たっぷりと言葉の間合いをとりながらそう話してくださるのは、アクセサリーブランド「lito ao(リトアオ)」の制作・デザインを手掛ける青木敬子さん。
「聴いたら元気が出る曲とか、ストンと腑に落ちるたった一言とか。リトアオは、使ってくださる人にとってそんな“整える”存在でありたいと思いながら作っているんです」
今回は、身なりと一緒に気持ちも整う、そんなアクセサリーブランドのお話です。
異素材づかいがおもしろい、リトアオのアクセサリー
ご自宅の様子。居間には青木さんが集めた郷土玩具や北海道の民芸品、オブジェなどが行儀よく飾られています
それぞれの素材が直線や丸、四角や三角にかたちづくられ、組み合わさったそのバランスは、繊細なようでいて不思議な安定感。異なる素材をひとつのアクセサリーにまとめることで、独特のリズムが生み出されています。
青木さんは、デザイン、制作、運営をすべておひとりでおこなっています
「ほんとにいっさい、アクセサリーはつけなかったんですよ。ピアスなんかも、穴は空いていたんですけどふさがる寸前で。むしろさらっと洋服だけを着てるのがっこいいんじゃないかと思っていたんです。でも、こういうものだったら自分でもつけたいな、とか、そういう思いが出てきて」
「自由度が高いというか、アクセサリー然としていないというか……。オブジェとしておもしろい、といってくださる方なんかもいて、それはもう、本望です。私も、作っているとき楽しいんですよ。組み合わせを考えたりする感じがワクワクするかな」
そういいながら、青木さんはインタビューの間もパーツを組み合わせ、ネックレスやピアスを作り出していきます。
ピアスの「mimikazari」シリーズ。それぞれ素材の組み合わせが異なります
ブランド名は「理(リ)」と「青(アオ)」
青木さんは懐かしそうに思い出しながら、今のブランド名につながる当時のエピソードを話してくれます。
「低学年くらいかな、同級生に『凜ちゃん』っていう女の子がいて、かわいいなあって思っていて。当時は子どもですから、今みたいに『凜とする』とかっていう意味はわかってなかったんですけど、“りん”っていう音が気になって。とても素敵な子で、今思えばそのころから“り”という字が好きでした」
気持ちを整える、という意味の「理(リ)」
「“理”という字は、哲学的な意味を学ぶと頭がパンクしそうなくらい奥深い意味を含んでいるんですけど、リトアオのアクセサリーは、どうしても気分があがらないとか、今日の仕事ちょっといやだな、っていうときに、『これをもってたら元気出るんだ』っていう、身なりと同時に気持ちも『整えてくれる』ものにしたいなあ、と。恋人だったり家族だったりもきっとそうですよね。そういう存在になりたいと思ったんです」
「それから、“理”には『“こうあるべき”をなくす』みたいな意味も含まれていて、すごくいい字だと思いました。私、洋服がとても好きなんですけど、着たい服と、絶対着ないけど持っておきたい服とがあるんです。たとえば料理にしても、味を楽しむときもあれば、コミュニケーションツールとして楽しむときもありますよね。リトアオのアクセサリーをオブジェとして楽しんでくれる方がいるのも嬉しいとさっきいいましたけど、それはひとそれぞれの見かたや発見があることのおもしろさを感じるから。そういう意味で『ああ、いいなあ』って思うんです」
「こうすべき」や「こうあるべき」に縛られてしまったとき、きっとリトアオのアイテムたちは、そうでなくても大丈夫だとそっと背中に手を添えてくれるのです。
こちらは「tou(トウ)」という名のネックレス制作場面。直線に切り出した木材や、まん丸に焼いた陶など、自由な発想の組み合わせです
「リトっていう音も、ライト(光)とか、なんとなくちょっと明るいイメージでつけたというのもあるんです。……でもまあ、“コンセプト”だなんていってますけど、本当はそんな大層なものじゃないかもしれません。なんかこう、普段思っているようなことを言葉にして、親のかたきのように意味をつけていて(笑)」
そういって青木さんは「フフフ」と、いたずらっぽく笑います。
「青(アオ)」は、自然のものをイメージ
リトアオのピアスやネックレスの木の部分に鼻を近づけると、すうっと穏やかな木の香りが漂います
「リトアオのアオは、青色のアオ。好きなんですよね、青色が。自分の名前の“青木”からとったのもありますが、空とか海とか、やっぱり“自然”のイメージがある言葉だと思ってつけました」
まるでおもちゃ箱の中身を説明してくれる子どものように、青木さんはそれぞれの素材について、ひとつひとつを手に取りながら話します。
「たとえばこのサクラの木や黒檀(こくたん)という木材は、建築関係や家具で使われる密度の高いしっかりしたもの。これはヒノキで……これがマホガニーっていってギターなんかに使われるものです。木っておもしろくて、使っていくうちに人の油を吸って色が濃くなりますよね。それをよしとして楽しんでもらいたいとは思うんですけど、あんまり極端にかわりすぎないように、建築の材でも使われるような長く使える素材を選んでいます。劣化ではなく、時を経た“自然素材の味”が出るように」
「ほとんどの木材は仕上げにみつろうを塗っています」と説明してくれる青木さんの指には、こちらもリトアオのリングがたくさん
焼き物の知識やコネクションは何もないところから「陶を使いたい」と思ったという青木さん。いろいろな窯元に電話をし、会いに行き、焼いてくれるところをみつけたのだそう。
自然の素材を使い、組み合わせをデザインし、つける人に寄り添うように柔らかく経年変化をとげていくアクセサリーは、こうして生まれているのです。
「雪のように」という形容がぴったりな、真っ白な陶のパーツ
「ものづくり」がしたくて欲求不満だった
服飾専門学校卒業後、まずは大阪で洋服ブランドなどに勤めながら、パターンをひいたり、生産管理をしたりと過ごしました。
「大阪にいるときは会社で洋服を作っていたので、ものづくりに対する気持ちが満たされてたんです。たまに自分用に服だったり、ちょっとだけアクセサリーを作ったりはしてましたけど、そのころは『作りたい』という欲が満たされている状態でした」
「基本的には生産管理や情報処理のパソコン仕事だったんですが、ときどき裁縫もしましたし、会社員として働くことはすごく新鮮で楽しかったんです。でもそのうち、やっぱり何かを『ゼロからデザインしたい』『自分で作りたい』という欲が湧き出てきて、欲求不満みたいな状態になっちゃって。それで、家でアクセサリーなんかを作り出したのが、ブランドの生まれたきっかけでしたね」
「そのうち会社とリトアオのバランスが完全に逆転しちゃって、30分しか寝ないで会社行ったりとか、一週間で6時間睡眠という生活をしていました。それはもう、ヒイコラヒイコラと。そのころはまだ要領も悪いし技術もなかったので、お金と時間をつぎこんでいましたね。加工の仕方も試行錯誤で、いろんな機械を買いながらさぐりさぐりの日々でした」
自分だけで完結しないように、アクセサリーを作っていく
撮影中、「こんなに素敵に撮っていただけて、パッケージづくりに関わってくれる人も喜んでくれるはず!」と青木さん
「グラフィックデザイナーの主人が、『リトアオは“異素材”がキーワードだと思う』ってヒントをくれて。シンプルだけどありきたりじゃない、おもしろさのあるパッケージをデザインしてくれました。箱の部分はパッケージ屋さんに、木の蓋は木箱屋さんにそれぞれ特注でお願いしています。リトアオを作りあげていく過程で、今ようやくそうやって人の力を借りれるようになってきたんです」
作業場の壁に貼られている絵は、リトアオのために描いてもらったもの。展示などの際にリトアオの商品を載せて使います。まっすぐなラインや曲線がアイテムにぴったりですね
その理由を尋ねると、「自分でできない、っていうのももちろんあるんですけど(笑)」と前置きし、こう話してくれました。
「流通の面では、卸してやっていきたいという思いがすごく強いんです。いろいろなお店とお話をさせてもらいたい。そうすると、自分が直に売るよりもいろんな景色が見れる気がするんです」
こちらは、長野県松本市の取扱店で受注会販売されている様子(画像提供:misumi)
「以前お洋服のブランドに勤めていたとき、頼んでいた縫製の会社や取扱店がつぶれてしまったことがありました。そういうのを見た上で、ちょっとでも一緒に……『ブランド対お店』や『ブランド対職人・工場』という対岸彼岸の図ではなく、大げさですけど『一緒にものを作る』関係、自然に支え合う関係でいたいんです」
支え合いながらも依存はしない関係で、ものづくりの循環、ものづくりの社会の中に身を置きたいという青木さん。縛りあうのではなくゆるやかに共同していく関係性は、まさに異素材のバランスが美しいリトアオのアクセサリーそのものです。「自分の目と手の届く範囲でやりつつ、『自分だけで完結したくない』という思いがいつも頭にある」と話す青木さんは、決して偽善ではなく、素材や人の輪のなかにこそものづくりの継続性があると知っているように思えました。
頼りになるアイテムに身をゆだねることで心が整い、気持ちはスッと明るく自由になっていく。青木さんのアクセサリーは、私たちの毎日にそうやって優しく寄り添ってくれるのです。
凜と美しく、柔らかに気持ちを整えてくれる。
そんな「理」と「青」を身につけて一日をはじめられたら、明日もきっと、いい日になります。
(取材・文/澤谷映)
この日、青木さんとは雪が積もる北海道・札幌市内で待ち合わせ。作業場を兼ねるご自宅へお邪魔しました