インタビュー
vol.61 COOVA・瀬谷志歩さん- 布の自由さに魅せられて。
工場(コウバ)で織るテキスタイのカバー画像

vol.61 COOVA・瀬谷志歩さん- 布の自由さに魅せられて。
工場(コウバ)で織るテキスタイル

写真:神ノ川智早

とろけるような色合いと細やかな柄が美しいテキスタイルブランド・COOVA(コーバ)。そのブランド名の由来は、工場(コウバ)で織られているからなのだとか。すこしアナログな織り機で作る布は、手織りにも近いあたたかみと機械織りならではのすっきりとした表情が魅力です。ブランドをおひとりで切り盛りする瀬谷志歩さんのアトリエと、実際に布が織られている工場に伺い、布地に織り込まれたブランドのあり方を伺ってきました。

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2017年05月19日作成

「工場(コウバ)で織るから、COOVA(コーバ)です」

(画像提供:COOVA)

(画像提供:COOVA)

私たちは、一年を通してたくさんの「布」を使っています。

今の季節なら、初夏の風になびくカーテンに見惚れ、麻のストールのひんやりとした感触に喜び、冬は冬で、厚手のウールのブランケットの心地よさにうっとり。小さな喜びに頬を赤めながらマフラーに顔をうずめたり、春の別れの場面では、そっとハンカチで涙をぬぐったりもするでしょう。

そんな布を通し「心地よく過ごすことを提案したい」と日々テキスタイルを作り出しているのは、「COOVA(コーバ)」の瀬谷志歩さんです。
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工場(コウバ)で織るテキスタイル
空気をはらんで織り上がる。
手織りのような、機械織り。
COOVAでは、ふきんや鍋つかみといったキッチンまわりのものから、ラグ、カーテン、クッションカバーなどのリビングファブリック、そしてストールやハンカチの服飾品までありとあらゆる「布」製品が多岐にわたって展開されています。
使い込むほどに美しくなる麻のふきん。溶けるように織られた色と柄が魅力的です

使い込むほどに美しくなる麻のふきん。溶けるように織られた色と柄が魅力的です

COOVAの柄のアイデアは、瀬谷さんが歩いた石畳や積まれたレンガ、昔からあるチェック柄にオリジナリティを加えたものなどさまざま。一見してシンプルな無地にみえるものも、よくみると心地いいリズムで模様が織られています。

「古いものとか、ずっと使われてきたもの、よしとされて残ってきたものは普遍的な共通した意味があるし、晴れた日が気持ちいいとか、夕日を美しいと思う人間の感覚はきっとそんなに変わっていないですよね。それって、これから百年たってもそんなに変わる感覚じゃないと思うんです。そういうものを『自分はこういう解釈をしています』という提案としてのデザインをしていきたいんです」
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また、ブランド名の通り、COOVAの布は工場(コウバ)の織り機で作られていることが大きな特徴。布づくりでは、大きく分けて「手織り」と「機械織り」の二種類があり、機械織りと一口にいっても、どんな機械で織るかによって出来上がりが大きく変わります。そんななか瀬谷さんは「工場のちょっと古い織機(しょっき)による機械織り」を選んでいるのです。

「作りたい布を作るために、COOVAの布は、すべて工場で織っています。コウバで織るから、コーバ。工場の古い機械で織ると、ぴっちりとした機械織りと、ゆったりとした手織りの間にあるような表情が出るんです」
そういって瀬谷さんは、肌触りを確かめるように布に触れます。
(画像提供:COOVA)

(画像提供:COOVA)

COOVAの布を織るときは、風合いを出すために織りのスピードが遅い織り機を使ってもらっているのだそう。

「スピードが遅いぶん、風合いが柔らかく仕上がるんです。経糸(たていと)に緯糸(よこいと)が入っていくとき、空気を含むんですね。手織りより早く織るのだけど、がっつり早いわけではない。アナログな機械なので細かく設定をしなきゃいけないんですが、そのぶんいろいろな融通がきくので、ちょっと複雑な織りもやってくれるんです。古い道具って、人間の使い方次第で遊びがあるんですよね」
工場にて。2017年の秋冬商品に使うサンプル布を織り機からカットする場面。こちらの織機は、昭和20年代ごろから使っているそう

工場にて。2017年の秋冬商品に使うサンプル布を織り機からカットする場面。こちらの織機は、昭和20年代ごろから使っているそう

ご自身のブランドを立ち上げる以前は、織物工場で8年間働いていたという瀬谷さん。どうやら工場で作られるCOOVAの布は、ご自身の経験をまるごと織り込んだ布のようです。

工場に勤めて見えたことを続けている

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工場(コウバ)で織るテキスタイル
瀬谷さんがテキスタイルの道を選んだ最初のきっかけは、大学生のとき。武蔵野美術大学で、3年生のときにテキスタイルを専攻したことがはじまりでした。

「いろいろな素材を触ったんですけど、テキスタイルなら色が使えるし、自由度が高いと思いました。動きが出る軽いものですし、布でいろいろ作りたいなと思ってテキスタイルを選んだ感じです」
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学生のときに選んだその道が現在まで続いている瀬谷さん。さぞ思い入れのある決断だったと思いきや、瀬谷さんは表情を変えず、あのときは無自覚だった、と続けます。
「布は、曲がるし、風に揺れるし、浮くし、透けるし……素材としてすごく自由ですよね。あのときは無自覚でしたけど。仕事としてやればやるほど自分でそういうことを自覚していきました。だから続けられるし、飽きないですね。私は、布の仕事ならどこまでもやれる」
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布の仕事ならどこまでもやれる――。そんな言葉さえも淡々と、呼吸をするように自然に口に出す瀬谷さん。そんな瀬谷さんが「仕事」としてテキスタイルをやっていこうと思ったのは、大学卒業後に入社した東京都八王子市の織物工場、「みやしん株式会社」でのことでした。

「学生のときには手織りで織物をしていたんですけど、手織りというやりかたが、仕事としてやっていくという面で私はちょっと腑に落ちなくて。これは私にとっての話ですけども、ものが生まれて世に出るまでが、自分のなかだけで完結してしまう気がしたんですね」

しかし、みやしんで働くようになった瀬谷さんは「自分のやることの前と先に誰か別の働く人がいる」ということに、仕事としての流れを感じます。

「発注先だけではなく、私たちの前には糸を作っている人たちがいて、その糸で私たちが織ったものを洗う人がいる。そして、生地として使うメーカーさんもいる。量産体系のある産業として確立していたんですね。なおかつ一番衝撃だったのが、織物で食べている、織物を生業としている人がここにいる、ということでした」
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みやしんは、江戸時代から昭和の中頃まで「織物のまち」として栄えた八王子で創業した会社であり、和装から洋装へと変わった時代の流れに合わせながら、メーカーやブランドの製造を引き受け、織りのプロとして仕事を続けていた会社です。加えて、瀬谷さんが入社した当時の社長は文化ファッション大学院大学の専任教授を務めるなど、織物業界全体のことを考え、実力と誇りのある「織り」をしてきた会社でした。そんな「織る」ということを生業とする会社に入り、その仕事に衝撃をうけたという瀬谷さん。
「流れのなかで、一点ものや手織りではなくて、ある程度量産できるプロダクトとしてやりたい。そのうえでいいと思えるものを織るために、工場で織る、というやり方が私にはあっていましたね」

現在は独立したブランドとして織ることをお願いしている立場ながら、「工場で織る」という行為への信頼の気持ちは今も変わらないといいます。
工場でみつけた目的を、手放したくなかった
織物工場に入社し、通算8年勤め上げた瀬谷さんでしたが、工場で働くなかで少しずつ「これだけすごい素材、織物を作れるんだから、織ったそのもの自体で商売ができるはず。製品を生み出すポジションを作れるんじゃないか」と、ふつふつと思いはじめます。
そんな瀬谷さんに、当時の社長は「自社ブランドとしてやってみなよ」と声をかけます。それが、現在まで続くCOOVAの誕生でした。
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工場(コウバ)で織るテキスタイル
「そのとき、『自分の名前をブランド名につけなよ』といってくれたんですけど、『別にそういうことやりたいわけじゃないしなあ』と思って。じゃあテーマ、目的は何かなって会社帰りに電車の中で考えたときに、工場で織っている織物、っていうのがやっぱり一番強みだし、伝えたいことだと思いました。それでそのときに『工場工場……こうば、コウバ、コーバ!』って名付けたんです」

その後みやしん株式会社は、COOVAが誕生して一年ほどで残念ながら廃業。瀬谷さんは、「やりたいことは変わらない」と、ブランドの引き継ぎと独立を決意しました。

「今も目的は変わってないので、その名前にしたのはよかったな」

余談ですが、みやしん株式会社の工場跡地は現在、文化学園により「文化学園ファッションテキスタイル研究所」として使用されているそう。所長はもちろん、瀬谷さんとともにCOOVAを立ち上げた当時の社長・宮本英治さん。無数の布地が織られてきた工場で、今後のテキスタイルのありかたを学生たちが学び、考えているのでしょう。
工場で、織り上がったサンプルを真剣に確認する瀬谷さん

工場で、織り上がったサンプルを真剣に確認する瀬谷さん

さて、そんなみやしんの工場で働きながらたどりついた「目的」を、独立した瀬谷さんは今も手放していません。

この日は、瀬谷さんが一緒にものづくりをしている八王子市の工場にもお邪魔させていただきました。
カン、タタン。カン、タタン。タン、カタン、と、布が織りなされていく音が大きく響きます。
現在瀬谷さんがストールなどを主に織ってもらっている八王子の工場は、みやしん株式会社時代の縁で知り合いました

現在瀬谷さんがストールなどを主に織ってもらっている八王子の工場は、みやしん株式会社時代の縁で知り合いました

どう織るのかを機械に指示する道具。開いている穴のもとになる設計は、織り機の特性や素材、できあがりの風合いを考えながら、瀬谷さんがおこなっています

どう織るのかを機械に指示する道具。開いている穴のもとになる設計は、織り機の特性や素材、できあがりの風合いを考えながら、瀬谷さんがおこなっています

模様は違いますが、こちらが設計とサンプル生地を一緒にした試験データです(画像提供:COOVA)

模様は違いますが、こちらが設計とサンプル生地を一緒にした試験データです(画像提供:COOVA)

アナログな織り機によって、経糸と緯糸が空気をはらみながら合わさっていきます。機械で織るとはいいつつも、よい布が織れているかの確認や作業など、人の「目」や「手」が重要です

アナログな織り機によって、経糸と緯糸が空気をはらみながら合わさっていきます。機械で織るとはいいつつも、よい布が織れているかの確認や作業など、人の「目」や「手」が重要です

「今は独立して、織るのをお願いする立場。自分は機械を動かしはしないけど、工場で働いているときも設計とかをやってたので、織機の都合とかもわかる。あとはやりやすい工程を考えて頼んだりしてるので、一見ちょっと手間がかかるものでも、考えをきちんと伝えることで先入観がなくなって、やってくれたりはしますね」
また、くり返して作れる定番ものの依頼などをするうちに、信頼関係を築いていったのだそう。

少し間をおいて、瀬谷さんはこう笑います。
「まあ、ほかのお客さんと比べて『めんどくさい柄だなあ』と笑われたりはしますけどね(笑)」
そんなやりとりもまた、信頼関係によるものなのでしょう。

作り出されるものに、説得力があるように

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工場(コウバ)で織るテキスタイル
西荻窪にあるCOOVAのアトリエに戻ると、瀬谷さんは裁断して余った布の端切れを取り出し、「今、この端切れで何かできないかなあと模索中なんです」と話してくれました。

「自分が以前工場にいたというのもあるんですけど、工場で、ああいうふうに織ってくれるのを見ているので、やっぱり端切れだってどうにかしたいなあと思うんですよね」
中ワタキルトのマットや鍋つかみを作る際に出た端切れ。この布は愛知県の工場で織られています

中ワタキルトのマットや鍋つかみを作る際に出た端切れ。この布は愛知県の工場で織られています

工場に仕事をお願いするうえで、瀬谷さんは絶対に値引きをしないといいます。

「私が工場で働いているときに感じたのは、デザイナーやメーカーがいるなかで、織物の工場はすごくおもしろい立ち位置のおもしろい仕事だということ。でも同時に、とてもすごいものをたくさん作れる場所だけど、製品ができあがる過程において、業界内であまりにも平等ではないと感じることも多かった。だれもが実はわかっていることだけど、具体的にはいいづらい問題だと思います。でもほんとは、そこは逃げられない問題だとも思います」

多くの人が関わりひとつのものを作り上げていく、という生産方法では、織物業界に関わらず、賃金・分配に差が出ることは現在の経済システムでは避けられないことかもしれません。しかし、出来上がったものの値段に比べ、関わった人すべての労力と技術がどのくらい正直に反映されているかという話は、「ものづくり」業界全体が気づき始め、少しずつ改善しようとしているひとつの課題だといえるでしょう。
だから、正当な理由がない限り「絶対に」値引きはしない。それを自分がしちゃったらおかしいから、と瀬谷さんは言葉を重ねました。
こちらは、後日瀬谷さんから届いた写真。ミシンで端切れを縫い合わせています。どんどん大きくなって、一枚の布として使える日がくるのでしょう(画像提供:COOVA)

こちらは、後日瀬谷さんから届いた写真。ミシンで端切れを縫い合わせています。どんどん大きくなって、一枚の布として使える日がくるのでしょう(画像提供:COOVA)

「でも、あくまで大事なのは、作ったものを使った人がどう感じるか」と瀬谷さんは続けます。

「それを巻いて気持ちいいかとか、素敵だと思ってくれる色かどうかとか。私はまず、使う人ありきの商品を作っているので、工場のために、という考え方の逆転はしたくないですね。いままで自分に『工場』をキーワードにする経緯があったというのは事実ですけど、今一番大事にしたいのは『もの』です。いいか悪いか。心地よく思ってもらえるかとかね」

ブランディングのツールとして工場や職人の話をするのではなく、素晴らしいものを作ると思うからこその「工場で織る」という選択。だからこそCOOVAの布は、ものとしての説得力と自由さを失わないのでしょう。
vol.61 COOVA・瀬谷志歩さん- 布の自由さに魅せられて。
工場(コウバ)で織るテキスタイル
「やればやるほど思うんですけど、いろんな素材があるなかで、繊維って一番人間の肌感に近いと思うんです。人間の触覚に一番訴えて、感じ取りやすい。テキスタイルは、目で見ても、肌を感じるんです」

「だから、誰かにこういう気持ちになってほしいなって思うとすると、布を通して人に伝えることができる。『柔らかさにほっとしてほしい』『身に着けることで季節を感じてほしい』『このカーテンをみたときに涼しいなって思ってほしい』――。そのために使うツールとして、繊維は私には一番あっていると感じるんです。やれば、やるほど」
ふっくらとした感触に、見ているだけで温かくなるような大判ストール。少しアナログな機械織りだからこその表情です。ハンカチについたフリンジも素敵ですね

ふっくらとした感触に、見ているだけで温かくなるような大判ストール。少しアナログな機械織りだからこその表情です。ハンカチについたフリンジも素敵ですね

「今後は、自分が作った布でその場所の雰囲気を作り出せるようなものづくりを広げていきたい」と瀬谷さんは未来の話をしてくれました。
「素材や色、テクスチャーを使って、自然の中に身を置いたときに感じるような感覚を使う人に与えたいです。カーテンやインテリアファブリックにももっと挑戦したいですね。身につけて心地よかったから、これでカーテンも作ってみた、とか、自分だからできるいろいろな角度からの自由な発想で広げていきたい」

一年を通し、心地よく過ごすことを瀬谷さんは布を通して提案してくれます。
経の糸と緯の糸で形づくられていくCOOVAの布たち。それはまるで工場と瀬谷さんの織りなし合いにも見えるかもしれません。
『このカーテンをみたときに涼しいなって思ってほしい』と作られたカーテンは、気持ちよく風に揺れていました

『このカーテンをみたときに涼しいなって思ってほしい』と作られたカーテンは、気持ちよく風に揺れていました

「仕事としてやるのが自分には一番あってるんです。作りたいものをかたちにするために誰に何を頼んだらうまく流れが起きるかなどを考えるのがすごい好きだし、あとは工場の特性を考えてこんな布を作れるなと考えることも好き。仕事が好きなんですよ、きっとね」

「この仕事が好き」だと笑顔になる瀬谷さんが作る布は、正直で気持ちのいい仕事がにじみ、織り込まれていました。しかしそれでも私たち使い手が肌に感じるのは「心地がいい」の一点で、出来上がるまでの背景のストーリーを含まずとも、プロダクトとしての説得力がそこにはあります。COOVAはそうして、作り手である瀬谷さんのように淡々と、今後も毎日に寄り添ってくれるのでしょう。

(取材・文/澤谷映)
COOVA|コーバCOOVA|コーバ

COOVA|コーバ

工場(コウバ)で織られるテキスタイルブランド。手織りのような機械織りの風合いを特徴とし、さまざまなファブリックアイテムを生み出している。代表である瀬谷志歩さんは、武蔵野美術大学でテキスタイルを学んだのち、八王子市の織物工場・株式会社みやしんにて布地の企画・開発・製造から営業までを担当。自社ブランドとして立ち上げたCOOVAを、同社の廃業を機に引き継ぎ、独立。現在に至る。

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