐことができる服”というテーマで選ばれたワンピース。それぞれに思い入れとエピソードがあります。

『iai(イアイ)』のワンピース

「『she is(シー イズ)』というウェブサイトで、生活を通して服と人がどのように関わっているのか、を考える連載をしていて、『iai(イアイ)』の服を取り上げました。京都の山奥で暮らす、わたしと歳が同じくらいの男の子がやっているブランドです。この服は彼らが益子で展示会をやっていたときに手に入れました。」

知り合いが『iai』の服を着ていたのを見て興味を持ち、購入。そして彼らの暮らす村まで会いに行ったそう。
行動力に驚きますが、どんなところに興味を持ったのでしょうか。

「東京に住んでいたこともある彼が、京都の山奥に移って洋服を作り、それが東京や他の場所にいる人の手に渡っていくということが興味深くて。しかも、一点一点手作りでデザインも違い、同じ服はないのがすごいと思います。」
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独学で服作りを習得し、パターンを用いずに1点ものの服を作る。
生活に根ざした服を独特の方法で作る彼らとの交流を通して、エマさんは「着ること」について考えました。

「同時代を生きている作り手の服を買うということはコミュニケーションだと思います。おもしろい服を作る人がたくさんいる時代に、彼らの考えなども直接聞くことができる。だから、なるべく作り手がわかる服を着たい。作り手と自分、それぞれの物語が同時に進んで行くような感覚です。洋服を買って自分だけで完結するのではなく、作り手の彼らも別の場所で今生きている、ということを時々思い出して物語が広がることが楽しいと感じます。」

作り手と交流し、作られた背景を知る。1点の洋服と向き合うことを「物語」と表現する姿勢は生活必需品としての洋服というよりもアートなどの作品を扱っているかのようです。

「本当に、そんな感じです。わたし、おしゃれが好きというよりは洋服にただよう物語が好きなのだと思います。物語を知りたいし、自分と洋服との物語を作りたいから着ているのかもしれません。」

『Arts&Science(アーツアンドサイエンス)』のワンピース

【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
黒のシンプルなワンピースは『Arts&Science(アーツアンドサイエンス)』。
ボリュームのあるパニエや付け衿でガーリーにまとめつつ、ハードな印象の『Dr.Martens(ドクターマーチン)』のレースアップブーツではずしています。

「ひとつの服にいろいろな表情をつけるのが好き。黒いワンピースは着回せるので、たくさん持っています。シンプルなワンピースでも、中にパニエを合わせると表情が変わります。パニエのボリュームによってデイリーとパーティーで使い分けできますし。今日のパニエは竹下通りのロリータショップで買いました。合わせるアクセサリーや小物によって自分らしくなるし、その日のシチュエーションによって変えられるのが面白いと思います。」

ブラックコーデにひときわ映えるニットの付け衿は、自身による手編み。

「最近、欲しいと思ったものを自分で作ることにはまっています。元から手芸が好きだったけど、また好きになってきました。母の中学校からの親友が編み物のプロなんです。幼い頃から作りたいものや欲しいものができたときに彼女に相談すると、一緒に作ってくれます。」
【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
子どもの頃から洋服の絵を描くのが好きで、欲しいけれど売っていないものは自分で作る。それならば“ファッションデザイナーになりたい!”と思うようになりそうですが、エマさんは違ったようです。

「服は好きだけどデザイナーになりたいと思ったことは一度もなかったし、漫画が好きだけど漫画家になりたいと思ったこともなくて。頭の中に妄想していたものを作れたら楽しいだろうな、とは思うのですが、自分が欲しいものを自分のために作ること以外には興味がないです。」

そんなエマさんが“自分が着たいワンピース”を手に入れるために計画していることがあります。

「今、洋裁教室に通おうと思っています。作るなら、まずはわたしの定番である赤いワンピース。夏用の真っ赤なワンピースってなかなか売っていないんですよ。シフォン素材の黒いワンピースとか、セーラーカラーのものなど他にも作りたいものはたくさんあります。」

作って着たい服はたくさんあるというエマさんですが、自分でブランドやりたい、とはあまり思わないのですよね?

「そうですね。でもコラボアイテムとかを周りのモデルさんとかがやっているのを見ると面白いですよね。その人の普段のこだわりみたいなのがつまっていて。そういうことならやってみたいなと思います。」

譲り受けたワンピース

「歴史を紡ぐことができる服」というテーマをもっとも表しているのが、お母さまから譲り受けたという赤いワンピース。
背中に行儀良く並んだくるみボタンがポイントのワンピースは、時を経ても古さを感じさせない普遍的な魅力があります。
【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
「昔は自分が着たい服は仕立ててもらっていたと母や祖母から聞きました。しかも、発表会やパーティー、入学式のスーツなど目的に合わせてオーダーしていたそうです。そういうことも含めて、当時の母や祖母の物語を受け継いでいくような感覚がすごく嬉しいです。」

【連載】素敵な人に聞いた「おしゃれ」のあれこれ vol.11-モデル 前田エマさん【前編】
今日着ているワンピースも、叔母さまが20代の頃に着ていたもの。大学でダンスを専攻していた叔母さまが、研修旅行でヨーロッパに行くために買ったものだそうです。

「叔母はあんまりおしゃれに興味がある人ではないのですが、こんなにかわいい服を彼女が着ていたのか、と思うと不思議な気持ちになります。くるりとまわると裾がすごく広がるデザインなので、これを着てダンスしていたのかな、と想像するのがとても楽しいです。」

「自分一人のものでなくて、いろんな人と関わっていけることが服が持つ面白さだと思っています。」というエマさん。
自分の好きなおしゃれがはっきりと決まっているけれど、“歴史を紡ぐ”という広い視野で洋服と向き合っているところが印象的でした。
後編では、引き続き独自のおしゃれ観を伺いつつ、実生活でのバランスの取り方などもお話しいただいています。
後編も、どうぞお楽しみに。

(取材・文/金美里)

前田エマ(モデル)

1992年、神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持つ。
雑誌や広告のモデルをはじめ、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、さまざまな分野で活動中。現在は雑誌・ウェブの連載でエッセイを執筆中。ラジオパーソナリティにも挑戦している。
Emma Maeda 前田エマさん(@emma_maeda)
前田エマさんのインスタグラム
後編はこちら>>

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